1.3. タンザニアにおける貧困の要因
1.3.1. 世帯レベルの貧困の要因
本節では、家計収支による分析および世帯の構成人数、世帯主の属性などによる貧困者 比率の比較から、タンザニアにおける貧困世帯にどのような特徴があり、世帯レベルで 見た貧困の要因となっているのかについて考察した。概要は下の囲みにまとめ、詳細は
(1)
、(2)
で述べる。(1)
家計収支による分析貧困世帯の家計収支に焦点をあてた既存のデータは確認できていないため、世帯主の収 入源による貧困者比率および地域別の支出項目とその水準について概観し、さらに地域 別の平均所得・支出および貧困ラインとの比較分析を行った上で、貧困層の家計収支の 状況とその背景について考察を加える。
表
1-23
は、世帯主の職業と収入源による貧困状況を示したものである。世帯主の職業別の貧困者比率をみると、農業・畜産・漁業に従事している世帯の貧困率が約
39.9%で
あり、農業・畜産・漁業に従事している世帯の貧困層に占める割合は80
%超となって いることから、貧困世帯の大多数は世帯主が農業に従事しているといえる。家計収入で 見ても、農作物販売、家畜販売、換金作物販売を主な収入源としている世帯の貧困率が 高く、中でも農作物販売を行っている世帯の貧困層に占める割合は46.9
%である。この ことから、タンザニアの貧困世帯の大多数が農業セクターに従事しており、収入は不安 定な農産品等の販売収入に依存していることが明らかである。表 1-23 職業別・収入源別の貧困状況
(単位:%)
HBS 2000/01
貧困者比率 貧困層における割合 世帯主の職業別の貧困率
農業・畜産・漁業 39.9 80.8
被雇用者 (政府) 15.3 1.8
被雇用者 (半官半民) 8.1 0.3
被雇用者 (その他) 20.2 3.0
自営 (従業員あり) 19.1 1.4
自営 (従業員なし) 22.5 5.0
無給家族労働者 57.4 1.5
主婦/家事 27.7 0.7
経済活動に従事していない 45.1 5.5
合計 35.7 100.0
世帯の主要収入源別の貧困率
農作物販売 40.6 46.9
家畜販売 59.1 7.2
畜産品販売 33.3 1.4
換金作物販売 38.6 20.5
営業収益 24.0 8.4
給料賃金の現金収入 14.9 3.6
臨時の現金収入 32.8 4.9
送金 35.2 2.3
漁業 28.3 1.5
その他 34.0 3.3
合計 35.6 100.0
(出所) National Bureau of Statistics (2002) “Household Budget Survey 2000/01”, p.91, Table8.4, 8.5 より作成
タンザニアにおける世帯レベルの貧困の要因をとりまとめると、
i
)農村において農 業関連収入に依存している、ii
)世帯構成人数が多い、iii
)世帯主の教育水準が低い ことが挙げられる。こうした要因から、貧困層の大多数を占める農村の貧困世帯にお いては、扶養家族が多く、消費支出の負担が大きいものの、教育水準が低く、不安定 な農業関連収入に依存せざるを得ず、一方で自家消費により食糧消費を確保している という状況が推察される。また、貧困層に占める割合は小さいものの、世帯主が無給家族労働者、あるいは経済活 動に従事していない29場合の貧困者比率は
HBS2000/01
ではそれぞれ57.4
%、45.1
%であ り、収入源を確保できない世帯の貧困者比率が高くなっている。また、世帯の収入源で 見ると、臨時の現金収入、送金といった不定期で不安定な収入に依存している世帯の貧 困者比率は30
%を超えている。表
1-24
は、地域別の消費支出項目のシェアを示している。いずれの地域においても、食糧支出の割合が高いが、
1991/92
年に比して、2000/01
年にはその割合は低下している。貧困率が高く、貧困人口のシェアも大きい農村部においては、消費支出に占める食糧支 出の割合は最も高く、
2000/01
年においても65
%を超えている。また、食糧支出の内訳 を見ると、自家消費や物々交換など現金購入以外の手段で食料を入手している割合が3
割弱と、都市部に比してかなり大きな割合を占めている。他方、貧困率が大きく低下し たダルエスサラームにおいては、食糧支出の割合も大きく低下し、そのほとんどが現金 による購入である。こうしたことから、貧困率の高い地域においては消費支出に占める 食料支出の割合が高く、また、現金収入が限られている農村部においては非貨幣取引に よる食料支出の割合が高くなっている。社会サービスに関する支出の割合は、
1990
年代にはすべての地域で1
%前後であったが、2000/01
年には地域によって若干の差はあるものの、増加が見られている。これは、医療機関や教育機関へのアクセスが全国的に改善したことにより、社会サービスを受ける ことができるようになったことが背景にあるものと考えられる。医療費のシェアについ ては、地域間でそれほど大きな違いは見られないが、教育費については、農村部に比し て都市部で若干高くなっている。これは、農村部においても教育施設へのアクセスは改 善しているものの、教育費を負担することが難しい貧困世帯の割合が多いためと推察さ れる。
表 1-24 費目別家計消費支出額の割合(名目価格の平均値)
(単位:%)
ダルエスサラーム その他都市部 農村部 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01 1991/92 2000/01
食料(現金購入) 67.1 52.2 56.9 52.8 35.8 38.6 食料(非貨幣取引) 0.7 2.1 9.4 7.9 35.5 26.8
耐久消費財 7.6 7.8 7.4 8.0 7.2 7.3
非耐久消費財 22.6 31.1 24.0 25.9 19.7 23.1
医療費 0.9 2.9 1.2 2.4 0.9 2.2
教育費 1.1 4.0 1.1 3.0 0.8 2.0
合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
食料支出の割合 67.8 54.2 66.3 60.7 71.3 65.4
(出所) National Bureau of Statistics (2002) “Household Budget Survey 2000/01”, p.149, Table B6.1より作成
表
1-25
は、1
人当たりの所得および支出の収支と、想定される必要最低限エネルギー量を摂取するために必要な消費額に基づいて設定される
CBN
貧困ラインとの差異を示 したものである。貧困ラインと支出の差を見ると、ダルエスサラームおよび都市部ではそれぞれの貧困ラ
29
世帯主の職業で「経済活動に従事していない」に分類されるのは、一定期間において経済活動に従事し
ていない者を指し、学生、疾病者、高齢者、退職者などが含まれる。一般に主婦は非経済人口に含まれ るが、タンザニアにおいては含まれない。
インを支出が大きく上回っているが、農村部では支出が貧困ラインを下回っている。
1
人当たりの所得・支出の収支を見ると、農村部においては若干の余剰があり、収支はほ ぼ均衡している。しかし、農村においては貧困ラインを下回った水準で収支が均衡して おり、そのため貧困率が高くなっているものと考えられる。貧困ラインを下回った水準 で家計収支が均衡していることの理由としては、農産品販売等の収入は不安定で限界的 である一方、支出の大部分を占める食糧支出の4
割は現金支出を伴わないものであるこ とが考えられる。すなわち、農村部の貧困層は、現金収入の不足を自家消費などの手段 による食糧消費でカバーし生計を維持しているといえる。他方、ダルエスサラームにおいても収支はほぼ均衡しているが、支出額は貧困ラインを
7,000
シリング以上、上回っており、貧困ラインを超えた水準で均衡していることから、貧困率は低くなっているものと考えられる。ダルエスサラームにおいては、食糧消費の ほとんどが現金支出を伴うが、それを負担できるだけの賃金収入を得る機会が大きいた め、貧困ラインを超えた水準で収支を均衡させることが可能となっているものと推察さ れる。賃金収入を得ている世帯の貧困率が低いことも、これを裏付けることができよう。
表 1-25 家計収支と貧困ライン
(単位:タンザニアシリング)
ダルエスサラーム 都市部 農村部 タンザニア
1人当たり所得(月額) 16,473 13,810 7,513 8,328 1人当たり支出(月額) 16,349 11,561 6,860 7,523
CBN貧困ライン 9,203 7,680 6,996 7,253
1人当たり収支 124 2,249 653 805
貧困ラインと支出の差額 7,146 3,881 -136 270
(出所) National Bureau of Statistics Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01 Final Report”, p68, Table 6.1, p.69, Table 6.2 p.78, Table 7.1, p101, Table9.1およびp.103, Table9.4
(注) 1人当たり所得および支出額は中央値(Median)。
(2)
属性による貧困指標表
1-26
は、貧困率が高い世帯の特徴を把握するために、世帯構成人数、世帯主の性別、被雇用者数、世帯主の教育レベルごとの貧困率をまとめたものである。
HBS
によれば、タンザニアの平均世帯構成人数は、1991/92
年データに比して2000/01
年データでは、5.7
人から4.9
人に減少している。表1-26
で世帯構成人数別の貧困者比 率を見ると、人数が増えるほど貧困率は高くなっている。平均人数に近い5
人の世帯で は、貧困者比率は28.1
%と国全体の水準を下回るが、6
人の世帯では35.2
%とほぼ国全 体の水準と同じであり、それ以上の人数の世帯では40
%を超えている。最も貧困率が 高いのは世帯の構成人数が10
人を超える世帯であり、貧困率は56.8%、貧困層に占め
る割合は27.9
%となっている。なお、世帯主の性別による貧困者比率は、男性35.8
%、女性
35.3
%とほとんど差はない。HBS
によると、世帯全体に占める女性が世帯主であ る割合は、1991/92
年のデータに比して2000/01
年では18
%から23
%に増加しており、それにともなって、女性が世帯主である貧困世帯の割合も
12
%から19
%に増加してい る。表 1-26 世帯の要素別貧困状況
(単位:%)
HBS 2000/01
貧困率 貧困層における割合 世帯構成人数別の貧困率
1人 4.7 0.2
2人 11.0 1.3
3人 15.8 4.3
4人 21.4 7.6
5人 28.1 10.9
6人 35.2 13.6
7人 46.1 15.5
8人 44.8 10.5
9人 48.3 8.1
10人以上 56.8 27.9
合計 35.7 100.0
世帯主の性別の貧困率
男性 35.8 81.4
女性 35.3 18.6
合計 35.7 100.0
世帯の従業員数別の貧困率
従業員なし 40.3 80.5
従業員1人 23.8 12.9
従業員2人 26.2 4.8
従業員3人 24.9 1.0
従業員4人以上 23.4 0.7
合計 35.7 100.0
世帯主の教育レベル別の貧困率
教育を受けていない 51.1 36.9
成人教育のみ 46.4 5.2
初等教育のみ 31.7 55.1
初等教育以上 12.4 2.8
合計 35.7 100.0
(出所) Government of Tanzania (2002) “Household Budget Survey 2000/01”, Government of Tanzania, National Bureau of Statistics, p.89, Table8.1、p90, Table 8.3、p.92, Table8.6, 8.7、p.95, Table8.8, 8.9より作成
世帯の従業員数でみると、従業員のいない、すなわち自営業者の貧困率は
40.3
%と高く、貧困層に占める自営業者の割合が
80
%以上と高くなっている。こうした世帯の多くは 農業に従事しているものと推察され、世帯の従業員数と貧困の関連は薄いと見られる。世帯主の教育レベルでは、教育水準が高いほど貧困率が低いことが分る。世帯主の教育 レベルが初等教育以上の世帯の貧困者比率は
12.4
%で、貧困層にしめる割合が3
%未満 である。他方、世帯主が教育を受けていない世帯の貧困者比率は50
%を超えており、成人教育のみの場合