第 2 章 メソポーラスシリカを被覆層とした Ni ナノ触媒の CO 選択メタン化活性とその発現機構 . 18
2.3 酸化物被覆層による Ni 焼結抑制効果の検討
2.3.1 V 担持効果
(a) V 担持 Ni(OH)2の焼成時の NiO 焼結抑制
コアシェル構造において、V成分の特徴である反応選択性を発揮させる為に は、微細なNi(OH)2表面に均一にV成分を析出させることが重要である。本研 究では、V成分をNi(OH)2表面に析出させるプロセスとして、湿式条件下でV
イオンを Ni(OH)2 表面に吸着させる担持法を採用した。本節では V 担持
Ni(OH)2 を焼成した際に V が Ni に与える影響を明らかにするため、始めに
Ni(OH)2への Vイオンの吸着挙動を検討し、次に焼成後の V/Ni のキャラクタ
リゼーションを行った。
まず本題のVイオンの吸着挙動を検討する前に、Ni(OH)2粉末の結晶形態を 詳細に観察した。Fig.2-5にNi(OH)2粉末のFE-SEM,TEMの観察結果を示す。
Fig.2-5(a)のFE-SEM像よりNi(OH)2粒子は表面に微細な凹凸が入った平均粒 径約3μmの球状の形態をしていた。Fig.2-5(b)のTEM像よりNi(OH)2粒子は、
短軸3~5 nm、長軸15~30 nmの針状一次粒子により構成されていることが
確認された。Ni(OH)2粉末のかさ密度は0.4 g/cm3、BET比表面積は120 m2/g となり、比表面積の高い微細なNi(OH)2粉末であった。この様に比表面積の高
いNi(OH)2が得られた要因として、以下の様な乾燥過程による10)。
① 噴霧された Ni(OH)2スラリーの微細な液滴が空気中に飛ばされ、表面張力 により球状になる。
② Ni(OH)2スラリー液滴の表面から熱風気流により水分が蒸発し始める。
③ Ni(OH)2スラリー液滴の表面に乾燥したNi(OH)2被膜が形成される。
④ Ni(OH)2乾燥被膜を通して水分が移動蒸発する。液滴中の Ni(OH)2は水分 に運ばれて表面に移動する。
Fig.2-5 FE-SEM image and TEM image of Ni(OH)2 : (a) FE-SEM image, (b) TEM image.
5μm
(a)
100 nm
(b)
⑤ 乾燥したNi(OH)2粒子内部のNi(OH)2スラリーの粘度が上昇する。
⑥ 乾燥した Ni(OH)2粒子内に空隙が生じ、粒子内で水分が気化し続け、乾燥
収縮していく。先に乾燥した表面に圧縮力が残り、粒子中央付近には引っ 張り応力が発生し、部分的にクラックが形成される。
スプレードライ装置より得られた比表面積の高い微細なNi(OH)2の1次粒子 表面に各種酸化物被覆層を形成し、焼成及び還元時に Ni コア材の焼結を抑制 させることが、Ni金属表面積の増大とNi充填量の増大という、一般的に相い れない課題を解決するための重要な手法になると推測する。
次にこの微細なNi(OH)2表面へのVイオンの吸着挙動を検討するため、最初 にバナジン酸アンモニウム溶液中のVイオンの存在形態を熱力学的平衡計算ソ フトで解析した。Fig.2-6にOLI Stream Analyzer による解析結果を示す。V イオンは溶液中でバナジン酸イオンの状態で存在しており、このイオンの存在 形態は溶液のpHに大きく影響されることが推測された。Table 2-2にV/Niモ ル比0.039でVイオンをNi(OH)2に担持する際に使用した各溶液のpHを示す。
V 酸アンモニウム溶液は担持前に pH 6.9 であったが、V 担持後は pH 8.8 まで増加した。pH 6.9~8.8の範囲ではFig.2-5の結果からVイオンはH2VO4
-とHVO42-が混在した状態でNi(OH)2に吸着していることが考えられる。
次にNi(OH)2表面とVイオンとの反応について考察する。pH 8.8において
Vイオンは溶液中でバナジン酸陰イオンとして存在していると推測されること から、Ni(OH)2 表面のヒドロキシル基とバナジン酸陰イオンは式(2・1)及び式 (2・2)に示すイオン交換反応により結合していると考えられる。
−𝑁𝑖 − 𝑂𝐻 𝐾↔ −𝑁𝑖1 + + 𝑂𝐻−
式(2・1)
−𝑁𝑖++ 𝑉𝑂𝑥𝑛− ↔ −𝑁𝑖 − 𝑉𝑂𝐾2 𝑥/𝑛
式(2・2)
Fig.2-6 The result of OLI simulation about 0.079 mol/L NH4VO3 aqueous solution.
Table 2-2 pH data of V adsorbing process.
VO2+ H2VO4- HVO42-
H3VO4 0.02
0.04 0.06 0.08
1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0
V c ompo n en t am ou n t (m ol /L)
pH
pH@50℃
a ammonium vanadate solution
(0.079 mol/L ) 6.9
b 15% Ni(OH)
2slurry 7.0
c a,b mixed solution 8.8
イオン交換反応が生じた場合、(2・1)式よりNi(OH)2より排出されたOH-によ りpHは上昇すると推測される。このことはTable 2-2のV担持時のスラリー のpHは8.8まで上昇していることから裏付けられる。ただし、V担持時のpH の上昇は遊離アンモニウムイオンの影響も考えられることから、バナジン酸ナ トリウム溶液についてTable2-2と同様の試験を実施したところ、混合後のスラ リー溶液はpH 8.6まで上昇することが確認された。
これまで得られた結果を整理すると、Ni(OH)2表面へのVイオンの吸着挙動 は下記の通りLangmuir吸着等温モデルの前提条件が考えられる11)。
<Langmuir吸着等温モデルの前提条件>
① Vイオンが吸着するNi(OH)2表面は単一成分で一定数の吸着点を有する。
② Vイオン(バナジン酸イオン)とNi(OH)2がイオン交換反応と想定した場合、
Ni(OH)2の吸着点に1つのVイオンが吸着する。
③ Ni(OH)2表面に吸着したVイオン同士の相互作用はないと推測される。
ここでVイオンのNi(OH)2への吸着挙動を解析するために、Langmuir吸着 等温モデルが成り立つか検討する。V イオン分子をV、Ni(OH)2の吸着点をσ とした場合、次式(2・3)の平衡状態を考える。
V + σ
⇋
V・σ 式(2・3)V・σはV イオンが吸着されている Ni(OH)2の吸着点を表す。V・σの割合を θとし、未反応の溶液中のVの濃度をc、Vが吸着されていないNi(OH)2の吸 着点σの割合を 1‐θとした場合、吸着速度( )は次式(2・4)で表すことがで きる。
① 吸着速度式
式(2・4)
ここで、kは吸着速度定数、m は担体 1 mol あたりの V イオン吸着量、A は Ni(OH)2 1 molあたりのVイオン最大吸着量と定義する。mはVイオンの仕込
A kc m
kc
v 1 1
v
み濃度c0 (mol/L)、仕込み液量L (L)、Ni(OH)2仕込み量M (mol)とすると、
m=(c0-c)L/Mから算出される。
一方、式(2・4)の逆反応である脱着速度( )は V・σの濃度すなわちθに比 例することから、式(2・5)で表される。
② 脱着速度式
式(2・5) k'は脱着速度定数と定義する。
式(2・3)の速度式は式(2・4)と式(2・5)を合わせた式になることから、吸着/脱 着を合わせた速度式は式(2・6)で表される。
③ 吸着/脱着を合わせた速度式
式(2・6)
ここでVイオンのNi(OH)2への吸着が平衡状態に達すると となり、v=0 となることから、式(2・6)を変形していくと、式(2・7)の Langmuir 式が得ら れた。
として更に整理すると、
式(2・7) bは吸着平衡定数となる。
Table 2-3にVイオンをNi(OH)2に担持させたときの平衡吸着試験の結果を 示す。Fig.2-7にはTable 2-3について式(2・7)のLangmuir式に従いceとce/me
をプロットした結果を示す。ce が 0.05 以下で直線関係が成り立つことから、
この領域の V イオンの吸着は Langmuir 型の吸着であると推測できる。
Langmuirプロットから直線の傾き(1/A)は17.4であることから、Aは0.0575
A k m k
v
'
'A k m A kc m
v dt v
v dc 1 '
v v
A k m A
kce 1 me ' e
e
ee A m m
k c
k
' k'
b k
c bA A m
c
e e
e
1 1
v
Table 2-3 The result of V adsorbing test .
Fig.2-7 Langmuir plot of V adsorbing process.
y = 17.4x + 0.0377 R² = 0.9984
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.02 0.04 0.06 0.08
c
e(mol/L) c
e/m
e(m ol /L)
Ni(OH)
2(mol) c
e(mol/L) m
e(-) c
e/m
e(mol/L) 0 c
0(0.07938)
0.00116 0.07008 0.0799 0.8767
0.00285 0.06001 0.0680 0.8820
0.00541 0.04934 0.0556 0.8881
0.00817 0.03497 0.0544 0.6429
0.01081 0.02443 0.0508 0.4804
0.01624 0.00588 0.0453 0.1300
mol が得られた。切片(1/bA)は 0.0377 となり、吸着平衡定数 b を計算すると 460.5となった。本試験で実施したVイオンのNi(OH)2への吸着条件では、V/Ni
モル比0.039が上限であり、理論値の6割程度のVイオンしか担持されていな
い。V/Niモル比が0.039以下ならばVイオンはLangumuirモデルに従い、V イオンは単分子層でNi(OH)2に吸着していると考えられる。
次にV担持Ni(OH)2を焼成したyV/Niについて検討する。Fig.2-8に横軸に 触媒調製時の仕込みV/Ni モル比、縦軸にはXPSから測定したV/Ni モル比の 関係を示す。V/Ni モル比が 0.039 までは直線関係が成り立つことから、V は NiO 表面に均一に分散していると推測される。Fig.2-9 に焼成後の 0.039V/Ni のSTEM-EDS観察結果を示す。Fig.2-9(b)はFig.2-9(a)中に示された点線の四 角の箇所を拡大したSTEM像である。Fig.2-9(a)より焼成後の0.039V/Niは針 状結晶の凝集粒子で構成されていた。Fig.2-9(b)の点線で示した針状粒子が、こ の凝集粒子中の一次粒子に該当する。Fig.2-9(a) 中に挿入した0.039V/Niの制 限視野電子線回折パターンを解析した結果、NiOの面心立方格子に帰属された。
Fig.2-9(c, V)及びFig.2-9(d, Ni)のEDSマッピング像からV成分はNiO一次粒 子の表面に均一に分散していた。しかしながら、V成分に関係する結晶粒子な どはSTEM像より確認されなかった。Fig.2-10に焼成後の0.039V/NiのXRD 及びXPS測定結果を示す。Fig.2-10(a)では焼成後の0.039V/NiのX線回折ピ ークからは、V 成分に帰属される結晶相は確認されなかった。一方で、
Fig.2-10(b)に示した焼成後の0.039V/NiのX線光電子スペクトルを解析したと
ころ、V2p3/2結合エネルギーが517 eVでV2O5に帰属されるピークが確認され
た。Fig.2-10(b)の 525eVおよび531eV 付近で確認された他のXPSピークは、
それぞれ V2p1/2と O1sに帰属することができた。以上より焼成後の 0.039V/Ni
について、V成分はNiO一次粒子の表面で均一に分散しており、その析出形態 はアモルファス状あるいはV2O5の極めて微細な結晶として存在していると推
Fig.2-8 V/Ni molar ratio of the charge composition by ICP and observed by XPS of xV/Ni samples.
0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06
0 0.01 0.02 0.03 0.04
V/Ni molar ratio by ICP ( -)
V /N i m olar ra tio by X P S ( - )
Fig.2-9 FE-STEM images and EDS mappings of 0.039V/Ni after calcination: (a),(b) HAADF-STEM images, (c) V mapping, (d) Ni mapping.
Inset of (a) is the electron diffraction pattern.
10nm
10nm 10nm
(a) (b)
(c) (d)
100nm
Fig.2-10 XRD patterns and XPS spectrums of 0.039V/Ni:
(a) XRD and (b) XPS after calcination.
535 530 525 520 515 510
Binding energy (eV)
3000 2500 2000 1500 1000
In te nsi ty ( cps )
(b)
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
10 20 30 40 50 60 70 80
NiO(200)
NiO(111) NiO(220) NiO(311) NIO(222)
(a)
2θ (deg.)
Intens ity (cps ) × 10
5測される。これは V イオンが Ni(OH)2に吸着する際の Langmuir 型の吸着挙 動に起因していると考えられる。
(b) V 担持 NiO の還元時の Ni 焼結抑制
Fig.2-11にFE-SEMで観察した還元後のV/Niの結晶形態を示す。NiOから Ni への還元に伴い、結晶形態は針状結晶(Fig.2-9 の数 nm 程度)から粒状結晶
(100~200nm 程度)へ大きく変化した。V 含有量の増加に伴い、V/Ni 粒子は微
細化していく傾向となった。Fig.2-12に還元後の0.039V/NiのXRD及びXPS 測定結果を示す。Fig.2-12(a)に示した還元後の0.039V/NiのX線回折パターン で確認された鋭い回折ピークは Ni 金属(PDF 071-3740)に帰属された。
Fig.2-12(b)に示した還元後の0.039V/NiのX線光電子スペクトルを解析したと
ころ、V2p3/2結合エネルギーが516 eVでV2O3に帰属されるピークが確認され
た。Fig.2-12(b)の 525eVおよび531eV 付近で確認された他のXPSピークは、
それぞれ V2p1/2と O1sに帰属することができた。Fig.2-13 に還元後の V/Ni サ
ン プ ル の X 線 回 折 像 を 示 す 。V/Ni モ ル 比 が 0.025 を 超 過 し た 場 合 、 V2O3(PDF085-1411)あるいは V1.95Ni0.05O3(PDF 072-5931)に帰属される回折 ピークが確認された。