第 6 章 DC 型セルの二次元放電シミュレーション 101
6.1.1 既住の関連研究の概要
ここで第 6章に関連する研究として直角座標系と円筒座標系で解析したDC型 グロー放電の二次元シミュレーションについて概要を説明する。また,シミュレー ションの計算結果を比較するために,レーザー吸収法による微細セル内の励起粒 子分布の測定例も合わせて紹介する。
(1)直角座標系によるDC型グロー放電の二次元シミュレーション
PDPの放電セルを対象としたこれまでのシミュレーションは一次元解析であっ た。ここで紹介する二次元解析は直角座標系で電子とイオンを扱い,陰極と陽極 間距離が5cmの対向電極を対象にしたシミュレーションである[1]。解析方法はこ れまでの一次元の流体解析を二次元に発展させたものであり,以下にその基本方 程式を示す。
∇ ·(neve) =Si (6.1)
neve =neWe− ∇(neDe) (6.2)
∇ ·(npVp) =Si (6.3)
npVp=npWp− ∇(npDp) (6.4)
∇2V− |e|/0(np−ne) (6.5) 式 (6.1)と(6.3)は,電子と正イオンの粒子密連続の式である。式 (6.2)と(6.4)は 運動量輸送の式である。これら式(6.1)∼(6.4)は,式 (6.5) のポアソンの式と連立 して解かれる。neとnpは電子と正イオンの密度,veとvpは電子とイオンの速度,
WeとWpはドリフト速度,DeとDpは拡散係数,Vは電位である。Siは生成項 でありSi =neνi,電離周波数はνi ≈α |We |,αは電離係数である。
(neWe)⊥ =−γ(npWp)⊥ (6.6) イオン入射による二次電子放出を式(6.6)により境界条件として与えるが,光子に よる二次電子放出は考えていない。Heガス133 Pa(1 Torr),印加電圧300V,二 次電子放出係数γ=0.1の条件での計算結果の一例を図 6.1に示す。図は(a)放電セ ルの電極構造と(b)等電位曲線,(c)放電軸方向と(d)その横方向成分の電界分布,
(e)Heイオン密度および(f)電子密度の分布を示す。
(a) Electrode geometry (b) Equipotential curves
(c) Axial electric field (d) Transverse electric field
(e) He+ ion (f) Electron
図 6.1 直角座標系二次元シミュレーションの計算結果の報告例
(2)円筒座標系によるDC型グロー放電の二次元シミュレーション
ここで紹介する研究は前述した直角座標系を円筒座標系で扱った二次元シミュ レーションであり,放電ギャップ長やガス圧力などを同じ条件にして解析してい
る [2]。PDPのセルは三次元構造であるが,軸対称形状のセルは円筒座標系では二
次元解析になるために計算時間の点で有利である。
円筒座標系における荷電粒子の粒子密度連続の式を式 (6.7)に示す。
∂nk
∂t =−1 r
∂
∂r(rφk)−∂ψk
∂z +s (6.7)
ここで,nkは荷電粒子kの密度であり,下付文字k=iの場合はイオンを,k =e の場合は電子の式になる。φkとψkは粒子束の径方向と軸方向の成分であり,次式 で与えられる。
φk =nkμkEr−Dk
∂nk
∂r (6.8)
ψk=nkμkEz−Dk
∂nk
∂z (6.9)
ここで,μkは移動度,ErとEzは電界の径方向と軸方向の成分,Dkは拡散係数で
ある。式 (6.10)は上記連続の式と連立して解くポアソンの式である。
1 r
∂
∂r
r∂V
∂r
+∂2V
∂z2 =−e
(ni−ne) (6.10) ここで,niとneはイオンと電子の密度,は誘電率である。
Heガス133 Pa,印加電圧235 V,二次電子放出係数γ=0.22の条件での計算結果 の一例を図 6.2に示す。図は(a)放電セルの電極構造と(b)等電位曲線,(c)放電軸 方向と(d)その径方向成分の電界分布,(e)Heイオン密度および(f)電子密度の分 布を示す。ここで示した計算結果は,前述の直角座標系のシミュレーション結果 と一致している。直角座標系で扱った解析ではセル壁面を絶縁体として扱ってい るのでその電位分布は等間隔になるが,円筒座標では荷電粒子の蓄積による電位 として扱っているために電位分布にその影響が表れて,プラズマ領域のピーク密 度も若干異なっている。また,二次電子放出係数がγ=0.22と大きいために放電電 圧が低くなっている。
(a) Electrode geometry (b) Equipotential curves
(c) Axial electric field (d) Radial electric field
(e) He+ ion (f) Electron
図 6.2 円筒座標系二次元シミュレーションの計算結果の報告例
図 6.3 レーザー吸収顕微分光法による励起原子分布の測定系統図の報告例
(3)レーザー吸収法による励起原子密度分布の測定
PDPの紫外線放射の効率向上を目指して,放電現象を理解するためにXe∗(1s4) とXe∗(1s5)準位原子の密度分布を測定している。Xe∗(1s4)においては(2p5–1s4)遷 移に相当する828.0 nm,Xe∗(1s5)においては(2p6–1s5)遷移に相当する823.1 nm の半導体レーザー光を,それぞれプローブ光として用いる光吸収法によって,占 有密度の絶対値を測定している [4]。励起原子密度Nはレーザー光の吸収係数をA として,
N =A·K/I (6.11)
となる。ここで,Iは吸収長であり,セルの厚み(200μm)に相当する。Kはスペ クトル線の形状に依存した比例定数である。実験に使用するパネルを用いて吸収 スペクトル線のプロファイルを測定することでHeとXeによる圧力広がりとシフ ト量を評価し,実験条件He–Xe(10%),全圧26.7 kPaにおけるKの値を決定して いる。Xe∗(1s4)およびXe∗(1s5)に対するK(1s4)およびK(1s5)はそれぞれ,
K(1s4) = 2.23×1012 cm−2 K(1s5) = 1.45×1012 cm−2
である。 図 6.3にレーザー吸収顕微分光法による励起原子密度の測定系統図を示 す。レーザーの発振周波数は,Xeを2.67 hPa封入したリファレンス放電管中にレー ザー光を通し吸収が最大となるように調整している。レーザー光の集光は顕微鏡
図 6.4 励起原子分布の測定用実験パネルの構造と放電電流波形の報告例
図 6.5 レーザー吸収顕微分光法による共鳴準位原子Xe∗(1s4)の吸収係数時空間分 布の報告例
の対物レンズで行い,焦点におけるスポット半径W0はおよそ8μmであり十分な 分解能を得ている。図 6.4に(a)実験に使用したパネル構造と密度の測定領域およ び(b)放電電流波形を示す[4]。図 6.5に共鳴準位原子Xe∗(1s4)の吸収係数の時空 間分布を示す。このときの最大放電電流は160μAである。ここで,最大吸収係数 6 %の時の密度を6.7×1012cm−3と見積もっている。
同様に準安定準位原子Xe∗(1s5)の密度分布も測定され,電極間隔250μの場合 の最大密度は5.2×1013cm−3と報告されている [5]。
y x
Anode(A)
Cathode(K) Wall
Resistor( ) Cell center
y
/2
図 6.6 二次元シミュレーションの放電セル構造(表 6.1のCase 1)