「貧困プロファイル」
タンザニア
2006 年 8 月
国際協力銀行
AfDB : African Development Bank アフリカ開発銀行
ASDP : Agriculture Sector Development Programme 農業セクター開発プログラム ASDS : Agriculture Sector Development Strategy 農業セクター開発戦略 CAS : Country Assistance Strategy 国別支援戦略
CBN : Cost-Basic-Needs 最小費用
CCF : Country Cooperation Framework 国別協力枠組み CIDA : Canadian International Development Agency カナダ国際開発庁
CPI : Consumer Price Index 消費者物価指数
CSP : Country Strategy Paper 国別戦略文書
CSR : Corporative Social Responsibility 企業の社会的責任
CRS : Creditor Reporting System 債権国報告システム
DAC : Development Assistance Committee 開発援助委員会 DADPs : District Agriculture Development Plans 県農業開発計画
DfID : Department for International Development 国際開発省(イギリス)
DHS : Demographic Health Survey 人口・保健調査
DPG : Development Partners Group 開発パートナーグループ
DROMS : District Roads Management System 県道路管理制度
EC : European Commission 欧州委員会
EDF : European Development Fund ヨーロッパ開発基金
ESDP : Education Sector Development Programme 教育セクター開発プログラム
EU : European Union 欧州連合
GBS : General Budget Support 一般財政支援
GDP : Gross Domestic Product 国内総生産
GTZ : Deutsche Gesellschaft für Technische Zusammenarbeit
ドイツ技術協力公社
HBS : Household Budget Survey 家計調査
HDI : Human Development Index 人間開発指数
HIPC : Heavily Indebted Poor Countries 重債務貧困国
HPI : Human Poverty Index 人間貧困指数
IDA : International Development Association 国際開発協会 ILFS : Integrated Labour Force Survey 総合労働力調査 IMF : International Monetary Fund 国際通貨基金 I-PRSP : Interim Poverty Reduction Strategy Paper 暫定貧困削減戦略書
JAS : Joint Assistance Strategy 共同支援戦略
JBIC : Japan Bank for International Cooperation 国際協力銀行 JICA : Japan International Cooperation Agency 国際協力機構 KfW : Kreditanstalt für Wiederaufbau 復興金融公庫
LGCDG : Local Government Capital Development Grant 地方政府一括開発交付金 LGRP : Local Government Reform Programme 地方政府改革プログラム LGSP : Local Government Support Programme 地方政府支援プログラム MCDGC : Ministry of Community Development, Gender
and Children
コミュニティ開発・ジェンダー・ 子ども省
NPES : National Poverty Eradication Strategy 国家貧困撲滅戦略 NSGRP : National Strategy for Growth and Reduction of
Poverty (MKUKUTA)
成長と貧困削減のための国家戦 略
ODA : Official Development Assistance 政府開発援助 OECD : Organization for Economic Cooperation and
Development 経済協力開発機構
PEDP : Primary Education Development Plan 初等教育開発計画
PER : Public Expenditure Review 公共支出調査
PFMRP : Public Financial Management Reform Programme
財政管理改革プログラム PRBS : Poverty Reduction Budget Support 貧困削減財政支援
PRS : Poverty Reduction Strategy 貧困削減戦略
PRSC : Poverty Reduction Support Credit 貧困削減支援借款 PRSP : Poverty Reduction Strategy Paper 貧困削減戦略書
PSLE : Primary School Leaving Examination 初等教育修了者学力試験 PSRP : Public Service Reform Programme 公共サービス改革プログラム
RDS : Rural Development Strategy 農村開発戦略
R & AWG : Research and Analysis Working Group 調査・分析ワーキング・グループ SBAS : Strategic Budget Allocation System 戦略予算配分制度
SBS : Sector Budget Support セクター財政支援
SEDP : Secondary Education Development Program 中等教育開発プログラム
SWAps : Sector-Wide Approaches セクター・ワイド・アプローチ
TACAIDS : Tanzania Commission for AIDS タンザニアエイズ委員会 TNBC : Tanzania National Business Council タンザニア国家ビジネス協議会 TANESCO : Tanzania Electricity Supply Company タンザニア電力供給会社 TAS : Tanzania Assistance Strategy タンザニア支援戦略
TzPPA : Tanzania Participatory Poverty Assessment タンザニア参加型貧困アセスメ ント
UNAIDS : The Joint United Nations Programme on HIV/AIDS
国連共同エイズ計画 UNDAF : United Nations Development Assistance
Framework
国連開発援助枠組 UNDP : United Nations Development Programme 国連開発計画 UNICEF : United Nations Children’s Fund 国連児童基金 USAID : US Agency for International Development 米国国際開発庁
WB : World Bank 世界銀行
WHO : World Health Organization 世界保健機構
第 1 章 タンザニアの貧困概況... 1 1.1. 経済的貧困と不平等の測定 ...1 1.1.1. 経済的貧困の測定方法:貧困ライン ...1 1.1.2. 貧困指標...3 1.1.3. 不平等指標 ...9 1.2. 非経済的側面による貧困の測定 ... 12 1.2.1. 基礎インフラへのアクセス ... 12 1.2.2. 雇用 ... 15 1.2.3. 教育 ... 17 1.2.4. 保健 ... 21 1.3. タンザニアにおける貧困の要因 ... 23 1.3.1. 世帯レベルの貧困の要因... 23 1.3.2. 県レベルの貧困の要因 ... 27 1.3.3. 州レベルの貧困の要因 ... 29 1.3.4. 国レベルの貧困の要因 ... 31 第 2 章 タンザニア政府の取組みと成果 ... 41 2.1. 貧困削減に向けた政策的枠組... 41 2.1.1. 政治・経済概況 ... 41 2.1.2. 開発計画と貧困削減戦略... 43 2.1.3. セクター戦略... 47 2.1.4. 財政的枠組と実績... 51 2.2. 貧困削減に向けた政府のキャパシティ... 55 2.2.1. 中央政府... 55 2.2.2. 地方分権化と地方政府 ... 57 2.3. 貧困削減の成果 ... 58 2.3.1. MDGs の達成状況 ... 58 2.3.2. 経済成長と貧困の関連 ... 62 2.3.3. インフラ整備と貧困の関連 ... 64 第 3 章 貧困削減に向けたパートナーシップ ... 67 3.1. 援助機関による取組み... 67 3.1.1. ドナーによる援助動向 ... 67 3.1.2. タンザニアにおける援助協調の現状 ... 70 3.1.3. 多国間援助機関 ... 73 3.1.4. 二国間援助機関 ... 76 3.2. NGO と住民組織 ... 80 3.2.1. NGO ... 81 3.2.2. 住民組織... 82 3.2.3. 住民参加型開発への取組... 83 3.3. 民間セクター... 83 3.3.1. 公共サービスの民間委託... 83 3.3.2. 民間セクターの開発政策への参加... 84
表 1-1 タンザニアの貧困ライン(名目価格) ...2 表 1-2 貧困ギャップ比率の変化...3 表 1-3 貧困人口の分布...4 表 1-4 1 人当たり実質地域別平均消費支出額の推移 ...5 表 1-5 州別貧困率の推定(2000/01 年)...6 表 1-6 貧困人口と都市化率...8 表 1-7 ジニ係数の推移...10 表 1-8 不平等とその要因 (県レベル) ... 11 表 1-9 非経済的貧困の要素...12 表 1-10 基礎インフラへのアクセスの状況 ...14 表 1-11 乾期の飲料水までのアクセス(世帯) ...15 表 1-12 地域別失業率 ...16 表 1-13 地域別成人の経済活動と世帯主の経済活動別貧困率...16 表 1-14 州別雇用状況(世帯主の過去 7 日間の主な活動) ...17 表 1-15 貧困層の就学率(7∼13 歳児童)...18 表 1-16 所得階層別教育状況...19 表 1-17 都市・農村別教育状況 ...19 表 1-18 州別教育指標 ...20 表 1-19 所得階層別乳幼児死亡率(2004/05 年) ...21 表 1-20 地域別乳幼児死亡率(2004/05 年)(1)...22 表 1-21 地域別 乳幼児死亡率(2004/05 年)(2) ...22 表 1-22 州別保健指標 ...23 表 1-23 職業別・収入源別の貧困状況 ...24 表 1-24 費目別家計消費支出額の割合(名目価格の平均値)...25 表 1-25 家計収支と貧困ライン ...26 表 1-26 世帯の要素別貧困状況 ...27 表 1-27 主要な開発指標と県レベル貧困率の相関係数 ...28 表 1-28 県レベルの不平等の要因...29 表 1-29 州別人間開発指数(HDI)...30 表 1-30 州別人間貧困指数(HPI) ...31 表 1-31 農村世帯による土地所有...33 表 1-32 主な作物形態と地域...33 表 1-33 農業投入財購入の資金源(2002/03 年) ...34 表 1-34 農業投入物の入手先(2002/03 年) ...34 表 1-35 地域別インフォーマルセクター活動を行っている世帯の割合 ...36 表 1-36 脆弱性の要因 ...37 表 2-1 マクロ経済指標の推移(1991-2005 年) ...41 表 2-2 産業別 GDP シェア(市場価格) ...42 表 2-3 実質 GDP 成長率の推移(1997-2003) ...42 表 2-4 貧困削減の政策的枠組 ...43 表 2-5 PRSP の重点項目と目標...44 表 2-6 NSGRP の重点項目と主な目標 ...46 表 2-7 ASDS と ASDP ...47 表 2-8 2002 年国家水政策における目的 ...49 表 2-9 政府歳出・歳入の推移(1996/97-2003/04) ...52
表 2-14 地方政府への交付金の種類・基準 ...58 表 2-15 貧困・飢餓の撲滅に関する達成状況...59 表 2-16 初等教育の普及に関する達成状況 ...59 表 2-17 1 年生の就学状況:初等教育開発計画(PEDP)の目標と実際 ...59 表 2-18 ジェンダー格差の是正に関する達成状況...60 表 2-19 子どもの死亡率削減に関する達成状況 ...60 表 2-20 妊産婦の健康改善に関する達成状況...61 表 2-21 感染症の蔓延防止に関する達成状況...61 表 2-22 持続可能な環境作りに関する達成状況 ...62 表 2-23 グローバルな開発パートナーシップの構築に関する達成状況 ...62 表 2-24 貧困削減の要因分析...63 表 2-25 消費成長率の貧困削減弾性値 ...63 表 2-26 経済成長と成長の要素(1990∼2004 年) ...64 表 3-1 ODA 純受取額の推移 ...68 表 3-2 ODA 純受取額のドナー別推移...68 表 3-3 ODA 純受取額のドナー別割合の推移 ...69 表 3-4 主要ドナーのセクター別援助配分(1997∼2004 年) ...69 表 3-5 セクター/課題別コモン・バスケット・ファンドと主要参加ドナー...72 表 3-6 援助協調が行われているセクターと主な参加ドナー...72 表 3-7 PRSC 1∼4 の概要...74 表 3-8 AfDB のセクター別コミットメント配分(1996-2004)...76 表 3-9 日本の対タンザニア ODA 供与額の推移...77 表 3-10 日本の対タンザニア形態別援助実績額 ...77 表 3-11 オランダの教育支援内訳...78 表 3-12 NGO 政策フォーラム...81 表 3-13 地域別 NGO 分布 ...82 図 図 1-1 貧困者比率の変化 ...3 図 1-2 州別貧困マップ...9 図 1-3 ローレンツ曲線(タンザニア)...10 図 1-4 ローレンツ曲線(ダルエスサラーム) ...10 図 1-5 ローレンツ曲線(都市部)... 11 図 1-6 ローレンツ曲線(農村部)... 11 図 2-1 区レベルの人口密度と幹線道路(2002 年センサス) ...65
第 1 章
タンザニアの貧困概況
タンザニアは、東アフリカに位置し、インド洋に面した国である。その面積は日本の約 2.5 倍の 94.2 万平方キロメートルであり、人口はおよそ 3,700 万人である。タンザニア の人口の 80%は農村に生活し、伝統的な農業に依存して生活してきた。しかし、1960 年代後半から社会主義経済による国家建設が目指され、農業生産の集団化と社会サービ スの向上に重点をおいた政策が進められたが、そうした政策は必ずしも農村の実態に即 したものではなく、農業生産の停滞を招いた。そのうえ、1970 年代の度重なる旱魃と ウガンダ戦争や石油危機などの外的要因により深刻な打撃を受け、1980 年代にはタン ザニア経済は危機的状況を迎えた。その結果、1980 年代後半から構造調整政策が進め られ、農業の生産・流通の自由化を含む、経済・貿易自由化が行われ、1990 年代後半 にはマクロ経済安定化に加えて、貧困削減への取組みが開始された。 本章では、主に既存の文献・資料に基づき、タンザニア共和国の貧困および不平等の状 況について概観するとともに、その要因について考察する。1.1. 経済的貧困と不平等の測定
タンザニアの貧困および不平等の測定のために有効なデータとしては、1991/92 年度お よび 2000/01 年度の家計調査(HBS:Household Budget Survey)、2000/01 年度総合労働 調査(ILFS:Integrated Labour Force Survey)および 2002 年度人口・住宅センサス (Population and Housing Census 2002)がある。これらのデータに基づいて、タンザニア 政府およびドナー等の関係者により貧困・不平等の状況を測定するための様々な分析が 試みられている。本項では、これらのデータに基づく分析を中心に、1990 年代から 2000 年にかけての貧困・不平等の推移を概観する1。1.1.1. 経済的貧困の測定方法:貧困ライン
タンザニア政府は、貧困削減の達成状況をモニタリングするため、2 つの貧困ラインを 設定している。ひとつは食糧貧困ラインであり、人間が生存するために最低限必要なエ ネルギーを摂取できる支出レベルを表している。もう一つは、食糧貧困ラインに必要最 低限の非食糧支出を加味した最小費用法(CBN: Cost-of-Basic-Needs method)2による貧 困ラインである。食糧貧困ラインでは、人間の生存を維持するのに必要な食料支出を確 保できない貧困層(食糧貧困者)を測定し、CBN 貧困ラインでは、必要最低限の生活 を営むのに要する消費支出を確保できない貧困層(CBN 貧困者)を測定することがで きる。食糧貧困層は CBN 貧困層より厳しい貧困の状態に置かれている。 1 2000/01 年の家計調査と比較検証が可能な規模での家計調査が、2006/07 年を対象に実施予定であり、調 査完了後、直近の貧困・不平等の状況について分析が行なわれる。 2 典型的な世帯が健康を維持するために必要な栄養を摂取するために必要な消費と食料以外に最低限必要 な消費の合計を、最低限の消費生活に必要な金額として貨幣価値に換算したもの。別添の用語集を参照 のこと。表 1-1 タンザニアの貧困ライン(名目価格) (単位:タンザニアシリング) タンザニア ダルエスサラーム その他都市部 農村部 食糧貧困ライン HBS(1991/92) 2,083 3,031 2,387 1,958 HBS(2000/01) 5,295 6,719 5,607 5,107 CBN 貧困ライン HBS(1991/92) 2,777 3,841 3,088 2,603 HBS(2000/01) 7,253 9,203 7,680 6,996
(出所) National Bureau of Statistics (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p.78, Table 7.1 および p.153, Table B7.3 より作成
(注) 換算レート(公定レート年平均)は、1991 年 1 ドル=219.16 タンザニアシリング、2000 年 1 ドル=800.41 タ ンザニアシリング。(International Monetary Fund, “International Financial Statistics Database”による)
タンザニアの食糧貧困ライン3 は、大人 1 人の 1 ヶ月当たりの食糧消費量(食糧バスケ ット)と大人 1 人が生存するのに最低必要な 1 日当たりのエネルギー量(2,200 キロカ ロリー)の 2 つの要素によって算出される4。また、CBN 貧困ラインは、消費階層の最 下位 25%に当たる世帯の食糧支出および非食糧支出の割合を算出し、これに基づいて 食糧貧困ラインを必要最低限の食糧支出額とした場合の必要最低限の非食糧支出額を 推定して、これを加味した支出額の合計を CBN 貧困ラインとしている5 。 なお、本来であれば、地域ごとに食生活形態は異なり、また、地理的条件や価格条件か ら食糧品目の入手可能性も異なることから、それぞれの地域の実態に適した食糧バスケ ットの品目内訳と消費量を設定することが望ましい。しかしながら、タンザニアにおい ては、HBS データ全体の中央値から食糧バスケットが設定されており、必ずしもそれ ぞれの地域の実情を反映したものとはなっていないことに留意する必要がある。 また、2 つの HBS のデータによる消費支出に関する経年比較を行うために、異なる地 域および時期の価格変動を調整することができるフィッシャー指数(Fisher Index)6に よる物価調整を行っている。これは、タンザニアにおいては消費者物価指数(CPI: Consumer Price Index)が都市部においてのみ有効であり、国民の大多数が居住する農村 においてはほとんど影響を及ぼさないためである。しかし、貧困ラインの設定において は、例えば、1991/92 年のデータに基づいて設定された貧困ラインを価格調整して、 2000/01 年の貧困ラインを設定するということはせず、それぞれの年の食糧バスケット を設定し、貧困ラインを求めている。このため、HBS2000/01 の最終報告書によれば、 差異はわずかであるが、1991/92 年度貧困ラインは若干高めに設定され、2000/01 年度貧 困ラインは若干低めに設定されている。 本プロファイルでは、こうした点に留意して、HBS データに基づいて算出された貧困・ 不平等指標をもとに分析を行なう。 3 タンザニアの食糧貧困ラインは、実際に消費されている食糧バスケットに基づく栄養摂取量から推定さ れているが、それぞれの地域の食生活形態に基づいて、必要最低エネルギー量を摂取するために必要な 食料リストの品目内訳を設定し、それぞれの品目の必要消費量を推定して、貨幣換算する方法が一般的 である。 4 1 人当たり 1 日栄養摂取量 食糧貧困ライン= × 1 人当たり 1 日食糧支出額 1 人当たり必要エネルギー量(2,200 キロカロリー) 算出方法の詳細は、用語集を参照。 5 1 人当たり食糧消費月額 CBN 貧困ライン= ÷ 食糧貧困ライン 1 人当たり消費支出月額 6 価格指数などの作成方法の一つ。ラスパイレス指数とパーシェ指数の幾何平均により算出される。
1.1.2. 貧困指標
(1) 貧困者比率と貧困人口 タンザニアでは、食糧貧困ラインを下回っている人口の割合、すなわち、食糧貧困者比 率は 1991/92 年度の 21.6%から 2000/01 年度は 18.7%になり、若干の低下が見られた(図 1-1)。また、非食糧支出も含めた CBN 貧困者比率も 1991/92 年度 38.6%から 2000/01 年 度 35.7%と低下している。しかしながら、前述した貧困ライン設定の際の価格調整の誤 差を考慮すると、1990 年代におけるタンザニアの貧困率はほぼ横ばいであり、全体と して貧困削減はあまり進んでいないと考えられる。 貧困層の平均所得がどの程度貧困ラインを下回っているか、すなわち貧困の深度を示す 貧困ギャップ比率を見ると、1991/92 年度から 2000/01 年度の間に、食糧貧困について は 5.9%から 4.6%、CBN 貧困については 11.8%から 10.5%と、改善はわずかに留まっ ている(表 1-2)。したがって、貧困層の貧困ラインからの乖離の状況には、ほとんど 変化が見られなかったと推察される。 図 1-1 貧困者比率の変化 13.6 7.5 15 13.2 23.1 20.4 21.6 18.7 28.1 17.6 28.7 25.8 40.8 38.7 38.6 35.7 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 ダルエスサラーム その他都市部 農村部 タンザニア (% ) 食料貧困者比率 CBN貧困者比率(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p.80, Table 7.2 より作成 (注) 都市部にはダルエスサラームを含まない。 表 1-2 貧困ギャップ比率の変化 (単位:%) ダルエスサラーム 都市部 農村部 全国 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 食糧貧困 3.2 1.5 3.5 3.5 6.5 5.1 5.9 4.6 CBN 貧困 7.5 4.1 8.1 7.7 12.7 11.5 11.8 10.5
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania, (2002), “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p.80, Table 7.2 より作成 (注) 都市部にはダルエスサラームを含まない。
表 1-3 の貧困人口で見ると、貧困率の若干の低下は、貧困人口の減少にはつながってお らず、食糧貧困人口はおよそ 530.5 万人から 596.5 万人と 12%増加している。また、CBN
貧困人口は、およそ 948.1 万人から 1,138.8 万人と 20%拡大した。 表 1-3 貧困人口の分布 (単位:千人) ダルエスサラーム 都市部 農村部 全国 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 人口 1,313 1,845 3,094 4,405 20,154 25,650 24,561 31,900 人口シェア(%) 5.3 5.8 12.6 13.8 82.1 80.4 100.0 100.0 貧困人口 食糧貧困 179 138 464 581 4,656 5,233 5,305 5,965 CBN 貧困 369 325 888 1,136 8,223 9,926 9,481 11,388 貧困人口シェア 食糧貧困(%) 3.4 2.3 8.7 9.7 87.8 87.7 100.0 100.0 CBN 貧困(%) 3.9 2.9 9.4 10.0 86.7 87.2 100.0 100.0
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p.82, Table 7.3 より作成 (注) 都市部にはダルエスサラームを含まない。 (2) 都市・農村の貧困状況 タンザニアでは、機能的首都7であるダルエスサラームとその他の都市部8、農村部では、 食糧などの価格格差があり、最低限必要とされる消費水準も異なる。そのため、3 つの 地域ごとに物価調整を行ったうえで貧困ラインを設定し、貧困状況を測定している9。 (表 1-2 および表 1-3) ダルエスサラームでは、1991/92 年度から 2000/01 年度にかけて、食糧貧困者比率が 13.6%から 7.5%と 6 ポイント低下し、CBN 貧困者比率は 28.1%から 17.6%と 10 ポイン トの改善が見られた(図 1-1)。貧困ギャップ比率も、食糧貧困では 3.2%から 1.5%、 CBN 貧困では 7.5%から 4.1%に低下している(表 1-2)。また、CBN 貧困人口は約 37 万人から 32.5 万人に減少しており(表 1-3)、ダルエスサラームの貧困人口がタンザニ アの貧困人口全体に占める割合は低下している。しかし、ダルエスサラームの貧困人口 の貧困人口全体に占める割合は 3%程度であることから、ダルエスサラームにおける貧 困率の低下はタンザニア全体の貧困率の低下にはほとんど貢献していない。 ダルエスサラーム以外の都市部では、1991/92 年度時点の貧困率はダルエスサラームと ほとんど同程度であったが、2000/01 年度にはわずか 3 ポイント程度改善したのみであ る(図 1-1)。経年比較する際の貧困ラインの誤差を考慮すれば、その他の都市部での 貧困率はほぼ横ばいであったといえる。また、貧困ギャップ比率でみても、同期間にほ とんど変化は見られない。他方、その他都市部の貧困人口は、食糧貧困および CBN 貧 困ともに増加しており、貧困人口に占める割合も増加している(表 1-3)。 人口の 80%以上を占める農村の貧困率の変化も、その他の都市部とほぼ同様であり、 1990 年代の 10 年間で 2∼3 ポイント程度の低下に留まっている。2000/01 年度の貧困率 は、食糧貧困者比率 20.4%、CBN 貧困者比率 38.7%であった(図 1-1)。貧困ギャップ 7 法律上の首都は Dodoma である。1974 年に遷都が宣言され、1996 年には立法府が Dodoma に移転された が、政府機関・行政機関を含むほとんどの首都機能はダルエスサラームにあり、ダルエスサラームが事 実上の首都としての機能を果たしている。 8 タンザニアにおいては、各州の州都など 16 の市街地域を都市部として区分している。 9 HBS2000/01 Final Report によれば、HBS2000/01 ではサンプル数が 22,000 世帯を超える大規模調査が行わ れたが、HBS1991/92 はサンプル数が 4,800 世帯と小規模である。
比率は、食糧貧困 5.1%、CBN 貧困 11.5%であり、都市部に比較して貧困の乖離度は大 きく、農村における貧困の状況は都市部に比して深刻であるといえる(表 1-2)。また、 農村貧困人口は、食糧貧困で 520 万人を超え、CBN 貧困では 990 万人を超えており、 貧困人口に占める割合は 9 割近くに上る(表 1-3)。したがって、タンザニアの貧困は 農村貧困が中心であるといえる。 全体としてみると、タンザニア最大の都市であるダルエスサラームでは、大きく貧困削 減が進んだものの、他の都市部および多くの貧困層が居住する農村部における貧困率の 低下は限定的であり、ダルエスサラームとそれ以外の地域における貧困削減の進展には 格差が生じている。これは、1991/92 年と比較して 2000/01 年では、ダルエスサラーム では実質消費支出額がおよそ 1.5 倍に増加しているのに対し、その他の地域では 1.1 倍 程度とほぼ横ばいであることによるものといえる(表 1-4)。支出階層ごとの実質消費 支出額は確認できていないが、ダルエスサラームでは貧困ギャップ比率の改善も他の地 域と比べて大きいことから、貧困ライン近くの低所得者層および貧困層の平均支出もか なり向上したと考えられる。他方、他の都市部や農村部では、全体の平均支出額はほぼ 横ばいであり、貧困層の平均支出額もほとんど変化がみられず、このため、ダルエスサ ラームとそれ以外の地域における貧困削減の進展に格差をもたらしたものと推察され る。 表 1-4 1 人当たり実質地域別平均消費支出額の推移 (単位:タンザニアシリング) ダルエスサラーム その他都市部 農村部 1991/92 年 14,896 12,733 7,661 2000/01 年 21,949 14,377 8,538
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p.69, Table6.2 より作成
(3) 州10レベルでの貧困状況の把握
タンザニアにおいては、貧困削減に向けた政府の取組みに適切なフィードバックを行う ため、州レベルおよび県レベルでの貧困と社会開発指標の傾向、およびその要因につい て、研究・分析ワーキング・グループ(R & AWG :Research and Analysis Working Group) 11 を中心に研究が進められているところである。 州別の貧困状況については、HBS2000/01 最終報告書において、州別の貧困者比率およ び各州の農村のみを対象とする農村貧困者比率が算出されているが、調査・分析ワーキ ング・グループは、PHDR2005 年版12において、貧困マッピングという手法を用い、 HBS2000/01 およびセンサス 2002 の両方のデータを使用して、州レベルの貧困者比率の 推定を試みている。これは、HBS2000/01 のみでは、 世帯レベルの支出に関する詳細な データが利用できるものの、州レベルの貧困状況の分析を行うに当たってはサンプルの 10 タンザニアの行政単位には、州(Region)、県(District)、郡(Ward)、村(Village)がある。Arusha は、 Arusha と Manyara の 2 つに分割されているが、本プロファイルでは比較の観点から、従前の Arusha 州と して扱う。
11 貧困モニタリング制度により、設置されたワーキング・グループの一つ。調査・分析ワーキング・グル
ープは、大統領府計画・民営化庁のもとに設置されていたが、政府の機構改革により、計画・経済・エ ンパワメント省貧困撲滅局に移管された。
12
貧困モニタリング制度の調査・分析ワーキング・グループ(R & AWG:Research and Analysis Working Group) により作成されている。
偏りから誤差が大きくなるため、基本的には全ての世帯調査を行ったことになっている センサス 2002 のデータによって偏りを調整したものである。 表 1-5 は、HBS のデータのみの場合の貧困者比率と、貧困マッピングを用いた場合の CBN 貧困者比率に加え、それぞれの推定値の標準誤差13を示したものである。HBS のデ ータのみの場合に比して、貧困マッピングによる貧困者比率の標準誤差は小さい。しか し、貧困マッピングによる推定においても、標準誤差が 2 を超えている州がほとんどで あり、プラス・マイナス 4 ポイント以上と、かなり大きな誤差がある。したがって、貧 困マッピングは、ある程度の傾向を見るためには利用可能であるものの、州レベルの貧 困者比率に基づく詳細な分析を行うには有効でない。 地方分権化が進められる中、適切な貧困削減への対応策を立て、実施していくには、州 レベル以下での貧困状況の把握が不可欠である。そのため、2006 年から 2007 年にかけ て実施される HBS は、適切なサンプル数と地域的分散を考慮して行われる予定となっ ている。そこで得られた新たなデータに基づき、今後、州レベル以下の貧困状況の把握 が進められることになっている14。 表 1-5 州別貧困率の推定(2000/01 年) 州 HBS2000/01 のデータのみによる 貧困者比率(CBN) 貧困マッピングによる貧困者比率 (CBN) 推定値(%) 標準誤差 推定値(%) 標準誤差 誤差の範囲(%) Arusha 38.8 7.0 21 1.4 18.2∼23.8 Dar es Salam 17.6 2.7 19 1.2 16.6∼21.4 Dodoma 34.3 5.5 32 3.1 25.8∼38.2 Iringa 28.9 5.3 28 1.6 24.8∼31.2 Kagera 29.0 8.9 29 2.0 25.0∼33.0 Kigoma 38.0 3.7 38 2.3 33.4∼42.6 Kilimanjaro 31.3 6.3 28 1.3 25.4∼30.6 Lindi 53.0 14.1 39 2.3 34.4∼43.6 Mara 46.0 8.4 50 2.6 44.8∼55.2 Mbeya 21.0 5.1 23 1.1 20.8∼25.2 Morogoro 29.4 3.0 28 1.9 24.2∼31.8 Mtwara 38.0 4.3 38 2.0 34.0∼42.0 Mwanza 48.0 6.3 43 1.7 39.6∼46.4 Pwani 46.2 8.3 38 2.1 33.8∼42.2 Rukwa 31.0 3.9 36 2.0 32.0∼40.0 Ruvuma 41.3 8.3 37 2.1 32.8∼41.2 Shinyanga 42.0 6.5 43 2.4 38.2∼47.8 Singida 55.0 4.8 49 3.4 42.2∼55.8 Tabora 26.0 3.7 40 2.1 35.8∼44.2 Tanga 36.5 5.8 26 1.3 23.4∼28.6 タンザニア 36.0 - -
-(出所) United Nations Development Programme (2002) “Poverty and Human Development Report 2002”, UNDP p.68, Table16 および United Nations Development Programme (2005) “Poverty and Human Development Report 2005” p55, Table 14 より作成 (注) 誤差の範囲については、調査団が推計。 13 標準誤差とは、推定値の精度を示す統計用語である。例えば、「貧困率 30%、標準誤差 2、信頼度 95%」 である場合、貧困率は、標準誤差のプラス・マイナス 2 倍の誤差、すなわち 26∼34%の範囲にあると考 えられる。したがって、標準誤差が大きい場合には、当該数値は意味をなさないことになる。 14 HBS2000/01 の実施時点では、2002 年センサスは実施されておらず、地域別、州別のサンプル数の配分な ど、サンプル調査の枠組は 1988 年センサスに基づいて行われていた。そのため、HBS 実施時点での地域 的人口分布が適切に反映されず、データの偏りや歪みが生じた可能性がある。
参考までに、表 1-5 に示す貧困マッピングによる州別の貧困者比率を見てみる。貧困マ ッピングによる測定で、貧困者比率が誤差を勘案しても 40%を超えている州は、Mara (50%)、Singida(49%)、Mwanza(43%)、Shinyanga(43%)、Tabora(40%)の 5 州 ある。Mara はビクトリア湖に面し、ケニア国境に接している。北部の Mara から中央部 の Singida にかけて、これらの貧困者比率の高い州は互いに近接している。他方、東部 の海岸沿いのダルエスサラーム(19%)、Arusha(21%)、Tanga(26%)、Kilimanjaro(28%) で低く、また、Mbeya(23%)、Iringa(28%)、Morogoro(28%)と南部の近接してい る州でも低くなっている。なお、ビクトリア湖周辺で高い貧困者比率を示す中、Kagera は 29%と低い値を示している。 貧困マッピングによる貧困者比率で見た場合、誤差が含まれているものの、最も高い Mara と最も低いダルエスサラームでは、30 ポイント以上の開きが見られ、州間格差は かなり大きいものと推測される。データの制約から州別の貧困者比率の経年比較を行う ことはできないが、ダルエスサラーム以外の都市部および農村部において貧困者比率の 低下が限定的であることを勘案すると、各州における貧困者比率の変化もあまり大きく ないものと考えられる。 州別の貧困状況の把握は、新たな HBS のデータによる詳細な分析が待たれるところで はあるが、貧困者比率の高い州および低い州の分布には地域的な偏りが見られる。北部 から中央部にかけての農業生産性が低い州で貧困者比率が高く、換金作物の生産を行い、 比較的農業生産性の高い東部および南部の州で貧困者比率が低いという傾向がうかが われる。近年、タンザニアの北部地域では旱魃傾向が強まっており、農業生産の低下が 懸念されている。また、水を求めてタンザニアの北部から南部へ人や家畜、野生動物の 移動が起こっていることが指摘されている。こうした現象が州レベルでの経済的貧困に 与えている影響は少なくないものと考えられ、州レベルでの現状の貧困状況の把握の重 要性は高まっている。 なお、貧困マッピングではより限定された地域における貧困の推定を行うことが可能で あり、PHDR2005 年版では県(District)レベルでの貧困者比率を推定し15、県レベルで の地域的傾向について分析している(別添資料の別添 8 を参照)。ただし、州レベルと 同様、誤差が大きいことに留意が必要である。 県レベルの貧困者比率に基づいて州の貧困状況の傾向を見てみる。貧困者比率が高い州 では、概して貧困者比率の高い県が集中しており、州全体として経済的貧困状況が広が っているが、Mwanza 州や Shinyanga 州では貧困率の低い県もあり、州内での経済的貧 困状況に格差が生じている州もある。貧困者比率が低い東部沿岸部および南部の州では、 県レベルで見ても全体的に貧困率が低い州が多く、貧困者比率が 40%を超える県は見 られない。また、州内での貧困者比率の格差も、貧困率の高い州ほど大きくない。ただ し、ビクトリア湖周辺の州で唯一貧困者比率が 20%台である Kagera では、40%を超え る貧困者比率の県を抱えており、州内の格差が大きい。 貧困者比率の高い州のそれぞれの状況を見ると、Mara 州では、州内の 5 県のうち、Bunda (67.7%)Musoma Rural(63.7%)Serengeti(60.6%)の 3 県で貧困者比率が 60%を超 えており、残りの 2 県は 30%台である。Singida 州では、州内の 4 県すべてで 40%を超 15
州レベルと同様、誤差は大きい。ちなみに、貧困者比率が高い県は、Mara 州の Bunda(68%)、Musoma Rural (64%)、Serengeti(61%)、Mwanza 州の Geita(62%)、Singida 州の Sidgida Rural(56%)であり、貧困 者比率が低い県は、Kagera 州の Bukoba Urban(11%)、Arusha 州の Arusha Urban(12%)、Mbeya 州の Mbeya Urban(12%)、Mbarali(13%)、Morogoro 州の Morogoro Urban(14%)、Dar es Salam の Kinondoni (14%)である。
えており、特に、Singida Rural は 55.6%と高い。Mwanza 州では、Nyamagana(15.1%)、 Llemele(25.6%)と貧困者比率が低い県もあるが、Geita(62%)をはじめ 4 県で 40%を超 える貧困者比率を示している。Shinyanga は 8 県を抱えているが、Shinyanga Urban (21.8%)と Kahama(37.3%)を除いては、すべての県で 40%を超える貧困者比率で ある。Tabora 州でも、6 県のうち 4 県で貧困者比率が 40%を超えている。 最も貧困者比率の低いダルエスサラームでは、州内の 3 県すべてで貧困者比率は 20% を下回っており、特に、Kinondori および Llala の 2 県においては 10%台と低い値であ る。Arusha 州では、5 県のうち Karatu(39.4%)を除く 4 県の貧困者比率は 10∼20%台 前半である。Tanga 州では、7県のうち、10∼20%台の県が 3 県、30%台の県が 4 県で ある。Kilimanjaro 州では、6 県のうち、4 県は 10%台後半から 20%台の貧困者比率を示 しており、残り 2 県も 30%台にとどまっている。Mbeya 州では、8 県のうち、最も低い 貧困者比率の県は 12.4%、最も貧困者比率が高い県でも 31.8%である。Iringa 州では、6 県のうち、Iringa Urban(18.2%)を除いては、貧困者比率が 20%台半ばから 30%台前 半で平均している。Morogoro 州でも同様の傾向である。Kagera 州については、Bukoba Urban(11.1%)および Bukoba Rural(17.5%)では貧困者比率が 10%台と低いのに対し、 Biharamulo では 47.7%と非常に高い。 比較的良好な指標である県は、都市部およびその周辺に点在しているが、貧困率が高い 県は近接する地域に集中している傾向がある。表 1-6 を見ると、貧困率の低いダルエス サラームや Arusha では、都市化率がそれぞれ 94%、31%と高く、これらの州について は県レベルでの貧困者比率の傾向と一致する。しかし、貧困率の高い州については、タ ンザニア全体の都市化率の 23%に近い水準であり、必ずしも極端に都市化率が低いと いう状況ではない。都市化率の極端に低い Kagera の貧困率が 30%程度であることを鑑 みると、貧困率の高さは都市化率のみに起因するものではないといえる。 表 1-6 貧困人口と都市化率 州 都市人口(千人) 都市化率(%) Arusha 404 31 Dar es Salam 2,336 94 Dodoma 213 13 Iringa 256 17 Kagera 123 6 Kigoma 203 12 Kilimanjaro 288 21 Lindi 126 16 Mara 254 19 Mbeya 421 20 Morogoro 234 13 Mtwara 229 20 Mwanza 601 20 Pwani 187 21 Rukwa 200 18 Ruvuma 170 15 Shinyanga 256 9 Singida 149 14 Tabora 220 13 Tanga 145 9 タンザニア全体 7,024 23
(出所) National Bureau of Statistics, ”2002 Population and Housing Census”のデータより 調査団作成
これらのことを勘案すると、特に、貧困者比率の高い州での県レベルでの経済的貧困状 況の詳細な分析と要因の検証が、タンザニアにおける貧困削減の効果的な取組みに不可 欠となっている。 図 1-2 州別貧困マップ 下位25% 25-50% 50-75% 上位25% Mbeya 21 Rukwa 31 Tabora 26 Ruvuma 41 Iringa 29 Singida 55 Dodoma 34 Kigoma 38 Shinyanga 42 Kagera 29 Arusha 39 Mwanza 48 Mara 46 Morogoro 29 Mtwara 38 Lindi 53 Kilimanjaro 31 Tanga 36 Pwani 46 Dar-es-Salaam 17.6
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania, “Tanzania Socio-Economic Database”より調査団作成 (注 1) 地図上の数値は、HBS2000/01 のデータによって算出された州別 CBN 貧困者比率。
1.1.3. 不平等指標
タンザニアでは、1990 年代の 10 年間で消費支出から見た分配面での不平等が悪化して いる。タンザニア全体で見ると、ジニ係数は 1991/92 年度 0.34 ポイントから 2000/01 年 度 0.37 に 3 ポイント上昇し、ローレンツ曲線も完全平等を示す 45 度線から外側にシフ トしている。国全体としては、急速に消費支出が向上しているダルエスサラームと、依 然として非近代的な農村が存在しており、都市部と農村部の格差が広がっているものと 考えられる。 また、不平等は地域内でも悪化しており、農村部とダルエスサラームのそれぞれにおい ても格差が広がっている。農村部のジニ係数は 0.33 から 0.36 に悪化した。また、ダル エスサラームでは不平等状態が最も悪化し、2000/01 年度のローレンツ曲線は 45 度線か らの乖離が大きくなり、10 年間でジニ係数は 6 ポイント上昇した。他方、ダルエスサ ラームを除く都市部では、ジニ係数は 1 ポイントの上昇に留まりほとんど変化は見られ ない。表 1-7 ジニ係数の推移 1991/92 2000/01 全国 0.34 0.37 ダルエスサラーム 0.30 0.36 都市部(ダルエスサラームを除く) 0.35 0.36 農村部 0.33 0.36
(出所) United Nations Development Programme (2002) “Poverty and Human Development Report 2002”, UNDP p.10, Table2 より作成 農村における不平等が拡大している背景には、経済成長の分配が国民の 8 割が生活する 農村部に行き渡っていないことがあると考えられる。農村人口の多くは農業に従事し、 農業収入を主な収入源としている。しかし、農民のほとんどが 0.9∼3.0 ヘクタールの零 細・小規模農民であり、灌漑、肥料や改良品種などの投入を行う近代農業ではなく、天 水に依存した生産性が低い伝統的な農業に依存しているため、農業収入は不安定である。 また、収穫量を確保するため、耕作地の拡大が進められているが、多くの地域で農業生 産性はかえって低下しており、悪循環を招いている。一部の地域では、耕作地が拡大し、 肥料の投入なども行われ、近代的農業生産により生産性の改善も見られるため、農業生 産性が低く、収入が不安定な非近代的な農村との格差が広がりつつあるものと見られる。 また、ダルエスサラームにおける不平等の悪化は、農村からの人口流入を伴う、急速な 人口増加に関係していると考えられる。ダルエスサラームでは、著しい経済成長が見ら れ、貧困率の低減に貢献したと見られるが、所得獲得機会を求めて農村から流入した人 口の多くは、教育水準の低い農業労働者であり、こうした人々は安定した正規の賃金労 働などに就くことは難しく、低所得者層として滞留している。他方、経済自由化により、 ダルエスサラームにおいては民間の金融セクターなどにおいて高額の所得を得て、消費 支出を拡大している層も出ており、格差が拡大している要因となっている。 図 1-3 ローレンツ曲線(タンザニア) 図 1-4 ローレンツ曲線(ダルエスサラーム) 0 20 40 60 80 100 0 第1分位 第2分位 第3分位 第4分位 第5分位 支出階層 支 出 シェ ア(% ) 1991/92 2000/01 45度線
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p83, Table 7.5 より作成 0 20 40 60 80 100 0 第1分位 第2分位 第3分位 第4分位 第5分位 支出階層 支 出 シェ ア(%) 1991/92 2000/01 45度線
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p83, Table 7.5 より作成
表 1-8 は、PHRD2005 年版の貧困マッピングにより推定された県レベルの経済的および 非経済的貧困に係る不平等の状況とその変動要因を分析したものである。これは、どの レベルで貧困削減のためのプログラムを行うべきかを検討する際の参考となるもので ある。例えば、経済的貧困のタイル指数16は 0.071 であり、経済的不平等の要因として は県内の格差によるものが 47.3%、県間格差によるものが 52.7%であることから、県内 の格差を改善するための県レベルでの取組みとともに、県間格差を是正するための州レ ベルやより広範な地域レベルでの取組みが必要であることを示している。 また、世界銀行(WB:World Bank)のレポート17 の分析によれば、1991/92 年度から 2000/01 年度の間に、都市・農村間の格差、地域格差も拡大しているが、それ以上に教育レベル による格差が拡大しており、不平等の要因として、教育レベルが重要な要因となってい るものと見られる。 表 1-8 不平等とその要因 (県レベル) ジニ係数 タイル指数 地域内格差 地域間格差 経済的貧困 0.20 0.071 47.3% 52.7%
(出所) The Research and Analysis Working Group, “Poverty and Human Development Report 2005”, p.58, Table15 より作成
16 タイル指数は、不平等を計測するための指数の一つであり、所得(支出)の総計に占める個人の所得(支 出)の割合と平均所得(支出)に対する個人の所得(支出)の比率に基づいて算出される。全員が平均 所得(支出)を得ている場合、すなわち、完全平等の場合には、タイル指数はゼロとなる。(別添 2 貧困 関連用語解説を参照)。 17
World Bank (2005) “Tanzania Sharing and Sustaining Economic Growth: Country Economic Memorandum and Poverty Assessment” 図 1-5 ローレンツ曲線(都市部) 図 1-6 ローレンツ曲線(農村部) 0 20 40 60 80 100 0 第1分位 第2分位 第3分位 第4分位 第5分位 支出階層 支出シェア 1991/92 2000/01 45度線 0 20 40 60 80 100 0 第1分位 第2分位 第3分位 第4分位 第5分位 支出階層 支出シェア(%) 1991/92 2000/01 45度線
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania, (2002), “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p83, Table 7.5 より作成
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania, (2002), “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p83, Table 7.5 より作成
1.2. 非経済的側面による貧困の測定
タンザニア政府が 2000 年 10 月に公表した貧困削減戦略書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)では、非経済的貧困として、表 1-9 に示す 6 つの要素を挙げ、所得・消 費以外の要素にも注目して貧困モニタリングの対象としている。 また、PHDR2002 年版でも、貧困を「世帯が、飢餓、疾病、無力、非識字など、社会的 に定義される最低限の水準を下回った状態にある」ことと定義していることから、本プ ロファイルでも、貧困に関連する要素として社会開発指標にも焦点を当てて分析を行な う。 表 1-9 非経済的貧困の要素 非経済的貧困の要素 測定基準 教育 教育水準。初等教育就学率および識字率 生存 生存できる可能性。乳児および 5 歳未満幼児死亡率。平均余命。 栄養 良好な栄養状態。5 歳未満幼児の低体重児の比率。 衛生および安全な飲料水 安全な飲料水へのアクセス(水道へのアクセス。保護された水源へのアクセス。下水 処理へのアクセス。水系感染症の罹患率など) 社会的充足 公共プログラムの計画・実施への参加。安全、法正義、平和な生活、自由に関する権 利。 脆弱性 予測不能な事態に対する脆弱性。天候(洪水や旱魃)に起因する飢餓、HIV/AIDS 感染 者および AIDS による孤児、障害者、高齢者、難民。 (出所) The United Republic of Tanzania (2000) “Poverty Reduction Strategy Paper”より調査団作成1.2.1. 基礎インフラへのアクセス
表 1-10 は、経済的貧困層および非貧困層の基礎インフラへのアクセスの状況を示した ものである。 水供給についてみると、水道へのアクセスは、2000/01 年度時点で、ダルエスサラーム、 都市部、農村部のいずれにおいても、非貧困層がアクセスを持つ割合に比して、貧困層 がアクセスを持つ割合が低くなっている。また、貧困層のなかでも地域間格差が生じて おり、ダルエスサラームの水道を水源としている割合は、2000/01 年度時点で、最貧層 75.4%、貧困層 69%であるのに対し、農村では非貧困層でも 30.3%に留まっており、最 貧層、貧困層ではそれぞれ 23.4%、24%であった。DHS(Demographic Health Survey) 2004/2005 によれば、都市部においては、住居内および敷地・区画内にある水道を水源 としている割合 19%、公共水栓を利用している割合 16%、近隣の世帯の水道利用して いる割合 33%で、住居に近い水道を利用できる割合が高く、15 分以内に水源がある世 帯の割合も 68%と高く、都市部においては安全な水へ容易にアクセスできる世帯の割 合が高い。 他方、同じく DHS2004/2005 によると、農村では公共水栓を利用している割合は 17%と 都市部を上回っているが、住居内および敷地・区画内にある水道を利用している割合は 2%と低く、また、近隣の世帯の水道を利用できる割合も 3.5%である。保護された公共 井戸を利用している割合は 14%であり、安全な水へのアクセスを持つ世帯の割合は 35%程度に留まっている。なお、農村においては、保護されていない公共井戸の利用が 最も高く、29%に上り、次いで河川あるいは泉が 18%である。 水道の利用に関する改善状況を見てみると、ダルエスサラーム以外の都市部では最貧層 および貧困層の水道へのアクセスは改善しているが、ダルエスサラームおよび農村部では悪化している。ダルエスサラームにおいて水道へのアクセスの割合が低下している理 由としては、ダルエスサラームに流入する人口が増加している一方で、水道整備が追い つかないことがあげられる。 農村部の最貧層の水道へのアクセスが悪化している要因については確認できていない。 表 1-10 ではどのような水源に依存しているかが示されているが、このデータでは水源 への距離は考慮されていないことに留意する必要がある。実際には、近隣に利用できる 水 源 が な い 場 合 は 、 か な り 遠 距 離 を 移 動 し て 水 を 確 保 し て い る と 考 え ら れ る 。 HBS2000/01 によると 1991/92 年のデータに比して水源への距離が 1 キロ未満の世帯の 割合は増加している。その他の保護された水を利用している割合が7ポイントに増加し、 また、保護されていない水を水源としている割合が 5 ポイント増加していることから、 水道より近い距離に井戸などの保護された水源が整備されて利用できるようになった、 あるいは、何らかの事情で水道が利用できなくなり、保護されていない水源を含め、他 の水源を利用せざるを得なくなったなどの理由が考えられる。 また、農村部では保護されていない水源に依存している割合は非貧困層でも 51.2%、最 貧層では 59.5%である(表 1-10)。表 1-11 は、飲料水にアクセスできる世帯の割合を、 水までの距離ごとに示したものである。2000/01 年度の HBS によると、飲料水まで 1km 未満の世帯の割合は、農村部では 50%未満であることからも、農村部の飲料水へのア クセスが非常に限定的であることを示している18 。 衛生施設については、種類を問わずトイレがある世帯の割合は、地域間および貧困層と 非貧困層の間での格差は小さい。しかし、DHS2004/2005 のデータによると、都市部に おいてトイレを利用できない割合は全体で 2.4%であり、ほぼ表 1-10 のデータに一致す るが、農村部においてはおよそ 17%に上昇しており、若干の差異が見られる。 HBS2000/01 のデータでは、汚水処理が適切にされているかについては、把握すること はできないが、DHS2004‐2005 のデータでは伝統的な穴式トイレを利用している世帯 の割合が、都市部および農村部において最も大きく、それぞれ 77%、82%である。水 洗トイレを利用している世帯の割合は、都市部でも 9%であり、農村部では 0.4%と極 わずかである。したがって、衛生環境が確保されている世帯の割合は、都市部において も農村部においても限定的であり、特に、農村における衛生環境は厳しい状況にある。 なお、ダルエスサラームの最貧層でトイレがある世帯の割合は、1991/92 年度に比して、 2000/01 年度では 9 ポイント低下しており、生活環境の悪化が窺える19。 電気へのアクセスは、2000/01 年度時点において地域格差が大きく、貧困層と非貧困層 の格差も大きい。ダルエスサラームにおいては、非貧困層 60.5%、貧困層 44.4%、最貧 層 49.7%と、非貧困層と貧困層では 10∼16 ポイントの差がある。しかしながら、その 他の都市部では非貧困層でも 33.6%、最貧層では 10%にとどまっている。また、農村 部にいたっては、非貧困層 2.1%、最貧層ではわずか 0.7%となっている(表 1-10)。 DHS2004/2005 のデータにおいては、電気がある世帯の割合は、都市部では 38%、農村 部では 1.3%であることから、ダルエスサラーム以外の地域では電気へのアクセスが限 られている。そのため非貧困層でも電気へのアクセスを持つ世帯の割合は低い水準であ り、さらに貧困層ではアクセスが困難な状況にあるものと考えられる。これは、タンザ 18 なお、HBS2000/01 によれば、水源までの距離が 6 キロ以上である世帯の割合が増えていることも指摘さ れている。 19
調査団が訪問したダルエスサラーム市内の幹線道路沿いにある不法居住区(Unplanned Residential Area) では、コミュニティに汲取り式トイレが設置されていたが、道路より低いため、水はけが悪く、排水路 も維持管理が適切になされていないことから、雨期に大量の雨が降ると、汚水が逆流するといった、非 常に不衛生な状況にあった。
ニアにおいて電源開発が不十分であることに加え、送配電網の整備も遅れていることが 背景にある。農村部においてはほとんどの世帯が電気へのアクセスを持たない環境で生 活をしており、経済活動や社会生活の向上を阻害する要因となっているものと考えられ る。 表 1-10 基礎インフラへのアクセスの状況 (単位:%) 1991/92 2000/01 最貧層 貧困層 非貧困層 全体 最貧層 貧困層 非貧困層 全体 水源別の世帯のアクセスの割合 - ダルエスサラーム 水道 90.3 93.1 93.2 93.0 75.4 69 87.6 85.7 その他保護された水源 3.7 3.2 3.9 3.8 18.8 11.7 6.9 7.9 保護されていない水源 2.6 1.3 1.8 1.8 5.2 17.6 2.4 3.6 その他 3.3 2.3 1.1 1.4 0.6 1.7 3 2.8 合計 100 100 100 100.0 100 100 100 100 - その他の都市 水道 43.1 61.6 78.4 72.7 60.1 68.7 78.1 75.6 その他保護された水源 42.4 14.3 5.9 10.9 15.4 14.6 11.8 12.4 保護されていない水源 7.1 12.8 10.3 10.1 24.1 15.3 9.4 11.2 その他 7.4 11.3 5.4 6.2 0.4 1.3 0.8 0.8 合計 100 100 100 100 100 100 100 100 - 農村部 水道 35 25.9 21.6 24.5 23.4 24 30.3 28.3 その他保護された水源 10.1 11.4 10.2 10.3 17 18.8 17.5 17.6 保護されていない水源 54.3 62.6 66.6 63.9 59.5 56.4 51.2 53.2 その他 0.6 0.2 1.6 1.2 0.1 0.8 1 0.9 合計 100 100 100 100 100 100 100 100 トイレへのアクセスを持つ世帯の割合(種類を問わない) - ダルエスサラーム 98.3 99.6 98.7 - 89.3 91.3 94.8 -- 都市部 96.5 97.7 98.5 - 95.5 98 97.9 -- 農村部 90.7 89.5 91.9 - 87.7 90.1 93.1 -電気へのアクセスを持つ世帯の割合 - ダルエスサラーム 39.1 49 52.8 - 49.7 44.4 60.5 -- 都市部 7.7 12.2 24.9 - 10 14.4 33.6 -- 農村部 2.3 1.5 2.9 - 0.7 2.9 2.1
-(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p.154, Table 8.4 および p.48, Table 4.19 より作成 (注 1) 水道には、住居内の水道、住居の敷地内の水道、近隣の世帯の水道、公共水栓が含まれる。 (注 2) その他保護された水源には、保護された公共井戸、保護された私有井戸、保護された泉が含まれる (注 3) 保護されていない水源には、保護されていない公共井戸、保護されていない私有井戸、保護されていない泉、 川、貯水池、湖などが含まれる。 前述の通り、タンザニア政府は貧困削減戦略において、非経済的貧困の要素として、安 全な水および衛生へのアクセスを上げており、貧困モニタリングの対象としている。し たがって、貧困ラインによる測定では貧困層とならない世帯であっても安全な水および 衛生施設へのアクセスを持たない場合、「非経済的貧困状態」にあるとみなすことがで きる。農村においては、経済的には貧困層に含まれない層においても安全な水や適切な 衛生施設へのアクセスを持つ世帯の割合は低く、安全な水および衛生面から見た非経済
的貧困状態が深刻であるといえる。また、都市部においては、安全な水へのアクセスが 確保できる世帯の割合は高いものの、衛生環境の確保については限定的であり、衛生面 においては貧困状態にある世帯の割合が高い。 表 1-11 乾期の飲料水までのアクセス(世帯) (単位:%) 1991/92 2000/01 距離 農村 都市 農村 都市 1km 未満 44 73 49 77 1km 25 14 21 10 2km 11 7 9 5 3km 7 2 9 4 4km 4 1 2 2 5km 以上 9 3 9 3 合計 100 100 100 100
(出所) United Nations Development Programme (2003) “Poverty and Human Development Report 2003”, UNDP p.49, Table2.4.2 より作成
1.2.2. 雇用
タンザニア全体でみて、成人の 6 割以上が農業・畜産・漁業に従事しており、農村では 75%を超える人々が農業に従事している(表 1-13)。州別に見ても、ダルエスサラーム を除くほとんどの州で、7 割以上が農業・畜産・漁業に従事している(表 1-14)。ただ し、1991/92 年度から 2000/01 年度の 10 年間で農業人口の比重は低下しており、タンザ ニア全体ではおよそ 10 ポイント、農村部でも約 8 ポイントの低下が見られる。ダルエ スサラームおよび都市部では、賃金労働や自営業に従事している割合が農村部に比して 高く、ダルエスサラーム以外の都市部で農業人口の低下が著しい。 失業率20を見ると(表 1-12)、タンザニア全体では、標準定義による失業率で 5.1%、日 雇い労働者など限界的な雇用状態にある人々も含めた広義の失業率では 12.9%である。 農業に従事している労働者が多い農村では失業率は低く、標準定義では 3%未満であり、 広義の失業率でも 8%程度である。他方、都市部においては、標準定義 14.8%、広義の 失業率 31.9%と農村に比べてはるかに高い水準である。特に、ダルエスサラームでは、 標準定義 26.4%、広義の失業率 46.5%と非常に高くなっている。年齢別に見ると、農村 では 10∼17 歳の若年層で失業率が高くなっているが、都市部では若年層に加え、主要 な労働力となるべき 18∼34 歳の失業率が高い。また、失業期間は、農村では完全失業 者の半数以上が半年未満であるが、都市部では 2 年以上の長期にわたる失業状態にある 失業者が 5 割弱である。このことは、農村部では収入は限定的ではあるが、農繁期にお ける雇用など季節性のある雇用が存在しており、他方、都市部においては失業者が失業 20 タンザニアの失業率は、以下の 3 つの失業者のカテゴリーに基づいて算出される。 - 失業分類 A:無職であるが、仕事に就くことが出来る状態にあり、一定期間において求職中である。 国際的な失業の定義。 - 失業分類 B:無職であり、職業に就くことのできる状態にあるが、求職はしていない。国際的な広 義の失業の定義。 - 失業分類 C:日雇いなど継続的な雇用の確実性が低く、限界的な雇用状態にある人々。タンザニア 独自の失業の定義 タンザニアにおいては、「標準定義の失業」として失業分類 A および B を含み、「広義の失業」として「標 準定義の失業」に加えて失業分類 C を含む。状態から抜け出すのが非常に難しい状況にあることを示している。 表 1-12 地域別失業率 農村 都市部 ダルエスサラーム タンザニア 年齢 国内定義 標準定義 国内定義 標準定義 国内定義 標準定義 国内定義 標準定義 10-17 歳 11.2 5.5 29.7 16.3 60.8 40.3 12.5 6.4 18-34 歳 8.6 2.7 41.4 22.4 55.0 36.4 14.3 6.2 35-64 歳 6.6 1.2 21.0 5.0 30.4 8.1 8.7 1.6 65 歳以上 5.5 1.5 20.4 2.9 36.0 9.4 13.9 3.1 全体 8.4 2.8 31.9 14.8 46.5 26.4 12.9 5.1
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Integrated Labour Force Survey 2000/01 Analytical Report, p.59, Table 5.1 (注) 都市部にはダルエスサラームを含む 表 1-13 は地域別の成人の経済活動の状況と世帯主の経済活動別の貧困者比率を示して いる。世帯主の経済活動別の貧困者比率を見ると、世帯主が収入を得られない状況にあ る場合に貧困者比率が高くなっている。2000/01 年データでは、無給の家族労働者で 57.4%、学業、高齢、疾病などの理由により就業していない非経済活動人口とみなされ る場合で 45.1%である。 表 1-13 地域別成人の経済活動と世帯主の経済活動別貧困率 (単位:%) ダルエスサラーム 都市部 農村部 タンザニア 貧困者比率 2000/01 2000/01 2000/01 2000/01 1991/92 2000/01 農業・畜産・漁業 3.0 26.9 75.8 63.2 42.3 39.9 被雇用者(政府) 3.8 5.1 1.2 1.9 18.6 15.3 被雇用者(半官半民) 3.1 1.6 0.2 0.6 12.2 8.1 被雇用者(その他) 16.0 9.6 1.9 4.1 29.8 20.2 自営(従業員あり) 5.9 4.5 1.0 1.9 31.7 19.1 自営(従業員なし) 18.1 16.7 2.9 6.1 24.5 22.5 無給家族労働者 10.5 13.0 7.5 8.5 - 57.4 主婦/家事 19.2 11.2 4.0 6.2 14.7 27.7 学生 8.6 4.3 2.0 2.8 - - 非経済活動人口 11.6 7.2 3.5 4.6 41.8 45.1 合計 100.0 100.0 100.0 100.0 38.6 35.7
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p.56, Table5.2 (注 1) 貧困者比率の合計の欄は、タンザニア全体の貧困者比率 (注 2) 非経済活動人口の貧困者比率には学生も含まれる (注 3) 一般的には、主婦および無給の家事労働者および学生は非経済的人口に含まれるが、HBS においては非経済活 動人口に学生、あるいは主婦・家事労働者(無給)は含まれない 収入を得られる職業に就いている場合で貧困率が最も高いのは、農業・畜産・漁業であ り、およそ 4 割が貧困層である。労働力調査 2000/01 年(ILFS2000/01:Integrated Labour Force Survey 2000/01)によれば、農業従事者の月平均収入は自作農では 21,291 シリング であるが、賃金労働者では 15,234 シリングであり、特に、伝統的農業に従事している 場合には 13,468 シリングと最も低い。賃金労働者では、民間セクターに従事している 場合の貧困者比率は 20%であり、政府および政府系機関に従事している場合よりも貧 困率が高い。また、自営業の場合にも貧困者比率は 20%前後である。タンザニアにお いては、長く社会主義的経済体制であった時代には政府部門による経済活動が中心であ
った影響から、現在も民間セクターの育成は遅れている。民間セクターは小売や家内工 業的な中小企業が中心であり、基盤が脆弱であることから、政府部門に比して貧困率が 高くなっているものと考えられる。 表 1-14 で州別の雇用状況を見ると、ダルエスサラーム以外では、50%以上が農業・畜 産・漁業に従事している。80%を超えている州は、Kagera(85%)、Kigoma(82%)、 Ruvuma(81%)、Tanga(82%)である。HBS2000/01 のみによる農村貧困者比率を見る と、Kagera の農村貧困者比率は 19.2%と低いが、Kigoma、Ruvuma では 40%を超えて おり、Tanga でも 37.9%と国の水準を超えている。また、農村貧困者比率が 50%を超え ている Lindi および Singida における農業従事者の割合は、それぞれ 79%、75%である。 他方、農業従事者の割合が低い Arusha においても、農村貧困者比率は 42.8%と高い水 準である。国全体で見ると、農業従事者の貧困者比率は高いものの、農業従事者の割合 の高い州で必ずしも農村貧困者比率が高いとはいえず、州によって状況は異なっている。 また、前述の通り、州レベルでの貧困者比率には誤差も大きいことから、農村における 雇用状況と貧困の関係について適切なデータに基づく州レベル以下での分析が必要と なっている。 表 1-14 州別雇用状況(世帯主の過去 7 日間の主な活動) (単位:%) 州 農業・畜産・漁業 自営(従業員なし) 無給家事労働者 農村貧困者比率(CBN) Arusha 57 11 0 42.8 ダルエスサラーム 5 30 0 n.a. Dodoma 79 7 2 36.3 Iringa 74 8 0 30.0 Kagera 85 4 0 19.2 Kigoma 82 4 0 42.9 Kilimanjaro 74 8 2 31.9 Lindi 79 4 0 56.9 Mara 75 6 1 43.9 Mbeya 65 13 1 21.5 Morogoro 73 9 1 32.1 Mtwara 76 10 0 39.4 Mwanza 75 8 1 46.6 Pwani 71 8 0 48.2 Rukwa 79 8 0 35.0 Ruvuma 81 7 1 43.7 Shinyanga 67 9 1 41.3 Singida 75 4 0 50.2 Tabora 77 6 0 32.2 Tanga 82 4 0 37.9 タンザニア 70 9 1 37.2
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p.174, Table C21
1.2.3. 教育
1991/92 年と 2000/01 年の HBS のデータを比較すると、全体では成人の教育達成状況は 向上している。初等教育後期21を修了した人の割合は 51%から 54%に増加し、それ以上 の教育を受けた人の割合も 5.9%から 7.0%に増加した。しかしながら、貧困層、特に最 貧層の教育水準が低下しており、非貧困層との格差が開いている。表 1-15 で 7∼13 歳 21 HBS のデータでは初等教育後期は 5∼8 年生と表記されている。ただし、2006 年現在の初等教育制度は 7 年制である。児の就学率を見ると、1991/92 年度時点では、非貧困層に比して貧困層および最貧層の 値は低いものの、4∼7 ポイント程度の開きである。しかし、2000/01 年度では、国全体 では最貧層と非貧困層の差は 16 ポイントであり、都市部では 20 ポイント以上の差があ る。農村部では、2000/01 年度に非貧困層の就学率は 60%を超え、1991/92 年度から 6 ポイント増加しているが、貧困層では 2 ポイントの増加に留まっており、最貧層では 49%と 5 ポイントと低下している。 表 1-15 貧困層の就学率(7∼13 歳児童) (単位:%) 1991/92 2000/01 最貧層 貧困層 非貧困層 最貧層 貧困層 非貧困層 国全体 54.4 57.3 58.6 50.1 59.2 66.3 ダルエスサラーム 59.2 69.7 66.1 56.3 69.6 79.9 その他の都市部 57.4 65.7 64.9 60.2 68.1 81.9 農村部 53.9 55.7 56.9 48.8 57.7 62.2
(出所) Government of Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01”, Government of Tanzania, National Bureau of Statistics p.91, Table8.8, 8.9 より作成 表 1-16 は、所得階層 5 分位22 の教育状況を示している。HBS2000/01 のデータに基づく 貧困者比率は 36%であることから、所得階層の下位 40%以下、すなわち第 1 分位層お よび第 2 分位層が貧困層に該当するものと推定される。貧困層に相当する第 1 分位層お よび第 2 分位層の初等教育純出席率23 は 70%未満であり、第 1 分位層と第 5 分位層では、 30 ポイント以上の格差がある。初等教育留年率では階層による格差はほとんど見られ ず、いずれの階層においても 1 年生での留年率が最も高い。また、貧困層の退学率は、 学年が上がるに連れて高くなる傾向がある。初等教育の最終学年である 7 年生の退学率 は、全体として目立って高い。第 5 分位でも 47.9%とおよそ半数が退学しているが、第 2 分位層および第 1 分位層では 9 割前後の児童が退学しており、貧困層の初等教育完了 率は極めて低い。 中等教育純出席率24 では、タンザニア全体で 7.1%と低く、階層間の格差が著しい。貧困 層では 1%前後の水準であり、所得階層上位 40%に相当する第 4 分位層でも 6.7%であ る。一方で、最上位 20%層の第 5 分位層では、約 23%と国全体の水準を大きく上回っ ている。タンザニアにおいては、中等教育を受けることができる層が非常に限られてい る。 成人識字率を見ても貧困層で低くなっており、所得間格差は大きい。第 5 分位層では男 性 95.2%、女性 89.2%であるが、第 1 分位層では男性 59.4%、女性 43.1%と、男性では 36 ポイント、女性では 57 ポイントの開きがある。また、全体として男性の識字率が女 性の識字率を上回っているものの、低所得者層になるほど識字率の男女格差も大きく、 第 5 分位層では格差は 5 ポイントに留まっているが、第 1 分位層では 16 ポイントの相 違がある。したがって、貧困層では全体に識字率が低いが、特に女性の識字率の低さが 顕著であり、男女間格差も大きい。 22 総所得の人口分布を最低位から 20%ずつ 5 等分に区分して示す所得階層。通常、第 1 分位が最低位 20%、 第 5 分位が最上位 20%として示される。詳細は別添の用語集を参照のこと。 23 初等教育純出席率は、初等教育の学齢である 7∼13 歳児童人口のうち、小学校に出席している児童数の 割合を示したものであり、100%を超えない。 24 中等教育純出席率は、中等教育の学齢である 14∼19 歳人口のうち、中学校に出席している生徒数の割合 を示したものであり、100%を超えない。