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【タッピング随伴条件】要求行動としてのタイコ叩きvs好子随伴中のタイコ叩き

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考察

 アセスメントの段階で、A児には2つの「SCB」が出現していることが同定された。す なわち、「口唇音(プ・パ)」と「物を叩いて音を出す行動」である。「口唇音」は声帯を 振動させないで口唇のみを使って音を出すものであるが、A児の場合、観察時間中の15.8%

の時間この行動に従事していた。この「口唇音」の機能分析をMASで行ったところ、当 時の担当者と本研究者のどちらもが、<物や活動の要求機能>によって維持されていると 評価した。また、<スキンシップ>やくハチミツ水>という随伴条件によってその頻度が 変化することから、A児による「口唇音」は単なる自己刺激としてだけでなく、他者から

の働きかけに応じたり、あるいは他者の働きかけを要求するコミュニケーション機能によ って維持されているのではないかと考えられた。しかし、「口唇音」を要求行動へと移行 させていくトレーニングにおいて、身体的なプロンプトが困難であり、全盲のA児に対 してモデリングを用いることも困難が予測された。

 そこで、本研究の実験では「物を叩いて音を出す行動」を採用することにした。「物を 叩いて音を出す行動」とは、車椅子の側面を叩く行動や長座位における床叩きがそれに相 当し、トレーニング場面で身体的プロンプト可能な量的に観察測定可能な行動である。こ の「物を叩いて音を出す行動」は、アセスメント当初その代替行動としてのBM(ビッグ マック)をすでに設置させてあったこともあり、BMを叩く行動を除外した「物を叩く行 動」としては観察時間中の1.8%の出現率であった。A児の常同的な行動としては低頻度 の部類に入る。この「物を叩いて音を出す行動」の機能分析をMASで行ったところ、当 時の担当者は当初く自己刺激機能>を第1位とし、本研究者はく物や活動の要求機能>を 第1位として評価し、両者の間にずれがあった。しかし、担当者にA児への観察をさら に促し当該行動が他者との交信行動的意味を含んでいる場面を指摘していくうち担当者の 評価も、「物を叩いて音を出す行動」がSCBである可能性について合意へと変化した。

 本研究は、SCBを起点としたコミュニケーティブな行動の形成をテーマとしているが、

SCBであるかどうかの判断や評価は、当該行動を観察する場面や観察者によって必ずし も一致しにくいという難点がある。であればむしろ、SCBであるかどうかの確認よりも、

自己刺激行動それ自体から出発して、SCBを経て、交信行動へ移行していくプロセスを 実験的に設定すれば良いのではないかと考えられた。すなわち、感覚性刺激によって維持 されていた行動が、他者からのフィードバックを受け続けることで今度は他者に向かって 要求していく機能と自己刺激機能の両方を併用する段階に移り、さらに自己刺激機能によ る行動の発現が低減していって他者に積極的に強化子(好子)を要求していく行動が増加 する過程が検証されることが重要である。細淵(2003)は、自己刺激行動(常同行動)は その活用をはかる取り組みにより、能動的な外界との関わりにつながっていく可能性を有 することを示唆し、また、明らかな視覚障害を有する重症児の定位・探索行動の発達過程 を検討していく必要性を指摘した。本研究におけるA児に対する自己刺激行動からSCB の段階を経て交信行動へと移行させていく試みは、まさに、細淵(2003)の指摘した命題 であると考えられた。

 そこで、本研究では「物を叩いて音を出す行動」を観察しやすく測定しやすい「タイコ 叩き」に置き換え、まず、BLを測定した。その際、A児の「タイコ叩き」は、<タイコ だけ条件>とくタイコ+音楽条件>では頻度の維持に違いが見られた。すなわち、<タイ

コ+音楽〉では音楽導入時には一旦タイコ叩きが増加するが、時間経過とともにその頻度 は低減していった。これは、自己刺激的に生起している行動であっても外部からの別の刺 激に反応して変容することを示している。r一見外的環境から閉ざされた状態にあるよう に見えても、彼らは、環境刺激に大いに影響されつつ場面に適応しているjとする高橋・

高橋・堅田(1990)の説を裏付けている。

 さらに、BL期においてA児に観察された他の自己刺激行動をトポグラフィー別に分析 したところ、<唾出し><歯舌叩き>は音楽が導入された状況下で低減したが、<ロッキ ング><指吸い><手かざし>は逆に増加した。同じリズミカルな運動であっても、音楽 が鳴っている状況で低減するトポグラフィーと増加するトポグラフィーがあることがわか った。この結果は、Rappら(2004)の自己刺激行動の生起配分に関する研究結果のとお

りである。

 A児への介入「要求行動課題①第1期・第2期」では、全360試行のく音楽随伴条件>

を実施して、要求行動とみられる「タイコ叩き」と音楽随伴中に生起する自己刺激的な「タ イコ叩き」との頻度を比較した。この学習プログラムにおいては、タイコ設置段階で生起 する自己刺激行動としての「タイコ叩き」と音楽随伴状況下で生起する自己刺激的なrタ イコ叩き」に対する飽和化の処理がされていなかったため、要求行動とみなされるrタイ コ叩き」の頻度も増加したが、強化子(好子)随伴中の「タイコ叩き」の頻度は維持され たまま低減しなかった。ただし、第2期でくタッピング>を導入したところ、これについ ては導入時から自己刺激行動としての「タイコ叩き」と要求行動としての「タイコ叩き」

の問に頻度の差が明確に観察された。すなわち、タッピングが随伴されている最中にはA 児はタイコ叩きをほとんどせず、タッピングが終わると直後にタイコ叩きを生起すること で再度タッピングという強化子(好子)を入手していた。

 しかし、「要求行動課題①」の結果に対する全体的な評価としては、強化子(好子)随 伴中にも「タイコ叩き」が生起していることから、明確な要求行動としての「タイコ叩き」

が生起したとは言えなかった。

 それで、プログラムを見直し、強化子(好子)の種類を増やすこと、随伴時間の短縮、

1日のSS数を減らすことなどを取り入れた。そして最も重要なこととして、自己刺激行 動として生起しているrタイコ叩き」を一旦飽和化してしまうプロセスを導入した。自己 刺激行動の飽和化を図ることによって、その後に生起する「タイコ叩き」が自己刺激機能 によって起こっている行動ではないことが証明されると考えられた。自己刺激行動として の「タイコ叩き」を飽和化させるプロセスは、10秒間以上当該行動が停止するまで実施 された。さらに、外部からの感覚性強化子(好子)を導入した段階でもやはりこの飽和化 手続きを導入し、完全に自己刺激的でリズミカルな運動が一旦消滅するまで行われた。

その後に、ようやくトレーニングに移った。以下は、そのプログラムの流れである。

①触/聴覚性の自己刺激機能によってrタィコ叩き」行動が生起する段階→

②自己刺激行動としてのrタイコ叩き」行動が飽和化して止む段階→

③外部からの他の感覚性刺激に反応してリズミカルな運動として自己刺激的「タイコ  叩き」行動が再開される段階→

④再開されたリズミカルな自己刺激的「タイコ叩き」行動が飽和化して止む段階→

⑤トレーニング開始…

 このr飽和化手続き」の導入による介入が、「要求行動課題②・③」である。

 このうち、「要求行動課題②」では、<音楽随伴条件>において、要求行動としての「タ イコ叩き」がほぼ100%近くに達し、逆にそれまで50〜60%の出現率を維持していた強 化子(好子)随伴中の「タイコ叩き」が急激に低減した。また、<タッピング随伴条件>

では正反応率が上昇し、新しく導入したくシャカシャカ随伴条件>ではこれまで学習履歴 がなかったにもかかわらず高い正反応率を示し、しかも強化子(好子)随伴中のタイコ叩 きの出現が全くなかった。ただし、同じく新しく導入したくハグ随伴条件>では、強化子

(好子)随伴中の「タイコ叩き」が多く見られた。しかも随伴中にA児はタイコを叩き つっ低くうなり筋緊張を強めることが観察されたことから推察して、<ハグ>随伴中に生 起したrタイコ叩き」は、池畑(2003)が指摘した触覚防衛のためのr外界遮断型」の自 己刺激行動(常同行動)として発現されたのではないかと考えられる。また、<音楽><

シャカシャカ>という聴覚性刺激随伴中や、聴覚性強化子(好子)を撤去したときにはほ とんど見られなかったr口唇音」が、触覚性刺激のくタッピング><ハグ>においてしば しば観察されたことは、この「要求行動課題②」の特記すべきエピソードである。この「要 求行動課題②」では、既知随伴性による期待度がはじめの間は正反応を高めるが、その後 飽和が起こり、要求行動としてのタイコ叩きは減少するのではないかという仮説に基づい て実施された。その結果、r飽和化手続き」の導入により最初は正反応が続いていたが、

訓練を回数を重ねるに連れて、セッション後半の試行における正反応数は低下してきた。

このことから、前述の仮説は支持されたと言える。

 さらにr要求行動課題③」では、r要求行動課題②」の飽和化手続きに加え、強化子(好 子)の毎回の交代を実施した。r要求行動課題③」では未知随伴性によって、あらゆる種 類の随伴性に対する期待度が持続するのではないかという仮説に基づいて実施された。r要 求行動課題②」の学習効果もあることは否定できないが、<音楽随伴性><タッピング随 伴性><シャカシャカ随伴性><ハグ随伴性>のすべてにわたって、正反応率が上昇した り、上昇した高い正反応率が維持された。ただし、<ハグ随伴条件>においては、他の随 伴性と異なり、ハグ随伴中の「タイコ叩き」はr要求行動課題②」よりも増加が見られた。

すなわち、<ハグ随伴条件>においては、要求行動としての「タイコ叩き」と自己刺激的 なrタイコ叩き」の頻度に違いが見られなかった。r要求行動課題③」における強化子(好 子)随伴中の「タイコ叩き」の際、A児はときおりハグ提示者に対してもたれかかる行動

を示し、深い吐息をっくなどのリラックスしたときに観察される仕草が見られた。このこ とから、「要求行動課題③」に見られた強化子(好子)随伴中の「タイコ叩き」は「外界 遮断型(池畑,2003)」の自己刺激行動ではなく、「タイコ叩き」が生起している問は強化 子(好子)随伴が継続されるルールによって維持されていたのではないかと推測される。

つまり、「要求行動課題②」の段階では初めて導入されたくハグ>の触覚刺激に対する防 衛が働いていたが、トレーニングを続けるうちにその感覚刺激に対する馴化が生じ、さら にくハグ>による他者のく接近要求機能>によって、rタイコ叩き」が生起したのではな いかと考えられる。この仮説は、別の実験デザインによって解明される必要がある。

 「要求行動課題」を実施してのエピソードとして、A児には、以前から物音に対して「驚 愕反射」がときおり生起していたが、この課題を進めるうちに「驚愕反射」と考えられる 行動頻度が家庭や学校場面で増加し、てんかん波の出現があるか否か早急に確認してもら