第 3 章 AC 型および DC 型セルの放電発光特性の測定 47
3.5 放電の時間進展観測と考察
大きいため,電子密度も大きく累積電離や階段励起などにより,Xeの1s4や1s5
準位の原子密度が放電電流に対して比例しなくなることから,紫外線の発生効率 は低下する。さらに,紫外線の発光に関与する粒子の生成が放電電流の急峻な増 加に追従しないことも考えられる。
しかしここでの測定条件では,これらの考察とは逆に測定した発光効率は歴然 としてAC型セルの方が40 %程度高い結果が得られている。その理由として,DC 型セルのXe∗(1s4)など共鳴準位原子の密度分布が陰極や陽極近傍,すなわち蛍光 面に近い部分に分布することで,発光と吸収を繰り返して伝搬する共鳴放射の閉
じ込め[6, 7]の影響が少なく(光学的に薄い),効率良く蛍光体を励起しているこ
とが推測できる。このように紫外線の伝搬時間が短い場合には,累積電離や階段 励起に伴う共鳴準位原子の遷移が少なくなるために発光効率は高くなる。一般に 放電電流が大きくなると陰極降下部が陰極側に移動し,共鳴準位原子など励起原 子の分布も同様に陰極に近づいてくる。この傾向は,図 3.5の二次電子放出係数 と発光効率の関係を調べた時の計算や,第 5章で述べるPDPの二次電子の逆拡散 に関する解析などで確認している。
図 3.9 高速ゲートカメラによる時間分解観測装置の系統図
であり,S-20の分光感度をもっている。このS-20の分光感度特性 [9]は,波長範 囲が300∼850 nm,最高感度の波長は420 nm,最高量子効率は波長360 nmで得ら れる。さらに,本装置はMCP(Micro-Channel Plate)を2枚装備しており,高速 シャッタでも充分な感度を持ち最小ゲート時間を5 nsと短くできる。これにより
AC型セルの100 nsの短い放電期間でも20枚程度の画像を得ることができるなど,
本装置は詳細な放電現象の解析に有効である。このようにして得られた画像デー タはパーソナルコンピュータで処理して様々なグラフ化により現象の把握と分析 を行う。
3.5.2 近赤外発光と可視光および蛍光体発光の観測結果と考察
図 3.3(a)に示した対向放電構造のAC型パネルを発光観測用に変更した。パネ
ルの前面板のAl電極はITOの透明電極に変更すると共に,櫛型の母線を配置する ことでシート抵抗の高いITOによる電圧降下を少なくしている。さらに紫外線の 発光を観測するために,残光が70 ns程度の短残光蛍光体P47(Y2SiO5:Ce)をパ ネル半分のセル底面に電極部分を除いて塗布している。
図 3.10は,上記観測用パネルを用いて前面基板方向からセル一個の領域を観 測した近赤外発光の時間分解写真の例である。ここに示す写真は全てゲート時間 を5 nsで観測したものである。近赤外光はXe∗(2p6–1s5)の遷移による823nmと Xe∗(2p5–1s4)の遷移による828nmが中心であり,780 nm以下を阻止するフィル
図 3.10 AC型実験パネルの近赤外発光の時間分解写真
ターを用いて可視光と分離し観測した。この写真の中で図 3.10(d)∼(f)など,セ ル一面に円状のモワレが見られるのは,Xeの823nmと828nmの近赤外光が線ス ペクトルであるためで,その干渉により生じている。しかし,ガスの可視成分は 多くの発光スペクトルが含まれ,また蛍光体発光のスペクトルもブロードなため,
図 3.11や図 3.13にはモワレは明確に表れていない。図 3.10(e)の写真にはITO電 極と櫛型の母線の接続部分で隔壁部分二箇所に明るい部分が見られるが,セルの構 造上電界が集中し励起などの反応が多いためと考えられる。この明るい部分を含 んだ帯状の明るい領域がITO電極である。この写真では(c)50 ns∼(h)100 nsの時 間領域で70 nsを最大とする強い発光が現れている。また,(h)100 nsから(i)570 ns の時間領域では減衰が緩やかな長い時定数の発光が観測される。
図 3.11はパネルの可視発光の時間分解写真の例である。図3.12にパネルの可視
図 3.11 AC型実験パネルの可視光の時間分解写真
発光と蛍光体P47の発光スペクトルの測定例を示すが,可視成分は蛍光体に比べ て微弱なために強度を5倍拡大している。これらは前述した理由から近赤外光のよ うなモワレは観測されない。測定には近赤外発光を阻止し可視光を透過させるバ ンドパスフィルタを用い可視成分を分離している。この可視発光はXeによる青白 い発光で最も強い467 nmとその50 %程度の強度の492 nmや,40 %程度の462 nm が主である [10]。その他にも467 nmの発光に対して30 %程度の強度のスペクトル が数本観測される。これら480 nm付近の発光は,Xeの2pより上準位からの可視 発光であり,Xeの1s準位へのカスケード遷移のうち,約40 %が1s4へ流入する ことが報告されている [11]。このことから,Xeの共鳴線147 nmに関する情報を 持つ一方,2pの上準位は電離エネルギーに近いため電子との衝突による累積電離 に関与することから,これらの情報を得ることも期待できる。
λ
図 3.12 AC型実験パネルの可視光とP47蛍光体の発光スペクトル
図 3.13は蛍光体発光P47(図 3.12参照)の時間分解写真の例である。セル中央 の電極部分には蛍光体が塗布されていない。P47の発光には残光が若干あるもの の図 3.10や図 3.11と比較して発光の減衰時間は長い。これはXeの共鳴放射の閉 じ込めが現れているものと考えられ,発光もセルの中心部が強く,近赤外や可視 発光のセル一面の均一な発光と少し異なっている。
以上,高速ゲートカメラを用いて近赤外発光,可視発光および蛍光体の発光を 観測した結果について述べたが,これらの観測結果では負グロー領域がほとんど を占める実験セルであるため,タウンゼント放電のような放電の立ち上がり時の 強い紫外発光は観測されなかった。また,セル内の発光強度分布は,近赤外発光,
可視発光については一様であり,蛍光体の発光では中心部が強くなる結果となっ た。これらの観測結果からはAC型とDC型セルの放電形態の違いによる発光効 率の差異を明確に見いだせなかったが,局所場近似を適用した一次元放電シミュ レーションの評価に貢献し,発光効率の差は前述した紫外線の発生位置に起因す るとする考えが補強された。
図 3.13 AC型実験パネルのP47蛍光体発光の時間分解写真