JS日本下水道事業団技術戦略部 戸田技術開発分室
島 田 正 夫
キーワード:下水汚泥中重金属濃度、担体充填式高速嫌気性消化、熱可溶化高効率嫌気性消化、生物水素電池 ddddddddddddddddddddddddddddddddddddd
研究紹介
図2−1はわが国の下水汚泥の処理形態を表したも ので、焼却処理・溶融処理が全体の8割を占めている。
一方、欧米では下水汚泥はメタン発酵によるバイオガ ス回収の後、図2−2に示すように乾燥又はコンポス ト化による緑農地利用が主たる処理方式となっている。
この現状は一般廃棄物(ごみ)の処理形態でも同様 で、図2−3に示すように、他の先進国におけるごみ の焼却割合は10〜30%程度であるのに対し、わが国で は70〜80%が焼却処分されている。さらに近年では、
溶融処理の導入が急速に増えている。
バイオマスの焼却は有効利用技術ではなく、廃棄物 の減量化を図る最終処理手段である。焼却処理する前 に、そのバイオマス資源としての特性(エネルギー価 値及び肥料価値など)を最大限活用した有効利用法を 検討することが望まれる。
2.2下水汚泥中重金属に対する誤解
最近の放射能汚染問題にも共通するが、下水汚泥に 含まれる重金属に関する一般市民の誤った認識が、下 水汚泥有効利用の大きな障害のひとつになっている。
重金属は工場排水にのみ含まれている特殊な物質では なく、自然界に広く分布存在している。そして亜鉛、
鉄、銅など多くの重金属は植物や動物の成長や生命維 持活動に欠かせない必須ミネラル分でもある。した がって、生活排水等を処理して発生する下水汚泥中に は、食物起源や水道水起源の重金属類が当然含まれて おり、工場排水を全く含まないし尿汚泥や浄化槽汚泥 中にも重金属は含まれている。
ただし、昭和40年代から50年代の、わが国における 下水道草創期には、公共用水域の水質改善を主目的に 除害施設の管理の不十分な事業場排水を受け入れ処理 していた下水処理場も多くみられ、それに起因する重 金属含有量の比較的高い下水汚泥が一部存在していた
ことは事実である。しかし、下水道事業の整備普及と ともに除害施設の設置・管理や行政指導が徹底される ようになるにしたがい、工場排水等に起因する汚泥中 重金属含有量は大幅に改善されている。一例として、
大阪市N処理場汚泥中の重金属含有率の経年変化を図 2−4に示した。昭和50年代に比べ、重金属類含有率 は大幅に低下していることが分かる。
また、農林水産省が平成21年度に発表した全国の汚 泥肥料製造工場における汚泥肥料中の重金属含有量調 査結果の一例を、図2−5に示した。「肥料取締法」に お け る 汚 泥 肥 料 中 カ ド ミ ニ ウ ム の 含 有 量 基 準 は 5mg/kg-DS以下となっている。し尿・浄化槽汚泥を 原料としている場合と下水汚泥を原料して製造された ものを統計的に比較すると、当然いずれも基準値を十 分に満足しているが、2mg/kg-DSを超過する製品の 割合はし尿・浄化槽汚泥を原料としている場合は 38.9%であるのに対し、下水汚泥を原料としている場 合はわずか9.6%で、下水汚泥中の重金属含有量は工 場排水を含まないし尿・浄化槽汚泥よりはるかに低レ 図2−2 英国における下水汚泥処理・処分の実態 図2−3 一般廃棄物(ごみ)焼却処理の割合
(平成20年度環境統計)
図2−4 大阪市N処理場汚泥における重金属含有率の 経年変化
Vol. 36 No. 135 2012/4 下水汚泥有効利用の課題と日本下水道事業団における取り組み
ベルであることを示している。これは、汚水の処理方 式の違いによるものである。
下水汚泥=工場排水=重金属=有害物といった、
誤った認識は是非改めてもらいたい。
2.3 緑農地利用の効果
先述したように、欧米では下水汚泥は嫌気性処理
(メタン発酵)による安定化・エネルギー回収のあと 緑農地利用が一般的に行われており、資源循環の面か ら最も理想的な利用方法と考えられている。わが国で は、下水汚泥中の「りん」にのみ注目してこれを回収 しようとする動きもあるが、汚泥中にはりん以外に蛋 白質(窒素分)や植物の成長にかかせない各種微量栄 養素、ミネラル分等が豊富に含まれている貴重な有機 質肥料である。
わが国では戦後、化学肥料中心の農業が普及したこ とにより、畑地土壌の地力低下(無機化)が深刻な問 題となってきている。また、化学肥料栽培では植物の 病害虫抵抗性が弱いため農薬の使用が欠かせず土壌環 境汚染の面についても指摘されている。
植物生育上の重要な肥料成分である窒素は、従来ア
ンモニア態か硝酸態でのみ植物に吸収されるとされて きたが、最近の研究で有機態窒素(アミノ酸等の蛋白 質)でも摂取されることが明らかになってきた。下水 汚泥コンポスト等の有機質肥料で栽培した野菜と化学 肥料で栽培した野菜では、味やビタミン等の栄養分含 有量に大きな違いがあることも多く報告されている。
図2−6は、北海道のある都市で一般市民を対象に、
下水汚コンポストで栽培したミニトマトと化学肥料中 心で栽培したそれの味比べ調査の結果を示したもので ある。10人中7〜8人の人が下水汚泥コンポストで栽 培したミニトマトが「甘くておいしい」と答えている。
また、図2−7は、野菜(ピーマンを例)中に含ま れる食品成分(ビタミン)の推移を示したものである。
堆肥(有機肥料)中心で栽培していた1950年代に比べ、
化学肥料が普及し始めたあとの栄養価は大幅に低下し ていることが分かる。
農林水産省では畑地土壌の地力回復や環境保全の面 から、有機質肥料を主体とすることで減化学肥料・減 農薬を図る環境保全型農業への転化を推進している。
下水汚泥肥料に対する認識を改め、今後は欧米と同様 緑農地への積極的な活用を図っていくことが望まれる。
図2−5 し尿汚泥肥料と下水汚泥肥料におけるCd含有量
図2−6 下水汚泥コンポストで栽培したミニトマトの
食べ比べ調査結果(S市) 図2−7 野菜に含まれる栄養価の推移
(女子栄養大出版部より)
2.4 メタン発酵に対する世界の動向
わが国では、特に下水道分野では「メタン発酵(嫌 気性消化)は過去の技術」と考えている人が多い。嫌 気性消化タンクを有している下水処理場数の推移を、
図2−8に示した。下水道整備の進捗に応じて、処理 場の数も増えているが、汚泥消化タンクを有する箇所 は300箇所足らずでほとんど増えていない。また、こ の300箇所のうち、消化ガス発電などエネルギー回収 まで積極的に行っているのは30箇所程度に過ぎない。
消化タンクを有していながら休止や廃止を予定してい る箇所も多い。
しかし、世界的には地球温暖化対策等に熱心な国を 中心に、下水汚泥、家庭生ごみ、食品廃棄物、農業・
畜産廃棄物等を対象とするメタン発酵施設の導入が積 極的に進められている。図2−9はドイツにおけるバ イオガス化施設(メタン発酵施設)の推移を示したも のである。最近10年でその数は約7倍になり、2009年 時点で5800カ所に達している。ドイツでは、2020年ま でに、全電力使用量の17%をバイオガス発電により賄 うという計画を有している。ドイツのみならずEU全
体でみても、バイオガス生産量は毎年約20%の割合で 増え続けている。
また、中国でも地球温暖化対策やエネルギー対策と して風力発電等の再生可能エネルギー導入が積極的に 進められているが、図2−10に示すように農村部を中 心にバイオガス化施設の数も急速に増えている。
米国でもほとんどの処理場においてメタン発酵施設 が導入されている。図2−11は、ワシントンDCの処 理場に、最新式の大規模メタン発酵施設の導入が決定 したことを紹介する専門雑誌の記事である。対象処理 汚泥量が400t-DS/日の超大規模施設で、160〜170℃の 熱改質を組み合わせた高効率嫌気性消化システム
(Cambiシステム)により、バイオガス化による効率 的なエネルギー回収とAクラス(最良質)有機質肥料 の製造を目的としている。
メタン発酵は過去のシステムではなく、バイオマス からの最も優れたエネルギー転換・回収システムとし て、全世界的に急速に導入が進められていることを認 識すべきである。
図2−10 中国におけるバイオガス施設及びバイオガス 生成量の推移(小林拓朗他 Vol.532011用 水と廃水)
図2−11 米国ワシントンDCの処理場に高効率メタン 発酵施設導入の紹介記事(7/82011World Water)
図2−8 わが国における下水処理場数と嫌気性消化施
設を有する処理場の推移 図2−9 ドイツにおけるバイオガスプラント(メタン 発酵施設)の推移