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電子 EDM 測定に必要な Fr 原子個数の見積もりと低速中 性原子線の必要性性原子線の必要性

測定対象として冷却Fr原子を用いる事で電子EDM測定精度の向上が実現できること を前節で述べた.次に現実的な実験条件を考え,どの程度の測定精度の向上が見込める か,また必要な開発要素は何かを検討する.式(2.4)において,以下のようにパラメータ を設定する.

K = 895

E = 100 kV/cm T = 1 sec m= 105

ここで測定回数は,実験で加速器を使用出来る時間を一回の測定時間で割ったものであ る.E 及びτ は現在の技術で達成可能なおおよそのオーダーを用いた.一回の測定を行 うには,原子の冷却・光格子トラップへの導入,偏極生成,ラムゼー共鳴,電場反転等を 行う必要があるため10秒程度の時間が必要である.加速器を12日間使用出来ると考え ると総測定回数m105 回となる.このとき,測定対象の原子数を106 個とすると現 在YbFによる実験が与える上限値を超えるδde= 1.8×1028e·cmが達成できることに なる.

Frの生成に関してはアメリカの SUNY[39] 及びイタリアのLNL[40] においては酸 素 (18O) と金 (197Au) の核融合反応を用いて,またヨーロッパの CERN やカナダの

TRIUMFにおいてはウランカーバイドやトリウムカーバイドの陽子による核破砕反応を

用いていずれも毎秒106 個以上のFrの生成・引き出しに成功している[41, 42].ここ東 北大CYRICにおいても前出の通り18O197Auの核融合反応を用いて毎秒9×105210Frの引き出しに成功しており,今後の装置の改良,ビーム輸送の最適化によって毎 秒107 個程度の210Fr生成・引き出しが見込まれている.

これらの核反応を用いたFrの生成ではいずれの施設においてもFrはイオンの形で得 られるが,測定の為に光トラップに導入するには対象が電荷のない原子の状態でなければ ならず生成したFrイオンを中性化する必要が生じる.

これまで行われてきたFrのトラップ実験では,Frイオンはトラップを行うチェンバー もしくはガラスセル中にある加熱されたY標的の表面において中性化され,そこから熱 的に放出されたFr原子を直接トラップする手法が取られていた.しかし,この方法では 加熱されたY標的によってトラップ領域の真空度が悪化し,その影響によってトラップ の寿命が低下する.また,Y表面から放出されるFr原子は熱的ボルツマン分布の速度を 持っているが,中性化を行うときの典型的なY標的の温度である1000C程度の領域に おいてはその速度のピークはFrの場合400 m/s付近にあり,MOTでトラップ可能な 速度である数十 m/s以下の原子は大変少なく直接トラップできる確率は極めて低い.ガ ラスセルを用いた実験ではガラス表面に特殊なコーティングを施しFrがセル壁面から離 脱しやすくする等の対策をとり[43]Y標的から出たFr原子だけでなくガラスセルに一 度付着し再びそこから放出されるサイクルを繰り返すFr原子に対してもトラップを試み るなどしてトラップ効率を高める工夫を行なっているが,それでもトラップ個数は電子 EDM測定値の更新に必要な106 個を上回ることは出来ていない.

本実験では,この低いトラップ効率を改善するため Frイオンビームから高輝度かつ MOTでトラップ可能な程低速なFr原子線を生成し,それを直接トラップする手法をと る(2.11)

2.11 低速Fr原子線の生成方式の模式図を示す.中性化器でFrをイオンから原子 へを中性化し,ある程度の広がりを持った熱的原子線を生成した後,横方向速度減速器 及びゼーマン減速器によって低速中性原子線として磁気光学トラップへと供給する.

まず,新開発の中性化器を用いてFrイオンビームをある程度の広がりを持つ熱的中性 Fr原子線へと変換し,これをゼーマン減速器を用いてMOTトラップ可能な速度まで減 速する.ゼーマン減速器はこのような中性原子線の速度減速には有効な装置であり広く 使われているが,1000C程度の高速のFr原子線の減速を行うにはゼーマン減速器の長

さは2 m程度必要と見積もられており,このゼーマン減速器による立体角の制限により ほとんど全ての原子が失われトラップが不可能になるため,その使用は考えられてこな かった.そこで中性化器から出るFr原子線の横方向速度をレーザーを用いて減速し,コ リメートされたFr原子線を生成する原子線横方向速度減速器を開発し,ゼーマン減速器 内部でのFr原子の損失を最小限に抑える.

以下の図2.12は従来のMOT内部にある中性化標的からの原子をトラップする方式を 採用した場合,新開発を行った中性化器からのFr原子を直後でトラップした場合,中性化 器からのFr原子をコリメート・減速しトラップした場合の測定領域で期待されるFr原子 数を比較したものである.ただし,従来の方式におけるトラップ効率は[44]を参考とし,

0.2%とした.新開発を行った中性化器を使用する方式におけるイオンビーム/原子線の変 換効率は[34]を参考にして10%とし,MOTでのトラップ効率は1000 Cのボルツマン 分布のうち30 m/s以下にある原子がトラップされるとして0.006%を用い,また積算時 間が10 秒あるとした.低速原子線を使用する方式では,イオンビーム/原子線変換効率 は同じく10%,原子線が減速領域を通り抜ける確率は後に詳細に述べるシミュレーショ ンを参考に20%として,MOTではその全てがトラップされ積算時間は10秒とした.

2.12 Fr中性化・トラップ方式の比較.縦軸はその段階における利用可能なFrの個 数を示す.ただしFr生成,イオン輸送,中性化では個数/秒,MOTでは個数である.

従来の方式で問題になっていた中性化後のトラップ効率の改善により,一桁以上のト ラップ効率の向上・トラップ原子数の増大が見込め,現在の電子EDMの上限値を超える ために必要な106 個の測定原子数を達成することが出来と考えられる.

そのためには,磁気光学トラップでのFr原子のトラップ時間(10)を考えると,

中性化器と横方向減速器及びゼーマン減速器を用いてその数%程度を低速原子線として MOTへと供給できれば良いと考えられ,この数値を目標に第3章及び第4章に述べる中 性化器と,第5章に述べる原子線横方向速度減速器について開発を行った.

第 3

Fr 中性化器の開発

ここでは,表面イオン化器から引き出されたFrイオンビームを中性原子線へと変換す るFr中性化器の開発について述べる.