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3.水環境の改善に寄与するリン回収技術

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上述のとおり、汚泥処理工程で溶出し系内循環する PO4−Pの除去は、安定した下水処理に寄与するとこ ろが大きいが、除去に伴い処理汚泥量が増量するな ど、他の環境負荷が増大する方法は好ましくない。

系内循環するPO4−Pを再利用可能な形態で除去・

回収する技術として、晶析脱リン法が挙げられる。

晶析脱リン法には、PO4−Pをヒドロキシアパタイ ト(Ca10(OH)2(PO46;HAP)の形態で除去・回収す る HAP 法 と リ ン 酸 マ グ ネ シ ウ ム ア ン モ ニ ウ ム

(MgNH4PO4・6H2O; MAP)として除去・回収する MAP法が知られている。

式3、式4にHAPおよびMAPの生成反応式を示す。

HAP生成反応

10Ca2++2OH+6PO43−→Ca10(OH)2(PO46・・・・・式3 MAP生成反応

Mg2++NH4++PO43−+6H2O→MgNH4PO4・6H2O・・式4 HAPとMAPはそれぞれ溶解度積が異なり、HAPの 溶解度積はMAPと比べて小さいため、比較的低濃度 のPO4−Pを除去するためにはHAPとしての回収が効 率的である。

一方、MAPの組成から類推されるように、原水に PO4−PとNH4−Nが高濃度共存する場合には、MAP としての回収が効率的である。

前述のとおり、消化汚泥には高濃度のPO4−Pと NH4−Nが含まれる。このことから、嫌気性消化を有 するプロセスにはMAP法が適している。

一般的な晶析脱リン法では、二次処理水や脱水ろ液 または返流水など、晶析反応を阻害する固形物の含有 が少ない原水を処理対象とする場合が多い。特に HAP法は、MAP法と比較して晶析速度が遅く、その 影響を受けやすい。

このような原水を対象として、1980年頃から流動層 式リアクタを用いた晶析脱リン法の開発が進められて きた(3)。しかし、HAP法については固形物や炭酸な どの晶析阻害物質の除外設備が必要であることや、晶 析速度が遅いことで設備規模が大きくなる課題があっ た。

また、消化汚泥のスケールトラブルを考慮した場合 は、消化汚泥からMAP法によりPO4−Pを除去するこ とが望ましいが、流動層式リアクタでは混合不良の懸 念がある。

これらの課題を解決し、系内循環するPO4−Pの除 去・回収を効率的に行うため開発された処理法に、

HAP造粒法および汚泥MAP法が挙げられる。

表−1、図−4に各処理法の適用条件と適用箇所を 示す。

HAP造 粒 法 、汚 泥MAP法 は 、共 に 晶 析 に よ り PO4−Pを除去・回収するものであるが、一定程度の 固形物共存下でも効率的処理が可能となる技術であ り、それぞれ2010年度、2011年度に(財)下水道新技 術推進機構による技術審査を受け、建設技術審査証明書 が交付されている。各処理法の原理・特長を次に示す。

図−3  嫌気性消化槽を有する下水処理フロー例

Vol.36 No.135 2012/4 下水からのリン回収技術

3−1.HAP造粒法の概要

HAP造粒法は、消石灰と高分子ポリマーを添加し、

凝集、造粒、晶析、濃縮操作を組み合わすことによ り、PO4−Pを短時間で回収する方法である。本体は 堰板で仕切られた造粒部と濃縮部とから構成される。

処理工程は次のとおりである。(それぞれ図−5の番号 に符合)   

①原水に消石灰を添加して微細なHAPを晶析させ る。

②微細なHAPが生成した原水に高分子凝集剤を添 加し、共存するSSと共に凝集して、粗大なHAP 微結晶フロックを生成させる。

③粗大なHAP微結晶フロックは、造粒攪拌機の物 理的衝突により、周囲の上昇流速を上回る沈降速 表−1 リン除去・回収法と適用条件

図−4 下水処理場での適用箇所

図−5 HAP造粒法の概念図

度をもった緻密な凝集物(以下HAPペレット)

になり、造粒部に滞留する。

滞留したHAPペレットは新しく生成するペレッ トにより押し上げられ、造粒部−濃縮部間の堰高 を超えると濃縮部へ落下する。また、造粒部では 滞留するHAPペレットが種晶となり、晶析反応 を進行させる。

④濃縮部へ落下したHAPペレットは、一定時間滞 留することで濃縮された後に装置から排出され る。

⑤フリーボード部でHAPペレットと固液分離を行 い、上部から処理水を排出する。

従来技術である晶析脱リン法(HAP法)や凝集沈 殿法と比較して、処理速度の大幅な高速化が可能であ る。

3−2.HAP造粒法の実証試験

2008〜2009年に処理量10m3/d、2009〜2010年にか けては処理量200m3/dの実証機をA市下水汚泥集約処 理施設に設置し、返流水を対象に実証試験を行った(4)

表−2、表−3に実証機仕様および2010年に行った 実証試験の条件と試験結果を示す。

SS濃度550 mg/L程度(最大1,000 mg/L程度)、反 応時間8min程度、水面積負荷(線流速)450m3/m2/d 以上の運転条件で、PO4−P除去率80%以上、リン回 収率80%以上の処理性能が確認された。

晶析脱リン法の反応時間は1〜2時間程度であること から、処理速度は大きく改善されていることが分か る。また、凝集沈殿法の反応時間は15min程度だが、

沈殿池の水面積負荷は10〜30m3/m2/d程度であり、

HAP造粒法の設備用地は凝集沈殿法に対して1/10以

図−6 実証試験フロー 表−2 実証機仕様

写真−1 200m3/d実証機 写真−2 回収HAP 表−3 試験条件と結果

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下になると考えられる。

また、回収した濃縮HAPペレットに脱水・乾燥・

焼成工程を施した試料(回収HAP;写真−2)の組成 分析を行ったところ、重金属含有量も少なく、リン鉱 石(P2O5換算でリン含有率30 %程度)に近いリン含 有率を有していることが確認できた(表−4)。

これより、回収HAPはリン鉱石代替品としての利 用が期待できる。

3−3. 汚泥MAP法の概要

消化汚泥の脱水ろ液からのリン回収技術は既に実用 化されている(3)。しかしながら、前述した嫌気性消化 に伴うスケールトラブルを抑制するためには、消化汚 泥から直接PO4−Pを除去することが好ましい。

また、消化汚泥中には嫌気性消化槽で自然生成した MAPが含有している。図−7に示すのは、消化汚泥中 のリン組成の一例である。含有リン全体のうちMAP が3割程度を占めていることが分かる。

汚泥MAP法はPO4−Pの他、既に生成しているMAP の一部を回収できるため、消化汚泥中に自然生成した MAPがほとんど無い脱水ろ液からのリン回収技術と 比べて収量が多くなる。

通常、脱水ろ液は固形物濃度が低いため晶析反応の 阻害要因が少なく、脱水ろ液からのリン回収装置は撹 拌力の低い空気攪拌式による流動層リアクタを採用し ている事例が多い(3)

一方、固形物が数%含まれている消化汚泥中の晶析 では、分散混合に留意する必要がある。混合不良の状 態にあると、回収が困難な微細化したMAPが生成し リン回収率が低下する。

筆者らは、消化汚泥中での晶析に適したリアクタと して、固液の接触効率を高めた機械攪拌式の完全混合 型リアクタを開発した(3)(5)(6)

本体構成は、消化汚泥中の夾雑物を除去する夾雑物 除去部、マグネシウムを添加することでPO4−Pを種 晶表面でMAPとして晶析させる晶析リアクタ、晶析 表−4 回収HAPの性状

図−7 消化汚泥中のリン組成例 図−8 機械撹拌式 完全混合型リアクタ

リアクタの種晶と既に消化汚泥中に存在している MAPを回収し処理した汚泥を排出するMAP回収部か らなる。

3−4.汚泥MAP法の実証試験

2005〜2007年にかけて処理量6m3/dおよび50m3/d の実証機をB市下水処理場内に設置し、消化汚泥を対

象とした実証試験を行った(3)(5)(6)

表−5、表−6に実証機仕様および試験条件と結果 を示す。

処理量によらず、PO4−P除去率80%以上、リン回 収率90%以上の処理性能が確認されたことから、完

表−5 実証機仕様 図−9 実証試験フロー

表−6 試験条件と結果

写真−3 50m3/d実証機

表−7 B市下水処理場での回収MAP

(分析:肥料検定協会)

写真−4 B市下水処理場での回収MAP

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全混合型リアクタを用いることで、消化汚泥中でも効 率の良い晶析反応が進行したと考えられる。

回収したMAPを専用のMAP洗浄槽で水洗したのち に乾燥した試料(写真−4)の組成分析を行った。分 析結果を表−7に示す。有害成分は肥料取締法で定め た化成肥料の許容値以下であり、化成肥料登録を行う ことが出来た。

これより、回収MAPは肥料原料あるいは肥料とし ての利用が期待できることが明らかとなった。

また、2011年にC市下水処理場で5m3/dの実証機に よる処理試験を行い、回収されたMAPについて成分 分析を行った。

表 −8、写 真 −5にC市 下 水 処 理 場 で 回 収 さ れ た MAPの組成分析結果と、回収MAPを肥料としたこま つなの栽培試験結果を示す。

肥効成分および重金属含有率は、B市下水処理場で 回収されたものと同等であり、回収MAPの回収箇所 による相違は概ね無いものと考えられる。

また、栽培試験においても生育上の異常症状はみら れず、肥料利用に問題がないことが確認された。

4.おわりに

近年、下水道は都市型資源基地としての機能が期待 されており、下水道インフラを活用して回収可能な、

水資源、エネルギー資源、そしてリン資源を回収し再 利用する試みが推進されている。

リンは処理場内を循環しているため、回収する場所 によっては、回収効果を処理場全体に波及させること ができる。

下水道の社会的役割の骨格は、汚水排除・環境保全 であることを鑑み、最も効果的な箇所で水質に応じた 効率的なリン回収法を選択し、下水処理システム全体 のLCCを考慮した資源回収を行うことが望ましい。

今後、様々な分野において、水環境の保全と資源回 収とが両立した、資源回収型水処理システムの構築が 推進されることを期待する。

<参考文献>

(1)国土交通省都市・地域整備局下水道部:“下水道 におけるリン資源化の手引き”、(2010)

(2)島村和彰・黒澤建樹・渡邊昌次郎:“下水処理分 野における晶析技術を利用したリン回収”、エバ ラ時報、No.227、pp.3-8、(2010)

(3)島村和彰:“晶析技術を利用したリン回収−荏原 グループの取り組み紹介−”、環境浄化技術、

Vol.8、No.10、pp.11-15、(2009)

(4)伊達知見:“返流水からのHAP造粒法によるリン 除去・回収の技術開発”、下水道協会誌、Vol.47、

No.573、pp33-37、(2010)

(5)島村和彰・石川英之・黒澤建樹・萩野隆生:“汚 泥からのリン資源回収プロセス−晶析技術と液体 サ イ ク ロ ン 分 離 −”、環 境 浄 化 技 術 、Vol.8、

No.1、pp.40-43、(2009)

(6)島村和彰・黒澤建樹・平沢泉:“メタン発酵液か らのリン回収プロセスにおける晶析操作”、化学 工学論文集、Vol35、No.1、pp.127-132、(2009)

表−8 C市下水処理場での回収MAP

(分析:肥料検定協会)

写真−5 こまつなの栽培試験

(栽培試験:肥料検定協会)

ドキュメント内 1 (ページ 113-119)