2.5 開弦と閉弦の相互作用
2.5.2 Ellwood の予想
[26] はW(Ψ,Vα)が、開弦場の古典解が表す非自明な境界条件を持つDisk 上のclosed
state Vα の一点関数に関係づくことを形式的に示した。ここではその議論を説明する。
QB-exact stateとon-shellの二点関数がon-shell一点関数になること
Disk 上のclosed string の二点関数を考える(図.6)。弦の場の理論の文脈ではIdentity
stateを用いて次のように表される。
A(V1,V2) = hI|V1(i)b0
∫ ∞
ε/2
dT e−L0TV2(i)|Ii (2.85) Identityを使っているので、中点でのconical singularityを排除するため、V1,V2はweight (0,0) プライマリーでなければならない。εはworld sheetのUV cut-offである。ここで V1 = QBOと書ける場合を考える。この時、{QB, L0} = b0、QB|Ii = 0、そしてV2が on-shell{QB,V2}= 0であることを使うと、二点関数はT 積分の表面項に書き直せる。
hI|[QB,O(i)]b0
∫ ∞
ε/2
dT e−L0TV2(i)|Ii
=−hI|O(i) {
QB, b0
∫ ∞
ε/2
dT e−L0T }
V2(i)|Ii=−hI|O(i)e−L0T∞
T=ε/2V2(i)|Ii (2.86) T → ∞は落ちるので、結局
hI|O(i)e−L0ε/2V2(i)|Ii (2.87) となる。ε→0の極限を取るのでOとV2はOPEを取られてそれをΩとしよう(図.7(上))。
振幅(2.87)の時間と空間座標を入れ替えると、始状態|Ωiのclosed stringが伝播し、境界 で終わると解釈できる(図.7)。ここで注意すべきことはOPEは特異性を持つ。なぜなら QB周りの真空にはタキオンモードが存在するからである。このような項は無限時間のプ ロパゲートによって発散するので、解析接続か差っ引いてしまわなければいけない。特 異性がなくなれば|Ωiは無限時間の伝播の後も生き残れるのは(L0+ ¯L0)|Ωiしかいない。
よって我々は|Ωiのphysical stateだけを取り出して{QB,|Ωi}= 0とする。よってこれは on-shellのclosed string 一点関数である。
ε ε
π 2 O
V2
hΩ|
1/ε
|Bi
|Bi
図 7: QB-exactなclosed vertexが挿入されたamplitudeは、無限小のプロパゲート時間のグラ フのみ効く(上)。二つの演算子は非常に近いのでOPEが取りon-shell閉弦のツリーと見なせる (下)。|Biはboundary state.
open string back groundの中のclosed string 一点関数
以上の議論をopen string がVEVを持つ場合にも拡張する。第2.4節で見たように、真 空のシフトΨ→Ψcl+ ΨはBRST演算子のシフト
QB → QB+ [Ψcl, ] (2.88)
で実現できる。これに伴って新しいプロパゲーターは旧プロパゲーター(QB周りのプロ パゲーター)にあらゆる場所にΨclを挿入したものを、Ψcl数で足しあげたものとなる。代 数的にこのプロパゲーターを書き下すためにadΨclを定義しよう。
adΨclΦ≡Ψcl ∗Φ−(−1)|Φ|Φ∗Ψ (2.89) そして旧プロパゲーターを
D=
∫ ∞
0
dT e−L0T (2.90)
と書くと、状態AとBの間を結ぶ新しいプロパゲーターは
∑∞ n=0
hA|b0D(adΨclb0D)n|Bi (2.91) となる。よってopen string 背景におけるcosed stringの二点関数は、(2.85)の旧プロパ ゲーターをこの新プロパゲーターに置き換えればよく、
A(V1,V2) =
∑∞ n=0
hI|V1(i)b0D(adΨclb0D)nV2(i)|Ii (2.92) を考える。再びV1 ={QB,O}として、更にΨclが運動方程式の解であることを用いると
−
∫ ∞
ε/2
dT ∂
∂T
∑∞ n=0
(∞
∏
i=0
∫ ∞
0
dTn
) δ
( T −
∑n i
Ti
)
hI|O(i)DT0
( n
∏
i=1
{b0,adΨclDTi} )
V2(i)|Ii (2.93)
ここで
DTi =b0e−TiL0 (2.94)
とした。これは再び表面項となる。
∑∞ n=0
(∞
∏
i=0
∫ ∞
0
dTn )
δ (
ε 2−
∑n i
Ti )
hI|O(i)DT0 ( n
∏
i=1
{b0,adΨclDTi} )
V2(i)|Ii (2.95) ε → 0に伴ってOとV2のOPEを取れば良いのだが、ここで以前には無かった問題が発 生する。今古典解の挿入があり、b-ghostの線積分も入っているため、演算子同士を近づ けるには世界面のgeometryが複雑すぎるのだ。そこでworld sheetのre-parametrization を用いて現在π
2 まである挿入をh < π2 まで下げることにする。これは場Ψclのゲージ変換 で行える12。boundary近傍のgeometryとOとV2の挿入された部分は完全に分離された ので、前節で行ったようにOとV2のOPEを取り、そのOPEからnon-physical modeを 落とす。よってQB|Ωi= 0である。
ユニタリティーの要請より、この振幅はboundary conditionがΨclで与えられるdisk上
のclosed stringの一点関数と解釈すべきである。一般性を失わずに
Ω =(
∂c−∂¯c¯)
c¯cOm ≡(
∂c−∂¯c¯)
V (2.96)
として良い。ここでOmはweight (1,1)のmatterプライマリー場である13。 Ψclで展開する
boundaryにn本の古典解Ψc`が突き刺さった一点関数のnに関する足しあげとなってい
るのだが、実はn = 0,1しか効かないということがおおまかな古典解の推察から得られ る。厳密ではないが多くの古典解では成立している条件である。このことを信じると
AdiskΨ (V) = Adisk0 (V) +W(Ψ,V) (2.97) が得られる。
重力結合とGIO
さて特にclosed stateとしてgraviton modeを取れば、上の議論からW(Ψ, c∂X¯c∂X¯ )は 重力結合を表し、Dブレインのエネルギーを測るはずである。しかし第6節で見るよう に、実はGIOだけでは不十分であるという結果を得ている。つまり上記の証明はどこか で修正されなければいけないはずである。
12実は(2.95)はεが有限である限り、Ψclのゲージ変換の下で不変ではない。よって高さをhにすると
O(h)の補正が付いてくる。実はε→0の極限でこの補正は消えることが言えるので、この方法を採用する ことにする。
13Oがゴースト数1でweightが(0,0)、V2がゴースト数2でweightが(0,0)。よってΩはゴースト数3 でweight(0,0).
3 KBc 代数と解析解
M.Schnablは長年その存在が予想されていたタキオン凝縮解をCubic String Field The-ory(CSFT)において発見した[4, 6]。[4]では、解に “Schnablゲージ条件B0|Ψi= 0”の仮 定を置くことで解の発見に成功している。このSchnablゲージ条件とは “sliver frame”と 呼ばれる特殊な座標系におけるFeynman-Siegelゲージ条件である。sliver frameとは弦の 場同士の積∗が簡単に扱える座標系である。近年の古典解構成はこのsliver frame上で行 われることが多く、またsliver frameにおける世界面の生成演算子Kとゴーストで定義さ れる“KBc代数”が重要な役割を果たしている。本研究においても弦の場をsliver frame 表示し、またKBc代数を基本にした解のクラスを研究する。この章では議論の準備とし て、sliver frame、KBc代数、そしてKBc代数によって構成される古典解について説明 する。
3.1 Sliver 座標
第2.3節で見たように、上半面(upper half plane (UHP))での∗積による弦の貼り合わ せは非常に複雑な計算を強いられる。そこで∗積(2.59) が見通しのよくなる座標に物理 を移して考えることにする。UHP座標を(ξ,ξ)¯ でラベルし“sliver frame (z,z)”¯ を以下で 定義する14。
z =f(ξ) = 2
πArctan ξ (3.1)
arctan関数は多価関数であり、ξ=±iにポールを持ち虚軸上の[i, i∞],[−i,−i∞]にbranch cutを持つ。arccot関数はξ=±iにポールを持ち、[−i, i]の範囲にbranch cutを持つ(図.8)。
以後Arctanξの主値[−π/2, π/2]を採用する。写像(3.1)でUHPの各領域は次のように写 像される(図.9)。
単位半円:{|ξ| ≤1,Im(ξ)≥0} → {−f 1/2≤Re(z)≤1/2,Im(z)≥0} (3.2) CP : {|ξ| ≥1,Im(ξ)≥0} → {−f 1≤Re(z)≤ −1/2,1/2≤Re(z)≤1,Im(z)≥0}
(3.3)
14今後使うArctan関数の諸性質をメモしておく。
arctan (ξ) = 1
2ilog1−iξ 1 +iξ
arctan (−ξ) =−arctanξ, arctanξ−1= arccotξ=π
2 −arctanξ, d
dξ(arctanξ) = 1 1 +ξ2
0 0 i
−i
i
−i
z z
図8: Arctan関数は多価関数ゆえbranch cutが存在する(左図)。Arccot関数のbranch cut (右図)。 coordinate patch (CP)とはUHP上の|ξ| >1の部分に対応し演算子の挿入ができない場 所である。この座標に移る利点はstringの右足と左足が直線に移ることである。
R :{
ξ =eiθ0≤θ≤π/2}
→ {z = 1/2 +i2/πArctan(θ/2)} L :{
ξ =ei(π−θ)0≤θ ≤π/2}
→ {z =−1/2 +i2/πArctan(θ/2)}
∗積は二つ弦座標の右足と左足を貼り合わせる操作であったことを思い出すと、sliver座
R L
L R
M
M
M
−1 1
L R
0 π
(τ,σ) ξ z
0 −1 −1/2 0 1/2 1
図 9: sliver座標:原点ξ = 0は原点z= 0へ、中点iは無限遠i∞へ移る。弦の右(R)と左(L)が 分離してRe(z) =±1/2の半直線となる。|0iは幅2の帯状の領域に移る。z=−1とz= 1は同一 視する。
標では(coordinate patchを除いた) 半無限の帯を横に並べていくだけでよい(図.10)。つ まり一つのFock stateはsliver frameでは幅1の帯に演算子が挿入された状態になるので、
Fock state二つの積は幅2の半無限の帯で表される。積分∫
演算子は、弦座標の右足と左 足を貼り合わせる操作だったので、作用は無限に長い円筒上の相関関数となる。
UHP座標、sliver frameにおけるconformal weight hのprimary場のモード展開をそれ
L R L R L R
∗ =
図 10: sliver座標におけるstar積。Ψ1∗Ψ2はΨ1の右足とΨ2の左足を貼り合わせるので、
coordinate patch を切り取って二つの足を同一視すれば良い。
ぞれ
φn = I dξ
2πiξn+h−1φ(ξ), φen= I dz
2πizn+h−1φ(z)e (3.4) と書くことにする15。互いの関係は
φen=∑
m
cm(n)φm, cm(n) = I dξ
2πi (π
2(1 +ξ2)
)h−1( 2
πarctanξ
)n+h−1
ξ−m−h (3.5) で与えられる。例えば共形次元2のエネルギー・運動量テンソル(D= 26でT =Tm+Tgh を考えるのでc= 0)のモード展開は、UHP上のVirasoro 演算子をLnで、sliver frameで のVirasoro 演算子をLnで表すと
L−1 = π
2 (L1+L−1) =L†−1 ≡ π
2K1 (3.6)
L0 =L0−2
∑∞ k=1
(−1)k
(2k+ 1)(2k−1)L2k (3.7)
等となる。ここでK1 ≡L1 +L−1と定義した。写像(3.1)はf(0) = 0, f0(0) = 1より、原 点付近の構造を変えないためにLnにもVirasoro代数が成り立つ。
[Ln,Lm] = (n−m)Ln+m (3.8) ゴーストについてもいくつか書いておくと
ec1 =c1 ec0 =c0 ec−1 =c−1−c1 ec−2 =c−2− 2
3c0, .... (3.9)
15doubling trickを用いて場は全平面で定義した。
等となる。反ゴーストはh= 2よりVirasoro演算子と同じである。
次にsliver frameにおけるBPZ共役(Appendix.A)を考える。sliver frameにおけるBPZ 共役は、zを一旦UHP座標に戻しI(ξ)(A.21)で無限遠にマップしたものをsliver frameに 戻したものとして定義する。即ち
zbpz =f(I(ξ)) = 2
πarctan (
−1 ξ
)
=z+ 1 (3.10)
BPZ共役はsliver frame においては並進となる。このことからも(3.3) のCPは共役な状 態の来る場所であることが分かる。演算子のBPZ共役を考える時には(特にモード展開)
(3.10)が Arctan 関数の分岐を跨いでしまう可能性があるために、積分路には注意が必要
である。例えばVirasoro演算子のBPZ共役は Lbpzn =−
I
CL
dξ
2πi(1 +ξ2) (−arccotξ)n+1T(ξ) (3.11) で与えられる。全体のマイナス符号はBPZ共役が積分路の回る方向を反転させる所から 来る。このことから
bpz (Ln) = (−1)nL†n (3.12) となり、sliver frame でも(A.28) と同じ関係が成り立つことが分かる。
最後に後で重要になる演算子を導入しておく。L0とL†0の交換関係は [L0,L†0
]
=L0+L†0 ≡Lˆ0 = π
2(−K1L+K1R) (3.13) となる(Appendix.B参照)。ここでK1 ≡ L−1 =L†−1でありK1L, K1RはK1 =K1L+K1R を満たし、K1の積分路を図.11のように取った時、
K1L=
∫
ξL
dξ
2πi(1 +ξ2)T(ξ) =
∫
CL
dz
2πiT(z) (3.14)
K1R=
∫
xiR
dξ
2πi(1 +ξ2)T(ξ) =
∫
CR
dz
2πiT(z) (3.15)
と表されるものとして定義した。(3.13)の証明はAppendix.Bに回す。Lˆ0の被積分関数に 現れる(Arctan ξ+Arccotξ)が虚軸上にbranch cut を持つために、積分路を左と右に分 けてそれぞれK1L, K1Rとした。このK1L(K1R)はsliver frame での世界面のハミルトニ アンになっていることが次節で分かる。反ゴーストもconformal weightがVirasoro演算 子と同じゆえ同じ関係が成り立つから、K1L, K1Rに対応してB1L, B1Rを定義しておく。
Bb0 ≡ B0+B†0 = π
2(−B1L+B1R) (3.16) B1L, B1Rの積分路はそれぞれCL, CR(図.11)で与えられる。K1L, K1R及びB1L, B1Rには
semi-derivationが成り立つ。但し反ゴーストの方はグラスマン数なので符号に注意する。
K1L(Ψ1∗Ψ2) = (K1LΨ1)∗Ψ2
0
z
CL CR
i∞
−i∞
図 11: 経路CLはi∞から原点の左を通って−i∞へ向かう経路、経路CRは−i∞から原点の右 を通ってi∞へ向かう経路。
K1R(Ψ1∗Ψ2) = Ψ1∗(K1RΨ2) (3.17) B1L(Ψ1∗Ψ2) = (B1LΨ1)∗Ψ2
B1R(Ψ1∗Ψ2) = (−1)Ψ1Ψ1∗(B1RΨ2) (3.18)