• 検索結果がありません。

第2章 高校生の摂食態度の実態

第1節 高校生の食行動に及ぼす要因について

38

39

教諭は保健室におり、その職務内容には学校保健情報の把握に関することとして大きく 2 点が挙げられている。一つは児童生徒の体格、体力、疾病、栄養状態の実態であり、二つ 目は児童生徒の不安や悩みなどの心の健康の実態等の把握である。さらに、養護教諭は心 身の健康に問題を有する児童生徒の個別指導に当たらなければならない。具体的には、学 校内の健康診断の計画立案や準備を行い、また、食事・睡眠といった生活リズムや歯磨き の習慣などの調査を実施する。勤務校の健康の実態をアンケート調査し把握する。そこか ら見えてきた課題に対して、改善するためには何が必要かを検討することが養護教諭の専 門性である。このように学校内で医学的知識のある養護教諭が医療の専門家となお一層の 連携を果たしてこそ、摂食障害の早期発見、早期対応に効果が上がることになる。

摂食障害は思春期に好発し、病識がないために受診の時期を逃しがちな疾病である。さ らに、重症化すると生命の危険性が高く、治療に長期間を必要とする疾病である。摂食障 害への対応方法をすべての養護教諭が身に付けてほしいという思いがあり、早期発見・早 期対応として、「第 5 章 摂食障害の予防教育」において、養護教諭が中心になり働きかけ ることを願った内容を盛り込んでいる。

筆者は、高等学校において養護教諭として勤務している。保健室に来室する多くの高校 生の様子から、食行動異常の増加を実感して久しい。摂食障害の発症には至らずとも、そ の予備群と思われる生徒たちは、かなりの数に上っている。果たして、現代の高校生にお いて摂食障害予備群は、どれぐらいの割合を占めるのであろうか。発症を何とか水際で、

食い止めることはできないものか。そのためには生徒たちの日常生活の中で、どのような 背景が影響するのであろうか。影響される背景が分かれば、日常の保健指導の中で、摂食 障害を予防するために生かすことができるはずであると思いながら、保健指導を続けてい る毎日であるが、最近では、高校生の痩せ願望が男女共に大変深刻な状態であることに強 い危機感を覚えている。実際には、ダイエット行動の浸透が男女において予想外に認めら れている。

筆者は平成 20(2008)年 9 月に勤務校で食行動に影響する生活実態についてアンケートを 実施した。EAT26 の結果より cut off point を 20 に設定し、摂食障害(疑い)群と健康群 の2群を目的変数、生活実態を説明変数として判別分析したところ、クラブの変数が-.293 であり、クラブに入っていない生徒ほど摂食障害の影響を受けていることが分かった。ま た、クラブに入ることが規則正しい食生活及び正しい食行動を保つことにつながり、摂食 障害に影響がないことが分かった。

小牧(2005)らが、2002 年から 2003 年にかけて全国8府県の全中学校、高等学校(2,252 校)の養護教諭に対して、学校保健現場で観察される生徒の食行動などの特徴、摂食障害に 関連する生徒の現状・動向・医療機関との連携上の問題点などについてアンケート調査を 実施した。アンケート結果によると、中学、高校共に不適切な食生活・行動の生徒数の増 加、摂食障害と思われる事例数の増加や医-教育の連携不足による問題点などが明らかに なったとされている。具体的には、ダイエットの話題が多く、朝食抜き、昼食を残す、高

40

校生では休み時間に間食が多いなど、生徒を取り巻く学校環境が摂食障害発症に促進的な 役割を果たしている実態が見受けられた。

本章では、先の研究で導かれたクラブ活動を運動部、文化部、所属なしの 3 群に分類比 較して、食行動に影響する高校生の実態を分析した。

彼らにおいて、放課後の余暇の違いが摂食態度に影響することが予想される。また、運 動部の方が文化部よりも拘束時間が長く、集団での行動が常態化することも文化部との相 違である。このような日常の生活様式の違いが摂食態度に影響する実態をもとに、高校生 の食行動異常に影響する要因を探った。

1 研究の目的

高校生における運動部員、文化部員を含めた高校生全体の食行動に影響を及ぼす要因に ついて探り、その結果より健康な食行動を確立できるための保健指導と予防教育を実施す ることを目的とした。

2 研究方法

(1)調査対象 大阪府立A高等学校 1 年生及び 2 年生(各 6 クラス)

1 年生 男子 83 名 女子 147 名

2 年生 男子 69 名 女子 161 名 計 460 名

(2)質問紙構成

①摂 食態度検 査( Eating Attitude Test:EAT26) 摂食態 度につい て、 ガー ナーら (Garner,D.M. et al,1979)が作成した EAT26 を用いた。当初作成された EAT40 項目から 26 項目に縮小したが、その信頼性と妥当性が確認された。各項目は「いつも」「非常にしばし ば」「しばしば」「ときどき」「まれに」「全くない」の 6 段階で自己評価する。頻度の多い 順から「いつも」を 3 点、「非常にしばしば」を 2 点、「しばしば」を1点として、それ以 下の頻度を 0 点とした。反転項目として項目 25 は「全くない」を 3 点、「まれに」を 2 点、

「ときどき」を 1 点とし、それ以上の頻度を 0 点とした。そして各項目の得点の単純加算 を総得点とし、切断点 19/20 に設定した。

②対人ストレスイベント尺度 高校生の摂食態度に影響する要因としてストレスのう ち、友人関係に起因するストレスを調査するため、橋本剛(1977)が作成した対人ストレス イベント尺度を用いた。本尺度は,「対人葛藤」「対人劣等」「対人磨耗」の 3 因子、全 30 項目から成っており、それぞれの質問項目に挙げられる対人ストレスイベントを過去 3 か 月間にどの程度の頻度で経験したかについて、「全くなかった」から「しばしばあった」 ま での 4 件法で回答を求めた。

橋本(1997)に従って、各因子について簡単に説明しておく。対人葛藤とは、日常生活 で時々起こるもので、社会の規範からは望ましくない顕在的な対人葛藤に関するものであ り、他者の行動に起因するものである。例えば、知人とけんかをした、知人から責められ

41

たなどである。対人劣等とは、対人関係において劣等感を触発する事態やスキルの欠如な どに関するものであり、主体側の要因に起因するものである。例えば、相手が嫌な思いを していな いか気になったなどである。対人磨耗とは、日常のコミュニケーションで頻繁に 起こる、社会規範からさほど逸脱したものではないが、配慮や気疲れを伴うものである。

例えば、自慢話や愚痴など、聞きたくないことを聞かされたなどである。

③生活実態調査 出水(2008)「高校生の食行動に関する実態報告」(第 1 報)結果より、

高校生の食行動に影響する要因として、睡眠、食事、余暇時間、クラブ活動、無月経が挙 げられた。本調査においては、睡眠(平均的睡眠時間、就寝時間)、食事(平均的食事回数、

夕食時間)、余暇(アルバイト、塾)、クラブ活動(所属クラブ名)、月経状態(初経の時期、

無月経の時期の有無と継続期間)をアンケート項目に挙げ、食行動に影響するかどうかを 検討した。

解析方法として、健康群と摂食障害疑い群の 2 群についてクラブ別に、χ2検定を実施し た。

また、判別分析を用いて、EAT26 総合得点とアンケート項目との関係を見た。

(3)調査時期

平成 20(2008)年 10 月~11 月

(4)調査方法

教科保健の授業を利用して無記名自記式による調査を実施した。質問紙への回答は授業 の最後 10 分間に記入させ、その場で回収した。

3 研究結果

(1) 摂食態度の性別における比較

EAT-26 得点を cut off point で 19 点以下を健康群、20 点以上を ED 群の 2 群に分類した 性別比較を表 3-2 に示した。性別による違いについてχ検定によって調べたところ有意で あった(Fisher の直接法の結果 p は 0.22 で有意差が認められた)。残差分析によると、ED 群における女子の比率の方が有意に多いことが分かった。

表 3-2 健康群とED群の性別比較 人数(%)

n 健康群 ED 群 男子 152 147(96.7) 5(3.3) 女子 308 279(90.9) 28(9.1)

次に、得点平均値と標準偏差値を群別に比較した値を表 3-3 に示した。

42

表 3-3 健康群と ED 群の平均値と SD 及びt検定の結果

健康群 ED 群

平均値 SD 平均値 SD t値 df

男子 5.65 3.52 42.8 18.5 4.488* 4.01 女子 7.87 4.7 28.18 8.65 12.235*** 28.619 ED 群男子の総合得点が女子よりも高いのは、外れ値として男子 1 名の総合得点が 75 点で あったためである。従属変数に EAT26 総合得点をおき、性別と摂食態度が影響する効果を 二要因の分散分析を用いて検討した。その結果、ED、性別の主効果と交互作用が全て 0.1%

未満で有意であった。(ED:F(1.458)=538.384,性別:F(1,458)=25.047,交互作用 性別*

ED:F(1,458)=46.300)

(2) 摂食態度のクラブ別比較

健康群と摂食障害(疑い)群の 2 群において、クラブ別割合を比較したものを図 3-1 に 示した。文化部所属生徒全体の 8.1%である 14 人が摂食障害疑い群であった。同様に、運 動部所属生徒全体の 5.0%である 11 人が摂食障害疑い群であり、文化部所属生徒の摂食障 害疑い群である比率の方が多く見られた。一方、部活動をしていない生徒全体では 13%で ある8人と最も高率に見られた。以上より、運動が十分である生活の方が摂食態度は健康 であることがうかがえた。また、摂食態度には、運動量の有無よりも、自由時間の有無が 考えられた。

図 3-1 クラブ別の摂食態度 (単位;人数)

(3) 「ダイエット」のクラブ別比較

EAT26 の第 23 質問項目「ダイエット(食事制限)に励んでいます」に注目し、高校性の ダイエットの実態について調査検討した。ダイエットを「全くない」「まれに」「ときどき」

を未実施群、「しばしば」を実施群、「非常にしばしば」「いつもそう」を頻回実施群とした 結果を表 3-4 に示した。

健康群(計426人)

210 158

54

4 運動部

文化部 所属なし 両方 摂食障害疑い群(計33人)

8 11

14 0