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TCN ASC

IC 2 +Bスクール

企業家

イノベーション創出+

新市場開拓+急成長

ATI

成功企業の出現

ハイテク新産業形成 研究者

集積

SBIR

調達(=「最初の顧客」)

成長支援

IBM, TI, AMD, DEC, Motorola, NCR etc.

需要搬入

技術とヒトの集積

さらに重要な点は、オースティンにおける NTBFs の簇業・成長に向けた支援制度は、

MCC誘致に主導的役割を演じたG・コズメツキーが中心になって、整備された点である。

G・コズメツキーは、MCCの限界を見据えつつ、TCNの創設に見られるように、オーステ

ィンの地域特性を踏まえ、その特性に合ったNTBFsの簇業・成長に向けた支援制度を地域 特性に合わせて創発的に整備していったのである。このコズメツキーの創発的な整備によ り、NTBFs の簇業・成長に向けた支援制度が十分条件として機能し、MCC 誘致により生 じたオースティンにおける技術とヒトから構成される必要条件と結合することに成功した ため、MCCだけでなく、不況により同じようなリストラ圧力を受けたIBM、TI、AMDな ど、地元の大手企業の研究開発部門から、自らの研究成果を商業化しようとするヒトが飛 び出し、NTBFsが簇業され始めたのである。

3.4 外的インパクト:成功企業の出現:

こうして簇業されたNTBFsのなかから成長企業が生まれ、さらに、ETI、チボリ・シス テムズ、デル・コンピュータなどがIPOを実現するなどの成功企業が出現したため、企業 家はもとより、Stock Option の行使などにより従業員もキャピタルゲインを得ることがで

58

きた。成功企業となったNTBFsによるキャピタルゲインの実現がオースティンに対して大 きな経済刺激効果をもたらしたことから、NTBFsの簇業と成長に向けた支援制度の整備に 対して、地元の承認が得られただけでなく、全米の注目も浴びることになる。こうして、

企業家予備軍はもとより、VC や専門支援者もオースティンにおけるビジネスチャンスを 求めて、他地域から移り始め、NTBFsの簇業と成長が一層の高まりをみせることになるの であった。

3.5 Eco-systemの確立:NTBFs集積とハイテク新産業の形成

NTBFsの簇業と成長の一層の拡大は、成功企業が出現する確率を高め、成功企業からの

Spin-off連鎖も生じ始める(図表 3-4)。結果として、オースティンにおいては、半導体、

コンピュータのハードやソフト、通信などのNTBFs集積によるIT産業が形成され、その 地形から、シリコンバレーに倣って、シリコンヒルズと呼ばれるほどの発展を遂げること

になる。NTBFsの集積がシリコンヒルズを形成したことにより、優れた研究者や専門人材

を全米から吸引した。結果として、ハイテク人材の増加率はボストンやシリコンバレーを 超えるまでになったのである(図表3-5)58。同時に、VC、法律事務所、監査法人、経営 コンサルタント、リクルーターなどのNTBFsの支援機関が流入・増加・集積することにな る。フロリダは、オースティンにおけるEco-systemの確立が優秀なヒトや支援機関を集積 する効果を持ったことに注目して、「グローバル・オースティン・モデル」と規定し、巨大 都市における累積集積効果を強調するサッセンの「グローバル都市論」に対置したのである

(Florida [2005])。

58 R・フロリダは、Eco-systemを通じて優秀な人材を吸収し発展する都市モデルを「グローバル・オースティン」、後

に触れるS・サッセンのグローバル・シティ発展モデルを「グローバルな才能の磁石」と定義し直したうえで、21

世紀の地域発展モデルはこの何れかに収束すると主張した。概念的には粗削りであり、論証も不十分ではあるが、グ ローバル・シティの代表とされる東京を抱えるわが国おいて、東京以外の都市が発展する可能性を問う意味において も、フロリダの問題提起は真摯に受け止められねばならない。

59

図表3-4 チボリ・システムズ(=成功企業)からのSpin-off連鎖の発生

出所:西澤・福嶋前掲書、117ページより

図表3-5 米国主要ハイテク産業形成地域におけるハイテク雇用動向

0 100 200 300 400 500 600

1980 1985 1990 1995 2000

オースティン ボストン リサーチトラ イアングル シリコンバ レー 米国全体

[] [1980年を100とした増加指数]

出所:Austin Index, Bureau of Business Research, McCombs School of Business, UT at Austinより作成

60

さらに、成功した企業家たちは、各種の慈善的財団などを設立して、オースティンに対 する「恩返し」のフィランソロピー活動を行ったことから、創業から成長に向け経営に専 念する企業家を地域として支援する文化が醸成され、新規創業に対する「心理的抵抗を取 り除き、誰が起業してもおかしくないような『空気』を醸成した」のである。この結果、

NTBFs簇業・成長・集積Eco-systemが地域経済に埋め込まれ、Eco-systemは確立されるこ

とになる。ボストンやシリコンバレーと同じく、オースティンにおいても、新規創業が地 域文化に昇華され、NTBFsの簇業・成長が集積をもたらし、IT分野の新市場型破壊的イノ ベーション創出を通じたハイテク新産業が形成されたのである59

ここで、さらに重要な点は、Eco-systemの確立により、オースティンでは、技術パラダ イムから別のパラダイムに変化したとしても、容易に移行しえるパラダイム転換力を持つ ことになった点である(Etzkowitz[2008])。実際、オースティンは、ITバブル破綻以降、厳 しい不振に見舞われるが、復活を遂げる。オースティン研究の第一人者であるD・ギブソ ンによれば、1974年には1か所2000人でしか無かった半導体工場は2000年には14か所

22,000人まで増加したが、ITバブル破綻以降、6ヶ所12,000人にまで激減した。にもかか

わらず、オースティンでは、NTBFs簇業・成長・集積Eco-systemが確立されたことから、

ライフサイエンスや環境分野におけるNTBFsが簇業・成長したため、リーマンショックに より失業率は増加傾向を示しつつも、全米の水準よりは低い水準を維持している(D・ギ ブソンとの面談、2009年9月)。その結果、オースティンは、2009年、全米Best-Performing Citiesの第1位に返り咲いたのである(Devol, Bedroussian, Klowden, & Kim. [2009])。

3.6 Eco-system構築の創発性:InfluencerとしてのG・コズメツキー

オースティンにおけるEco-systemの構築は、企業家大学の存在を前提にした技術とヒト の「一定の集積」という必要条件が充足される地域であれば、連邦政府の Cloning Silicon

Valley政策を活用して、地域の産学官連携にもとづくNTBFs簇業・成長・集積Eco-system

の構築により、ハイテク新産業の形成が可能であることを明らかにした。さらに、オース ティンのケースが第2章で提示したNTBFs簇業・成長・集積Eco-system形成モデルとの 適合性も高いことから、オースティンにおけるEco-systemの構築は、そのプロセスを可視 化することにより、その再現可能性を提示したのである。実際、アメリカにおいては、1980 年代半ば以降、オースティン・モデルの再現を図るべく、州と地方は、優れた研究能力を 持つ大学や研究機関の存在する地域において、大学の研究能力の強化・向上を目指して、

各地域の基幹研究大学を企業家大学に変身させ、NSF の支援を受けて UICRC を整備し、

SBIRの支援を取り付けつつ、IT、ライフサイエンス、環境などに関する先端技術研究を行 うことによって、技術とヒトの「一定の集積」を進めるとともに、地域の条件に即した

Eco-systemを構築するなど、オースティン・モデルの再現に向けた取り組みを積極的に推

59シリコンバレー分析の嚆矢となるSilicon Valley Fever: Growth of High-Technology Cultureにおいて、オースティンは、

ダラスと一括されたSilicon Prairieを形成する可能性はあるが、企業家精神に欠けていると評価されていた[Rogers and

Larsen[1984])。オースティンがSilicon Hillsを形成しえたことは、アメリカの常識からも大きく外れる事例であり、

オースティンの事例研究が重視されることになるのである。Rogersは、テキサス大学ICGibsonと組んでで、オ ースティンの詳細な事例研究を出版することになるのであった(Gibson and Rogers [1994])

61 進し始めたのである(Gibson & Rogers [1994])。

MCC誘致合戦において、オースティンに敗退したサンディエゴは、軍事予算の削減など によって深刻な不況(=外的インパクト)に直面したのち、UC サンディエゴ校を中心に した地域の産学官がCONNECTを創設して、Eco-systemの構築に向かうことになる。その 際、UCサンディエゴ校の学長R・アトキンソンがInfluencerとして活動したことが知られ ている(Walshok, Furtek, Lee & Windham [2002])。さらに、1980年代末の不況を受けて、サ ンディエゴだけでなく、有力研究大学を擁する全米各地において、オースティン・モデル の再現を狙ったEco-systemが構築され始める。各地域から簇業されるNTBFsは、SBIRに よる全米レベルの厳しい評価選別を受けつつ、新市場型破壊的イノベーションを創出する ことにより、アメリカ市場だけでなく、世界へ市場を拡げた。こうした成功企業の出現と その集積を通じ、研究大学を要する地域において、NTBFs簇業・成長・集積Eco-systemの 構築を通じて、「高賃金の雇用(=Quality Jobs)」を可能にする、ハイテク新産業を形成し たのである。こうした全米各地域におけるNTBFs 簇業・成長・集積 Eco-system構築を通 じたハイテク新産業形成の総和が、1990 年代、「アメリカの独り勝ち」と揶揄され、怨嗟 の対象にもなるほど、息の長い好況をアメリカにもたらすことになったのである(Audretch [1998])。

62

4UKモデルの形成と限界:ケンブリッジ現象とシリコングレン 4.1「クラスター政策」に先行したハイテク新産業の形成

イギリスにおけるハイテク産業集積地域を確定すべく、地域特化係数(Location Quotient、

LQirR60を適用すると、ケンブリッジとエジンバラが選定される。この両地域は、1980年 代、ケンブリッジ現象やシリコングレンなど、半導体やコンピュータの関連企業が集積し たことで、注目を浴びていた。だが、両地域ともイギリス政府の「クラスター政策」とは 連動していない。イギリスにおける「クラスター政策」は、1998年に公表された貿易産業 省(=Department of Trade and Industry、以下「DTI」という)の『競争力白書(=Competitiveness White Paper)』において言及されたことから、新たな産業政策として注目されながらも、本 格的に導入されるのは2004年頃だといわれていたからである。

さらに、イギリス政府の「クラスター政策」は、NTBFs簇業・成長・集積Eco-systemの 構築を通じたハイテク新産業の形成というより、既存の産業集積における企業のイノベー ション創出能力を高めることに重点が置かれ、ハイテク産業集積に転換することが目的と されていたのである。ライフサイエンスを別にすれば、NTBFsの簇業・成長・集積による ハイテク新産業形成ではなかったといえる。にもかかわらず、イギリスの「クラスター政 策」は、既存の産業集積をハイテク産業に転換することを目的としながら、部分的には

NTBFsの集積促進策を含むなど、一貫性がなく、場当たり的だと批判されている(Borrás &

Tsagdis [2008])。アメリカと対比でいえば、連邦政府のCloning Silicon Valley 政策のような

NTBFsの簇業・成長に焦点を当てた体系的な支援策は採られなかったのである。

イギリスにおけるこうした政策背景を考えるなら、ケンブリッジ現象とシリコングレン は、国レベルの政策を前提にしたオースティンに代表される USモデルとは大きく異なっ ていた。ケンブリッジ現象に象徴されるUKモデルは、国家の関与が殆どないという特性 をみせていたのである。UK モデルの問題点は、国と地域が連携しつつ、地域における

NTBFs簇業・成長・集積Eco-system構築を通じてハイテク新産業を形成するというUSモ

デルにみられた展開力を持ちえなかった点にある。後に詳しく見るように、ケンブリッジ 現象とシリコングレンとも、イギリス政府がクラスター政策を実施し始めた時点から、停 滞し始めており、USモデルの再現とはならなかったのである61。そこで分析の焦点は、US

60 地域特化係数はLQirR=(Xir/XIr)/(XiR/XIR)として表示される。Xirr地域におけるi産業の事業所数、企業数、雇 用者数などを示す。以下、XIr は、r地域における製造業など、i産業を含む母数になる産業に属する事業所、企業数、

雇用者数である。XiR は国などr地域を含む母数となる地域のi産業に属する事業所数、企業数、雇用者数を示し、

XIRは地域と産業の母数を構成する事業所数、企業数、雇用者数を意味している(Maggioni[2002])。ただ、指数の算定 に際して、いかなる数値を選ぶかについてはなお検討の余地があり、かつ必要な数値が得られるかという問題もある。

また、雇用者数では、ハイテク産業においては特異な技能を要するという観点に立てば、ハイテク雇用者の偏在はそ の基盤を示すものとして重要である。だが、ハイテク雇用者を如何に定義し、それをどの地域区分まで把握できるか もついても、統計上の制約が残らざるをえないであろう。さらに、産業区分iでは、各国の産業分類を前提にして、

ハイテク産業、例えば、OECDなどでハイテク産業の指標とされるR&D比率3%以上の産業、具体的には、コンピ ュータ、電子部品、製薬、医療器具、計測機器、光学機器、精密機器、航空・宇宙などが選ばれ、これらを含む製造 Iが母数とされるが、iの地域区分数値の把握については難しさが残る。地域rについては、クラスターが明確な 地理区分を示しえていないため、第1次接近としては、アメリカでは50州、イギリスは65カウンティなどが採られ、

地域母数Rは国である。このように、データの妥当性には大きな制約がある点を留意すべきである。

61イギリスのEco-system形成策が、ポーターのクラスター戦略論に基づいて導入され、英米の親和性から、有効に機 能すると考えられていたことは間違いないとしても(Borrás & Tsagdis [2008])、アメリカのCloning Silicon Valley政策