• 検索結果がありません。

1.地域における「政府の助成金を受ける私立学校」の役割

ドキュメント内 宗教にかかわる教育の研究.indb (ページ 81-85)

 カセレス司教区学校の学校長への聞き取り(資料1)により、「政府の助成金を受ける 私立学校」の運営上の課題がわかる。「政府の助成金を受ける私立学校」が自治州政府か ら得る助成金は主に教員の給与である。地方公務員の身分をもつ公立学校の教員の給与と 比較すると、「政府の助成金を受ける私立学校」に勤務する教員の給与は低く設定されて いる。これは、義務教育の経費節減になり、政府にとって経済上都合がよい制度である

「政府の助成金を受ける私立学校」は自治州教育委員会の監督下におかれ、入学者を決定 するのは同委員会の視学官である。視学官が通学区の「親」の希望、勤務地や家族構成な どの諸事情を考慮して点数化したうえで、どの生徒を公立学校あるいは「政府の助成金を 受ける私立学校」へ進学させるかを決定する。入学定員数の確保という意味では、「政府 の助成金を受ける私立学校」は同じ通学圏内の公立学校と常に競合関係にあるといえる。

カセレス司教区学校では経営負担を自覚しながらも、教区に住む「人々を社会的に援助す る」こと、つまり地域における社会貢献を掲げることによって、「親」からの理解を求め、

学校の存続を目指していることがわかる。

 「政府の助成金を受ける私立学校」を公立学校と比較した場合、地域においてどのよう な社会貢献をしているのであろうか。初等教育課程長への聞き取り(資料2)によって、

3 2014年2月28日に行ったエストレマドゥーラ自治州教育委員会カセレス事務局長のAntonio RubioMadruga氏、視学官AntonioSesarArgudín氏およびJesúsBarrioGonzález氏への聞き取り 調査においても同じ指摘がなされた。同インタビュー内容の詳細は別稿を予定している。

カセレス司教区学校は公立学校にはない教育的付加価値を「親」に説明し、「地域に開か れた学校」を目指している様子がわかる。「教科外活動(las actividades extraescolares)」

として放課後のクラブ活動の選択肢を多くし、また「補習授業」を行うなどにより、地域 の「親」の学校教育に対する要望に応えている。カセレス司教区学校の教育理念はカトリッ クに基づくものであるが、入学する生徒やその「親」がカトリック信仰者とは限らない。

そのため初等教育課程長は、この学校の価値教育は、カトリック教義のインドクトリネー ションではなく、特定の宗教を超えた普遍性をもち、市民としての公徳心を育てる道徳教 育を目指すものであると主張している。

資料1 カセレス司教区学校の学校長への聞き取り

学校長:「政府の助成金を受ける私立学校(Loscolegiosconcertados)」は、政府から教員の給 料を受け取っていますが、公立学校に比べるとその額が低く、それに対して一人の教員が担当 する授業数が多いのが特徴です。例えば、「政府の助成金を受ける私立学校」の場合、教員は 常勤の場合、週25時間授業をして約1 00ユーロを支給されます。公立学校の教員は同じ時 間数で、もちろん授業だけでなく担任の仕事も含まれていますが、約2300ユーロを支給され ます。「政府の助成金を受ける私立学校」と公立学校とでは、教員の給与の格差が大きいとい うことが特徴といえます。これが「政府の助成金を受ける私立学校」が存続し続けている理由 の一つといえます。なぜなら国はかなりの資金を節約できることになるからです。

 国は、公立学校の生徒一人に対して約6000ユーロから7000ユーロ位支給します。それに対 して、国は「政府の助成金を受ける私立学校」の生徒一人に対して約2000ユーロから3000ユー ロの支給ですみます。そのため、私が学校長として抱えている大きな課題の一つはどのように 資金を管理し運営するかということです。「政府の助成金を受ける私立学校」のなかには規模 の大きい学校がいくつかあります。例えば、イエズス会系の学校は潤沢な資金をもっています。

しかし、多くの「政府の助成金を受ける私立学校」はそうではないのが実情です。「政府の助 成金を受ける私立学校」はなんとか自給自足をしています。

 カセレス県には学区があります。カセレス司教区の学区には、カセレス司教区学校と公立の エストレマドゥーラ学校、それから高等学校もあります。ここに住んでいる人々の子どもは三 つのうちのどれかに通います。「政府の助成金を受ける私立学校」は生徒を選ぶことはできま せん。私たちの学校(カセレス司教区学校)は公的資金に支えられているため、公立学校と同 じ規則に従うことになります。通学区の「親」が学校を選択するのです。生徒の入学を最終的 に決定するのは点数です。初めに、家族が住む地区、それから父親か母親の働いている地区、

それも加算されます。なぜなら親が子どもを学校に連れてこなければならないからです。もし その学校に兄弟姉妹がすでにいる場合、それも加算されます。もし外国人ならば優先権があり

4 カセレス司教区学校のManuelLázaroPulido学校長に対するインタビューは2014年2月26日の20 時00分から23時00分までの3時間にわたって行われた。ここではとくに「政府の助成金を受ける私立 学校」の制度的特徴がわかる箇所を抜粋して掲載している。

5 エストレマドゥーラ自治州教育委員会所蔵の公式書類“TABLASHORARIO/SALARIO2013”に よると、上限の週25時間授業をする初等教育課程教員の基本給与は1491.59ユーロである。

ます。今年は、私たちの学校(カセレス司教区学校)に80人の子どもが入学を希望しました。

定員は50人(1クラスの上限は25人と定められており、同校の場合は2クラス編成が認めら れている)ですので、点数が計算されました。この点数については自治州教育委員会の視学官 が計算します。視学官からその計算結果が私たちに送られ、それを私たちが公表することにな ります。もしこのような制度に従わないのであれば、協定からはずされます。カセレス司教区 学校は、自力で経済的に賄っていますが、この教区の経済的な負担にもなっています。しかし、

カセレス司教は人々を社会的に援助するためにこの学校を存続させたい意向です。

資料2 初等教育課程長への聞き取り

教員:私は初等教育課程長(Director de Primaria)のほかにも、4年生の担任(tutor)をし ています。授業は週15時間しています。それから10時間は執務室で長の職の仕事をします。担 任の仕事として、週2時間、午後に親と話すための時間が設けられています。しかし、一日中 いつでも動けるようにしておかなければなりません。常に生徒やその家族に対応できる状態に しています。

村越:それでは、学校での勤務時間のほかの活動はボランティアになりますね?

教員:はい、給料は発生しません。やる気が必要な仕事です。これら27時間のほかにも、教員 間の連携のために3時間の会議があります。この教職員会議で、課程長が教員たちにその週に しなければならないことを話します。今週はデジタル黒板の操作を学ぶ講習会があります。来 週は幼児教育の2学期の成績をつけるための会議と、初等教育の成績をつけるための会議があ ります。

村越:課程長たちの会議はあるのですか?

教員:はい。子どもの入学手続きや奨学金の申し込みについてなど、各種手続きの説明をする ためにエストレマドゥーラ自治州政府が課程長を集めます。その後、自分の学校でエストレマ ドゥーラ自治州が決めた行事と日時を教職員会議で伝え、そこに出席していた教員は「親」に その内容を伝えます。

村越:要するに、子ども、「親」、他の教員たち、そして自治州との付き合いもあるということ ですね。

教員:はい。エストレマドゥーラ自治州政府は、評価に関する新しい制度を導入する際の説明 会など、他の要件でも私たち課程長を招集します。また、「親」全体に行き渡るように、学校 からのお知らせはインターネット上にある「ラジュエラ(Rayuela)」と名付けられたウェブシ ステムを通して行われます。しかし、これには問題があって、というのもすべての家庭にイン ターネットがあるわけではありません。そのため、お知らせを印刷して家庭に送ったり、学校 の掲示板に貼り出したりします。

村越:この学校ではすべての生徒が宗教科目を勉強することに「親」は同意しているのですね?

教員:はい。学校入学時に、カトリックに基づく宗教科目は必修科目であることを示し、「親」

6 初等教育課程長JuanManuelRamaGarcía教員に対するインタビューは2015年3月16日の11時20 分から13時00分までの100分にわたって行われた。ここではとくに「政府の助成金を受ける私立学校」

の地域における役割が分かる箇所を抜粋して掲載している。なお、強調のための下線は筆者(村越)に よる。

ドキュメント内 宗教にかかわる教育の研究.indb (ページ 81-85)