第 2 章 実験手法
VO 2 エピタキシャル極薄膜の作製
3.2. VO 2 極薄膜の作製条件
まず VO2(001)薄膜の作製条件を最適化するにあたり、これまで報告されてきたVO2(001)
薄膜の作製方針、最適化の流れ及び実際の条件について説明する。VO2は、化学量論組成で ある場合、バナジウムイオン、酸化物イオンの形式価数はそれぞれ4 価、-2 価である。そ の一方で、バナジウム酸化物は大気圧でV2O5が熱力学的安定相であるため、本研究で薄膜 作製のためには焼結体が作製しやすいV2O5ターゲットをもちいた。ただし、気相成長の段 階で酸素分圧を変えることで酸化状態を制御でき、また、TiO2基板からのエピタキシャル応 力が寄与するため、V2O5ターゲットからでも成長条件を最適化することで良質なVO2薄膜 が得られると考えた。
図3.2.1にVO2(001)薄膜作製時の製膜ダイアグラムを示す。まず、基板表面の還元を防ぐ
ために0.1 mTorr(~10 mPa)程度の酸素を導入し、目的の成長温度に設定する。目的の成長温
度に達したら、基板(堆積前)のRHEEDパターンを観察し、表面の結晶性を確認する。その 後、酸素分圧を 10 mTorr(~1 Pa)に設定し、ターゲット表面の清浄化のためにプレアブレー ションを行う。その際、基板に堆積されない様に基板はマスクで覆っておく。プレアブレー ション完了後、マスクを外して基板に薄膜を堆積する。あらかじめ求めておいた成長レート により設定膜厚に達したら、レーザーアブレーションを終了し、基板温度を室温まで自然冷 却させる。冷却後、得られた薄膜の表面状態を観察するためにRHEEDパターンを記録する。
得られた薄膜については、その場でLEED、XPS測定を、大気下でAFM、XRD、r-T測定 による評価を行った。これらの評価に基づいて、VO2の成長条件を最適化させた。最適条件 であると判断するための評価基準としては、
(1) RHEEDやLEEDの回折スポットが明瞭であるか (2) AFMから評価した表面形態は平坦たんであるか
(3) XRD ではエピタキシャルひずみとポアソン比から予想される理想的な格子定数が得ら れるか
(4) 良好な輸送特性が得られるか
などが挙げられる。当然のことながら、それら全ての評価基準を達成することが望ましいが、
実際の試料作製においては必ずしも全てが達成できない場合がある。その場合、実験の目的 に合わせて、ある程度の妥協点を設定する必要に迫られる。本研究では、K蒸着によるMIT 変調を系統的に調べるため、TMITのよい再現性が非常に重要である。特に、VO2/TiO2(001)薄
反応が起こることが知られている。そのため次の評価基準設定でもって最適条件を探索し た。
l VO2薄膜とTiO2基板との相互拡散が無視できること。
そのため、その場測定した内殻準位スペクトル、及び下記の大気下でのr-T 測定から、
界面相互拡散の程度と成長温度との相関を確認しながら条件最適化を行った。
l 良好なMIT特性を示し、かつ再現性よく得られること。
そのため、r-T測定による輸送特性評価を行い、それを評価関数として成長温度を最適 化した。
l エピタキシャル薄膜であること。
これは、良好なMIT 特性を得ることと密接に関係する。そのため、XRD によるcR軸 長評価の基準を厳しく設定した。
その一方で、本研究においては上記の判断基準で条件を最適化していく過程で、薄膜内への Ti拡散を避けるために製膜温度を低く設定せざるを得なかった。そのため、VO2薄膜の表面 結晶性の向上は困難であった。そのため、表面の結晶性、平坦たん性、均一性等を反映するRHEED、
LEED、AFM の結果に対する評価基準は、ペロブスカイト酸化物薄膜で達成されている「原
子レベルで平坦たんな表面」からはやや寛容に設定している。
上記の評価基準を基に、最適化した成長条件は、試料作製温度はTset = 575 K(Treal ~ 670 K)、
レーザーパワーは50 mJ、堆積レートは約0.6 nm/min(~0.017 nm/pls)、膜厚tは10–15 nmで あった。ここで、Tset及びTrealの説明は次節で行う。なお、Nd:YAGレーザーの繰り返し周波 数は5 Hz、酸素分圧は10 mTorrに固定した[1,9,10]。
図3.2.1. VO2/TiO2(001)薄膜の製膜ダイアグラム.成長時間に対する基板温度と酸素分圧を示してい
る.“Deposition”の前後で基板温度が変化しているが,これは放射温度計で読み取った値を校正した
ものであり,実際は基板加熱用の半導体レーザーのパワーを固定して一定の温度を保っている.
550 500 450 400 350 300 250 200
T
substrate(° C)
0.1
2 4 6 81
2 4 6 810
2
P
O2(m Torr)
6000 5000
4000 3000
2000 1000
Time (sec)
Deposition Pre-ablation
T
realT
setLaser conditions
・Power: 50 mJ
・Repetition rate: 5 Hz capture
RHEED image
10 mTorr