第 2 章 タンザニア政府の取組みと成果
2.3. 貧困削減の成果
2.3.1. MDGs の達成状況
LGRP
で特筆すべきは、財政の地方分権化の進展である。地方政府によって中央政府か らの財政移転や支援に格差があり、不公平が生じていたことから、タンザニア政府は指 標基準法式に基づく地方政府能力開発グラント(LGCDG: Local Government Capacity Development Grant
) を 導 入 し た 。 交 付 金 の 交 付 は 地 方 自 治 省 (Ministry of Local
Government
)を通じて行われ、ⅰ)GBS
を含む一般会計予算からの配分、ii
)LGRP
向けのバスケットファンド、
iii
)WB
による地方政府支援プログラム(LGSP
:Local Government Support Programme
)、iv
)各セクターのバスケットファンド、が財源となっ ている。主な交付金の種類と配分の基準は以下の通り。なお、交付金システムについては、実施機関となる地方政府省の能力強化や、地方自治 体の計画策定・実施・調達能力の強化などが必要であるとの指摘がドナー側からなされ ている。
表 2-14 地方政府への交付金の種類・基準
交付金の種類 目的 配分基準
一般交付金(GPG:General Purpose Grant)
村落レベルでの経常支出に対する交付金 歳入の実績による
• 人口:70%
• 貧困人口:20%
• 面積:10%
開発交付金
(CDG:Capital Development Grant)
地方ニーズに基づいた既存インフラの改修およ び新規インフラ整備のための地方政府支援
歳入の実績による
• 人口:70%
• 貧困人口:20%
• 面積:10%
地方政府開発交付金
(LGDG:Local Government Development Grant)
CDG の交付条件に満たない地方政府向けの任 意の開発資金の供与
歳入の実績による
• 人口:70%
• 貧困人口:20%
• 面積:10%
能力向上交付金(CBG:
Capacity Building Grant)
CDG の交付条件を充足するための地方政府の 能力・制度強化、および能力評価により追加資 金へのアクセスを可能とする
年間平均支出35,000ドル相当。
資格付与審議会が 20,000ドルを受領 し、CDGと同じ基準で15,000ドルが 割り当てられる
(出所) The President’s Office Planning and Privatization (2005) “Guidelines for Preparing Medium Term Plans and Budgets for 2005/06-2007/08”および外務省(2006年)「平成17年度外務省第三者評価:一般財政支援(タンザニアPRBS、
ベトナムPRSC)のレビュー報告書(素案)」22ページ図表III-1-15より作成
(1)
目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅
1980
年代に経済の停滞を経験したタンザニアであるが、1990
年代には回復基調に入り、特に、
1990
年代後半以降、経済成長率も5
%前後と安定していることから、極度の貧困・飢餓にあえぐ人口の比率は低下しているものと見られる。しかしながら、近年の旱魃傾 向などにより農業成長率が目標を下回るなど、
2010
年までの貧困削減の達成に必要な マクロ経済成長率の確保は容易ではないと見られる。表 2-15 貧困・飢餓の撲滅に関する達成状況
指標 1990 1994 1997 2000 2003 2004 下位20%層(貧困層)の所得あるいは消費シェア(%) 2.4 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a.
1日1ドル未満で暮らす人口比率(%) 48.5 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a.
食料エネルギー消費が最低水準に未満の人口比率(%) n.a. n.a. 50.0 n.a. 44.0 n.a.
貧困ギャップ比率(1日1ドルを貧困ラインとした場合)(%) 24.4 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a.
貧困率(国の貧困ライン以下の人口比率)(%) 38.6 n.a. n.a. 35.7 n.a. n.a.
5歳未満児にしめる低体重児の割合(%) n.a. n.a. 30.6 29.4 n.a. n.a.
(出所) World Bank Web-Site, http://www.worldbank.org/, Millennium Development Goals Country tablesより作成
(2)
目標2:初等教育の完全普及
タンザニアの貧困削減戦略において、教育セクターに重点が置かれ、
PRS
やMKUKUTA
でもMDGs
の指標と同様の指標が掲げられている。そのため、教育に関しては、早くから
SWAps
を通じた取組みが行われてきた。特に、PEDP
による初等教育の無償化と学校建設など、初等教育にターゲットを当てた取組みが行われてきたことから、初等教 育就学率に著しい改善が見られる。しかしながら、
2003
年度と2004
年度には、PEDP
における目標就学人数を下回っていることから、その要因についての詳細な分析が必要 となっている。また、初等教育修了率は、1990
年時点に比して2000
年時点では悪化し ており、その後改善傾向にはあるが、就学率の向上に比べるとその効果は限定的である。この理由としては、小学校数は急激に増加したものの、教員養成や教科書作成・配布が これに追いつかず、教育の質が低下していることが挙げられる。また、こうした教育の 質の低下は、子どもたちの学力の向上に結びつかず、進級を阻害し、結果として初等教 育修了に至らない、といった問題につながっているものと見られる。
表 2-16 初等教育の普及に関する達成状況
指標 1990 1994 1997 2000 2003 2004 純就学率(学齢児にしめる割合)(%) 49.6 n.a. 45.8 49.8 68.8 n.a.
初等教育修了率(学齢児にしめる割合)(%) 62.0 57.4 57.5 48.6 57.7 57.7 5年生に進級する児童の割合(%) 78.8 n.a. 80.9 81.4 82.0 n.a.
青年層の識字率(15-24歳)(%) n.a. n.a. n.a. n.a. 78.4 n.a.
(出所) World Bank Web-Site, http://www.worldbank.org/, Millennium Development Goals Country tablesより作成
表 2-17 1年生の就学状況:初等教育開発計画(PEDP)の目標と実際
PEDP目標就学人数 実際の就学人数 目標と実際の差(%)
2002年 1,500,000 1,632,141 8.1
2003年 1,600,000 1,481,354 -8.0
2004年 1,640,969 1,368,315 -19.9
(出所) United Nations Development Programme (2005) “Poverty and Human Development Report 2005”, UNDP p.12, Table 8
(3)
目標3:ジェンダーの平等、女性のエンパワメントの達成
タンザニアの貧困削減の分野横断的な課題として、ジェンダー格差の解消が挙げられて
いる。
PRS
あるいはMKUKUTA
では、具体的な指標として初等・中等教育における男女の割合が上げられている。識字率については、
MKUKUTA
において、特に農村女性を 重点として、農村人口の識字率の向上が掲げられている。しかしながら、実態として、女性の教育および就業機会、さらに政治への参加の機会の向上という側面から、必ずし も適切なモニタリングが行われているとはいえない状況にある。ジェンダーの平等およ び女性のエンパワメントに関する目標の達成に向けては、まずモニタリング体制の構築 が求められる。
表 2-18 ジェンダー格差の是正に関する達成状況
指標 1990 1994 1997 2000 2003 2004 国会にしめる女性議員の割合(%) n.a. n.a. 18.0 16.0 22.0 21.0 初等・中等教育における男子に対する女子の割合(%) 95.5 n.a. 98.2 98.8 n.a. n.a.
識字青年女子の青年男子に対する割合(15-24歳)(%) n.a. n.a. n.a. n.a. 94.2 n.a.
非農業セクターに就業している女性の割合 28.5 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a.
(出所) World Bank Web-Site, http://www.worldbank.org/, Millennium Development Goals Country tablesより作成
(4)
目標4:子どもの死亡率の削減
保健セクター、特に乳幼児死亡率の削減は、タンザニアの貧困削減における重点課題で あることから、
MDGs
と関連する指標がPRS
およびMKUKUTA
において明確に示され ており、政府による取組みも優先的に行われてきた。表
2-19
を見ると、はしかの予防接種率については、1990
年に比して2003
年には改善が見られているものの、乳幼児死亡率は微増しており、改善は見られない。しかし、タ ンザニア統計局のデータ47によれば、乳幼児死亡率は
1998
年1,000
出生当たり115
人か ら2002
年95
人と大きく改善している。データによって、改善状況に相違が見られるた め、子どもの死亡状況に関する現状の確認が必要となっている。表 2-19 子どもの死亡率削減に関する達成状況
指標 1990 1994 1997 2000 2003 2004
はしかの予防接種率
(生後12-23ヶ月の幼児)%
80.0 79.0 73.0 78.0 97.0 97.0 乳児死亡率(1000出生当たり) 102.0 103.0 n.a. 104.0 104.0 104.0 5歳未満児死亡率(1000人当たり) 163.0 164.0 n.a. 165.0 165.0 165.0
(出所) World Bank Web-Site, http://www.worldbank.org/, Millennium Development Goals Country tablesより作成
なお、タンザニアでは、他のサブ・サハラアフリカ諸国に比して、子どもの予防接種率 は高く、
2004
年のはしかの予防接種率は80
%、三種混合48ワクチン(DPT3
)接種率は86
%と、計画値を上回っている。しかし、予防接種の普及に関しては、地域間格差が大 きく、東部に位置するMtwara
、Kilimanjaro
、Morogoro
のDPT3
接種率は100
%であるの に対し、西部のRukwa
、Tabora
、Shinyanga
、Mara
では接種率は80
%を下回っている。こうした予防接種の普及に関する取組みが乳幼児死亡率の低減にどのように影響して
47
National Bureau of Statistics, “Tanzania Demographic and Health Survey 2004-2005”, p2, Table 1.1
48
ジフテリア、百日咳、破傷風の 3
つの感染症。いるのかについても検証が求められる。
(5)
目標5
:妊産婦の健康の改善WB
のデータ(表2-20
)では、データがそろっていないため、ここではDHS2004/05
および
PHDR2005
年版を参照することとする。2005
年に発表されたDHS2004/05
によれば、2004
年の保健スタッフの介助による出産 の割合は46.2
%と1997
年の35.8
%から改善し、妊産婦死亡率も10
万出生当たり578
人と
2000
年1,500
名から比較すると6
割近く減少した。しかし、PHDR2005
年版によれば、
1996
年の妊産婦死亡率は529
人であり、ほとんど改善は見られないとされている。DHS2004/05
によると、適切な介助を受けた出産が都市部においては80
%を超えているが、農村部では
38%に留まっており、地域格差が激しい。国全体で見ると MDGs
の達 成可能性は高いが、妊産婦死亡率の高い農村部において死亡率削減のための重点的な取 組みが必要とされる。表 2-20 妊産婦の健康改善に関する達成状況
指標 1990 1994 1997 2000 2003 2004 熟練の保健スタッフによる介助を受けた出産の割合(%) n.a. 38.2 35.8 n.a. n.a. n.a.
妊産婦死亡率(推定、10万出生当たり) n.a. n.a. n.a. 1,500.0 n.a. n.a.
(出所) World Bank Web-Site, http://www.worldbank.org/, Millennium Development Goals Country tablesより作成
(6)
目標6: HIV/AIDS、マラリアなどの疾病の蔓延防止
タンザニアにおける
HIV/AIDS
の感染状況を把握するために初めて実施された、「タン ザニアHIV/AIDS
指標調査」(2003-04 Tanzania HIV/AIDS Indicator Survey
)によれば、国 全体の感染率は7
%、15
〜49
歳人口のうち107
万人が感染していると推定されている。また、国連合同エイズ計画(
UNAIDS
:Joint United Nations Programme on HIV/AIDS
)の 推定によれば、HIV/AIDS
により親を亡くした子どもは、98
万人に達しているものと見 られている。タンザニア政府は、2001
年11
月にHIV/AIDS
感染の防止とHIV
感染者の ケアなどに関する「国家HIV/AIDS
政策」を導入し、その後、「HIV/AIDS
のための国家 マルチセクター戦略枠組み2003-07
年」(National Multi-Sectoral Strategic Framework HIV/AIDS 2003-07
) を 策 定 し て 、 タ ン ザ ニ アAIDS
委 員 会 (TACAIDS: Tanzania
Commission for AIDS
)を中心とする取組みを行っている。HIV/AIDS
の感染拡大は、経済的・社会的な影響も大きく、貧困問題にも深刻な影響を与えることから、効果的な取 組みの継続が不可欠である。
表 2-21 感染症の蔓延防止に関する達成状況
指標 1990 1994 1997 2000 2003 2004 避妊法普及率(15-49歳女性)(%) 9.5 n.a. 18.4 25.4. n.a. n.a.
結核発症率(10万人当たり) 183.5 254.6 313.8 347.5 371.2 371.2 HIV/AIDSにより孤児になった児童数 n.a. n.a. n.a. 790,000 980,000 980,000 HIV感染率(15-49歳)(%) n.a. n.a. n.a. 9.0 8.8 8.8 DOTSにより発見された結核患者の割合(%) n.a. 55.0 50.8 46.8 42.8 42.8
(出所) World Bank Web-Site, http://www.worldbank.org/, Millennium Development Goals Country tablesより作成