第 2 章 AC 型および DC 型セルの一次元放電シミュレーション 16
2.3 スオームパラメータ(Swarm Parameter)
2.3.4 Flight Time Integral 法の提案
放電シミュレーションに必要な荷電粒子の移動速度,拡散係数などスオームパ ラメータを計算するための有効な方法,Flight Time Integral (FTI)法を開発した。
この方法は一般のボルツマン方程式解析におけるように,まず荷電粒子の速度分
布F(v)(状態関数)を主未知関数として求め,F(v)を用いてスオームパラメータ
を計算するのではなく,まず荷電粒子の出発レート分布(レート関数)Ψs(v0)を 主未知関数として求め,その規格化分布Ψsn(v0)で出発した荷電粒子が飛行して衝 突するまでの軌道運動の時間率としてスオームパラメータを計算する方法であり,
極めて安定でかつ計算精度も高い。レート分布が積算不能であるのに対して状態 分布は時間積算が可能であるため,出発レート分布は速度分布に比べて遥かに緩 和が速く、且つ一意的に決まる。飛行中の速度分布は得られた出発レート分布か ら厳密に計算できる。
基本となる出発レート分布Ψs(v0)を決定するには,電界下一回の飛行における 速度変化確率を表す速度分散関数H(v,v0)と,一回の衝突における速度変化を表 す速度分散関数S(v0,v)を,任意の初期規格化分布に繰り返し作用させる。
Ψs(v0) =S(v0, v)n⊗H(v, v0)n⊗Ψs0(v0) (2.10) ここで,⊗は重ね積分を表す。この演算を繰り返して緩和的に得られた定常分布が,
定常出発レート分布Ψs(v0)である。緩和の終了は,ここではm回目の分布とそれ から10回後の分布との差の絶対値の和が10−8より小さくなることで判定してい る。得られたΨs(v0)はあらためて規格化し,規格化分布Ψsn(v0)とする。Ψsn(v0) はあらゆる方向へ等方に出発する粒子の軌道運動計算の基本となる規格化出発速 度分布である。飛行中の速度分布を求めるには,速度v0で出発した粒子の飛行中 の速度分布を与える速度分散関数Hf(v,v0)を一回Ψsn(v0)に作用させて求めるこ とができる。
F(v) =Hf(v, v0)⊗Ψsn(v0) (2.11) しかし,F(v)を用いてスオームパラメータを求めるよりは,Ψsn(v0)に直接輸送 関数Gz(v0),Gf z(v0)を作用させて,実空間での変位の時間率として求める方が精 度的にも高くなるので有利である。速度v0で出発した粒子の衝突時の輸送量zお よび飛行中の輸送量zの積分値を表わす輸送関数Gz(v0),Gf z(v0)を用いると,
1 衝突時の平均エネルギー ε c =
∞
0 Gε(v0)Ψsn(v0)dv0, (2.12) 2 飛行中の平均エネルギー
ε =
∞
0 Gfε(v0)Ψsn(v0)dv0
∞
0 Gf1(v0)Ψsn(v0)dv0
, (2.13)
3 移動速度
W =
∞
0 Gx(v0)Ψsn(v0)dv0
∞
0 Gf1(v0)Ψsn(v0)dv0
, (2.14)
4 横拡散係数
DT =
∞
0 Gy2(v0)Ψsn(v0)dv0 2
∞
0 Gf1(v0)Ψsn(v0)dv0
, (2.15)
のように求めることができる。ただし
∞
0 Gf1(v0) Ψsn(v0)dv0は粒子の平均飛行時 間である。ここで得られる輸送量,スオームパラメータの数値の相対誤差は1×10−4 以下と小さく,十分の信頼性を有している。本方法の特徴は,全ての粒子の飛行 を最初から終わりまで記述し,その計算が全て積分のみに依存して誤差の発生が 少なく,分布関数の記述に級数展開など煩雑かつ近似を必要とする方法は用いて いない点にある。また一度速度分散関数,輸送関数を求めれば,Ψs0(v0)の緩和決 定に要する時間は短く輸送係数も簡単に求められ,極めて安定で有利な解析法で ある。
ここまでが1983年に開発したFTI法の要点である。当初,電子輸送特性の計算 を意図して開発されたこの方法は,その後共著者 生田により発展させられ,種々 の解析結果を発表している。開発時点および現在におけるFTI法の主な特徴,適 用条件を纏めておく。
(1) 開発時点
1 電子を想定し等方散乱,無境界定常状態を仮定しているが,電界は制限が ない。
2 近似がないために計算精度が高く安定性が高い上,計算時間が短い。
H v',v0) Ψs v0)
S v0,v')
Ψc v')
F v)
Gz
Gfz Gz v0)
Gfz v0)
Hf v,v0)
図 2.5 Flight Time Integral法の演算ダイアグラム
(2) 現在(開発時の特徴に加えて)
3 電子,イオン,中性粒子の何れにも適用できる。
4 衝突における非等方散乱にも対応できる。
5 粒子数非保存条件(電離や付着がある場合)にも対応できる。
6 無境界平衡条件(PT)のみならず、有境界定常状態(SST)にも対応できる。
7 過渡状態の解析にも Transient FTI法を用いて対応できる。
8 雰囲気ガスの種類,混合比にも制限なしに対応できる。
FTI法における演算ダイアグラムを示すと図2.5のようになる。
FTI法による計算結果の例を図2.6に示す。図(a)は衝突確率Nq(ε),図(b)は初 期分布として与える出発レート分布Ψi(ε0)がΨs(ε0)に収斂している様子,図(c)と (d)は計算で得られた出発レート分布Ψs(ε0),図(e)と(f)は飛行中のエネルギー 分布F0(ε)である。ここで図(c)と(e)はFTI法,また図(d)と(f)はMCSで得ら れた結果である。図(b)の最初に仮定したΨi(ε0)はエネルギー0∼1eVに対し衝突 確率を一定にしているが,この形状によらずΨs(ε0)は一意的に決まる。他の偏微
図 2.6 Flight Time Integral法による計算結果の例
分方程式解法で最も有力と言われる緩和が速いガレルキン法にしても,その初期 分布の与え方で解が異なることはよく知られている。FTI法により得られた図(c) のΨs(ε0)と図(e)のF0(ε)は,MCSによる計算結果,図(d)と(e)のように統計的 なばらつきは生じていない。統計的ばらつきを平均値に対する2乗偏差で表せば,
その値はサンプル数の-1/2乗に比例して小さくなるが,計算時間もそれに比例し
て増加する。
当時,FTI法による分散関数,分布関数および輸送係数を求めたときの計算時間 は,FACOM M360APでおおよそ15∼20分であり,MCSに比較して遙かに短い。
精度についてもFTI法では速度(エネルギー)軸上,多数の格子点(200〜500)を 取り,飛行,衝突に伴うエネルギー分散関数を繰り返し働かせて出発レート分布 を緩和決定する際も前述したように変化分の和が極めて0に近い値(10−8)となる まで収束させているために,極めて高い。このため輸送係数も相対誤差10−4以下 で得られ,他のどの方法よりも高精度となっている。