• 検索結果がありません。

1.発達段階に応じた指導方法の特徴

ドキュメント内 宗教にかかわる教育の研究.indb (ページ 65-69)

 宗教教育の指導方法を発達段階別にみてみると、初等学校と中等学校では大きくちがう ことがわかる。宗教教育に限らず、一般にイギリスの初等学校と中等学校では、その教育 方法については差異がみられる。初等学校では、英語と算数を除いては、合科的で活動中 心であることが多く、中等学校では、教科別が中心で知識中心であることが指摘されてい るが、その傾向は宗教教育についてもあてはまる。ただし、知識中心ではありながらも、

知識の注入というよりも、討議法を多用した授業方法に特徴があるが、これもまたナショ ナル・カリキュラムの各教科だけでなく宗教教育にもあてはまっている。

(1)初等学校の指導方法

 初等学校の宗教教育は、キリスト教を中心とし、他の宗教についても学ぶ。サリー県の 例でみれば、キーステージ1(5〜7歳)ではキリスト教以外に、ユダヤ教とイスラム教

3 なお、同じ公営学校であっても、教会等が設立し、現在公費で維持運営されている学校は、例えば 国教会の場合は、その教区の宗教教育委員会が発行するシラバスにもとづいた宗教教育が行われてい る。

4 Qualifications and Curriculum Authority(2000).A scheme of work for key stages 1 and 2 ReligiousEducation,:QCA.

5 DepartmentforEducation(2011,p.6)

を学ぶ。また、適切な場合は非宗教的信条についても学ぶ6・7。キーステージ2(7〜11歳)

では、キリスト教に加え、ユダヤ教、イスラム教、そして初歩的にヒンズー教と仏教につ いて学ぶ。さらに、キーステージ1と同様、適切な場合は非宗教的信条についても学ぶ。

 初等学校では、これらの宗教についての知識と理解、およびこれらの宗教が個人やコミュ ニティ、社会、世界へどう影響を与えているかを学ぶ。そのために、聖書など教義そのも のを読むこともあるが、教義が信者たちの生活にどのような影響を与えているかを学ぶた めに、例えば、キリスト教では教会の建物がどのようになっているか、そこではどのよう なことが行われているか、季節の行事では何をしているかについて学ぶ。実際に信者の話 を聴いたり、洗礼式や結婚式を実際に演じたりすることもある。さらに祈りの本を作った り、いろいろな建物にいて感じることと教会に入って感じることの違いを比較してみたり する(以上、キーステージ1)。また、復活祭に関しては、ステンドグラスをデザインす ることや、その意味を調べたり、キリスト教徒に復活祭の準備で四旬節に何を準備するか をインタビューしたりする(以上、キーステージ2)。

 また、ユダヤ教では、安息日の食事について知り、実際にカラローフ(ユダヤ人の食べ る白パン)を作ってみたり、ハブダラ(安息日の終了の儀式)を演じたりする。また、週 末には、自分たちはどのようなことをするかを話し合う(以上、キーステージ1)。ユダ ヤ教の礼拝堂(シナゴーグ)を訪ねて、どの部分が現代のユダヤ人の生活に関与している かを発見する(以上、キーステージ2)。

 イスラム教では、イスラムの祈りをビデオで鑑賞した後、幾何学模様を使って祈りのた めの絨毯をデザインする。イスラム教寺院(モスク)をバーチャルに訪問する。モスクに ついて気に入ったものを展示し、他のクラスを招待する(以上、キーステージ1)。ある いは、実際にモスクを訪ねたり、導師を学校に呼ぶ。祈りに関係する工芸品を見る。祈り の呼びかけを聴くなどである(以上、キーステージ2)。

 以上のように、宗教の基礎的な知識の獲得に加えて、それらの宗教の実生活を知ること に重点を置いている。その際、実際に見る・作る・訪問するなどの活動法による指導方法 が目立つ。

 先述のようにイングランドでは初等学校の場合、宗教教育に限らず教科横断型で行われ ることが多い。通常は学期の半分を使って一つの「トピック」を設定し、各教科の学習を 進めていくものである。宗教教育においては、系統的学習、テーマ的学習、教科横断型学

6 SurreySACRE(2012,pp.101-114)

7 ここでの非宗教的信条とは、主に世俗的ヒューマニズム(ヒューマニスト)の考えに依拠している。

世俗的ヒューマニストの考えとは、古代ギリシャの哲学的伝統にその源を求めるもので、現代の哲学 者等では、リチャード・ドーキン、カール・セーガン、マイケル・ローゼンなどが挙げられるが、科 学、 民主主義、 自己実現の世俗的倫理を主張するものである。

習がある。これらは後にも示すように、初等学校、中等学校双方で展開されるが、初等 学校の場合はトピック学習が展開されることが多いので、教科横断型が展開される事例は 多い。

 例えば、サリー県のW校の実践例では、第3学年の秋学期のトピックとして「ピーター と狼」を選んでいる。リテラシー(英語)の時間で「ピーターと狼」の物語を読むと同時 に、理科では、すべての動物が食物を必要としていることを学び、音楽では、「ピーター と狼」の音楽作品では各楽器がそれぞれの動物を表現していることを学ぶ、など各教科の 学習につなげているが、宗教教育では(キリスト生誕時の)東方の三賢人の贈り物につい て学び、東方の三賢人の贈り物は赤ちゃんへの贈り物としてふさわしいかを考えさせてい る。

(2)中等学校の指導方法

 中等学校においては、より知識中心の学習が強くなる。内容としては、先述のサリー県 のアグリード・シラバスを見ると、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、ヒンズー教、仏 教に加え、初歩のシク教となっている。そして、哲学的モードの探究やヒューマニズムの ような非宗教的信条を学ぶ。

 また初等学校と比べると、諸宗教の教えに関しての信条、概念、真理主張、倫理的立場、

哲学思想などについての、より抽象的な側面を学習するようになる。

 扱う内容についての教え方には、系統的アプローチと、テーマ的アプローチがある。エ セックス県の系統的アプローチの事例を見ると、それぞれの宗教の以下の要素を分析して いる

 テーマ的アプローチでは諸宗教に関する諸概念のうちのから選び、それについて各宗教 の比較をするという方法である。例えば、キリスト教徒とヒューマニズム双方の価値と献 身について比較したり、イスラム教徒とヒンズー教双方のシンボルによる意味の表現につ

1.信条、教え、起源 2.実践や生き方 3.意味の表現

4.アイデンティティ、多様性、所属 5.意味、目的、真実の問い

6.価値と献身

8 Department for children, Schools, and Families(2010).Religious Educationin English Schools:

Non-StatutoryGuidance2010:DCFCPublications,p.24.

 ここでのテーマ的学習とは、宗教・信仰における教え、概念、課題をテーマとして一つやそれ以上の 宗教・信仰を学習することを指す。

9 EssexCountyCouncil(2015,p.96)

いて比較する、などである。

 キーステージ4(14歳〜16歳)の段階の授業は、16歳時に受ける外部団体の試験(例 えばGCSE試験)に対応した授業を受ける。宗教教育の場合も、GCSE試験など外部試験 に連動した形で進められることが多い。したがって、この段階の宗教教育の指導方法は、

試験団体の公表する試験詳述書(specification)に対応した教科書(民間会社数社が出し ている)を使用した授業が一般的である。例えば、GCSE試験団体の一つであるエデクセ ル(Edexcel)の「宗教学習」を見てみると、試験詳述書に示されている目標にある「探 求する」「自分自身の個人的な応答や情報を得た上での洞察について表現する」「探究的・

批判的・反省的アプローチを用いる」「問いを省察し、個人的に応答する」「自分自身の人 格的・社会的・文化的発達を高め、理解を深め、貢献する」「関心や情熱を高め、それを より広い世界へとつなげる」「自分自身の価値や意見、態度について省察し、確立する」

を目指した授業が展開される10

 一例に単元「何故キリスト教徒は世界の貧困を終焉させるために働くのか」を見てみよ 11

 この単元の学習目標は、以下のようである。

 まず、教科書に引用されている聖書のマルコス伝10:21-23、ヤコブ伝:14-17、マタ イ伝25:35-40などを読む、貧困の人々を助けるのは聖書の教えによることを知る。これ を読んだ後、キリスト教徒は貧困の問題にとのように対応するかと思うか、そしてそう思 う理由を話し合う。次に、世界の貧困の解決のために活動している団体の例としてクリス チャン・エイドやカトリック海外開発基金(CAFOD)があることを知る。活動1として、

これらの団体のウェブサイトを閲覧して、活動内容を調べ、それらがキリスト教の信条と どのようにかかわっているかを調査する。次に「お金を出すのと、時間を出すのでは、ど ちらが簡単だろうか」ということについて話し合う。活動2として、活動1で調べた団体 の活動を紹介するポスターやリーフレットを作る。その際、どのような種類の活動をして いるか、その活動をする根拠(聖書の教えを含む)や、キリスト教徒が、この慈善活動を 援助する理由を含む。

 このように、知識を獲得することが中心ではあるが、得られた宗教的知識と現実に起こっ ていることの関連性について考察することをしている。そして自分で調べ、自分でまとめ ることや、自分の意見を持つことを重視した指導方法である。

この授業が終わるまでにあなたは次のことができるようになる。

・世界の貧困をなくすために活動している或るキリスト教団体の活動について記述する。

・何故、キリスト教徒は世界の貧困をなくそうとするかを説明する。

10 Edexcel(2012,p.1)

11 Edexcel(2009,pp.48-49)

ドキュメント内 宗教にかかわる教育の研究.indb (ページ 65-69)