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3.2.1 金属表面における原子の中性化・イオン化

金属表面での原子の中性化・イオン化について詳細に述べる.原子が金属表面に接近す ると原子と金属表面の波動関数が重なり複合系のポテンシャルが形成され,両者で電子の 移動が起こりやすい状況が生まれる(3.5)

原子と金属表面が熱的に平衡状態にあるとき,電子は原子と金属表面にボルツマン分布 に従う確率で存在し,その比γは以下の式で与えられる[49, 50]

γ = ni

n0

= gi

g0

exp

!EIP−EWF

kBT

"

(3.1) 表面中性化効率η0,表面イオン化効率ηiは,

η0= n0

n0+ni

= 1

1 +γ,ηi= ni

n0+ni

= γ

1 +γ (3.2)

である.ここで,ni,n0はそれぞれイオンとして存在する原子の密度,中性原子として存 在する原子の密度である.また,gi,g0はそれぞれイオンと中性原子の統計的重率で原子 の全角運動量Ji,0の状態から得られ,アルカリ原子においてはgi/g0= 1/2となる.EIP

は原子のイオン化ポテンシャル,EWFは金属表面の仕事関数,kB はボルツマン定数,T は金属表面温度である.

EWF < EIPであるとき,式(3.1)より金属表面の原子はイオンとしてよりも中性原子 として存在するものが多いことが分かる.この条件の場合,金属表面に吸着したイオンは 中性原子となって放出される(表面中性化)

一方,EWF> EIPであるときは,金属表面の原子は中性原子としてよりもイオンとし て存在するものが多いことが分かる.この条件では,金属表面に吸着した中性原子はイオ ンとなって放出される(表面イオン化)

それぞれの条件でのγ について図3.4に示す.

これらの金属表面に存在する原子またはイオンは熱的なエネルギーで表面から離脱・放 出されるので,この過程で原子またはイオンを取り出すためには高温に標的を加熱する必 要もある.

Fr中性化器ではこの表面中性化と表面イオン化のふたつの現象を組み合わせ,高効率 でイオンビームを中性原子線へと変換する.

3.2.2 Fr の中性化とイオン化の繰り返し

Fr中性化器は表面中性化を用いてFrイオンの中性化を行うが,中性原子として放出さ れるFrは可能な全立体角へと放出される.これをある一定の角度広がりを持つ中性原子 線へと変換する為の機構を説明する.

3.4 金属表面近傍にある原子のイオン/原子密度比γの,金属表面の仕事関数及び 温度に対する依存性

3.5 金属表面に接近する原子と金属表面の原子が作るポテンシャルを示す.ただし ここでは金属の仕事関数が金属表面に接近する原子のイオン化ポテンシャルよりも小 さいとしている.接近する原子と金属表面の原子の波動関数が重なり,黒線のような複 合ポテンシャルを形成する.ポテンシャル障壁が小さくなるので,電子は接近する原子 と金属表面の原子の双方に存在するようになる.

Fr中性化の模式図を図3.6に示す.Fr中性化器の基本的な構造は,Frの中性化を行う 仕事関数が小さい金属で出来た中性化標的と,それを取り囲む仕事関数が大きな金属で出 来たオーブンからなっている.図左から入射されたFrイオンははじめオーブンに付着す るが,ここではFrのイオン化ポテンシャルよりも仕事関数が大きいため,Frは再びイオ ンとして放出される.この放出されたイオンは,中性化標的に印加した負電位によって中 性化標的に引き寄せられ,その表面に付着する.このときはFrのイオン化ポテンシャル よりも中性化標的の仕事関数は小さいため,Frイオンは中性化され中性原子として可能 な立体角全てに向かって放出される.そして放出されたFr原子のうち,中性化標的前方 のオーブンにあいた小さな穴を通り抜けたもののみが中性原子線として取り出され,他の ものは再びオーブンに付着してイオン化され上記のサイクルを繰り返す.

スリットを用いて立体角を制限し一定のビーム広がりを持つ原子線を生成しつつ,大き すぎる角度を持って放出されたFr原子を再イオン化して繰り返し中性化することで取り 出せる原子数の減少を防ぐ事が可能となる.

3.6 Fr中性化模式図.(1)Frイオンが入射され,中性化器オーブン壁面に付着す る.(2)Frイオンはオーブン壁面から再びイオンとして放出される.中性化標的の負電 位に引かれ,その表面に付着する.(3)原子は中性化標的で中性化され,熱的原子とし て放出される.前方方向に飛び出したオーブンの穴を通り抜けた原子のみが原子線と して取り出される.(3’)中性化標的から放出された原子のうち,オーブンの穴を通りぬ けられなかったものはオーブンに付着し再イオン化され,このサイクルを繰り返す.