第 2 章 実験手法
2.6. 分析・評価手法
作製した試料の表面平平坦たん性、結晶性、膜厚の評価方法について説明する。
2.6.1.
反射高速電子線回折(RHEED
)反射高速電子線回折(RHEED)は、10–50 keVのエネルギーをもった電子線を、数度の浅い 入射角度で薄膜表面に入射させて、薄膜表面の結晶格子による電子線の回折像を蛍光スクリ ーン上に投影し、その回折像を解析することにより、薄膜表面の結晶性、平坦たん性等を調べる 方法である[14]。試料表面の状態により回折像が変化し、スポット状、ストリーク状、ハロ ー状などの特徴的なパターンが得られる。同様の評価手法として、後にのべる低速電子線回 折が挙げられる。低速電子線回折では試料に対してほぼ直角に電子線を入射させるのに対
し、RHEEDでは表面すれすれから入射させるために基板前面の空間を広く取ることができ、
レーザーMBE法における薄膜成長中のその場観察を可能にしている。
図2.6.1には様々な表面状態から得られるRHEEDパターンの例を示す。これらは試料表
面の逆格子像に対応している。例えば Si ウエハの様な表面が原子レベルで平坦たんで、そのテ ラス幅が電子線の可干渉長よりも十分に大きい場合、図2.5.1(d)に示す様な理想的な回折現 象となり、ラウエゾーン上にスポットパターンが現れる。本研究で用いた TiO2単結晶基板 表面も平坦たんで電子線の散乱が少ないため、強く鋭い00のスペキュラースポットと両側の10 及び-10のスポットがV字型に並ぶ像が得られる。
一方、表面に原子層(単位格子層)のステップ構造が数多く存在する場合、その凹凸に応じ て逆格子ロッドは広がりをもつことになる。そのため、逆格子ロッドとエワルド球の交点で ある回折像はストリーク状になる[図2.6.2(b,c)]。薄膜が島状に成長して、数原子層以上の 凹凸のある荒れた表面の場合、電子線はその凹凸を透過して回折するため、結晶格子に対応 したスポット状の回折パターンが現れる[図2.6.2(a)]。原子レベルで平坦たんな表面の場合と異 なり、この場合はラウエゾーンの円弧上以外の領域に回折スポットが現れる。
一方、結晶性に関しては、結晶性の低下とともに多重散乱の寄与が増大するため、回折パ ターンの強度が減少し見にくくなる。更に結晶性が低下し、表面が多結晶状態になった場合 はリング状、アモルファス状態になった場合はハローパターンと呼ばれるぼやけたRHEED パターンが現れる(図2.5.2)。
図2.6.2. 表面の結晶性と得られるRHEEDパターンとの関係.(a)アモルファス状態では回折像が不
明瞭になる.(b)多結晶ではリング状,(c)単結晶ではストリーク状,若しくはスポット状のRHEEDパタ ーンが得られる.
また、近年では装置的な改良が行われ鮮明なRHEED パターンを得ることができるため、
RHEEDの強度振動を観察することによる成長初期過程の研究や、原子層精度の成長制御を
行う研究が報告されている。試料に入射する電子の波長l (nm)と加速電圧V (V)との関係式 は、
(2.3)
と表され、ここで加速電圧を10 kVとして計算を行った場合、l ~ 0.012 nmと見積もられる。
そのため、分子一つ当たりの表面の構造変化を観察することが可能であることが分かる。
2.6.2.
低速電子線回折(LEED
)低速電子線回折(LEED)は、試料表面に低速の電子(30–300 eV)を入射させ回折してきた電
子を蛍光板にて観察するものである(図2.6.3)。固体表面に電子を入射させると表面の原子 と様々な相互作用をした後に二次電子が放出されるが、この二次電子の中にはエネルギー損 失のほとんどない弾性散乱電子が含まれる。この弾性散乱電子はブラッグの回折条件に従っ た回折を引き起こすため、表面の原子が規則正しい配列をもっていると、その配列を反映し た回折パターンが得られる。入射エネルギーを小さく視射角を大きくすれば、固体内の電子 の平均自由行程が 0.5–0.6 nm となり表面の数原子層についての回折パターンが得られる。
この様にして得られた回折パターンから、物質表面がもっている2D的な周期性や構造的な 秩序の度合いを簡単に知ることができる。
図2.6.3. LEED測定の概略図.
2.6.3.
原子間力顕微鏡(AFM)原子間力顕微鏡(AFM)は、二つの物体間に働く原子間力を利用することによって薄膜表 面の形状を原子スケールで観測する装置である。本研究ではピエゾ加振器を用いてカンチレ バーを共振周波数近傍で振動させ、試料表面に軽く触れながら(タップしながら)走査するタ ッピング・モードを用いている(図2.6.4)。これは試料表面を引きずることがなく、分解能も 高く精密な測定が必要な際によく使われる手法である。カンチレバー(探針)は一定の振幅で 上下振動する様に制御されており、試料表面に凹凸がある場合には振幅に変化が生じる。そ の際の変化をエラー信号としてレーザー光によって検出し、それが 0 に戻る様にフィード バックをかけている。試料の凹凸によるエラー信号から高さ方向(z 方向)の情報が得られ、
3D の表面形状を知ることができる。本研究では作製した薄膜の AFM 像から表面形状の評
図2.6.4. AFM測定の概略図.
2.6.4. X
線回折(XRD)物質に X 線を入射すると結晶格子の周期構造を反映した回折パターンが得られる。先に
のべたRHEEDやLEEDでは電子線を用いているため、ほぼ最表面の情報のみを反映してい
たのに対し、電磁波である X 線は結晶の比較的深い位置まで侵入し回折を起こす。すなわ ちX線回折(XRD)は薄膜全体の結晶性を評価する手段である。
回折条件はブラッグの式で表され、実空間での周期dhklに対し、
(2.4)
を満たすq(試料表面からの角度)方向に回折強度が得られる。ここでlは X 線の波長、n は 面指数に相当する整数である。ここで、測定している格子面がほぼ試料方向に平行であると き、格子面の法線方向の格子間隔、すなわち面直方向の軸長を調べることができる。この様 な測定方法は一般に2q/w測定と呼ばれ、対称反射の測定である。
○X線反射率測定法
斜入射 X 線反射率(GIXR)測定法は全反射が起こる様な低角度で試料表面に X 線を入射 し、角度変化による反射 X 線強度の振動から試料の膜厚や表面粗さ、密度を見積もる手法 である。多層膜試料の反射率はフレネルの式から求めることができる。
反射率2|Rj, j + 1| = I/I0について、表面からj層目とj + 1層目の振幅反射率Rj, j + 1は、
(2.5)
という漸化式で表される。ここでフレネル係数は屈折率と界面粗さ、周期ajは屈折率と層の 厚さにより決まる量である。この式を用いて実験結果のフィッティングを行うことで、各層 の厚さと界面粗さを求めることができる。
2.6.5.
電気抵抗率測定電気抵抗率の測定には四端子法を用いた。四端子法は電流電極と試料表面との界面にお ける電圧降下(接触抵抗)を排除し、試料の真の体積抵抗率を求めるために用いられる手法で ある。すなわち、四端子法では電流印加端子と電圧測定端子とを分離することにより接触抵 抗の影響を取り除き、高度な測定が可能になる。本研究ではAlワイヤのウェッジ・ボンディ ングにより試料を直接電極と接続し、r-T特性を測定した。
2.6.6.
走査型透過電子顕微鏡(STEM)本研究では、VO2/TiO2(001)薄膜構造の合成条件を種々検討し、界面における化学的相互拡 散が最大限抑制される成長温度条件を見いだしている(第 3 章)。この最適条件下で作製し た VO2/TiO2ヘテロエピタキシャル薄膜界面の化学的急峻性を定量には、電子分光走査透過 電子顕微鏡(STEM)を用いた原子レベルの高分解能分析が有用である。しかしながら、この 場合、ミリング加工によって VO2(001)薄膜試料を(100)面に沿って薄片化する必要がある。
薄膜堆積時のTiO2基板温度が430°C を超えると、熱によりヘテロ界面を介した遷移金属の 相互拡散が生じ始めるため(第3章)、この系において本手法の適用は難しいと考えた。本研 究では、この STEM 観察の代わりに、非破壊的な分析手法である内殻準位測定と輸送特性 評価によって、界面の急峻性を評価した。
参考文献
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