第 3 章 AC 型および DC 型セルの放電発光特性の測定 47
3.3 実験方法と発光効率に関する予備実験
ここでは,AC型とDC型の実験パネルの構造と発光効率の測定方法について述 べる。また,パネルの放電電流と発光効率の関係や,陰極の二次電子放出係数と 発光効率の関係についても両放電を比較する上で重要な特性であるため,実験と 放電シミュレーションにより本実験に先だって求めたデータを簡単に説明する。
3.3.1 AC 型と DC 型実験パネルの構造
AC型とDC型セルの放電メカニズムの違いが発光効率にどのように影響するか を調べるなど,シミュレーション結果を確認するために,AC型とDC型の実験パ ネルの仕様は可能な限り同じ条件にして製作した。図 3.3に対向放電型の(a)AC
型と(b)DC型の実験パネルの構造を示す。AC型の実験パネルは従来から基礎実
験に用いているDC型パネルを基本としているために,補助セルが設けられてい るが使用していない。一方,DC型パネルの補助セルは,放電の立上り時間を短く する目的で用いられ画像表示を行う場合には有効である。AC型パネルの前面板に 通常用いられているITO(Indium Tin Oxide)の透明電極を用いずにAl電極とし たのは,DC型セルと開口率を同じにするためである。AC型とDC型の実験パネ
図 3.3 AC型とDC型実験パネルの構造
ルは共に,前面板と背面板のガラス基板上に電極や隔壁,可視光の反射を増加さ せるホワイトバック層など,ほとんどの構造物を厚膜印刷技術により形成してい る。また,AC型パネルの前面基板と背面基板上の電荷を蓄積させる誘電体層も厚 膜印刷技術で形成しているが,その上部のMgO保護層は真空蒸着技術により形成 している。
表 3.1にAC型とDC型実験パネルの仕様を示す。AC型パネルの実質的に電極 として動作する保護層はMgOであるが,DC型パネルの陰極材料はAl であるた めに,イオンなどによる二次電子放出係数γの値が異なると思われるが,その他 のガス組成や電極間距離などの条件は同じである。
表 3.1 AC型とDC型実験パネルの仕様
AC-type cell DC-type cell
Number of cells (H×V) 60×60 ←
Cell pitch (H×V) 0.7×0.7 mm ←
Gas composition He-Xe (10%) ←
Gas pressure (p) 40.0 kPa (300 Torr) ←
Capacitor (C) 0.12 pF/cell –
Gap length (d) 0.2 mm ←
Cathode material MgO Al
3.3.2 発光効率の測定方法
パネルの発光効率η(lm/W)の算出には,発光面を反射率1の完全拡散面として 扱い次式により計算した。
η = MS
P = πBS
P (3.1)
ここで,Mは光束発散度,Sはパネルの発光面積,Bはパネルの輝度であり輝度 計で測定される量,またP は入力電力でありセルに印加される電圧と放電電流の 波形から算出する。放電電流は特にAC型パネルでは放電時間が短く微小である ため,測定には電流プローブとデジタルオシロスコープを用い積算するなどして 雑音成分を除去する必要がある。
3.3.3 放電電流および二次電子放出係数の発光効率に関する依存性
図 3.3(b)のDC型パネルを用いて測定した放電電流と発光効率の関係を図 3.4
に示す。図は緑色蛍光体P1-G1(Zn2SiO4:Mn)を塗布したパネルを用い,発光時 間率(duty)を1/64として定電流駆動したときの発光効率を示したものである。
この特性は発光効率の比較など,電流依存性を調べるための参考データとして示 した。この特性には蛍光体の飽和も若干含まれるが,放電電流が50μAのときの 発光効率は約0.5 lm/Wであるのに対し,放電電流を150μAに増加させると発光 効率はおおよそ1/2に減少している。
μ
η
図 3.4 実験によるDC型セルの放電電流と発光効率の関係
γ
η
図 3.5 シミュレーションによるDC型セルの二次電子放出係数(γ)の倍率と発光 効率の関係
陰極材料がMgOとAlで異なる実験パネルで特性を比較する場合,イオンなど の二次電子放出係数γの値が発光効率に与える影響も把握しておく必要がある。こ の場合,γの値が異なる陰極材料を用いたパネル実験よりも容易なコンピュータ による放電シミュレーションにより計算した。図 3.5に二次電子放出係数(γ)の倍 数と発光効率の関係を示す。発光効率はHe–Xe(10 %)の混合ガス条件で,セルの 入力電力に対する蛍光面に到達する紫外線の電力の比で表したものである。この
計算には第2章で述べた,電子,4種のイオン,7種の励起粒子を扱う局所場近似 による一次元放電シミュレーションを用いている。図の横軸のγの倍率は,Ni陰 極のイオンと準安定原子および光子におけるγの値 [4]を基準として,それら全て を何倍にしたかを示す値である。γの値は陰極材料や入射する粒子により異なり,
このように単純に変化しないが,γの値が放電特性に及ぼす影響を調べる目的で倍 数を掛ける方法を用いた。
この結果から,ここでの計算条件では陰極材料のγの値の違いが発光効率に及 ぼす影響はそれほど大きくないことがわかる。その上実際に,パネルに封入する ガスの種類にも関係するが,ここでの条件He-Xe(10 %)混合ガスでは,AlとMgO を使用したパネルの動作電圧は共に250 V程度で差が見られなかったことから,γ の値は大差無いものと考えられる。これらの結果から,ここで目的のAC型とDC 型セルの発光効率の比較実験の妥当性が確認できた。なお,このガス組成におけ る動作電圧はAC型で広く用いられているNe-Xe系の混合ガスに比べて50 V程度 高くなっている。
3.4 実験パネルにおける発光効率の測定と考察
3.4.1 発光効率の比較実験
表 3.2に測定したAC型とDC型パネルの輝度と発光効率の比較を示す。AC型
パネルを20 kHzのパルスで駆動した場合の発光効率は0.67 lm/Wとなった。この
発光効率はパネルの誘電体層とMgO層の透過率を80 %として補正した値である。
図 3.6に,この誘電体層とMgO層の透過スペクトルの測定例を示す。
一方DC型パネルは,陰極の本数が多くなる大型パネルでも輝度が低下しないパ ルスメモリー駆動法[5]により,実際の動作に近い条件で発光効率を測定した。この 場合,放電電流のピーク値はAC型に比べて1/5程度になり,発光効率は0.47 lm/W となった。ここでの測定条件での輝度は共に200 cd/m2 程度であるが,発光効率 はAC型セルの方がDC型に比べて40 %程度高くなっている。この理由について は,次に示す近赤外発光の測定結果などと合わせて議論する。
表 3.2 AC型とDC型実験パネルの輝度と発光効率の比較
Peak discharge Brightness Luminous efficiency
Panel driving method current(mA) (cd/m2) (lm/W)
AC-type cell 1.08 198 0.67 20 kHz(40 kpulses/sec)
DC-type cell 0.20 208 0.47 Pulse memory drive
λ
図 3.6 AC型実験パネルの誘電体層とMgO層の透過スペクトル
3.4.2 近赤外発光波形の測定
AC型とDC型セルの発光効率の違いについての知見を得るために,Xeの共鳴
線147 nmと分子線173 nmの発光に密接に関係する近赤外光と放電電流の波形に
ついて測定した。この近赤外光は820∼830 nmの波長域であり,Xeの2p準位から 1s4と1s5準位への遷移過程で放射される。図 3.7にAC型パネルの印加電圧と近 赤外光および放電電流の波形を示す。測定に当たっては,パネルの1行分60セル を同時に繰り返し点灯させ,前述した信号の積算により雑音成分を取り除いてい る。また,近赤外光は光電子増倍管(PMT:Photomultiplier Tube)を用いて測定 した。図 3.7に示すようにAC型セルの放電電流と近赤外光は,同様の形状を呈し
半値幅は50 ns程度で急峻な波形になっている。
図 3.8に放電電流を変化させ近赤外光の強度を測定した結果を示す。この場合,
放電電流が2倍に増加しても近赤外光の強度は高々30 %程度の増加に留まり,飽 和傾向を示している。しかし,DC型パネルでは既に報告した放電電流の波形や紫
μ
図 3.7 AC型実験パネルの放電電流と近赤外発光波形の測定例
図 3.8 AC型実験パネルの最大電流と近赤外線強度の関係
外線の発光波形などからわかるように,このような飽和傾向は現れていない[3]。
3.4.3 発光効率を決定する要因についての考察
これまでに述べた近赤外光の測定実験の結果は,AC型セルがDC型に比べて発 光効率が低下する要因である。AC型セルはDC型に比べ放電電流の最大値が数倍
大きいため,電子密度も大きく累積電離や階段励起などにより,Xeの1s4や1s5
準位の原子密度が放電電流に対して比例しなくなることから,紫外線の発生効率 は低下する。さらに,紫外線の発光に関与する粒子の生成が放電電流の急峻な増 加に追従しないことも考えられる。
しかしここでの測定条件では,これらの考察とは逆に測定した発光効率は歴然 としてAC型セルの方が40 %程度高い結果が得られている。その理由として,DC 型セルのXe∗(1s4)など共鳴準位原子の密度分布が陰極や陽極近傍,すなわち蛍光 面に近い部分に分布することで,発光と吸収を繰り返して伝搬する共鳴放射の閉
じ込め[6, 7]の影響が少なく(光学的に薄い),効率良く蛍光体を励起しているこ
とが推測できる。このように紫外線の伝搬時間が短い場合には,累積電離や階段 励起に伴う共鳴準位原子の遷移が少なくなるために発光効率は高くなる。一般に 放電電流が大きくなると陰極降下部が陰極側に移動し,共鳴準位原子など励起原 子の分布も同様に陰極に近づいてくる。この傾向は,図 3.5の二次電子放出係数 と発光効率の関係を調べた時の計算や,第 5章で述べるPDPの二次電子の逆拡散 に関する解析などで確認している。