その場 X 線吸収分光 V-V
VO 2 /Nb:TiO 2 (001) Core level
h! = 1200 eV Normal Grazing
R-Metal (320 K) M-Insulator (250 K)
計算[9,11]によると、514.2 eV付近の肩構造は、EFでのコヒーレントバンド(金属状態)によ るコアホールスクリーニングに由来する構造に帰属される。一方、大気化で測定したスペク トルにおいては、表面過酸化層の形成に由来するV5+状態成分が517.2 eVに出現している。
一方で、図4.3.9(b)に示す硬X 線光電子(HAXPES)スペクトルにおいては、V5+成分はでは ほとんど存在していないように見える。更に、HAXPESスペクトルの温度依存性は、その場 スペクトルの温度依存性[図4.3.9(a)のマゼンタ]とほぼ同じである。これは、HAXPES測定 がバルク敏感(プローブ長がSX-PESと比較して3–4倍)な手法であるためである。これらの 結果は、V5+イオンをもった過酸化状態がVO2薄膜の最表面でのみ形成されることを示して いる[13]。
図4.3.9. (a)その場(マゼンタ)及び大気下(グレー)で SX 励起光を,(b)大気下で硬 X線領域励起
光を用いて測定したVO2/Nb:TiO2(001)薄膜におけるV 2p内殻準位スペクトルの比較.大気下で形成 される表面過酸化層由来の V5+成分に帰属されるピーク構造のエネルギー位置を強度軸方向に波線 で示す.
4.3.3. K
蒸着による絶縁体相VO
2薄膜の金属化○内殻準位測定による蒸着
K
の評価VO2薄膜において先行研究を再現する温度変化MIT による光電子スペクトル変化が観測 された。このことから、先行研究と同等かそれ以上に良質な VO2薄膜試料が作製されたも のと考え、次に、この絶縁体相VO2薄膜(250 K)の表面にK蒸着を行った。図4.3.9に蒸着 前後におけるV 2p及びK 2p内殻準位を含む広域分析スペクトルを示す。EB ~ 295 eV付近 にK 2pピーク、また、380 eV付近にK 2sピークが出現していることから、VO2薄膜表面に K 原子が蒸着されたことが確認できる。図4.3.10(a,b)には、蒸着されたK原子の状態をよ り詳細に調べるために、K 2pピーク準位を高精度で測定した結果を示す。図4.3.10(a)はO
1s及びV 2p内殻準位の面積強度で規格化したK 2pピーク強度の放出角度依存性である。
表面敏感な斜出射配置(垂直方向から60°)での測定では、K 2pピーク強度が約2倍になって いる。このことは、吸着したK原子はVO2薄膜の最表面に限定して存在していることを示 している。この運動エネルギーにおける光電子の脱出深さは約 1.5 nm であり(第 2,3 章参
照)、60°の斜出射の場合では検出長はその半分になる。また、図4.3.10(b)には、同じスペク
トルで両者をK 2pの強度積分で規格化した結果を示す。ここで、表面敏感性が異なるにも かかわらず、スペクトル形状はほぼ重なる。このことから、Kは単一の化学状態を取ってい るといえる。
以上の結果から、K 原子は VO2薄膜の内部に拡散することなく、最表面に一様に同じ化 学状態で存在していると考えられる。また、内殻準位の化学シフトの観点から、K/VO2のK 2p準位のエネルギーは参照したポタシウム酸化物KBrよりも高結合エネルギー側に位置す ることから、表面に存在するK原子は正にイオン化してVO2薄膜に電子を供給しているこ とが予想される。このことについては、より詳細な検証を行ったので後述する。
K の蒸着(吸着)量は、水晶振動子膜厚計のモニタと内殻準位スペクトルの強度比分析か ら、K原子がVO2薄膜表面に均一にBCC構造で堆積するという仮定の下、およそ0.6 nm(~
被覆率100%)と見積もられた。
なお、本研究においては、K 吸着による効果の再現性を確認するために複数の K/VO2試 料に対して測定を行った。特に詳細な温度依存性の測定は放射光実験の時間的な制約上、二 つの試料(試料Aと試料B)で行った。下記、特に断りがない限り、試料Aでの測定結果に 基づいて議論を行う。
図4.3.9. T = 250 Kで測定したK蒸着前後の内殻準位スペクトルの変化.
図4.3.10. (a)T = 250 Kで測定したK蒸着前後のK 2p内殻準位スペクトル変化.(b)ピークトップで
規格化したK 2p内殻準位スペクトル.参照としてポタシウム酸化物KBrにおけるK 2p内殻準位の位 置を破線で示す.
○K蒸着前後における
VO
2薄膜のスペクトル変化図4.3.11及び図4.3.12に、T = 250 Kで測定したK蒸着後のVO2薄膜(K/VO2)における 価電子帯及びO 1sとV 2pの内殻準位スペクトルをそれぞれ示す。参照のため、K蒸着前の VO2薄膜における価電子帯スペクトルの温度依存性[RM 相(320 K)及び MI 相(250 K)を併 せて示す。MI相のVO2薄膜表面にKを蒸着すると、フェルミ端が出現することが見てとれ
る(図4.3.11)。また、V 2p内殻準位スペクトルにおいても、K蒸着によりそのピーク形状が
金属相のものと同様にブロードになっていることが観測されている(図 4.3.12)。これらの 結果から、MI相のVO2薄膜が金属化したことが分かる。一方で、価電子帯スペクトルにお
けるV 3d状態(詳細は次項で述べる)及びO 2pバンドのスペクトル形状や、O 1s内殻ピー
Intensity (arb. units)
500 450 400 350 300
Binding Energy (eV) VO2/Nb:TiO2 (001)
Core level
h! = 1200 eV T = 250 K
before K depotision after K deposition
Intensity (arb. units)
305 300 295 290 285
Binding Energy (eV)
292.9 eV (KBr)
2.8 eV
VO2/Nb:TiO2 (001) K 2ph! = 1200 eV T = 250 K
Normal Grazing Deposition
before after
Intensity (arb. units)
305 300 295 290 285
Binding Energy (eV)
292.9 eV (KBr)
2.8 eV
VO2/Nb:TiO2 (001) K 2ph! = 1200 eV T = 250 K
Normal Grazing Deposition
after
クのエネルギー位置及びそれらの形状は、必ずしもRM相VO2のものとは一致していない。
このことはK蒸着により金属化したVO2薄膜のキャリア誘起金属化状態が、通常のRM相 とは異なった状態であることを示唆している。
図4.3.11. T = 250 Kで測定したVO2/Nb:TiO2(001)薄膜におけるK蒸着前後の価電子スペクトルの 変化.参照のため、320 Kで測定したRM相スペクトルを併せて示す.
図4.3.12. T = 250 Kで測定したVO2/Nb:TiO2(001)薄膜におけるK蒸着前後のO 1s及びV 2p内 殻準位スペクトルの変化.参照のため、320 K で測定した RM 相スペクトルを併せて示す.517.5 eV
Au
12 10 8 6 4 2 E
FVO
2/Nb:TiO
2(001)
Valence band hν = 700 eV
Binding Energy (eV)
Intensity (arb. units)
RM (320 K) MI (250 K) K/VO
2(250 K)
In te ns ity (ar b. u ni ts )
535 530 525 520 515 510
Binding Energy (eV) VO
2/Nb:TiO
2(001) Core level
h! = 1200 eV Normal Grazing
R-Metal (320 K) M-Insulator (250 K) K/VO2 (250 K)
4.3.4. K/VO
2におけるキャリア誘起金属相○K/VO2薄膜(試料
A)の価電子帯スペクトルの温度変化
次に、K 蒸着による表面キャリア注入によって金属化した VO2薄膜の状態について更に 詳しい知見を得るために、その温度変化測定を行った。その結果を図4.3.13に示す。K/VO2
における価電子帯スペクトルの温度変化をみると、T = 250 Kで金属的であったスペクトル が再び150 Kで絶縁体化する様子が見てとれる。このことは、K/VO2がTMIT = 150–250 Kで 温度依存MITを示している。したがって、K/VO2ではTMITが100 Kほど抑制されているこ とが分かる。更に、EF近傍のV 3d状態に由来するスペクトル形状に注目すると、K/VO2の キャリア誘起金属相ではギャップ様の構造を示しているのに対して、絶縁体相(150 K)では、
MI相VO2(250 K)のスペクトルと類似している。このことは、前項で言及した金属相スペク トル同志の比較とは対照的に、K/VO2における絶縁体相は、MI相VO2と同一の相であると とらえることができることを示している。
図4.3.13. K/VO2薄膜における価電子帯スペクトルの温度変化(T = 150及び250 Kで測定).参考と
して,VO2/Nb:TiO2(001)薄膜におけるMI相(250 K)も併せて示す.250 Kで金属であったK/VO2薄 膜は,150 Kで再び絶縁体へ転移していることが見てとれる.
Au
12 10 8 6 4 2 E
FVO
2/Nb:TiO
2(001)
Valence band hν = 700 eV
Binding Energy (eV)
Intensity (arb. units) Intensity (arb. units)
K/VO
2/Nb:TiO
2(001)
Valence band hν = 700 eV
RM (320 K) MI (250 K)
320 K 250 K 150 K
今回の実験ではK蒸着による電子ドープによりTMITが150–250 Kまで低下したと考えら れる。そこで、この変化に基づいて電子ドープ量の見積りを行った。今回観測されたTMITの 低下を、渋谷ら[14]によって報告されている V4+イオンの W6+化学置換による電子ドープに 基づいた VO2薄膜(W1−xVxO2薄膜)における電子相図と比較した結果(図4.3.14)、Vサイト
あたり0.04–0.10の電子がドープされていると見積もられた。
以上の結果から、K から VO2薄膜表面へのキャリア注入(表面電荷蓄積)により、チャネ ル層領域(界面数ナノメートル)においてキャリア誘起MIT が実現していることを明らかに した。
図4.3.14. V1−xWxO2/TiO2(001)薄膜における結果[14]から求めた電子ドープ濃度に対する電子相図と 本実験結果(試料 A)の対応関係.色付きの丸印は分光測定点を表す.スペクトルと色を合わせてあ る.本測定におけるK/VO2薄膜のTMITが150–250 Kまで抑制されていることが分かる.この化学置 換による電子ドープ相図が表面キャリア注入においても適応できると仮定すると,K/VO2薄膜ではV原
子1個当たり4–10%の電子ドープに対応すると見積もることができる.
ここで、再度価電子帯スペクトルにおけるフェルミ準位近傍の状態に注目する。K/VO2に おけるキャリア誘起金属相のスペクトル形状が、RM相のものと大きく異なっていることが 分かる(図4.3.13)。そこで、測定温度を320 Kまで上げたところ、形状がRM相のものと類
Te m pe ra tu re (K )
400 300 200 100
0 0.00 0.05 0.10 0.15
Doped Electron Concentration
OV