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地域的な人的資源開発の条件と枠組

第4章 NTBFs簇生のための人的資源と地域的開発

3.2 地域的な人的資源開発の条件と枠組

3.2.1 地域的な人的資源開発提携の条件

地域的な人的資源開発の枠組は、ある中立的な能力開発団体を中心にして、地域の企業 や団体、教育訓練機関の連合体が形成されて、その地域が共通に必要とする技能や技術を 合同で研修する仕組みである。伝統的には、ドイツの職業教育制度のように職業教育機関 を中心に一定の職業資格を獲得するように能力開発する仕組みがある。近年は、地域にお いて生まれて急速に進化する研究開発支援技能や商業化支援技能といった共通ニーズに即 応しながら能力訓練の企業コンソーシアム(Training Consortium)形成の動きが見られる。

企業と団体の提携関係を通じた人的資源開発の枠組みを人的資源開発提携という。

競合する企業間での人的資源開発提携の枠組みがどのようなメカニズムで成立するかに ついての理論的な説明は、現象が新しいために暫定的なものしかないのではあるが、近年 大きな研究関心を持って取り組まれている。旧来の取引費用経済学や資源依存理論では、

人的資源開発のためのハイブリッドな提携関係については予期していなかったので上手く 説明できていない(Gardner[2005])。旧来の取引費用経済学では、人的資源はモニタリング のために内部化するか外部化するかしか前提してこなかったので、提携の下で育てるとい うことは考えてこなかった。そのために、一般的な提携についての理論と同様に理論的な 説明の開発が求められている。一般的な提携が起こる要因は、一般に資源ベース理論、組 織間学習論、組織間ネットワーク論から説明されている(Baringer & Harrison [2000]; Doz &

Hamel [1998];Dyer & Kale[2007]; Inkpen & Tsang [2005]).こうした提携の一般的な提携理論 の観点からの地域的な専門的人的資源の開発提携の研究が進められているが、いくつかの 条 件 が あ る と き に 起 こ り や す い と 考 え ら れ て い る (Gardner[2005]; 若 林[2008])。

Gardner[2005)は、包括的に、①従業員の種類の特性と②企業の環境特性、③企業間関係 の特性という3つの面から、人的資源の管理や開発に関する提携の促進要因を分析してい る。まず、従業員の種類の特性としては、①生み出す付加価値、②技能の企業特殊性があ る。付加価値については、高い従業員の種類は企業が積極的に開発しようとし、低いもの は開発の必要性を感じない。中間程度の従業員の技能について共同の能力開発が行われる 可能性が高いとする。技能の特殊性については、Lepak & Snell [1999]の議論を受けて、一 般的技能と企業特殊技能の中間においては、提携を通じて開発される傾向が強くなるとす

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る。第二に、企業環境の特性としては、①人的資源の希少性、②組織の製品、サービスの 不安定性、③企業規模がある。重要とする能力を持つ人的資源が希少である場合には、そ の安定的確保について企業は積極的に協力しようとする。そして、ソフトウェア製品のよ うに、組織の製品、サービスの需要が極めて急速に変化しやすい場合には、内部的な開発 よりも提携による開発を取る傾向がある。そして企業規模が小規模になるにつれて、提携 による開発を取る。第三に、企業間協力自体の発達要因としては、①信頼関係、②事業ド メインの相似性、③地理的近接性を挙げている。つまり、企業にとっては、市場一般的で も企業特殊的でもない中間的な専門能力に関しては、業界もしくは一定範囲の企業の間の 共通の合意があれば共同開発する傾向がある。科学志向の強い研究者人材はその典型であ る。そして、人的資源が希少で、製品・サービスが不安定で、規模が小さい傾向にある場 合には、共同開発の気運が高まる。

3.2.2 代表的な形態

地域的な人的資源開発の枠組みにはいくつかの形態がある。それらには、業界団体や公 的機関など共同研修システムを提供したり、企業連合が形成されて共通の能力開発を行う ために合同研修プログラムを開発したりする場合などがある。旧来は、ドイツ語圏に於い てかなりの伝統が見られた。ドイツの二元制職業教育制度であり、職業教育や技術者の専 門学校を拠点に複数の企業の技術者の協力を受けながら、先端的で専門的な技能開発が行 われている。近年はすでに述べたように、人的資源開発のコンソーシアム(複数の団体と企 業の提携団体)の結成を通じて行われる。Gardner [2005]は、米国での動きを整理しながら、

人的資源についての提携関係については、①専門人材の共有、②研修訓練企業連合(Training Consortia)、③企業間キャリアシステムの形成(企業間准内部労働市場形成)が見られると する。専門の人材共有については人事コンサルティング企業マーサー・マネージメント・

コンサルティングが行っている、外部研修制度がある。マーサーが他の企業に経験あるコ ンサルタントを24ヶ月位まで貸し出す制度である。第二は、教育訓練のために企業連合を 形成する場合である。モトローラ、コダックス、テキサス・インスツルメント等が共同で 行っている外注企業向けの総合品質管理手法の合同研修プログラム(The Consortium for Supplier Training)がそうである(Filipczak[1994])。第三は、複数の企業の間で、昇進や配置 転換のシステムを形成する場合である。ハンバーガー・チェーンであるキング・バーガー と地元のエンジニアリング企業が連合を形成し、ハンバーガー・ショップでの優秀な従業 員が希望すれば、エンジニアリング企業に転職できる仕組みがある。

こうした企業間協力を運営する主体は、仲介組織を介して行う場合が多い。一般的な仲 介組織のパターンとして次の3つがあるだろう。第一に、伝統的には、商工会議所や業界 団体である。業界団体や商工会議所は、会員企業のニーズを調整しながら、複数の企業向 けの研修プログラムを開発、供給することがあり、会員を維持発展させるための重要な活 動となっている。第二に、教育訓練業務を専門的に提供する企業、機関・団体が提供であ る。先に挙げたスタンフォード大学専門能力開発センターのスタンフォード・オンライン

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という先端技術に関する遠隔教育システムはその一つの例である。第三に、これが近年の 一つの興味深い傾向である合同研修を行うための教育訓練のための企業連合や企業提携で ある。研修訓練企業連合(Training Consortium)は、企業大学(Corporate University)と並んで、

近年の米国の教育訓練の代表的な手法となっている。例えば、サンフランシスコ・ホテル 産業パートナーシップ訓練プログラムというサンフランシスコ地域のホテル産業の合同研 修プログラムがあり、英語研修、クリティカル・シンキング、チーム・ビルディングなど を教えている(Gardner [2005])。

3.3 Eco-Systemにおける地域的人的資源開発の意義

従来のクラスター開発論の議論をふまえると、新規技術型企業簇生のEco-System開発に おいても、地域的な人的資源開発の政策や体制作りは、新規技術型企業の集積地域の国際 競争とそこでの開発競争を考えると重要な意義を持っている。集積地域は、研究開発型の 研究機関、企業、ベンチャー企業が地域的に密接に集積しており、そこでの地域的な研究 開発者や組織間のネットワークの存在が研究開発活動を活性化すると考えられる。けれど も提携関係に比べると、地域での企業同士の「共存状態」が意識されており、競争能力向 上の積極的な地域的目標の共有について明確には意識されない傾向にある。シリコンバレ ー、オックスフォードなどの先進的なクラスターではそういう傾向が強い。ただしフィン ランドのオウルクラスターなどの後発的クラスターでは、近年、むしろ競争力向上につい ての地域的な共通目標の明確化と取り組みの強化が行われる傾向にある。

ただ、従来のクラスター論においては、地域的な人的資源開発の仕組みはこれまで余り 強く意識されていなかった。クラスターは、グローバルなゲートウェイとなる大学、研究 機関、企業が、グローバルな研究開発能力を持つ専門人材を吸引し、流動的な雇用状況の 中で転職させていき、一部が地域に蓄積されると考えられてきた。むろん、シリコンバレ ーやケンブリッジなどの先進的クラスターにそういう傾向が見られるけれども、残念なが ら日本の各クラスターにそういう傾向は弱い。近年、産学連携、大学発ベンチャー起業の 促進などの取り組みは熱心に行われており、研究開発者に対する起業ノウハウの研修やス タートアップ促進の措置は展開されている。だが、日本においては、まだまだ、有名大学 の理系研究者や大学院生は大企業の長期雇用志向であり、起業意欲は十分に高くはない。

米国においても、研究者の起業するキャリアというのは、新たなパスであり、その理解へ の関心が近年高まっているくらいである(Smith-Doerr[2004])。

新規技術型企業簇生をする地域のEco-System構築においては、地域的人的資源開発のメ カニズムを明確に組み込むべきである。それには、①Eco-Systemを支える研究開発活動推 進の人材3類型とその開発メカニズムの違いをふまえて、②地域的な能力開発を支援する 組織間キャリア開発コンソーシアムの形成をして、③コンピタンシーを持つキャリア・モ デルの構築と普及を行い、④地域的な能力の開発と転換の政策的な取組を明確に打ち出す べきである。こうした点について、欧州のケンブリッジとミュンヘンを事例に検討したい。

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4. 欧州バイオクラスター代表事例における人的資源開発の動向 4.1 代表的欧州バイオクラスター地域事例の比較

クラスター研究活動推進人材についての地域的な人的資源開発の観点から、クラスター がどのような人材を必要と考えており、どのように開発しようとしているのかについて検 討する必要がある。ことに日本においては、グローバル研究開発人材は、基礎的な水準で 開発は進んでいるものの、東京圏以外の R&D の支援技術人材及び商業化支援人材の地域 的な十分な蓄積と乏しい傾向にある。次に、地域人的資源開発の取り組みという観点から、

欧州のいくつかの代表的なバイオクラスターである、英国ケンブリッジ、ドイツ・ミュン ヘンでの取り組みについて事例研究してみたい73。そして、先進的なクラスターにおいて は、一見思われている市場型の調達だけではなく、地域的な人的資源開発の取り組みが成 されていることを理解したい。

バイオクラスターの経済的成長について比較すると、ケンブリッジが欧州においては、

比較的優位にある(図表 4-4)。企業規模及び従業員数の集積の水準で見ると、米国のサ ンフランシスコ湾岸地域及びボストン地域の集積が高い。それに対して、欧州においては、

ケンブリッジが欧州においては、両方の面で集積が進んでいる。

図表4-4 欧米の代表的バイオクラスターの集積比較

73これらのバイオクラスターは本プロジェクトの調査研究に関連して200711月より20085月までの訪問調査を 行った。

企業数

企業の従業員数

(資料出所) Boston Consulting Group 調査についてのCasper , S., “Creating successful biotechnlogy clusters” Presentation for “The Shape of Things to Come”conference, Stanford University, Jan 17-18, 2008より引用。