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図36−3 クロスジギンヤンマの羽化制御3/3
数量的問題も出てくる。
こういつた理由から、 「過抑制→冷蔵処理→加温処理」の方が実用的であ ると考える。機材も少ないし、処理日数も少なくてすむ。下唇の退行で羽化 直前個体を判別し、過抑制処理にかける。冷蔵処理は、冷蔵庫や低温器で行 う。温度設定が合わず、水中羽化死してしまう個体が出る恐れがあるが、こ れが限界であろう。加温処理は、定温器や白熱灯、湯を入れたタライなどで 行う。ヤゴがうまく複眼黄化状態で目覚めれば、1時間以内に羽化を開始す るので、子どもたちに提示したい時間に合わせて加温処理を行えばよい。こ うすれば、学校時間内での観察が十分可能になる。
2.羽化成功の条件と対策
西浦(1994>は、羽化の成否は、気象条件の良否や外敵との遭遇の有無 に大きく左右されるが、上陸・定位の場所が適切であれば、相当違った結果 になるであろうと、羽化場所の適性について述べている。
室内飼育の場合、羽化場所は、与えられたものであり、選択の余地がな い。羽化場所として適当であるか否かは、確実に体を固定できるか否かと掘
り下げて考えることができる。
羽化が途中で停止した個体を調べると、いずれも、6本の足の内1〜2本 の固定が完全ではなかったことが分かった。原因は、興部の欠損や足場の凹 凸不足であると思われる。
人は、服を脱ぐ場合、平明を片手で固定してから腕を抜く。そうしなけれ ば、服を脱ぐことは難しいと考えると、説明がつく。
プールでは、頭部や肢位が抜けないまま固まってしまうという失敗例は、
ウスバキトンボ以外では、全く見られなかった。これは、時間をかけて、最 適の羽化場所を選択できたからであろう。
簡易羽化装置の登り棒として、手近な割り箸を使った時に羽化失敗が多く セイタカアワダチソウに変更してから成功率が上がったことからも、爪を確 実にかけられる適度な凹凸があることが、成否の鍵になると考えられる。
羽化は、単一餌(ミミズ)による栄養素不足や乾燥による殻の固化などを 考慮しなくても、成功するのである。初期の、湿室による脱出までの羽化の 成功と、脱出後の落下による最終的な羽化の失敗は、次のように説明できる のではないかと考えている。湿室内は、30℃近くの温度になっていた。そ のため、登り棒が温度と湿度である程度ふやけ、爪が深くかかりやすくなっ ていた。落下しやすくなったのは、温度と湿度が災いし、時間が経過しても 肢部の固化が十分進んでいないため、殻につかまることができなかった。こ
う考えると説明がつくが、確認はしていない。
3.ギンヤンマ以外の羽化制御
ウスバキトンボは、通常の過抑制にかけても、日申に安定して羽化するこ とはなかった。朝方に羽化させることができた個体は、数日前からの昼夜逆 転処理により体内時計を狂わされ、朝方、自制の限界に至ったのであろう。
ウスバキトンボの羽化制御は、まだ完成していない方法であるが、タイリ クアカネなどにも応用できると考えている。
総合考察
ギンヤンマの羽化制御法は、ほぼ完成したと言える。この方法を用いて、
羽化を子どもたちに見せることを目的とするのであれば、卵からの飼育は、
大変な手数がかかる割に収量が少ないので、勧められない。終齢までの世話 は、プールの自然に任せきりで良いと考える。終齢直前までプールで育った ギンヤンマのヤゴは、教室や家庭で飼育すると、羽化までの問3週間以上も 観察できる。
ギンヤンマと共に、ウスバキトンボの羽化制御法を完成させたいと考えて いる。ウスバキトンボは、タイリクアカネほど小型ではなく、観察の対象と しての価値が高い。また、タイリクアカネは、プール掃除時には全て流され てしまうが、ウスバキトンボは、秋に多く発生するので、時間的な制約がな い。産卵から約1カ月で羽化するという成長の速さは、他に類を見ないもの である。同時期に鱒化したギンヤンマでさえ餌にしてしまう、絶対的優位性
により、タイリクアカネよりも広範囲で、数多く発生しているようである。
羽化した新成虫の生存率は、羽化時期の気温が比較的高いため、タイリクア カネの生存率よりも高い。冬季の低温で死滅してしまうが、今後も減少する ことはないと考えられる。教材としての活用例の報告がほとんどない理由は 秋以降、プールを観察する人がほとんどいないので、見逃されているものと 思われる。
ギンヤンマを呼ぶと、タイリクアカネはほとんど捕食されてしまったので 夏はギンヤンマ、秋はウスバキトンボといった使い分けができる。
タイリクアカネが一般のプールで優勢種になれた理由は、ウスバキトンボ に次ぐ成長の速さによるものであろう。尾花(1967a)の観察によると、約 3カ月で成虫になるという。同時期に艀化した他種をも餌にして、勢力を拡 大しているものと思われる。ギンヤンマとの捕食・被捕食関係が入れ替わる
ことがあるか否かについては、今後追求していきたい。
1994年度の、高砂小学校や教育センターでの調査結果によると、シオカ ラトンボ・コノシメトンボ・ショウジョウトンボの羽化時期は、ギンヤンマ やタイリクアカネの羽化時期よりも遅れているようである。ギンヤンマやタ イリクァカネが盛んに捕食活動を行っている時期に、ある程度小さい若齢幼 虫は捕食対象にはならず、生き延びることができたのではないだろうか。こ れらは、未羽化のまま、プール掃除時に薬剤と共に流されていた。薬剤によ る死滅の割合は確認していないが、プールで数多く羽化できないことも、勢 力を拡大できない原因の1つとして考えられる。
ウスバキトンボや他の小型種を飼育する場合の大きな問題点は、餌の確保 にある。採集時にプ・・…ルの泥をすくい、そこに生息するアカムシ等で育てよ うという試みがあるが、それだけで羽化まで育てられるとは思えない。アカ ムシやイトミミズが手に入れば問題はないが、生きた状態で売っていること が少ないし、採集も難しい。人工飼料についても検討したが、生きて動いて いる小動物しか捕食しないヤゴの習性を変えることはできなかった。冷凍ア カムシなどをピンセットで摘み、ヤゴの目前で動かして捕食させることはで きた。しかし、手数がかかるし、途中で放してしまうこともあった。
餌の問題まで考えると、植栽や人工産卵床の設置によってギンヤンマを増 殖するのが、最も有効なプールの活用法だと結論づけることができる。
お わ り に
プールでは、多くの生物が自然発生していた。しかし、生息密度は、環境 によって異なっていた。生物の大量発生は、堆積物が少なく、プール掃除が 簡単に済むようなプールでは望めない。生態系の頂点に立つヤゴを大量に発
生させるためには、その他の生物も、大量発生していることが条件になる。
水が緑色に澱み、大量の堆積物がヘドロ化し、藻類が水面を広く覆っている 状態が、最も望ましい(図37)。
一般的に、このようなプールは、教師集団からは嫌われる。理由は、プー ル掃除が大変だからである。自然に汚れているのであれば、文句は出ない。
しかし、ヤゴを育てるため意図的に大量の落ち葉をまいたとすれば、非難さ れかねない。慎重かつ丁寧な説得による、共通理解が不可欠である。プール 掃除までに、ほとんどの掃除を済ませておくぐらいの配慮も必要であろう。
それほど大変な労力をかけてやるだけの価値があるのかという問題がでて くる。ヤゴの利用価値は、大きく分けて、下記の2点であると考えている。
①泥水の中からヤゴをすくい出す直接体験
現代の子どもたちにとって、プールでどろんこになりながらヤゴすくいを すること自体が、ほとんどできなくなった魅力的体験なのである。池・川で の遊びは禁止され、安全にどろんこ体験ができる場所は、皆無に等しくなっ た。また、都会はもちろん、田舎の子どもでも、ヤゴがトンボになることを 知らない子どもがいるという。
それを知って何になるのかという議論より、我々大人が当然のようにして 体験:してきたことを体験せずに成長していく子どもたちの姿に、大きな不安
を感じている。日々の遊びの中から体得してきた、生きて使える知識や価値 観判断力が、大きく抜け落ちている恐れがある。当然あるべきものが欠け ているために、取り返しのつかないことにならないかと、漠然とした不安を 感じている。多くの機会を与えることはできないが、直接的にヤゴという生
き物と触れ合うことが、小さな命の存在に目を向けるきっかけになればと願 っているQ
高砂小学校では、1993年以来、希望者(約200人)によるヤゴすくい 大会が行われている(図38)。子どもたちは、どうの中のヤゴを、嬉々とし