• 検索結果がありません。

F0 のバリエーションの効果と知覚能力の関係(研究課題 2)

第 5 章 考察

5.4 F0 のバリエーションの効果と知覚能力の関係(研究課題 2)

本 節 で は F 0 の バ リ エ ー シ ョ ン の 効 果 が ア ク セ ン ト の 知 覚 能 力 と 関 係 す る か 否 か に つ い て 考 察 す る 。

ま ず , 産 出 能 力 に つ い て 考 察 す る 。 直 後 テ ス ト に お い て , い ず れ の バ リ エ ー シ ョ ン 条 件 も 相 関 係 数 は r= . 0~. 3 と 小 さ か っ た 。 ま た 無 相 関 の 検 定 で は , 「 バ リ エ ー シ ョ ン 高 」 の み に

93

弱 い 正 の 相 関 が 見 ら れ た 。 つ ま り , 「 バ リ エ ー シ ョ ン な し 」 と 「 バ リ エ ー シ ョ ン 中 」 条 件 で は , 学 習 効 果 は 対 象 者 の 知 覚 能 力 と 関 係 し な い と 言 え る 。 一 方 「 バ リ エ ー シ ョ ン 高 」 の 場 合 , 知 覚 能 力 が 高 い ほ ど , 学 習 効 果 も 高 く な る 傾 向 を 示 し た 。 「 バ リ エ ー シ ョ ン 高 」 条 件 は 声 調 学 習 を 検 討 し た P e r r a c h i o n e e t a l .(2 0 1 1) と 類 似 し た 結 果 が 得 ら れ た 。

遅 延 テ ス ト に お い て は , 相 関 係 数 が r= . 0~. 1 と 直 後 テ ス ト よ り 小 さ か っ た 。 ま た 無 相 関 の 検 定 の 結 果 , い ず れ の バ リ エ ー シ ョ ン 条 件 に も 有 意 な 相 関 が 見 ら れ な か っ た 。 先 行 研 究 で は 遅 延 テ ス ト を 行 っ て い な い た め , 直 接 比 較 す る こ と は で き な い が , P e r r a c h i o n e e t a l .

(2 0 1 1) の 研 究 と 異 な る 傾 向 が 見 ら れ た 。 さ ら に , 知 覚 能 力 は ア ク セ ン ト 習 得 と 関 係 す る

と 指 摘 し て い る 高 橋 (2 0 1 3) と も 異 な る 結 果 と な っ た 。

本 研 究 で は , 概 ね 相 関 が な い 結 果 と な っ て い る 。 本 研 究 の 対 象 者 は 中 上 級 の 中 国 語 母 語 話 者 で あ り , 全 体 的 に 知 覚 の 成 績 が 高 か っ た の で , 相 関 が 見 ら れ な か っ た と 思 わ れ る 。 本 研 究 の 対 象 者 よ り 知 覚 が 苦 手 な 対 象 者 を 対 象 に 調 査 を 行 う と , 異 な る 結 果 が 得 ら れ る か も し れ な い 。

受 容 能 力 に お い て は , 直 後 テ ス ト の 場 合 , 相 関 係 数 は r= . 0~. 1 と 小 さ く , い ず れ の バ リ エ ー シ ョ ン 条 件 に も 有 意 な 相 関 が 見 ら れ な か っ た 。 ま た 遅 延 テ ス ト に お い て も ,r= . 0~. 2 で , 有 意 な 相 関 が 見 ら れ な か っ た 。 受 容 能 力 の 結 果 は , 上 述 の 産 出 能 力 の 結 果 と 類 似 し て い る 。 こ の 点 も P e r r a c h i o n e e t a l .(2 0 1 1) や 高 橋 (2 0 1 3) の 指 摘 と 異 な っ て い る 。

バ リ エ ー シ ョ ン 条 件 別 で は , 知 覚 能 力 と の 関 係 が 確 認 で き な か っ た が , 高 橋 (2 0 1 3) や 松 崎 (2 0 0 2) で は , 知 覚 能 力 は ア ク セ ン ト 習 得 と 関 係 す る と 指 摘 さ れ て い る 。 そ こ で , 高

橋 (2 0 1 3) と 松 崎 (2 0 0 2) の 指 摘 に 基 づ き , ア ク セ ン ト の 学 習 効 果 と 知 覚 能 力 の 関 係 を 検

討 す る 。 表 5 - 2 は 全 体 の 伸 び 率 と , 知 覚 課 題 の 相 関 係 数 を 表 わ し た も の で あ る 。 産 出 能 力 に つ い て , 直 後 テ ス ト に 弱 い 正 の 相 関 が 見 ら れ た が (r= . 3 2 3) , 遅 延 テ ス ト に は 有 意 な 相 関 が 見 ら れ な か っ た 。 受 容 能 力 に お い て , 直 後 テ ス ト に も 遅 延 テ ス ト に も 有 意 な 相 関 が 見 ら れ な か っ た 。 表 5 - 2 に 示 す よ う に , 知 覚 能 力 は 本 研 究 の 学 習 効 果 と 関 係 す る 場 合 も あ る 。 対 象 者 が ど の 程 度 ア ク セ ン ト を 学 習 で き る か は , 知 覚 能 力 に も 影 響 さ れ る が , 効 果 の 持 続 に は 影 響 し な い 結 果 こ と が 示 唆 さ れ て い る 。

94

表 5 - 2 全 体 の 伸 び 率 と 知 覚 課 題 の 相 関 係 数

測 定 能 力 r P

産 出 能 力

直 後 テ ス ト . 3 2 3* . 0 4 8 遅 延 テ ス ト . 1 8 7 . 2 6 1 受 容 能 力

直 後 テ ス ト . 1 1 0 . 5 0 9 遅 延 テ ス ト . 2 9 4 . 0 7 3

ま ず は 知 覚 課 題 の 成 績 に つ い て 検 討 す る 。 本 研 究 で 実 施 し た ア ク セ ン ト の 知 覚 課 題 の 正 答 率 は , 平 均 8 0 %ほ ど と 高 く , 天 井 効 果 に 近 い 結 果 だ っ た 。 正 答 率 が 7 0 %未 満 の 対 象 者 は 5 名 の み で , 残 り は 7 0 %~1 0 0 %と 正 答 率 が 高 く , ば ら つ き が 小 さ か っ た 。 こ れ は , 中 国 語 母 語 話 者 は 音 の 高 低 に 慣 れ て お り , か つ 日 本 の 大 学 に 在 学 中 の 中 上 級 者 を 対 象 に し た た め だ と 考 え ら れ る 。

相 関 を 見 る 際 は , よ り ば ら つ き が 大 き い デ ー タ , か つ 全 体 の 正 答 率 が よ り 低 い デ ー タ が 必 要 だ と 考 え ら れ る 。 今 後 , 本 研 究 の 対 象 者 よ り 知 覚 が 苦 手 な 中 国 語 母 語 話 者 , ま た は 他 の 母 語 話 者 を 対 象 に す る 研 究 が 必 要 に な る と 考 え る 。

さ て , 知 覚 能 力 と 受 容 能 力 と の 相 関 が 見 ら れ な か っ た に も か か わ ら ず , な ぜ 産 出 能 力 と の 間 に 弱 い 相 関 が 見 ら れ た の だ ろ う か 。2 章 で 述 べ た よ う に ,L e v e l t(1 9 8 9) の 言 語 産 出 モ デ ル に よ る と , 音 声 習 得 に 関 連 す る 能 力 は 少 な く と も 知 覚 能 力 , 記 憶 , 自 己 モ ニ タ ー , 音 調 調 整 (a r t i c u l a t i o n) な ど が あ る 。 日 本 語 の ア ク セ ン ト 習 得 に 関 し て も , ア ク セ ン ト の 知 覚 能 力 , ア ク セ ン ト の 記 憶 , 自 己 モ ニ タ ー , ピ ッ チ の 調 整 が 関 連 す る と 指 摘 さ れ て い る ( 高 橋 ,

2 0 1 3) 。 こ の よ う に , 知 覚 能 力 を 除 い て , 産 出 能 力 と 関 係 し 得 る 能 力 は , 記 憶 , 自 己 モ ニ

タ ー , ピ ッ チ の 調 整 の 3 つ で あ る 。 そ の 3 つ の 中 で も , 直 接 産 出 能 力 と 知 覚 能 力 と 関 係 す る 可 能 性 が 高 い の は 自 己 モ ニ タ ー で あ る と 考 え る 。 な ぜ な ら , 自 己 モ ニ タ ー は 自 分 が 発 音 し た 音 声 を 聞 き 取 っ て , ど の よ う に 発 音 し た か , 正 確 か ど う か な ど 判 断 す る 能 力 で あ り , 産 出 と 知 覚 の 両 方 が 含 ま れ る た め で あ る 。

U e m u r a(2 0 0 2) は 韓 国 語 母 語 話 者 に よ る 日 本 語 の 有 声 子 音 と 無 声 子 音 の 知 覚 , 産 出 , 自

己 モ ニ タ ー を 検 討 し た 。 そ の 結 果 , 知 覚 能 力 と 産 出 能 力 の 相 関 係 数 は r= . 3 8 3(p= . 1 1 7) で , 自 己 モ ニ タ ー と 産 出 能 力 の 間 に 強 い 相 関 が 見 ら れ た (r= . 9 1 1,p< . 0 1) と 報 告 し て い る 。

95

U e m u r a(2 0 0 2) は , 産 出 能 力 と 直 接 関 係 す る 能 力 は 知 覚 能 力 で は な く , 自 己 モ ニ タ ー で あ

る こ と を 明 ら か に し て い る 。 ま た ,U e m u r a(2 0 0 2) で 得 ら れ た 産 出 能 力 と 知 覚 能 力 の 相 関 係 数 は , 本 研 究 と 類 似 し て い る ( 本 研 究 の 相 関 係 数 は r= . 3 2 3 で あ る ) 。 こ れ ら の こ と か ら , 本 研 究 で 見 ら れ た 相 関 は , 疑 似 相 関 で あ る 可 能 性 も あ る ( 図 5 - 3) 。

産 出 能 力 自 己 モ ニ タ ー 知 覚 能 力

図 5 - 3 自 己 モ ニ タ ー , 産 出 能 力 , 知 覚 能 力 の 関 係

仮 説 と し て , 自 己 モ ニ タ ー は 直 接 知 覚 能 力 と 産 出 能 力 と 関 係 し て い る が , 産 出 能 力 と 知 覚 能 力 は 直 接 関 係 し て い な い 。5 . 3 で も 述 べ た よ う に , 本 研 究 の 結 果 は 対 象 者 の 個 人 差 に 強 く 影 響 さ れ て い る 可 能 性 が あ る 。 そ し て , 図 5 - 3で 表 し て い る 仮 説 が 正 し け れ ば , 知 覚 能 力 よ り も , 自 己 モ ニ タ ー の ほ う が 個 人 差 を 説 明 す る た め の , よ り 有 効 な 説 明 変 数 と な る 可 能 性 も あ る 。

96