第 2 章 タンザニア政府の取組みと成果
2.1. 貧困削減に向けた政策的枠組
2.1.4. 財政的枠組と実績
2000
年10
月にPRSP
を策定し、貧困削減を目標とした開発を進めるタンザニアにおい ては、PRS
の実施のための予算的ガイドラインとして、3
ヵ年のローリングによる中期 支出枠組(MTEF:Mid-term Expenditure Framework)が策定されている。タンザニア政 府は、公共支出調査(PER
:Public Expenditure Review
)を実施し、計画の実施状況とそ の成果について分析し、計画および予算配分の見直しを行っている。また、
2003
年度にタンザニア政府は、セクターレベルでの公共支出の見直しを行うプ ロセスを強化するために、セクター別ワーキング・グループ45を再度設置した。このワ ーキング・グループは、貧困削減という目的を予算に反映させるために重要な役割を果 たすものとされている。タンザニアにおいては、予算およびドナーによる援助の効率的な活用を目的として、援 助の使途を特定のプロジェクトやプログラムの実施に限定しない、
SWAps
によるセク ター・バスケット・ファンドや一般財政支援(GBS
:General Budget Support
)が導入さ れている。MKUKUTA
の実施においては、政府の一般財政および各セクターへの予算配分が、各クラスターで掲げている貧困削減に向けた目標の達成に貢献することが求められる。そ のため、タンザニア政府は、クラスター別の予算配分を行うために戦略予算配分制度
(
SBAS
:Strategic Budget Allocation System
)とクラスターごとの目標の達成状況をモニ タリングするための実績評価枠組(Performance Assessment Framework)を導入した。また、タンザニアでは地方分権化が進められており、具体的な開発計画の策定・実施は 県政府に権限が委譲され、中央政府は国レベルでの政策・戦略の策定と地方政府による 執行状況のモニタリング、必要な支援の提供を行なっている。そうした地方分権化政策 の一環として、
2005/06
年度に地方政府一括開発交付金(LGCDG
:Local Government
Capital Development Grant
)の制度が導入され、中央政府から地方政府に開発予算を一括して分配する方針が示されている。
さらに、ドナーからの援助も組み込んだ形での予算作りを行うため、タンザニア政府は、
現在策定中の共同支援戦略(
JAS
:Joint Assistance Strategy
)において、どのドナーがど の分野にどの程度の支援を行うのかを明確化したい意向を示している。一方ドナー側は、長期的な財政支援を行うにあたっては、タンザニア政府が適切かつ透明な予算策定・執 行を行うことが必要であるとしており、中央政府および地方政府レベルでの機能強化お よび能力強化が不可欠となっている。
(2)
財政状況政府の国内歳入の
GDP
比は1990
年代後半から12
〜13
%とほぼ一定しているにもかか わらず、政府歳出合計のGDP
比は年々増加しており、1998/99
年度約17.6
%から2003/04
年度には約24.9
%と7
ポイント増加している(表2-9
)。金額で見ると、歳入額は1998/99
年度
6,693
億タンザニアシリングから2003/04
年度には1
兆3,930
億タンザニアシリングとおよそ
2
倍に拡大しているが、同期間に歳出額は8,167
億タンザニアシリングから44
タンザニアの会計年度は、7
月から翌年の6
月まで。45
ドナー側の専門家も参加している。
2
兆4,183
億タンザニアシリングと3
倍近く増加している(表2-10
)。財政赤字の対GDP
比も年々上昇しており、1998/99
年度には2.3
%であったが、2003/04
年度には11
%を超 えた(表2-9
)。金額で見ると、財政収支の赤字は、1998/99
年度1,273
億タンザニアシ リングから2003/04
年度1
兆253
億タンザニアシリングに拡大している(表2-10
)。赤 字の補填の大部分は援助に依存しており、年間援助受取額は概ね65
億ドル前後で推移 している。債務残高は1990
年代後半から2000
年代前半には減少傾向にあったが、2003/04
年度には再び増加し、約79
億ドルとなっている(表2-9
)。表 2-9 政府歳出・歳入の推移(1996/97-2003/04)
1998/99 1999/00 2000/01 2001/02 2002/03 2003/04 政府国内歳入(GDP比、%) 12.5 11.3 12.2 12.1 12.8 13.4 政府歳出合計(GDP比、%) 17.6 18.3 20.6 19.1 23.4 24.9 財政収支(除く、無償)(GDP比、%) -2.3 -5.8 -4.6 -5.6 -8.2 -11.2 財政収支(含む、無償)(GDP比、%) 0.8 -1.6 -1.2 -1.1 -1.7 -4.0 援助受取額 (百万ドル) 6,580.3 6,538.3 6,312.2 6,559.7 6,413.4 6,730.8 債務残高 (百万ドル) 7,669.7 7,624.8 7,482.1 7,464.0 7,268.17 7,890.7
(出所) The President Office (2004) “Public Expenditure Review for FY2004/2005 Consultative Meeting”, p.3 Table 1および The President Office (2005) Economic Survey 2004より作成
表 2-10 政府予算の動向(1998/99-2003/04)
(単位:百万タンザニアシリング)
1998/99 1999/00 2000/01 2001/02 2002/03 2003/04 政府国内歳入 669,326.3 777,644.7 929,624.0 1,042,954.0 1,217,517.5 1,393,026.3 税収 616,254.1 665,107.4 627,766.4 939,266.0 1,105,746.0 1,264,161.5 税外収入 73,041.2 92,537.3 101,835.6 103,688.0 111,771.0 126,864.7 政府歳出 816,705.6 1,168,778.6 1,305,035.3 1,466,138.0 1,989,511.7 2,418,337.0 経常支出 680,182.7 808,865.4 1,015,762.1 1,121,527.0 1,488,650.0 1,610,897.0 開発支出 136,523.9 359,913.4 286,253.2 344,611.0 500,861.7 807,440.0 内貨 18,607.5 19,426.5 35,069.1 50,236.0 95,661.7 140,091.0 外貨 117,716.4 340,484.6 251,184.1 294,375.0 405,200.0 667,349.0 財政収支(除く、無償) -127,381.3 -391,134.1 -375,411.3 -423,184.0 -771,994.6 -1,025,310.8 無償 169,945.6 280,306.7 255,306.0 379,845.0 622,302.1 727,650.0 プロジェクト 100,499.8 207,519.4 123,629.8 140,192.0 293,927.7 364,303.0 財政支援 47,530.2 72,767.3 30,435.4 - 255,516.2 259,922.0 HIPC債務救済 - - - 56,657.0 72,658.2 103,425.0 財政収支(含む、無償) 42,564.3 -110,827.4 -89,105.3 -43,338.0 -149,692.5 -297,660.8 現金調整 -25,140.6 -2,444.3 -25,447.4 4,759.1 -16,013.2 0.0 最終財政赤字 17,423.7 -113,271.7 -114,552.7 -38,576.9 -164,705.7 -297,660.8
(出所) The President Office (2004) “Public Expenditure Review for FY2004/2005 Consultative Meeting”, p.3 Table 1より作成
表
2-11
を見ると、タンザニア政府の開発支出は年々増加傾向にあり、第1
次PRS
が開始された
2000/01
年度2,860
億タンザニアシリングから2004/05
年度には8,780
億タンザ ニアシリングと3
倍以上に拡大した。それに伴い、海外からの資金調達も増加し、2,510
億タンザニアシリングから6,440
億タンザニアシリングと2.6
倍となった。しかし、開 発支出に占める海外資金による調達の割合を見ると、第1
次PRS
以前には90%を超え
ていたが、年々低下しており、2004/05
年度は73
%にまで下がっている。表 2-11 開発支出と海外資金による調達
(単位:10億タンザニアシリング)
1998/99 1999/00 2000/01 2001/02 2002/03 2003/04 2004/05
開発支出 248 360 286 291 501 642 878
海外資金 229 340 251 241 405 509 644
開発支出に占める海外資金の割合 92% 94% 88% 83% 81% 79% 73%
(出所)World Bank (2005) “United Republic of Tanzania: Public Expenditure and Financial Accountability Review-FY05”, p153, Table A3aより作成(なお、当該資料はドラフト段階のものであり、WBとタンザニア政府が公式に承認するま で非公開とするとされている)
(注1) 2004/05年度の数値は暫定的な推定値。それ以外の年度は実績値。
(注2) 開発支出に占める海外資金の割合は、調査団による算出。
(3)
貧困削減への公共支出表
2-12
にて、タンザニアの政府歳出のセクター別配分状況を見ると、PRS
およびMKUKUTA
において優先セクターとされる、教育、保健、水、農業、道路、法務、HIV/AIDS
の
7
つのセクターに対し、概ね50
%以上の配分が行われている。優先セクターへの経 常支出と開発支出の比率では、経常支出の比率が高く、およそ2
対1
の割合となってい る。重点セクターに対する歳出のなかでは、教育セクターに対する配分が最も大きく、政府 歳出全体の
20
%前後が割り当てられている。教育セクターへの経常支出の割合は18
% 程度であるが、開発支出の割合は、2000/01
年度以降低下しており、2005/06
年度予算では
1.1%となっている。このことから、教育セクターへの支出では、学校建設等の資本
投資よりも、初等教育の無償化、教員の採用拡大などに重点が置かれたことが確認でき る。
教育セクターに次いで大きなシェアを占めているのは保健セクターであり、毎年政府歳 出の
10
%程度を占めている。保健セクターへの歳出も、教育セクター同様、経常支出 と開発支出の割合はおおよそ2
対1
となっている。インフラ整備への政府歳出では、道路に対する歳出の割合が最も高く、
8
〜10
%の支出 が行われている。道路への歳出の内訳は2001/02
年度以降、開発支出の割合が高くなっ ている。これは、第1
次PRS
およびMKUKUTA
において農村道路の整備が重点分野と して掲げられていることが背景にあると考えられる。水セクターへの政府歳出は、2000/01
年度には2
%未満であったが、その後は増加傾向にある。2005/06
年度予算では4
%超が割り当てられる見込みで、そのうち、3.4
%は開発支出に充てられている。水は 人々の生活の生命線であり、依然として人口の半数が安全な水へのアクセスを持たない タンザニアの現状から、政府歳出のほとんどが水供給施設の整備のための開発支出に充 当されている。経済セクターでは、農業が優先セクターとして上げられており、農業への政府歳出のシ ェアは拡大傾向にある。
2000/01
年度2.0
%から2005/06
年度予算4.5
%と2.5
ポイント増 加している。農業セクターへの経常支出と開発支出の割合はほぼ同程度となっている。また、分野横断的課題である
HIV/AIDS
対策への支出も増加しており、2000/01
年度0
%から
2005/06
年度予算2.7
%に拡大している。表 2-12 政府歳出のセクター別配分状況
(単位:%)
2000/01 2001/02 2002/03 2003/04 2004/05 2005/06 政府歳出総額
(10億タンザニアシリング)
1,257.6 1,625.8 2,091.1 2,562.1 3,347.5 4,103.1
政府歳出総額に占める重点 セクターの割合(A-B+C)
51.9 58.2 53.4 49.9 51.6 50.3 教育 26.7 26.6 24.4 19.1 20.5 18.6 保健 10.6 11.0 10.4 9.7 10.1 10.7
水 1.9 2.5 2.9 2.8 4.4 4.2
農業 2.0 2.5 3.4 5.3 3.8 4.5
道路 9.7 13.9 10.6 10.5 9.6 8.0
法務 1.0 1.4 1.3 1.5 1.3 1.6
HIV/AIDS 0.0 0.3 0.3 1.0 1.9 2.7
政府歳出に占める経常支出 の割合(B)
70.1 73.4 72.0 70.6 68.9 66.7 重点セクターへの経常支出
の割合
36.4 37.8 40.3 34.8 33.9 33.2 教育 19.8 21.8 23.7 17.6 17.8 17.5
保健 7.4 7.0 8.3 8.0 8.5 7.3
水 0.9 1.2 0.9 0.8 0.8 0.8
農業 1.1 1.3 2.0 3.1 2.2 2.4
道路 6.4 5.1 4.0 3.8 3.1 2.7
法務 0.9 1.1 1.1 1.1 1.0 1.1
HIV/AIDS 0.0 0.3 0.3 0.3 0.4 1.3
政府歳出に占める開発支出 の割合(C)
29.9 26.6 28.0 29.4 31.1 33.3 重点セクターへの開発支出
割合
15.4 20.3 13.1 15.1 17.8 17.1
教育 6.9 4.8 0.7 1.5 2.8 1.1
保健 3.2 3.9 2.1 1.7 1.6 3.4
水 1.1 1.3 2.0 2.0 3.6 3.4
農業 0.9 1.1 1.4 2.3 1.6 2.1
道路 3.3 8.8 6.6 6.7 6.5 5.3
法務 0.0 0.3 0.2 0.4 0.3 0.5
HIV/AIDS 0.0 0.0 0.0 0.6 1.4 1.4
(出所) Ministry of Financeからの入手資料による
表
2-13
は、各重点セクターの戦略を実施するために必要なセクター別公共支出の推定額と利用可能額を示したものである。教育、農業、水については、それぞれの重点プロ グラムに必要な予算は概ね確保できているが、保健、
HIV/AIDS
対策、道路は、利用可 能額が必要額を大幅に下回っている。教育および保健については、重点的に予算配分が行われ、セクター政策の実施が進めら れたことから、
PRS
に掲げられた指標を国レベルでは概ね達成している。しかしながら、達成状況を地域レベルで見ると顕著なばらつきがあり、特に、農村部における指標は低 い傾向にある。予算配分の地域的なバランスや、貧困層に裨益する公共支出が行われて いるかについて検証を行い、効果的な予算配分につなげていくことが求められる。
また、農業セクターの経済成長や水供給の拡大による生活環境の改善は、農村における 経済的・社会的貧困の緩和に不可欠であることから、成長を促すのに十分な公共支出が 行われているのか検証する必要がある。