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Peierls

VO 2 /TiO 2 (001)

0.5 nm

1 nm

t = 10 nmの厚膜で観測されているMITに由来する抵抗率の跳躍と、付随する熱ヒステリ シス特性は、t ≥ 1.5 nmで観測されている。また、tが減少すると、TMITは293K(t = 7–10 nm)

から287 K(t = 3 nm)に減少する。更にt = 2 nm付近からは、抵抗率の変化と熱ヒステリシス 幅の減少を伴いながら、厚膜での TMIT値を上回るように上昇し、およそ310 Kまで増加し て、MITが消失する様子が観測されている。ここで、t = 1.5 nmでも、r-T曲線は303 K付近 に広い転移幅をもった MIT を示し、検出可能なヒステリシスループが観測されている。こ の様な輸送特性の膜厚依存性は、低次元化により、VO2の協調的な MIT が抑制されている と考えられる。また、VO2/TiO2(001)超格子に関する先行研究[16]のものと一致しており、

t = 1.5–2.0 nm でV-V二量化が集団的なものから局所的なものへと移行することを示唆して

いる。また、図5.3.1において、r-T特性評価装置の測定限界(~103 W cm)を上回るMITが存 在する可能性を完全に排除することはできないが、t < 1.5 nm でr-T 曲線はキンク構造を示 していないことから、MITはt < 1.5 nmで消失していると考えられる。

図5.3.1の測定結果に基づいて作成した電子相図を図5.3.2に示す。電子状態の観点から

詳細に調べるため、その場放射光PES測定を行った。

5.3.2. VO2/TiO2(001)極薄膜の電子状態図.丸印は,図5.3.1のr-T曲線から決定された膜厚に対 するTMITのプロットである.ここで,TMITは熱ヒステリシス・ループの中心(降温及び昇温過程における 各r-T 曲線の変曲点の平均)と定義した.丸印に付随の温度軸のバーは,r-T 曲線のヒステリシス幅

(太線)と転移幅(細線)を表している。

Te m pe ra tu re (K )

350

300

250

Film Thickness t (nm)

6 8 2 4 6 8

1 10

RM

MI

c

R

Metallic Metallic Metallic

Insulating

Insulating

先行研究でも観測されている、t ~2–4 nmで極値をもつ様な膜厚に対するTMITの変化の下. に.

凸.

な挙動[8–15]は、表面過酸化層の形成やヘテロ界面における界面相互拡散などの外因的 な影響であると考えられていた。しかしながら、この様なTMITの特異な膜厚依存性は、V 3d バンドの閉じ込めによるパイエルス不安定性とモット不安定性の均衡が崩れることによる 協調的MITの抑制を反映している可能性がある。このことを電子・結晶構造の観点から検証 するため、次に放射光電子分光解析を行った。

5.3.2. VO

2極薄膜における価電子帯スペクトルの膜厚依存性

図5.3.3(a)に、250及び320 Kで測定したVO2極薄膜における価電子帯スペクトルの膜厚

依存性を示す。測定は、相転移前後の温度で行った(図 5.3.2参照)。膜厚t = 10 nm の厚膜

(TMIT ~ 295 K)では、温度に依存したMIT(RM – MI相転移)に特徴的なスペクトルの温度変 化が観測されている。これらのスペクトルの形状はt ≥ 2 nmでほぼ一致している。このこと

は、VO2が2 nm まではその物性を維持していることを示している。一方、t < 2 nm では、

320 K で測定した高温相スペクトル(実線)における EF上の状態密度が急激に減少し、やが

て0.5 nm では完全に消失する様子が観測されている。ここで、電子相の変化について細か

く議論するためにEF近傍の構造に注目する[図5.3.3(b)]。すると、フェルミ端がt ≥ 1.5 nm で観測されていることから、VO2の金属状態は1.5 nm 程度まで維持されることが分かる。

これらの結果から、VO2は1.0–1.5 nmの臨界膜厚で膜厚(次元性)に依存したMITを示すこ とを見いだした。

5.3.3. (a)T = 320 K(高温相; t = 10 nmの厚膜においてはRM相)及び250 K(低温相; 10 nmで はMI相)で測定された VO2/Nb:TiO2(001)極薄膜における価電子帯スペクトルの膜厚依存性.(b)EF

付近の拡大図.VO2の金属的な挙動はt ≥ 1.5 nmまで維持されている.一方,t < 1.5 nmでは絶縁体 に転移する様子が観測されている.各スペクトルの色は,図5.3.1のものと対応している.

一方、臨界膜厚以下のスペクトル形状に注目すると、t ≥ 2 nmの厚膜領域で見られる特徴 的なスペクトルの温度変化がかなり抑制されている。また、絶縁体相スペクトルにおけるEF

近傍のピーク構造において0.3 eV程度のエネルギーシフトが観測されている[図5.3.3(b)]。

これらの結果は、VO2の2D極限において安定化している節延滞状態が、厚膜のMI相VO2

とは異なる電子相であることを示唆している。次に、このことを結晶構造(V-V二量化)の観 点から検証するために、偏光依存XAS測定を行った。

Intensity (arb. units)

Binding Energy (eV)

10 8 6 4 2 E

F

2.0 1.5 1.0 0.5 E

F

Binding Energy (eV) VO

2

/Nb:TiO

2

(001)

Valence band

hν = 700 eV T > T

MIT

T < T

MIT

Nb:TiO2

Near E

F

hν = 700 eV

10 nm 3 nm 2 nm 1.5 nm

1 nm 0.5 nm 10 nm

3 nm 2 nm 1.5 nm

1 nm 0.5 nm

(a)

Intensity (arb. units)

(b) VO

2

/Nb:TiO

2

(001)

T > T

MIT

T < T

MIT

5.3.3. VO

2極薄膜における

O K XAS

スペクトルの膜厚依存性

図5.3.4に、T = 250及び320 Kで測定したVO2極薄膜におけるO K XASスペクトルの膜 厚依存性を示す。t = 10 nm の厚膜で観測されているd//*状態に由来するピーク構造は、2 nm あたりから抑制され、臨界膜厚以下(t < 1.5 nm)では消失している。このことは、価電子帯ス ペクトル(図5.3.3)においては絶縁体的な挙動を示すVO2の2D極限では、V-V二量体は形 成されないことを示している。

5.3.4. T = 320及び250 K,E // cRの配置で測定したVO2/Nb:TiO2(001)極薄膜におけるO K XAS スペクトルの膜厚依存性.V-V 二量化に由来するピーク構造(線影部)は,t < 1.5 nm で消失している

d

//

Intensity (arb. units)

VO

2

/Nb:TiO

2

(001) O K-edge XAS (E // c

R

)

Nb:TiO

2

Photon Energy (eV)

528 530 532

T > T

MIT

T < T

MIT

10 nm 3 nm 2 nm 1.5 nm

1 nm

0.5 nm

以上の結果から、VO2極薄膜における電子相図を決定した(図5.5.1)。VO2の2D極限にお いては、通常のMI相とは異なるV-V二量化を伴わない新たなルチル型絶縁体相が発現する ことを見いだした。

5.3.5. VO2(001)極薄膜における電子相図.2D極限において従来のMI相とは異なる新たな絶縁

体相を見いだした.

5.3.4. VO

2

2

次元極限に発現する絶縁体相の起源

本項では、VO2の2D極限で安定化するV-V二量化を伴わないルチル型絶縁体相の発現起 源を、VO2の MIT における 2 つの相転移不安定性の観点から考察する。5.1 節でのべた様 に、VO2薄膜が示す特性の膜厚依存性は、二つの相転移不安定性の均衡状態の変調を反映し たものであると考えられる。すなわち、二つの相転移不安定性が協調的に作用するMITは、

次元クロスオーバー効果によるモット不安定性の増大[5–7]と、V 3dバンドの空間的閉じ込 め[1–3]によるパイエルス不安定性の弱化の結果として抑制されると考えられる。

3D 的な厚膜から 2D 極薄膜の変化に伴う次元クロスオーバー効果によるモット不安定性 の増強は、膜厚の減少による表面・界面での有効配位数の減少に由来する。このとき、有効

Te m pe ra tu re (K )

350

300

250

Film Thickness t (nm)

6 8 2 4 6 8

1 10

RM

MI

c

R

Insulator New Insulator New Insulator

O V

バンド幅Wは次元クロスオーバー効果によって狭くなるが、オンサイトクーロン反発Uは 変化しない。ここで再び、図5.3.2で示したVO2/TiO2(001)極薄膜における高温相スペクトル

(実線)の膜厚依存性に注目すると、臨界膜厚であるt = 1.5 nmでは、リーディングエッジが EFをまたいで高エネルギー側から低エネルギー側にシフトしている様に見える。このこと は、1.5 nm において VO2は擬ギャップを形成することを示唆している。また、この前後の 膜厚において、この擬ギャップ相を介したスペクトルウェイトの移動と、やがてモットギャ ップに成長する様子が観測されている。この様なスペクトルの膜厚依存性は、ほかの強相関 酸化物において報告されている「次元クロスオーバー駆動型の MIT」[5–7]において観測され るものと類似している(図5.3.6)。このことは、低次元化に伴うモット転移不安定性の増強 を示唆している。この場合、モット基底状態(U/W >> 1)は、臨界膜厚以下の2D極限で安定 化し、VO2はモットギャップをもつ絶縁体となる。

5.3.6. (a)SrVO3極薄膜における次元クロスオーバー型MITに伴う価電子帯スペクトルの変化[5].

3D → 2Dの次元性変化に伴った表面・界面における有効配位数の変化を現した概念図.

もう一方の効果は、cR方向に沿って1D特性をもつV 3d//バンドの閉じ込めである。バン ド様パイエルス転移によるエネルギー利得は、d//バンドの量子化によって減少し、その結果 として、パイエルス不安定が抑制されると考えられる。偏光依存XAS測定の結果(図5.3.4)

においては、バンド様のパイエルス転移[20]に特徴的なV-V二量化(d//*状態)が、t < 1.5 nm

Interface

Surface

Interface

Surface

3D

Intensity (arb. units) 2D

SrVO

3

(n ML)/SrTiO

3

Near EF

Binding Energy (eV) 2 1 E

F n =6

5 4 3 2 1

(a) (b)

らのエネルギー利得が、集団的な V-V 二量化(構造相転移)を引き起こすのに十分ではない ことを示唆している。次元のクロスオーバーによる電子相関(U/W)の増強は、モット基底状 態を安定する方向に作用する。このことから、

以上の考察から、VO2の2D極限(t < 1.5 nm)においては、低次元化による影響で2つの効 果(次元クロスオーバー効果であるW幅の抑制とV-V二量化の閉じ込め効果)のバランスが 崩れた結果、モット不安定性がパイエルス不安定性に打ち勝つことにより(図 5.3.7)、V-V 二量体化を伴わない新たな「ルチル型モット絶縁体相」が発現すると結論づけた(図 5.3.8)

[22]。

数ナノメートルスケールでの厚さに依存する挙動の起源をより包括的に理解するには、更 に体系的な調査が必要である。特に、MITとその結果生じる複雑な電子層図(図5.1.1)に対 する二つの相転移不安定性の影響を調べるには、電子-電子及び電子-格子といった二つの効 果の両方を適切に処理することによる理論的研究や、様々な結晶学的配向を検討する実験的 アプローチ[24,25]が必要であると考える。

5.3.7. 2D極限のVO2におけるMITの相転移不安定性の均衡を表した概念図.低次元化に伴う二

つの効果により,相転移不安定性の均衡は崩れ,モット不安定性がパイエルス不安定性に打ち勝つこ とにより天秤びんは右側に傾く.

V-V