• 検索結果がありません。

トラップ原子の個数が時間経過により増加しているとした場合

MOTチェンバー内ははじめRb原子は存在せず,中性化器を運転してはじめてRb 送り込まれる.送り込まれた原子はいくらかの時間,チェンバー内を漂い,チェンバー壁 面との吸着・脱離を繰り返す.もし中性化器から送り込まれる原子のレートがチェンバー 壁面に吸着・固定されたり,真空ポンプチェンバーに移動するなどしてMOT不可能にな るレートよりも多ければチェンバー内を漂う原子は増加するはずなので,そこからMOT でトラップされる原子の数も増加すると考えられる.なお,今回の実験では電圧依存性測 定を開始する数時間前から原子の供給を行なっていた.

トラップ原子の個数が電圧に依存して増加しているとした場合

中性化標的に印加する電圧を増加させると中性化器で損失されるイオンが減少し,中性 化器からMOT領域に供給される原子数は増加するので,MOTでトラップされる原子数 も増加する.特に,今回の実験ではイオンを中性化器に閉じ込める電場を形成するリフレ クターをグラウンドにしてその効果をなくしていたため,イオンを閉じ込める効果を生じ るのは中性化標的のみであった.この条件では,このイオン閉じ込め能力はある程度で限 界を迎え,その場合はMOTへの供給原子数の飽和(トラップ原子数の飽和)が起こると 考えられるが,今回はこの現象は観測されなかった.

また,トラップ原子数に時間依存性があるとしても,それは中性化標的印加電圧増加に よるRb原子の供給量増加を反映している可能性もある.図4.41にあるように,中性化 標的印加電圧が低い時にはあまり時間依存性が見えないように思われるが,中性化標的印 加電圧を上昇させていくと時間依存性がより強く出ている.これは中性化標的への印加電 圧を上昇させたことにより原子をMOTチェンバーに供給するレートが増加し,原子が MOT不可能になるレートを上回りその均衡が取れるまでトラップ原子数が時間に依存し て増加するためとも考えられる.

らすことができれば,更に高効率のイオンビーム/原子線変換が可能だと考えられ,今後 検討を要する.

次に行った中性化器出力のMOT実験では,Rbイオン源からのRbイオンビームを中 性化器に入射してその出力をトラップすることに成功し,中性化器内部でRbイオンの中 性化が起こり,原子線として出力されている確証を得ることができた.しかし,その中性 化器出力の中性化器温度依存性,中性化器印加電圧依存性,時間依存性についてはいくら かの知見を得たものの,なんらかの結論を出すには至らなかった.

今回の測定結果では,これらのパラメータ変更への中性化器出力原子線の応答が(特に 時間依存性について)分離できていない可能性も存在し,今後引き続き検証していく必要 がある.

Rbイオンが中性化可能であることを確認し,中性化器の動作原理を確認することがで きたため,質量等の違いにより吸着・離脱過程に若干の差異が生じることは考えられる ものの,化学的性質がほぼ等しいFrにおいてもこの中性化器は動作すると考えられる.

本来の用途であるオンラインでのFr中性化実験を行えば,Frはその寿命のために長時間 チェンバー内に残留しないこと,Frα崩壊により速やかに検出が可能なことなどから,

中性化器出力の時間依存性の測定また中性化効率の測定といった点においてはRb原子に よる実験よりも利点がある.今回の実験により,新開発の中性化器を用いてアルカリ元素 のイオンを中性化しそのトラップが可能であることの確認や,中性化を行う大まかな中性 化標的温度・印加電圧を決定することが出来たため,20121月にはFrイオンビーム中 性化実験,また20122月にはFrイオンビーム中性化及びMOTによるFr原子トラッ プ実験を行う予定である.

第 5

原子線横方向速度減速器の設計

本章では中性化器から出力されたFr原子線のゼーマン減速器透過率を格段に向上させ る原子線横方向速度減速器の設計について述べる.EDMの測定感度を向上させるため に,測定対象となるFrをできる限り多く真空中にトラップ・蓄積する必要がある.トラッ プは予備冷却の役割も果たす磁気光学トラップ(MOT)と、EDMを測定する際に使う光 トラップ(光双極子トラップあるいは光格子)2段階で構成されるが、初段のMOT トラップポテンシャルは浅く,典型的には30 m/s程度の速度以下の原子を捕獲するこ とができる.中性化器から放出されるFr原子は図5.1で示されるようなマクスウェル分 布を持っており,このままではトラップ可能な割合は0.06%程度と極めて低い。そこで,

MOTへのトラップ効率を向上させるために,エミッタンスが小さく十分低速の原子線 (高輝度低速原子ビーム)を実現することが重要である.

5.1 1000 Cの温度を持つFrの速度分布.赤い部分はMOTで捕捉可能な速度 30 m/sの領域を示す.その領域にある原子が全体の原子数に占める割合は0.06% 大変小さい.