第 2 章 AC 型および DC 型セルの一次元放電シミュレーション 16
2.2 一次元シミュレーションの解析方法
2.2.1 AC 型と DC 型セルの構造と動作原理
ここで解析の対象としたAC型とDC型放電セルの原理図を図2.3に示す。図(a) は電極が誘電体層に覆われているAC型セル,図(b)は電極が放電空間に露出し ているDC型セルである。AC型セルに正と負の極性のパルスを印加すると,放電 を開始するが誘電体層に電荷が蓄積されるのでガス空間の電界が弱まり100 ns程 度の期間で放電は止んでしまう。一方DC型セルには正極性で1μs程度の幅の繰 り返しパルス電圧を印加すると,直列接続された抵抗で電流が制限されパルス幅 とほぼ等しい期間放電電流が流れる。このように電流制限の機構や放電電流が流 れる期間が1桁程度異なるなど,放電動作に違いが見られるが詳細は2.4.1項で述 べる。
図 2.4 He-Xe混合ガス中の主要エネルギー準位と遷移過程
2.2.2 He-Xe 混合ガス中の放電素過程モデル
PDPの封入ガスはHeやNeガスを母体とし,発光のためにXeガスを数%程度 混合したものが一般的である。DC型PDPにおいて,He-Xe混合ガスは輝度や発 光効率の点で有望であることが実験 [10]で見いだされていることから,ここでは
He-Xe混合ガスを解析の対象とする。
モデリングには,電子,4種のイオン(He+,He+2,Xe+,Xe+2)と,PDPの放 電に重要な7種の励起粒子[He∗triplet,He∗singlet,He∗2,Xe∗(1s4)(パッシェン 記法を使用),Xe∗(1s5),Xe∗2U,Xe∗2YZ)]を選び,計12種の粒子を扱った。ここに 扱った分子種は,PDPのような数十kPa程度の高ガス圧放電ではその存在を考慮 する必要がある。図2.4に,これら12種の粒子について,電子衝突電離および励起,
電荷転移,ペニング電離,放射遷移,解離性再結合などの遷移過程を示す[6, 8]。
2.2.3 粒子密度連続の式とポアソンの式および境界条件
本解析では電離および励起係数,ドリフト速度などが,現在位置における電界 だけによって決まると仮定する局所場近似(LFA: Local Field Approximation)を
適用した。この近似には磁界による効果を考慮していないが,その理由にも触れ ておく。ラーモア半径rL(サイクロトロン半径)が平均自由行程λに比べて小さ くなると電子は磁化される。すなわち,平均衝突時間をτ,サイクロトロン周波数 をωcとすると,磁化される条件となるホールパラメーターhは,
h≡ωcτ =λ/rL>1 (2.1)
となる。そこで,電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance) プラズマで一般に用いられている共鳴磁界0.0875 T,希ガスの平均自由行程など から見積もると,133 Pa(1 Torr)程度以下でないと磁界の影響は現れないことが わかる。
次に,シミュレーションの基本となる粒子密度連続の式とポアソンの式および これらの式に与える境界条件について述べる。
(1)粒子密度連続の式
粒子sの粒子密度連続の式は次式で表される。
∂Ns
∂t + ∂Φs
∂x =Gs(x, t)−Ls(x, t) (2.2) ここで,Ns,Φsは,それぞれ,粒子sの密度,粒子束密度,Gs,Ls は粒子sと他 の粒子との反応による粒子sの生成および消滅項を示す。式 (2.2)のΦs は,ドリ フト速度vsと拡散係数Dsを用いて次のように表される。
Φs =vsNs−Ds
∂Ns
∂x (2.3)
式(2.2)で示した粒子密度連続の式は,電子,イオン,励起粒子について12種類
(s=1∼12)が作られる。この式の中で,He∗singlet,Xe∗(1s4)などの共鳴準位の原 子については,後述する式(2.17)で示される共鳴放射の閉じ込め [11, 12]が含まれ
ている [3]。また,Lsの項には拡散係数から実効的な寿命として近似したセル隔壁
での粒子の損失を含めている [13]。
数値解析のために式 (2.2)は精度や計算速度などを考慮して電極間を50の均等 格子に分割し,有限体積法(FVM:Finite Volume Method) [7, 14]により離散化 して,陽的解法で時間進展を計算した。この時間刻みΔtは計算時間や安定性を考 慮し,最も高速の粒子が格子の1/2を通過する時間として,各時間毎に算出して いる。
表 2.1 Ni陰極の二次電子放出係数(γ)の値 By particles By photons He+ 0.152 He∗singlet 0.102 He+2 0.140 He∗2 0.109 Xe+ 0.0027 Xe∗(1s4) 0.007 Xe+2 0.00019 Xe∗2U 0.005 He∗triplet 0.17 Xe∗2YZ 0.001 Xe∗(1s5) 0.032
(2)ポアソンの式
セル内に分布する電子,イオンによる電界Eは次に示されるポアソンの式を積 分することによって得られる。
∂E(x, t)
∂x = ρ(x, t)
ε (2.4)
ここで,ρは極性を考慮した電荷密度であり,その位置(x)と時間(t)における電子 とイオンの密度の総和,εはガスの誘電率であり,計算には真空誘電率を用いた。
この電界計算の積分定数の計算には,次に示す電極に印加される電圧Vgを境界条 件として与える必要がある。
(3)境界条件
粒子密度連続の式 (2.2)およびポアソンの式(2.4) を解くためには,陰極と陽極 における粒子密度や電位などの境界条件を与える必要がある。
1 粒子密度連続の式に与える境界条件
電子の式には,陰極にイオン,準安定原子,光子が入射して生成する二次電子 の電子束密度Φeを,陽極に密度が零を境界条件として与える。二次電子束密度Φe
は次式で求められる。
Φe=γiΦi+γmΦm+γpΦp (2.5)
ここで,Φi,Φm,Φpは,それぞれ,イオン束密度,準安定原子束密度,光子束密 度を表す。また,γi,γm,γpはイオン,準安定原子,光子の二次電子放出係数で あり,計算に使用した値を表 2.1 に示す [15]。
イオンの式には,陰極直前のイオン束密度を一定,陽極の密度を零とする。ま た励起粒子の式には,陰極と陽極の密度を零とする。
2 ポアソンの式に与える境界条件
印加電圧Vaを境界条件として与えるが,解析には電極間電圧Vgを計算して,放 電空間の電界を求める。AC型とDC型セルの電極間電圧Vgは,次の外部方程式 で計算される。
Vg(t) = − d
0 E(x, t)dx
=
⎧⎪
⎨
⎪⎩
Va(t)− 1 C
t
0 Id(t)dt (for AC-type) Va(t)−Id(t)R (for DC-type)
(2.6) ここで,dは電極間距離,Vaは印加電圧,Id は両電極に形成した誘電体層に流入 する放電電流の和,Idは放電電流,Cは誘電体層の静電容量,Rは電流制限抵抗 の抵抗値である。また,式(2.6)のIdは次式で計算される量である。
Id(t) = Sq d
d
0 (veNe−ΣviNi)dx (2.7) ここで,veとviは電子とイオンのドリフト速度,NeとNiは電子とイオンの密度,
qは素電荷,Sは電極の面積である。
以上の境界条件で計算を進めると,放電初期の状態では,低密度の電子とイオ ンはセル内に一様に分布しているため電界Eは一定であるが,放電が進展してく ると高密度の電子は陽極側,イオンは陰極側に分布するために,陰極近傍にシー ス(鞘)が見られ電界歪みが生じてくる。