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3.3 Fr 中性化器の設計・製作

3.3.1 Fr 中性化器の設計

元素 イオン化ポテンシャル フランシウム(Fr) 4.0 eV

ルビジウム(Rb) 4.2 eV

3.3 アルカリ元素のイオン化ポテンシャル

表面中性化/イオン化においては熱エネルギーによる脱離を利用して原子/イオンを金属 表面から放出するが,この放出は融点に近くなるほど起こりやすくなる[54].よって,技 術的な理由から物質の融点はある程度低い方が望ましい.また,金属の仕事関数は酸化な どその状態によって容易に変化してしまうため,表面の状態が変化しにくい金属を選ぶ必 要がある.

これらを考慮し,今回中性化標的にはイットリウム,オーブンには白金を用いることと した.

Frイオンの軌道シミュレーション

今回設計・製作を行ったFr中性化器には,原子線が出力される中性化標的前方のオー ブン壁面の穴の他にFrイオンを入射するためオーブン壁面に入り口を設ける必要がある.

オーブン壁面から放出されたFrイオンがこのFrイオンビーム入り口から外に出てしま う可能性もあるため,中性化器に印加する負電圧でFrイオンがきちんと誘引されるか検 討する必要がある.オーブン壁面から放出されるイオンは熱的分布を持っているが,この 熱的イオンはオーブンが1200 C程度であっても90%以上が0.3 eV以下のエネルギー を持つ.このエネルギーのイオンを中性化器オーブン壁面から発生させ,それを中性化器 の形成する電場で充分捉える事が出来るかシミュレーションを行なって検証した.

図3.7が典型的な有限要素法(Opera-3dを用いた)による中性化器オーブン内部でのイ オン軌道シミュレーション結果である.図中緑色のオーブンをグラウンドとし,薄緑色の 中性化標的には−1 kVの電圧を印加した.黄色い線がオーブン壁面から放出されるFr イオンの軌跡である.中性化器に印加した負電圧で生じる電場により,オーブン壁面から 放出された熱的Frイオンがよく引き寄せられていることが分かる.この条件であれば,

ほぼ全てのイオンが中性化器オーブン内部にとどまる.しかし,Frイオンビーム入り口 付近から放出される熱的イオンは外に出てしまうものもあるため,これを防ぐ工夫が必要 である.そのため,オーブンを取り囲む熱シールドに正電圧を印加し,Frイオン閉じ込め の効果をもたせることとした.

中性化器内部の現象

中性化器内部の現象を考え,Frが崩壊する前にきちんと放出されるか考察する.

3.7 有限要素法による中性化器オーブン内部でのFrイオンの軌道シミュレーション

イオンビームのオーブンへの埋め込み及びそこからの放出

Frを生成する表面イオン化器では,Fr(Rb)のイオンを5 kVの電圧で加速して,中性 化器に打ち込む.このときの埋め込み深さは,SRIMコード[53]によれば,

• Ptに対して5 keVで入射するFr: Projected Range 18 ˚A, Longitudinal Strag-gling 13 ˚A

• Ptに対して5 keVで入射するRb: Projected Range 20 ˚A, Longitudinal Strag-gling 20 ˚A

である.拡散方程式に従って拡散する粒子が時間tの間に拡散する平均距離は拡散係数を Dとして,2(Dt)1/2で与えられるから,射影飛程dを移動する平均時間は d2/4Dとな る.Pt1200 Cであるときの拡散係数は8.8+1.11.0×1014 cm2/s [54]であるので,

• d= 18 ˚Aの時,0.09±0.01

• d= 20 ˚Aの時,0.11±0.01 となる.

図3.8は飛程を11 ˚Aから30 ˚Aまで1 ˚Aずつ変化させた時の移動時間をオーブン温 度の関数として示したものである.210Frの寿命は4.56分であるので,図で描いた領域で は充分に短い時間でFrは放出される事がわかる.

また,中性化器から放出されたFrが再びイオン化器に付着するときはおよそ0.1 eV 度のエネルギーを持つ.SRIMコードは1 eVまでしか計算出来ないが,そのときの埋め 込み深さは1 ˚Aである.このときは深い埋め込み・拡散の過程とは別の現象を考える必 要があると思われるが,仮にd2/4Dを適用すると他の過程と比べてはるかに短い時間と なり,無視できる.

3.8 オーブンに埋め込まれたFrの放出時間の温度相関

電場にひかれるイオンの中性化標的への埋め込み及びそこからの放出

中性化標的に印加する電圧は3.3.1から−1 kV程度で充分であり,このとき1価イオ

ンは1 keVのエネルギーで中性化標的に埋め込まれる.SRIMコードによる埋め込み深

さは,

• Yに対して1 keVで入射する Fr: Projected Range 14 ˚A, Longitudinal Strag-gling 7 ˚A

• Yに対して1 keVで入射するRb: Projected Range 11 ˚A, Longitudinal Strag-gling 9 ˚A

である.1200 Cの拡散係数は9.7+1.21.1×1013 cm2/sであるので,埋め込み深さd とき,

• d= 11 ˚Aの時,3.1±0.4×103

• d= 14 ˚Aの時,5.1±0.5×103 で放出される.

図3.9は飛程を11 ˚Aから30 ˚Aまで1 ˚Aずつ変化させた時の移動時間を中性化標的 温度の関数として示したものである.こちらもFrの寿命に比べて充分短い時間で放出さ れることが分かる.

3.9 中性化標的に埋め込まれたFrの放出時間の温度相関

オーブン内部での原子/イオンの移動

粒子のエネルギーから速度を求める事ができるので,オーブン内部での移動にかかる時 間を推定出来る.オーブンの概形を20 mmの立法体であるとみなすと,端から端までは 大まかに見積もって最大50 mm程度と考えられる.このとき,

• 5 keVで飛行するFrの速度= 5×104m/sのとき,1.0 µsec

• 100 eVで飛行するFrの速度= 1×104m/sのとき,5.0 µsec

• 0.1 keVで飛行するFrの速度= 3×102m/sのとき,170 µsec

この値はFrの場合であるが,Rbでもオーダーは変わらない.余裕を見ても1ミリ秒も あれば充分である.これは物質に埋め込まれ放出される時間よりもはるかに短いので,ほ とんど無視できると考えられる.

出力原子線のビームプロファイル

中性化器から出力される原子線のビーム広がりは中性化された原子が放出される中性化 標的の大きさと原子が通り抜けるオーブンの穴径及びそれらの間の距離によって決定され る.また,オーブンの穴径が大きくなるほど放出されるFr原子線の量は多くなるが,そ の角度広がりは大きくなる.

今回はDinneenらの装置を参考にして,中性化標的の大きさは直径2 mm,原子線を

取り出すオーブンの穴径は直径3 mmまたは6 mm(変更可能),それらの間の距離は23

mmとした.

原子線の最大の角度広がりは図3.10のようにして求められる.中性化標的直径d1,中 性化器オーブンの穴直径d2,その距離Lとして原子線の持つ最大の角度広がりθmax は arctand1/2+dL 2/2 で書け,d2= 3 mmのときは108 mrad6 mmのときは172 mrad ある.また,それぞれの場合に熱的ボルツマン分布を持つ粒子を中性化標的上にランダム に発生させ,その中で中性化器オーブンのスリットを通り抜けたものだけをカウントして 求めたビームプロファイルを図3.12及び図3.11に示す.

3.10 Fr中性化器からの原子線の角度広がり

3.11 シミュレーションによる中性化器 オーブンの穴の直径が3 mmであるときの ビーム広がり

3.12 シミュレーションによる中性化器 オーブンの穴の直径が6 mmであるときの ビーム広がり

このとき,非常に単純化したモデルを用いてどの程度のサイクル数でFr原子が中性化 器から出ていくか検討する.中性化標的から出る原子が前方のオーブン穴を通り抜ける 確率は幾何学的に決まっており,単純化して中性化標的が点光源であるとすると,直径 3mmのオーブン穴の立体角は,2π

-1−cos6

arctan (d2L/2)7.

∼0.013 srであり,標的か

ら放出される際の可能な立体角2πに対する割合はおよそ2×103である.ここで,全 ての原子は1サイクルで100%イオン化/中性化され,上記立体角の割合による確率で中 性化器から外に出るとする.その場合の中性化器内に残存する原子の初期値に対する割合 をサイクル数でプロットしたものが図3.13の太線である.

3.13 Fr中性化器内に残存する原子とサイクル数の関係

およそ1000サイクルで初期に中性化器に存在する原子のほぼ90%が中性化器から放 出されることが分かる.図3.13の上部の指数関数曲線は,210Frがそれぞれ1サイクル の時間を仮定した際にそのサイクルの時点でどれほど崩壊せずに残存しているかを示す.

最も上部の実線はここまで議論を行なってきた値からの概算値を使用した場合,2番目・

3番目は1サイクルにそれよりも長い時間がかかる場合を示している.イオン化/中性化 のサイクルから原子が抜ける時間は,かなり余裕を持って見積もっても崩壊よりも充分速 いと考えられる.

ただし,これは大まかな傾向を見るための簡略化したモデルであり,イオン化/中性化 効率等考慮していない要素もあることを申し添えておく.