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カセレス司教区学校における宗教的情操教育

ドキュメント内 宗教にかかわる教育の研究.indb (ページ 102-108)

2.カセレス司教区学校における「宗教」科目

4.  カセレス司教区学校における宗教的情操教育

 カセレス司教区学校における価値教育について把握するために、「宗教」や「シティズ ンシップ教育」の授業だけではなく、学校の全体活動として位置付けられている宗教的情

操教育に関する活動を紹介する。

 カセレス司教区学校に子どもを通わせる「親」は、同校が特定の宗教、つまりカトリッ クに基づく教育活動を行っていることに合意している。ただし、「親」がみなカトリック を信仰しているわけではない。そのため、学校における教育方針や教育活動について「親」

から合意を得られるような年間目標や年間計画を定めなければならない。その年間目標や 年間計画を立てるのが教頭の仕事である。以下に示す資料12は、カセレス司教区学校の 教頭職を担うと同時に、中等義務教育課程で「宗教」科目の授業を担当しているMiguel Ángel González Sáiz教員に対して行った聞き取り内容である。カトリック司教の資格を もつ教頭が毎年、「司教指導案(Programación Pastoral)」というこの学校が推進する宗 教的活動を立案していることがわかる。「司教指導案」は学校の教育方針を示しており、

通常の「授業(la clase)」にも影響を及ぼすという。各々の「授業」と「司教指導案」に よって推進される活動の両方が、同校における「宗教に関する教育(la formación religiosa)」

を支えていることがわかる。

資料12 カセレス司教区学校の教頭への聞き取り19

村越:先生は初等教育課程と中等義務教育課程の宗教の先生ですか?

教頭:今は中等義務教育課程だけです。この学校で授業をするのは中等義務教育課程だけです が、この学校のほかに、宗教学高等研究所という神学校で神学の授業をしています。サラマン カ・ポンティフィシア大学神学部の分校がここカセレスにあります。司教区神学校もあります。

この両方で神学を教えています。

村越:この学校では、週どのくらい教えていますか?

教頭:(週25時間のうちの)10時間です。なぜなら、学校全体の事務と「宗教的活動の指導(la dirección pastoral)」の仕事をしているからです。事務では全生徒の書類に関するすべての仕 事をしています。そのほかに、この学校における宗教に関するすべてのことをコーディネート しています。

村越:授業自体は10時間ですね?

教頭:はい、10時間です。中等義務教育課程の4年生が2時間、3年生が2時間、2年生が2 時間、そして、1年生が4時間だからです。すべての学年は2クラスずつあります。

村越:1年生から4年生までの年間の授業計画が知りたいです。先生は授業計画を作るときに、カ トリック司教協議会の、つまり国が認めるシラバスに従うのですか? 何を参考にするのですか?

教頭:年間の授業計画は、司教協議会によって考案されます。教科書を出版するそれぞれの出 版社は、司教協議会が立案した授業計画をみて、教科書を作ります。私はその後、教科書の内 容をみて、自分のやり方に合わせます。なぜならば、当然のことながら、カトリックの宗教の 授業であれば司教協議会の承認を得ていなければなりません。「教授の自由(la libertad de 19 Miguel Ángel González Sáiz教頭に対するインタビューは、2014年3月10日の11時30分から12時

30分までの1時間行った。このインタビューにより、中等教育課程の「宗教」科目を担当する際の教 育理念や教育方法も把握したが、ここではその内容は省略した。なお、強調のための下線は筆者(村越)

による。

enseñanza)」20の範疇で、このように説明するか、ほかのやり方で説明するかということです。

 それから、「司教指導案(Programación Pastoral)」と呼ばれる、学校が推進する活動があ ります。宗教に関する教育(la formación religiosa)は、「授業(la clase)」と「司教指導案」

で成り立っています。「司教指導案」は、学校の業務、方針、指導法、指導案など、学校のす べてに影響を与えます。もちろん「司教指導案」は「授業」にも影響を与えます。「授業」は 知識(conocimientos)との関係がより深いので、課題、練習問題、試験などがあります。「司 教指導案」は価値(valores)との関係がより深いので、活動はしますが、知識の習得はなく、

練習問題や試験はありません。これらの二つは両輪です。「授業」はカトリックを信仰してい ない生徒のためにもなります。ただし、この学校はカトリックに基づく学校なので、宗教的側 面はよりカトリックのほうへ傾きます。親がこの学校を選ぶのは、教育課程(la enseñanza)

のすべてにカトリックの教え(unaformacióncatólica)が含まれているからです。

 「司教推進事業(Departamento de Animación Pastoral)」という書類は学校全体のためのも のです。毎年、その年に取り組む価値となるスローガンを探すため、この書類は毎年変わりま す。例えば、今年度(2013-14年度)は、「親密さ(lacercanía)」や「信頼(laconfianza)」を 意味する「アファビィリダ(laafabilidad)」です。

村越:「アファビィリダ」とは、何ですか?

教頭:「アファビリダ」とは、「家族のように扱うこと(el trato familiar)」、「親密さ(la cer-canía)」、「親切であること(amabilidad)」です。また、「家族のようであること(familiaridad)」

とも言えます。家族のような雰囲気をつくることです。

 この書類(2013-14年度用の「司教推進事業」という表題の書類)は、目的や活動について 教員のためにわかりやすくまとめたもので、すべての教員に渡します。その後、教員によって 実現されていくことになります。例えば、「司教指導案」に含まれる「待降節(Adviento)」と はクリスマスの前の時期のものです。その前には「ドムン(Domund;DomingoMundialdelas Misiones)」を催します。「ドムン」とは第三世界のキリスト教コミュニティーと連帯すること(la solidaridad)です。「ドムン」は10月、「待降節」は11月です。1月には「平和(Paz)」、2月 には「飢餓」に関するキャンペーンをします。今は3月なので「四旬節(la Cuaresma)」です。

その後、「ペルーとの5月」(MayoconPerún)という企画があります。ここには「聖母の月(el mesdelaVirgen)」も含まれます。この企画があるのは、ペルーの学校に私たちが援助してい る子どもたちがいるからです。

 これらすべてが、学校全体で取り組む宗教的活動の側面です。そのため、年度初め(9月)

にすべての内容を少しずつ網羅するための書類を作ります。それから、「ドムン」の書類、「待 降節」の書類、「平和」と「飢餓」を一つにまとめたもの、「四旬節」の書類を作ります。「ペルー との5月」の書類はまだ作っていません。

 私が教員を集めて、書類を見せて説明します。私が教員に活動を示唆します。例えば、朝の お祈りや授業を始める際の活動、ビデオや文献を用いたほうがよい活動、個別指導による活動 などがあります。その後、それぞれの教員が応用します。こうして、学校全体で活動に取り組 みます。

20 1978年に成立したスペイン憲法第27条第1項には「すべて人は、教育を受ける権利を有する。教 授の自由が認められる。」とある。

 さらに、親を学校に招いて行う活動もあります。例えば、「平和」がテーマの月の、1月30 日はスペインでは教育の祝祭日で、つまり学校のなかで暴力がない平和の日となっています。

なので、親を学校に招いて中庭で集会を行います。「飢餓」についてのキャンペーンでは、子 どもたちと親たちを午後2時に家に帰すのではなく、学校に残ってみんなでサンドイッチを食 べるという日を設けます。一番安いサンドイッチにして、それぞれが払った分との差額を大き くし、そのお金を送ります。今年はアフリカのベナンという国に送りました。これは(サンド イッチの引換券を示しながら)、サンドイッチの日�、クラスで参加する子どもの名前、もし くは父親か母親ならその名前を書いて、管理して、その食事の日がきたら中庭でその引換券と サンドイッチを交換します。

村越:この券はいくらですか?

教頭:4ユーロです。サンドイッチとジュースと交換します。サンドイッチは通常はハムとチー ズです。この「四旬節」のポスターは、現在すべての教室に掲示されています。9月の教員と の年度初めの会議では、年間の活動についての一般的な話をします。そして10月の初めには 10月に行う「ドムン」について、10月の終わりには11月に行う「待降節」について説明します。

このように、企画があるときには、それについて私が説明することになっています。

 カセレス司教区学校では、学校の年間目標を毎年定めて、その年間目標を示すポスター を作成して各教室の黒板の上の壁に掲示している。2013-14年度の場合は、年間目標を「ア ファビィリダ(afabilidad)」と定めていた(資料13)。「アファビィリダ」という言葉は、「優 しさ」、「親切」、「親しみやすさ」、「相手に関心をもつこと」、などを総括した言葉で、家 族のような絆を結ぶことという意味合いが含まれている。この「アファビィリダ」という 年間目標を実現するために、2013年10月は「ドムン」という第三世界のキリスト教コミュ ニティーと関係を深めて連帯すること、11月は「待降節」、2014年1月は「平和」、2月 は「飢餓」、3月は「四旬節」というように、各月の企画テーマが定められ、そのポスター も作成し掲示されていた。

資料13 カセレス司教区学校の2013-14年度年間目標のポスター21

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