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第3章 大学生の摂食態度の実態

第1節 大学生における摂食障害の危険性について

-運動習慣の違いにおける痩身願望、体重操作、体型満足等の調査を通して-

今日の摂食障害に関する研究では、発症原因として「心理的」「社会・文化的」「生物学 的」要因が挙げられる。「心理的要因」として摂食障害になりやすい性格には、従来から「手 のかからない良い子」であると言われている。性格特性として、完璧主義、自主性が弱く、

自己評価が低い傾向が挙げられる。「社会・文化的要因」として考えられるのは、テレビの コマーシャル、広告誌に痩せを賛美する社会風潮が盛んであることである。「生物学的要因」

としては、先進医学の研究結果から遺伝的素因の影響が言われている。また、脳画像研究 から脳の機能異常にも言及されている。また、今日の研究では、これら三分野の要因は単 に独立したものではなく、それぞれが相互に関連し影響を及ぼし合う中で摂食障害の発症 要因になると言われている。

発症要因の一つである「社会・文化的要因」について見ると、近年ほど、健康志向が強 く言われる時代はない。我々の周囲には健康器具や健康のためのサプリメント、健康飲料 等、健康のための品物が山積している。健康のためと謳われた品物がすべて痩せることを 目的にしている。このように痩せること、すなわち健康と位置づけている運動習慣が摂食 障害を増大する危険性を孕んでいることには無関心な現状である。このような健康志向の 強まる現代社会における運動習慣と摂食障害の危険性について検討していきたい。

摂食障害傾向と運動習慣との関連について、一般青年女子を対象に検討した先行研究で は、中強度以上の運動を週3回以上の頻度で行っている場合は摂食障害傾向に関係する特 有な心理的特性が存在し、運動量の多いことが摂食障害傾向と強く関係するとされている。

さらに、運動習慣それ自体が摂食障害の発端になりうるという考察がなされている研究も 存在する。

運動習慣を広くスポーツと捉え、食行動異常発症の割合が高いと考えられているスポー ツ競技を対象にした研究は欧米を中心に注目されてきた。スポーツ種目別による食行動の 違いに関する研究報告としては、食行動に関する問題はパフォーマンスや容姿のために痩 せなければならないスポーツ種目に参加するアスリートに一番高いことが認められたとい う Sundgot-Borgen,J.K.(1993)の報告がある。特に美しさやその技巧をもって「見られる競 技」という点から、体重・体型への思い込みが強い等が言われている。 Reel,J.J. &

Grill,D.L.(1996)は、チアリーダーにおける摂食障害とプレッシャーについて検討し、そ の結果チアリーダーは体重に関するプレッシャーが非常に大きく、摂食障害を導く方法で 体重管理を行っている者が存在することを報告している。Petrie,T.(1996)は、痩身が重要 視されるスポーツ競技を行っている女子アスリートは体重に関心を持つ傾向が高いことを 指摘している。Davis,C.& Cowels,M.(1989)は、痩身が必要とされるスポーツ競技を行うア

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スリートは痩せているにもかかわらず、自分の体重や容姿に不満足である。さらに Stoutjesdyk,D. & Jevne,R.(1993)の報告によれば、痩身の必要性があるスポーツ競技だけ ではなく、体重が階級の目安となるスポーツを行っている女子アスリートも同様に、食行 動異常の傾向が強いという。Zaharoff,A.M.(1996)は、女子アスリートが体重をコントロー ルすることで最適な身体像を手に入れようとするため食行動に強い関心を示すと考えてお り、その結果過度な食行動への関心が食行動異常へと移行し、摂食障害になると考えてい る。

欧米では、Nattiv,A.& Lynoh,N.(1994)らは、女子スポーツ選手の FAT(Female Athletic Triad)として、食行動異常、月経異常、骨粗鬆症 の三徴を挙げている。FAT の一症状であ る食行動異常に関しては、スポーツをしない人よりもアスリートの方が摂食障害を発症さ せる傾向が強いことが認められている。我が国においては、竹中ら(1994)は、女子アスリ ート及び一般女子学生を対象に栄養摂取調査を行った結果、激しい体重制限や極端に細い 身体像を要するスポーツ競技においては、過食行為や身体イメージの崩壊などの摂食障害 傾向が極めて高いことを報告している。山崎・中込(1998)は、対象とした女子アスリート のすべてが現在の体重よりも細いボディイメージを理想とし、「食べる」ことに罪悪感を持 ちやすいと報告している。このように女子アスリートたちが一般女子学生よりも極度の痩 せ願望や食行動異常などの摂食障害傾向を示す報告がしばしばなされ、摂食障害に結びつ く可能性が示唆されている。

スポーツ選手は男女同様に競技成績が求められるが、その反面、女子スポーツ選手にも

「母性」である産む性、育てる性としての「性役割分担」が求められることに時代は変わ っても変わりはない。FAT の三徴には月経異常が挙げられている。月経異常と言われる中に は「機能性無月経」のように、本来は女性としてあるべき産む性(母性)への弊害が見受 けられる。競技成績と母性という両極からの圧力によって、過大なストレスを生むことに つながっている。この点においては、低体重の影響で月経がない女子選手においては良好 な競技成績と同時に健康な「母性」を求めることによって、そのストレスはさらに増幅さ れる現状が存在する。この点について見ると、スポーツ選手ではない一般的女子大生にお いても同様に痩せたい反面、母性を求める葛藤の中でのストレスが増大している。

最近の若い男女において、女性のみならず男性たちにまで広がっている「痩せ傾向」や

「痩身願望」の問題は、精神医学、マスコミ学、社会学など広範な領域と関わる。現代社 会において「痩せている」ことは外見上の美しさや自己管理能力が高いという人物評価の 基準となっている。それとは逆に「太っている」ことは外見上の不利益や自己管理能力が 低く見られるという弊害が一層強調されている。菅原・馬場(1998)は、「男性は友人関係 や異性関係といった対人関係の中で痩身を考え、女性は流行の服が着られる期待や自己に 目に映る体型へのこだわりと言った自己満足の中で痩身を考える」と指摘している。一方、

菅原・馬場(1998)によると、男子選手については女子選手とは違う要因に摂食障害にお ける危険因子として周囲からどのように見られているかという意識の問題があるという。

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出水(2000)はスポーツ選手に限定しない、一般的男子における摂食障害の危険因子として、

外見を重視するという意識傾向を挙げている。2000 年当時、アンケート実施した中学、高 校、大学生において、男子の 26%が無駄毛の処理をしているという結果が報告された。無 駄毛処理については周囲を意識した結果取る行動と位置づけている。

本研究では、摂食障害の発症原因の一つとして挙げられる「社会・文化的」要因の中で、

今日の健康志向の盛んな社会風潮の中で「運動習慣」に注目した。

涌井ら(1999)らの先行研究では、高頻度(週 3 回以上)に運動を行っている運動量の多 い集団について論じたものが多く見られるが、日常的な低頻度の運動習慣について論じた ものはない。

1 研究の目的

本研究では、大学生に多く見られる摂食障害の原因を探るため、プロ選手養成を目的に するような、連日の高頻度の運動量ではなく、平均的大学生に見られる低頻度の運動(サ ークル活動での運動等)を行っている大学生男女において、運動習慣の有無及び性別の違 いにおける痩身願望、体重操作、体型満足等の調査結果を比較した。現代の大学生におけ る摂食障害の危険性一般を示唆しうるかどうかを検討する。比較対象群として運動を全く していない大学生男女をコントロール群に置いた。

2 研究方法

(1) 調査対象者及び調査時期

調査対象は某県内の総合大学 スポーツ健康科学専攻の学部生 155 名、内訳は男子 77 名、

女子 78 名であった。アンケート回収率は 100%であった。

調査時期は平成 25 年1月であった。

大学生における摂食障害の危険性を検証するための仮説を次の通り、立てた。

仮説「運動経験のある学生は健康的な食行動を取る。運動経験のない学生は不健康な食 行動に陥りやすく、摂食障害の危険性が高く見られる。」

原因として考えられることとして、①自分の Body image を正確に捉えることができてい ない。②摂食態度における誤った認識がある。③実際の体型と理想とするイメージとのギ ャップが大きい。以上の3点について検討していく。

(2) 調査内容

本研究では独自に作成した質問紙を用いた。

質問紙の枠組み及び構成は次の通りである。質問紙は 2 群に分かれる。

A 群は、「痩せ願望」とそれに起因するダイエットや体重操作の程度や自己像(自分の体 重や体型)に関する意識についての質問である。

B 群は、現代の若者が同性及び異性に対して好意的に思うイメージや外見が良いと得をす ることが多い等の意識や行動についての質問である。

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「とてもよく」(する、思う)を 4 点、「少し」(する、思う)を 3 点、「あまりない」を 2 点、「全くない」を1点とした4件法で自己評価を求めた。

これらは食行動への態度を明らかにする項目から構成され、本研究では食行動異常度を 見るために使用した。

実際の質問項目は表 4-2 に挙げた質問項目と、因子分析の途中に除外した「体を引き締 めるために運動や筋肉トレーニングをしている」を含めた 23 項目である。

他の質問項目は年齢、性別、現在の身長・体重、理想身長・体重、スポーツについて(経 験の有無、種目、開始時期)であった。

(3) 調査実施方法及び倫理的配慮

大学1回生の「スポーツ健康科学セミナーⅠ」の授業終了前の 20 分間を設定し、アンケ ートを実施した。実際には、授業担当者からアンケートの目的と、氏名は無記名である説 明を口頭で聞いたのち、アンケート用紙を配布されてから実施した。記入済み用紙は授業 内に回収した。

倫理的配慮として、調査の趣旨等を学校側に説明し、教職員同意のもと、学生には口頭 及び説明文書で趣旨を説明した上で、自記式を求めた。氏名記入については、すべて無記 名の回答にした。また、これらのデータは統計的に処理され、個人を特定することはない 旨を対象者に説明し、本調査に対する理解を得ることに努めた。

これらの分析には IBM SPSS Statistics 23 を使用した。

3 結果

本研究におけるアンケートの「現在、運動(学内、学外どちらでも良い)をしています か?」という質問に対し「はい」と回答した男子は 62 人(79.5%)、「いいえ」は 16 人(20.5%)、 女子は「はい」が 45 人(59.2%)、「いいえ」が 32 人(40.8%)であった。

質問項目「痩せたいと思いますか?」に、「はい」と回答した者を「痩身願望」を持つ者 とした。運動習慣別、性別について比較した結果を表 4-1 に示した。

表 4-1 痩身願望における性別、運動習慣別χ検定結果

運動習慣がある 運動習慣がない χ df p 男子 16(25.8) 5(31.3) 47.89 1 ***

女子 42(93.3) 30(96.8) 23.83 1 ***

***p<.001

男子において運動習慣別での痩身願望比較について、有意差を見るためにχ²検定を 行ったところ有意であった(χ²(1)=47.89, p<.001)。残差分析をした結果、運動習慣 別の 2 群では有意差が見られた。運動習慣のある男子の痩身願望が有意に少なかった。

女子において運動習慣別での痩身願望比較について、有意差を見るためにχ²検定を