第 5 章 二次電子の逆拡散を考慮した DC 型セルの一次元シミュレーション 88
5.3 実効二次電子放出特性の基礎検討
5.3.1 各種粒子による二次電子利用効率の換算電界依存性
PDPのような高ガス圧の放電においては,陰極から放出した二次電子がガス分 子などと衝突し陰極に戻される逆拡散を考慮する必要があることが指摘されてい
0.01 0.1 1
1 10 100 1000
(V/cm Torr) Availabilityγ/γ,γ/γ,γ/γ
Ni
He-Xe(10%)
He+, He+2, He*triplet Xe+
Xe*(15) Xe+2
He*singlet, He*2 Xe*(14), Xe*2U Xe*2YZ
図 5.1 各種イオンと励起粒子および光子による二次電子利用効率(γ/γ)の換算電 界(E/p)依存性
る [1]。これは二次電子の初速度がかなり大きく,ガスのように厳密な意味での連 続媒体ではない場合は,境界までの距離が平均自由行程に近づくにつれて,巨視 的な拡散係数が物理的に意味を持たなくなるためである。この効果を含めた陰極 から放出される実効的な電子束密度Φeは次式で近似され,本モデルではこれらを
式(2.2)の境界条件に取り入れることによって計算される。
Φe = γiΦi+γm Φm+γpΦp (5.1)
= γi
γiγiΦi+γm
γmγmΦm+γp
γpγpΦp (5.2) ここで,Φi,Φm,Φpは,それぞれイオン束密度,準安定原子束密度,光子束密度 を表す。γi,γm ,γp は,それぞれイオン,準安定原子,光子の実効二次電子利得,
またγi,γm,γpは真空中における二次電子利得である。すなわち,ここで示した 式(5.1)が2.2.3項の(3) で述べた陰極での境界条件になる。式(5.2)は,式(5.1)を 二次電子利用効率として定義したγ/γ を用いて表示し直した式である。式(5.2) に必要なイオン,準安定原子のγ/γについては,既に前章でMCSを用いて計算 している。ここで光子入射によるγ/γは,各エネルギーで放出される二次電子の 放出確率分布を一定として計算した。
表 5.1 逆拡散を導入した一次元シミュレーションの計算条件 Gas composition He -Xe (10 %)
Gas pressure 400 hPa (300 Torr) Cathode material Ni
Electrode distance (d) 0.02 cm
Electrode size (S) 0.02×0.02 cm2 Cell size 0.06×0.06 cm2 Pulse voltage 170 V
period 4μs
duration 1μs
Bias voltage 150 V
Resistor (R) 1 MΩ
5.3.2 繰り返しパルス放電における二次電子利用効率
ここで前章で計算したイオンと励起粒子および光子がHe–Xe(10%)混合ガス中 のNi陰極に入射した場合の二次電子利用効率γ/γを一括して図5.1に示す。この γ/γとγの積が,ガス中における実効二次電子利得γとなる。この図は各種粒子 についてγ/γを単に換算電界E/p(0◦Cに換算)の関数として示したにすぎない が,実際のPDPの動作を理解するには,パルス放電状態での陰極近傍のE/pに対 するγ/γの値を調べる必要がある。そこで,図5.1に示した10個のE/pに対する γ/γをE/pの三次式で近似して放電シミュレーションに組み込み,表5.1に示す DC型PDPの典型的な放電条件でパルス放電について計算した。
図5.2に陰極近傍のE/pに対する各種粒子のγ/γの時間変化を示す。図から放 電開始時のE/p=26 V/cm Torrに対応するγ/γは入射する粒子により0.24∼0.75 の範囲に亘り,最大電流となるt=1μs時のE/p=116 V/cm Torrでは0.56∼0.94と 増加するものの実効二次電子利得γは逆拡散によりかなり小さくなる結果が得ら れた。
5.3.3 各種粒子の入射による二次電子の生成割合の時間変化
これまでγ/γについて議論してきたが,パルス繰り返し放電では式(5.2)に示 したようにγ/γとγ,さらには入射する粒子束密度Φの積,すなわち二次電子の
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0 100 200 300 400 500
0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 Time (μs)
Availabilityγ'/γ
He+, He2+, He*triplet Xe+ Xe2+
He2+, He*singlet Xe (1* 4), Xe2U* Xe2YZ*
Xe (1* 5)
(V/cmTorr)
図 5.2 DC型セルのパルス放電における二次電子利用効率(γ/γ) の計算結果
生成量が放電特性に大きく影響を与える。図5.3は表5.1の条件で計算した陰極で の二次電子の生成量を,t=1μs時のΦeで規格化して示したものである。この図を もとにDC型セルのパルス放電時における各種入射粒子の二次電子生成への寄与 について以下にまとめる。
1 放電開始時t=0では,準安定準位原子Xe∗(1s5)による二次電子の生成割合
が0.0018で全粒子の中で最も大きく,放電の立上がりに重要な役割を果たし
ている。
2 放電が進むに連れて,Xe+,He+,Xe∗(1s4)による二次電子の生成割合が急 増して,t=1μs時には,それぞれの二次電子の生成率は0.33,0.31,0.26に なる。
3 Xe∗(1s4)による二次電子の生成量は,アフターグロー領域で1μs程度の時定 数で減衰するが,この減衰は共鳴準位原子Xe∗(1s4)の密度変化と同様に,共 鳴放射の閉じ込めに起因している。
このようにパルス放電状態では,二次電子利用効率γ/γが換算電界E/pを通して 時間変化することに加えて,二次電子の生成に支配的に作用する粒子が,放電の 進展に伴って入れ替わるなど複雑な様相を呈する。
10-8 10-7 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 1
0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 Time (μs)
Normalizedsecondaryelectrongenerationrate
Xe+
He+
He+2
He triplet*
Xe (1* 5), Xe2YZ
He2* He singlet*
Xe (1* 4)
Xe2U*
Xe2+
*
図5.3 各種イオンと励起粒子および光子入射による二次電子の生成割合(規格値)
の計算結果
5.3.4 分子イオンによる二次電子放出係数 γ の再検討
ここで議論している二次電子の逆拡散に合わせて,He+2,Xe+2 などの分子イオン による二次電子放出係数γの値を再検討した。従来はモリブデン(Mo)とタンタ ル(Ta)の実験データ[3, 4]を参考に,分子イオンのγを原子イオンのそれの1/2 と単純に仮定していたが,ここで新たに算出することにした。
計算にはハグストラムの理論を敷衍させた手法 [5]を用い,バンド構造としては 放物形バンドを仮定し,論文で示されている電子の脱出確率のパラメータはf=1 と仮定した。ここでHe+2,Xe+2 の電離エネルギーを,それぞれ23.2 eV,11.0 eVと すると,二次電子放出係数γの値は0.140,0.00019になった。Heの原子イオンと 分子イオンのγの値の比は,前記論文 [3, 4]の値とよく一致している。図5.4に入 射する分子イオンの電離エネルギーと二次電子放出係数γの一般的な関係を求め た場合の結果を示す。
10-7 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 1
0 5 10 15 20 25 30
Ionization energy (eV)
Secondaryelectronyieldγ
Ni
図 5.4 分子イオンによる二次電子放出係数(γ)の電離エネルギー依存性