Rutile InsulatorRutile
5.4. 本章のまとめ
本章では、次元性を制御した VO2における電子相変化に関する知見を得るために、原子 レベルで膜厚を制御したVO2エピタキシャル極薄膜における電子・結晶構造変化をその場放 射光電子分光により直接観測した。これにより、VO2薄膜は膜厚1.0–1.5 nmで膜厚に依存 したMITを示すことが明らかになった。また、V-V二量化はVO2の2D極限においては形 成されないことが明らかになった。なお、本膜厚依存実験に際して、まず、作製した一連の VO2極薄膜試料(t = 0.5–10 nm)が化学的に急 峻しゅんな界面をもち、表面の品質(平坦たん性及び結晶 性)が先行研究と同等若しくはそれ以上の品質であることを確かめた(第3章参照)。これに より、VO2が示す物性の膜厚依存性について、本質的な情報を得ることを可能とした。
その場PES測定の結果、VO2薄膜は臨界膜厚が1.0–1.5 nmで膜厚依存MITを示すことが 明らかになった。更に、V-V二量化に関する情報が得られる偏光依存XAS測定を行った結 果、V-V二量体はVO2の2D極限においてはもはや形成されないことが明らかになった。
さらに、電気伝導測定等で決定した電子相図と比較することで、2D極限に現れるV-V二 量化を伴わない VO2の絶縁化は、低次元化によってモット不安定性がパイエルス不安定性 に打ち勝つことで生じていると結論づけた。
以上の結果から、低次元化に伴うモット-パイエルスMITの抑制により、臨界膜厚以下(2D 極限時)の VO2においては V-V 二量化を伴わない「ルチル型モット絶縁体相」といった新し い電子相が発現することを見いだした。
参考文献
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第 6 章
まとめと今後の展望
バナジウム酸化物デバイス界面に出現する新たな電子相に関する研究
本研究では、モット・トランジスタにおけるチャネル材の有力候補である VO2の MIT に おける二つの相転移不安定性の役割を解明することを目的として、キャリア及び次元性を制 御した VO2における電子・結晶構造変化のその場放射光電子分光による直接観測を行った。
これにより、以下を得た。
○キャリア制御による
VO
2のMIT
制御表面電子蓄積時の VO2チャネル層の振る舞いを明らかにすることを目的に、VO2薄膜表 面への K 原子蒸着を試み、キャリア誘起MIT に伴う電子・結晶構造変化を、その場放射光 電子分光により直接観測した。これにより、K 原子から VO2薄膜への表面キャリア注入を 実現し、絶縁体相薄膜の金属化に伴う電子状態変化の直接観測に成功した。更に、K/VO2薄 膜におけるキャリア誘起金属相は、V-V二量体構造を維持した新たな金属相である可能性を 見いだした。これらの結果から、表面電子注入時のVO2においては、RM相とMI相の境界 付近に、VO2の V-V 二量化特性を維持した新しい金属状態である「単斜晶系金属相」といっ た新しい電子相が発現することを見いだした。
本章では、キャリアを制御したVO2における電子相変化に関する知見を得るために、VO2
エピタキシャル薄膜表面へのアルカリ金属(K)原子蒸着による電子注入を試み、キャリア誘 起MITに伴う電子・結晶構造変化のその場放射光電子分光による直接観測を行った。
功し、電荷蓄積時のチャネル領域(表面数ナノメートル)において「単斜晶系金属相」といっ た新しい電子相が発現することを見いだした。
○次元性制御による
VO
2のMIT
制御VO2薄膜チャネル層が示す物性の次元依存性に関する知見を得ることを目的に、膜厚を原 子レベルで制御したVO2エピタキシャル極薄膜を作製し、低次元化に伴う電子・結晶構造変 化をその場放射光により直接観測した。これにより、VO2薄膜は臨界膜厚1.0–1.5 nmで膜厚 依存MITを示すことが明らかになった。また、XAS測定による検証により、V-V二量体は VO2の薄膜極限においては形成されないことが明らかになった。これらの結果から、臨海膜 厚以下(2D極限時)のVO2においては、その薄膜極限に VO2の V-V二量体形成を伴わない 新しい絶縁体状態である「ルチル型モット絶縁体相」といった新しい電子相が発現すること を見いだした。
さらに、電気伝導測定等で決定した電子相図と比較することで、2D極限に現れるV-V二 量化を伴わない VO2の絶縁化は、低次元化によってモット不安定性がパイエルス不安定性 に打ち勝つことで生じていると結論づけた。
以上の「キャリア」及び「次元性」制御を研究アプローチとした放射光実験より得られた結 果から、VO2が示す急激な MIT を動作原理とするモットトランジスタの挙動は、独立する 二つの相転移不安定性のバランス(図1.4.1)に非常に敏感であることを電子分光学的に明ら かにした。
今後の展望
今後、本研究で得られた知見に基づいて最適なデバイス構造を設計することで、次世代の モットトランジスタの実現が期待される。以下に、その設計指針を構築するための具体的な 研究アプローチを提示する。
○ ホールドープされた
VO
2チャネルにおける電子相の外部電圧制御これまで、VO2デバイスの動作モデルとしては、界面電荷蓄積によりチャネル層領域(界 面数ナノメートル)のみならず薄膜全体が「MI → RM相転移」を示すモデルが考えられてき た[Nakano]。しかしながら、「表面キャリア注入法」と「その場放射光解析」を組み合わせた本 研究において、実際の VO2 チャネル層領域においては、従来考えられていた様なルチル型 金属相とは異なる「単斜晶系金属相」が出現することを見いだした[1]。このキャリア制御実 験から得られた知見は、VO2を用いたモット・トランジスタ構造の設計に根本的な見直しを 迫るものである。したがって、キャリア誘起MIT の動作機構を解明し、最適な電子相転移 デバイスの設計指針を構築するためには、キャリア注入時に発現する単斜晶系金属相のキャ リア(種)依存性を明らかにする必要がある。
「単斜晶系金属相」の様な中間電子相の存在は、VO2における急激な MIT を動作原理とす るモット・トランジスタの性能指数向上のさまた妨げとなる可能性が高い。VO2のMIT を用いた 次世代の電子相転移デバイスの実現に向けて、この様な中間電子相のキャリア(種)依存性を 明らかにする必要がある。例えば、ホールドープされたVO2の場合、MI相が安定化するこ とが報告されており[2]、電子相図のホールドープ側では、「単斜晶系金属相」の様な中間電子 相を経由しないキャリア誘起電子相転移が期待できる(図6.1)。このため、ホール側も含め た表面電荷蓄積時の VO2における電子相図を決定することで、中間電子相を経由しないキ ャリア誘起 MIT を設計できると考えられる。更に、得られた知見に基づいて、予め適切な ドープを施したVO2薄膜をFETのチャネル層として組み込むことで、(中間電子相を経由し ない)巨大かつ急激なMIT動作に基づくモット・トランジスタの実現が期待される。
以上の着想に基づき、具体的な研究目的・内容についてのべる。本研究提案では、表面電 荷蓄積時に VO2チャネル層領域に発現する「単斜晶系金属相」が、VO2デバイスの性能向上 の妨げとなるという予想の下、その様な中間電子相のキャリア(種)依存性を、アルカリ金属 原子の蒸着などの「その場表面修飾」による表面電荷蓄積手法と「その場放射光電子分光」を
に基づき、中間電子相を経由しない巨大かつ急激なキャリア誘起MIT を動作の基本とする VO2モット・トランジスタの設計指針を構築することを目的とする(図6.1)。
より具体的には、まず、微量な化学ドーピングを行った良質な VO2エピタキシャル薄膜 を作製する。この予めホールドープを施した VO2[2]薄膜表面に、アルカリ金属蒸着による 表面電子..
注入を試み、その場放射光解析や輸送特性評価などを実施することで、‘表面電荷 蓄積時’の電子相図のホールドープ側を決定する。この電子相図の拡充により、中間電子相 の経由を伴わない巨大かつ急激な「MI → RM相転移」動作の探索・特定・実証を行う(図6.1)。
更に、Cr 以外の置換種(電荷受容体)を検討し、ドーパント別に結果を比較することで、中 間電子相の発現を伴わないMITを動作原理とするVO2モット・トランジスタの設計指針を 構築する。最終的には、実際にデバイスを作製することで、設計指針の妥当性を検討する。
図 6.1. 表面電子注入時のホールドープ VO2 [2]薄膜において予想される電子相図.デバイス応用上
最適な「中間電子相が発現しないMIT経路」を赤色の矢印で示す.
○ VO2極薄膜チャネルのトランジスタ動作の膜厚依存性
二つ目は、本研究で用いた「表面キャリア注入」手法と、VO2チャネルのサイズを変化させ る「次元性」制御とを組合せる実験アプローチである。本研究アプローチにおいても、モット トランジスタ動作時に発現することが明らかになった中間電子相「単斜晶系金属相」を経由 しないMIT経路の探索、及び実証を目的とする。「次元性」制御の研究結果では、10 nmの厚 膜から維持されるVO2の電子物性が、およそ1.5–2 nmの臨界膜厚で急激に変化することを
Temperature (K)
Electron Doping Hole Doping
300 200 100 0
Monoclinic Insulator Rutile Metal
Monoclinic Insulator
cf. Nakano et al., Nature 487, 459 (2012).
Triclinic Insulator
Monoclinic Metal Monoclinic
Metal Monoclinic
Metal
?
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