第3章 大学生の摂食態度の実態
第2節 女子大学生の意識が食行動に及ぼす影響
-痩身願望、体重操作、体型満足等の意識につい
て-2015(平成 27)年度の厚生労働省全国健康栄養調査結果によると、「痩せ」(BMI の数 値が 18.5 未満)の割合は 4.7%であり、10 年間で変化が見られなかったが、女性の痩せの 割合は 12.3%であり、10 年間で増加傾向にある。「痩せ」の割合について性・年齢階級別 に見ると、男女共に 20 歳代で最も高くなっており、なかでも 20 代女子の痩せを示す割合 は 21.5%と危機的状況が見受けられる。
ただし、20 代女子の痩せを示す割合は、2009(平成 21)年度の 24.6%を最高に、減少傾
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向を示している。2013(平成 25)年に定められた「健康日本 21(第 2 次)」に 20 歳代女 性の痩せの割合を 20%にするという目標が掲げられたが、この目標は達成できていない現 状が見受けられる。現代の若い 20 代前半の男女において、痩せ傾向が見られるデータの一 つについて、このような、若い女性のみならず若い男性たちにまで広がっている「痩せ傾 向」や「痩身願望」の問題は、精神医学、マスコミ学、社会学など広範な領域と関わる。
現代社会において「痩せている」ことは外見上の美しさや自己管理能力が高いという人物 評価の基準となっている。それとは逆に「太っている」ことは外見上の不利益や自己管理 能力が低く見られるという弊害が一層強調されている。菅原・馬場(1998)は、「男性は友 人関係や異性関係といった対人関係の中で痩身を考え、女性は流行の服が着られる期待や 自己の目に映る体型へのこだわりと言った自己満足の中で痩身を考える」と指摘している。
「社会・文化的」要因として、テレビのコマーシャル、広告誌の一面には痩せを賛美す る風潮がますます盛んである。横山(2000)は社会・文化的要因について、摂食障害に関連 した文化として、①飢餓から解放された物質的に豊かな文化、②痩せていることに極めて 価値をおく文化、③他者との競争と成功を強いる文化(この文化が「体重のコントロール は自分のコントロールであり、それは美と成功を意味する」という信念をもたらす)、④高 度メディア文化(この文化は、価値観の多様化・社会規範の喪失とそれに伴うアイデンテ ィティの喪失・欠落の問題をより先鋭化する)、の四点を挙げている。古典的な近代社会に 比べて、現代社会においては映像メディアが発展し重要性を増している。加藤(2004)は、
その中で女性は身体の外見の美しさによってより強く評価されるようになり、「人間が身体 として評価される」という規範は一層強く働くようになると指摘している。
国が年 1 回実施する若年齢相対象の調査結果においては、現在及び将来の不安として、
若年無子家族の女性は「家族の健康・病気」(66.0%)と「妊娠・出産」(60.7%)がそれぞれ 6割を超えている。また、別の調査では子どもは「自分の分身」と捉える人も存在しており、
結婚非意向者でも4割強は「子どもをもうけたい」と答えている(男性の結婚非意向者では 2割に満たない)。
高度経済成長期以降、女性は高学歴化し、女性の職場進出は進んでいる。ただし、女性 の就労が当たり前の時代においても、女性には男性とは異なる役割を担うことが要請され 続けている。就労し結婚後は出産を望むライフスタイルを当然としている意識の中で、女 子には、若いころとは真逆の「母性」である産む性、育てる性としての「性役割分担」が 求められる社会的背景に変化はない。このように女子には将来は産む性としての母性とい う圧力によって、相乗的に過大なストレスを受けることにつながっている。体型はスリム でありたいが、健康な「母性」でもありたいという気持ちから、ストレスは一層増幅され ることになっている。
1 研究の目的
最近の女子大学生の摂食障害に関する意識について調査検討する。
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摂食障害の原因とされる「心理的」「社会・文化的」「生物学的」発症因子のうち、女子 大学生の体型別意識と相関関係があるものは何かを検討し、予防教育のために必要な発症 因子を探求する。
2 研究方法
(1)質問紙構成
①年齢・学年・性別、現在の身長と体重、理想の身長と体重
②「痩身願望」項目 ダイエット、おしゃれ、体重満足、体型満足、体重を気にする、
体型を気にする、痩せたいと思うの 7 項目について「とてもよく」「少し」「あまりな い」「全くない」の4件法で回答を求めた。
③ダイエット(体重操作)の経験について 「体重操作」とは日常生活において体重が 増え過ぎないようにダイエット以外に実行していることと定義した。具体的には、運 動する、間食を減らす、少ししか食べない日を作る等が挙げられる。ダイエットと体 重操作については実行の有無について 2 件法で回答を求めた。また、体重操作の理由 についてたずねた。理由について「太ったから」「人より太いから」「痩せている方が 健康に良いから」「良いスタイルになりたいから」「痩せている方がかっこ良いから」「人 から言われて気になったから」「その他」について回答を求めた。
④自分の身体像(外見)への拘り」について ムダ毛の手入れ、「男性はすらっとしてい る方がかっこいい」、「女性はすらっとしている方がきれいだ」等の意識についての質 問を「とてもよく」「少し」「あまりない」「全くない」の4件法で回答を求めた。
⑤外見からの影響について a)「体重が増えると嫌になる」「自分の体型や体重に対す る周りの目が気になる」等の主観的思いについての質問を「とてもよく」「少し」「あ まりない」「全くない」の4件法で尋ねた。b)体型や体重について、「誰の言葉が気 になるか」について、父親、母親、兄弟、彼女・彼氏、同性ともだち、異性ともだち、
先生、その他について尋ねた。c)自分が痩せているか、太っているか「誰と比較す るか」について 友達、芸能人またはモデル、兄弟、その他について尋ねた。
⑥摂食障害に関する知識について 拒食症、過食症、標準体重について知っているか 2 件法でたずねた。
体型についてはアンケート結果よりBMIを取り上げ、痩せ(20未満)、普通(20~24)、 肥満(25以上)の3群に分けた。BMI による分類においては、18~20 歳女子の年齢に見 合った修正値として、痩せ群を20未満、普通群を20~24、肥満群を25以上とした。
統計には、Pearsonのχ2乗検定を用いた。有意確率を p<.05とした。
(2) 研究対象
大学1回生 計 146名
内訳 文学部32名、理学部35名、スポーツ 科学34名、生活科学部45名 アンケート回収率 100%
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アンケート実施時期 平成25年7月22日~24日
アンケート実施方法 大学1回生の「必修体育Ⅰ」の授業終了前の 20 分間を設定し、
アンケートを実施した。実際には、授業担当者からアンケートの目的と、氏名は無記名で ある説明を口頭で聞いたのち、アンケート用紙を配布されてから実施した。記入済み用紙 は授業内に回収した。
倫理的配慮
調査の趣旨等を大学の「疫学倫理委員会」に申請し、アンケート実施の承諾を得た。教 職員には、実施内容及び目的、方法について文書で協力を求めた。学生には文書で趣旨を 説明した上で、自記式記入を求めた。氏名記入については、すべて無記名の回答とした。
3 結果
図4-5 BMIによる度数分布 単位:人数
体格別にアンケートの質問項目に回答した割合と、χ2検定結果を表4-8に示した。
表4-10 体格別回答結果の割合とχ2検定結果
アンケート項目 やせ 普通 肥満 χ2 df p
ダイエットをしたことが
ある 25(47.2) 33(53.2) 8(30.8) 5.379 2 * ダイエットを話題にする 29(53.7) 34(54.8) 1(11.1) 6.253 2 * やせたいと思う 29(54.8) 57(91.9) 9(100.0) 25.053 2 ***
体を引き締めるために運 動やトレーニングをして いる
15(27.8) 19(30.6) 0(0) 3.743 2 *
体重が増えると嫌になる 26(48.1) 40(64.5) 4(44.4) 3.664 2 * 見かけが良いと得をする 53(98.1) 60(96.8) 0(0) 2.135 2 *
1 9
16 20 22 24
13 8 6
1 2 2 1
21
0 10 20 30
16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 不明
BMIについて
123 男性はすらっとしている
方がかっこいい 46(85.2) 45(72.6) 5(55.6) 5.03 2 * 男性はがっちりがかっこ
いい 44(81.5) 56(90.3) 5(55.6) 7.517 2 * 女性はふっくらが女らし
い 37(68.5) 50(80.6) 5(55.6) 3.81 2 * 女性はすらっとしている
方がきれいだ 49(90.7) 59(95.2) 8(88.9) 1.066 2 * 標準体重を知っている 41(75.9) 52(83.9) 8(88.9) 1.583 2 * 拒食症を知っている 30(56.1) 35(56.3) 7(73.3) 6.881 2 *
*p<.05 *** p<.001
(1)痩身願望
①ダイエットをしたことがある
女子大生の体格を痩せ、普通、肥満の3群に分類し、3群でのダイエット経験について、
有意差を見るためにχ2検定した結果χ2(2)=5.38, p<.05 で、有意な差が見られた。残差分 析の結果、肥満群ではダイエットしたことがある者が有意に多かった。
②ダイエットについて話しをする
体格別の3群でのダイエットを話題にすることについて、有意差を見るためにχ2検定し た結果χ2(2)=6.25, p<.05 で、有意な差が見られた。残差分析の結果、肥満群ではダイエ ットについて話しをする者が有意に少なかった。
③痩せたいと思う
体格別の3群での痩せたい思いについて、有意差を見るためにχ2検定した結果χ2 (2)=25.05, p<.001 で、有意な差が見られた。残差分析の結果、痩せ群では痩せたいと思う 者が有意に多かった。同様に、普通群では、痩せたいと思う者が有意に多かった。
④痩せたい理由
痩せたい理由を、太った、人より太い、健康に良い、かっこいい、人から(太ったと)
言われた、その他の7項目において回答を求めた。体格別の3群における割合を図4-6に 示した。