第2章 高校生の摂食態度の実態
第5節 食行動に影響する要因 -睡眠-
今野(2006)の臨床報告では、摂食障害患者の半数以上に睡眠障害があり、睡眠障害の頻 度は過食症に伴う場合が最も高く見られる。過食を伴う拒食症、制限型拒食症の順に睡眠 障害の頻度が高かった。
全国健康栄養調査結果(2015)より、睡眠に注目すると、1日の睡眠時間は、平日7時間 14分、土曜7時間37分、日曜7時間59分であった。長期的に見て睡眠時間は、どの曜日も 短くなる傾向にあり、2005年にいったん減少が止まったが、今回再び減少に転じた。その 結果、今回はどの曜日も1970年以降で最も低い水準となった。
睡眠の質の状況として、男女共「日中、眠気を感じた」と回答した者の割合が最も高く、
男性37.7%、女性43.0%である。その他の項目では、「睡眠時間が足りなかった」と回答 した者の割合が男性では30 歳代、女性では20 歳代及び40 歳代で約4割となっている。
睡眠全体の質に満足できなかった22.4%、23.0%であった。結果より、熟睡感の欠如を 感じている割合が年齢や性別を問わず高い。
近年、睡眠と疾患の関係性について注目されている。特に、高血圧、糖尿病、心臓病、
脳卒中等の生活習慣病において、睡眠不足及び生活リズムの乱れは発症要因になると報告 されている。また、BMIは平均睡眠時間7時間を底辺としたU字型のカーブを示し、睡眠時間 が長くなるにつれて、また短くなるにつれてBMIは高い値を示したと報告している。最近の 睡眠医学の進歩には目覚ましいものがあり、上田(2001)は神経ペプチドの一つであるオレ キシンの発見により、ラットやマウスの脳室内にオレキシンを投与すると摂食を誘起する ことや、オレキシン遺伝子欠損マウスでナルコレプシー様発作が起こることから、摂食と 睡眠という一見関係のない状態が共通の生理活性物質でコントロールされていることがす でに解明されている。
1 研究の目的
本研究においては、高校生の睡眠実態を把握し、睡眠に影響する生活要因を探ることと する。健康群と摂食障害(疑い)群を比較検討し、摂食障害疑い群特有の睡眠状態を探り、
摂食障害発症の予防のため、日常生活において健康な睡眠を得るために留意すべき点を求 めたい。
2 研究の対象
本校生徒 963 名のうち回答が得られた 920 名を分析対象とした。
3 調査時期
89 2017(平成 29)年 7 月 11 日~7 月 14 日
アンケート実施方法については、放課後、各クラスのショートホームルーム 15 分間を設 定し、アンケートを実施した。実際には、担任からアンケートの目的と、氏名は無記名で ある説明を口頭で聞いたのち、アンケート用紙を配布されてから実施した。記入済み用紙 は記入後すぐに回収した。
4 調査内容
(1) 最近1カ月の睡眠状態を含めた日常生活の様子について調査した。
質問用紙は、主に五つに分類される。①睡眠状態 ②食事状況 ③余暇時間(部活動や 塾)④情報機器の使用状況 ⑤心身の状態等
(2) 摂食態度について ガーナーら(Garner,D.M. et al.1979)が作成したAN患者の臨床症 状を簡便に評価するために、患者の観察から経験的に導き出された摂食行動や態度に関す る40項目の質問から成るEAT-40を用いた。各項目は「いつも」「非常にしばしば」「しば しば」「ときどき」「たまに」「全くない」の6段階で自己評価する。得点は0から3点で、
項目1、18、19、23、39の5項目は頻度の少ない順から「全くない」を3点、「たまに」
を2点、「ときどき」を1点として、それ以上の頻度を0点とする。項目27は得点しない が、他のすべての項目は頻度の多い順から「いつも」を3点、「非常にしばしば」を2点、
「しばしば」を1点として、それ以下の頻度を0点とする。各項目の単純加算を総得点と し、切断点を30点に設定する。
5 結果
摂食障害疑い群において睡眠時間はどのような影響を及ぼしているのかを分析検討する。
(1) 「健康群」と「摂食障害疑い群」の比較
このうち、摂食障害(疑い)群における睡眠状態を分析した。摂食態度調査(EAT40)に おいて得点が 30 点以上のものを摂食障害疑い群とした。
摂食障害疑い群の内訳は以下の表 3-39 の通りである。
表 3-39 摂食障害疑い群の学年・性別 (単位:人数)
男子 女子
健康群 摂食障害疑い群 健康群 摂食障害疑い群
1 年 96 0 215 0
2 年 67 2 230 5
3 年 90 2 199 16
学年、性別における摂食障害の比率を見るためにχ2検定を実施した。その結果(χ2 (1)=1.802, p=ns)であった。学年と性別における摂食障害に有意差は見られなかった。
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① 睡眠時間
健康群と摂食障害疑い群での平均的睡眠時間についての結果を表 3-40 に示した。睡眠 時間について、5時間未満、5~7時間、7時間以上の3群に分類した。
表 3-40 健康群と摂食障害疑い群の睡眠時間比較 人数%
健康群 摂食障害疑い群
5 時間未満 111(12.3) 10(40.0) 5~7 時間 672(74.3) 13(52.0) 7 時間以上 121(13.4) 2(8.0)
睡眠時間について、健康群と ED 群の 2 群での有意差を見るためにχ2検定を実施した。
その結果、(χ2(2)=16.532, p<.001)であった。さらに残差分析の結果、摂食障害疑い群 では 5 時間未満睡眠が有意に多かった。健康群では、5~7 時間睡眠が有意に多かった。
② 夜中に目が覚める回数
健康群と摂食障害疑い群での、夜中に目が覚める回数についての結果を表 3-41 に示した。
目が覚める回数について、目が覚めないを 0 回とし、目が覚める回数を 1 回、2 回、3 回以 上に分類した。
表 3-41 健康群と摂食障害疑い群の覚醒回数比較 人数%
健康群 摂食障害疑い群
0 回 745(82.4) 20(80.0) 1 回 125(13.8) 0 2 回 25(2.8) 3(12.0) 3 回以上 9(1.0) 2(8.0)
夜間覚醒回数について、健康群と ED 群の 2 群での有意差を見るためにχ2検定を実施し た。その結果、(χ2(3)=20.48, p<.001)であった。さらに残差分析の結果、摂食障害疑い 群では 2 回目が覚める割合が有意に多かった。また、3回以上目が覚める割合が有意に多 かった。
③ 調子のよい時間帯について
健康群と摂食障害疑い群での、調子のよい時間帯について質問した結果を表 3-42 に示し た。調子が良い時間帯について、午前良好、比較的午前良好、比較的午後良好、午後良好 の4群に分類した。
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表 3-42 健康群と摂食障害疑い群の調子のよい時間帯比較 人数%
健康群 摂食障害疑い群
午前良好 69(7.6) 5(20.0) 比較的午前良好 175(19.4) 11(44.0) 比較的午後良好 481(53.2) 4(16.0) 午後良好 179(19.8) 5(20.0)
調子のよい時間帯にについて、健康群と ED 群の 2 群での有意差を見るためにχ2検定を 実施した。その結果、(χ2(3)=18.50, p<.001)であった。さらに残差分析の結果、摂食障 害疑い群では比較的午前に調子がよい割合が有意に多かった。健康群では比較的午後に調 子がよい割合が有意に多かった。
④ イライラ感の頻度について
健康群と摂食障害疑い群での、なんでもないのにイライラする頻度について質問した結 果を表 3-43 に示した。イライラ感の頻度については、よくある、時々ある、あまりない、
全くないの4群に分類した。
表 3-43 健康群と摂食障害疑い群のイライラ感の頻度比較 人数%
健康群 摂食障害疑い群
よくある 103(11.4) 7(28.0) 時々ある 216(23.9) 6(24.0) あまりない 366(40.5) 5(20.0) 全くない 219(24.2) 7(28.0)
イライラ感について、健康群と ED 群の 2 群での有意差を見るためにχ2検定を実施した。
その結果、(χ2(3)=8.37, p<.05)であった。さらに残差分析の結果、摂食障害疑い群では、
なんでもないのにイライラすることがよくある割合が有意に多かった。
⑤ 激高する頻度について
健康群と摂食障害疑い群での、ちょっとしたことですぐカッとなる頻度について質問し た結果を表 3-44 に示した。カッとなる頻度については、よくある、時々ある、あまりない、
全くないの4群に分類した。
表 3-44 健康群と摂食障害疑い群の激高する頻度比較 人数%
健康群 摂食障害疑い群
よくある 87(9.6) 4(16.0) 時々ある 148(16.4) 11(44.0)
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あまりない 376(41.6) 1(4.0) 全くない 293(32.4) 9(36.0)
激高する頻度について、健康群と ED 群の 2 群での有意差を見るためにχ2検定を実施し た。その結果、(χ2(3)=20.43, p<.001)であった。さらに残差分析の結果、健康群では、
ちょったしたことでカッとなることがあまりない割合が有意に多かった。
(2)「健康群」と「摂食障害疑い群」の2群間における睡眠時間の関係について
① 自分の睡眠時間の充足度について
健康群と摂食障害疑い群での、自分の睡眠時間の充足度について比較した。睡眠時間別 の自分の睡眠時間への充足度を健康群と摂食障害疑い群の2群それぞれの結果を表 3-45 に 示した。
表 3-45 健康群と摂食障害疑い群の睡眠時間の充足度比較 人数%
十分でない どちらかと言えば十分 十分である 長すぎる
健康群
5 時間未満 85(76.6) 17(15.3) 8(7.2) 1(0.9) 5~7 時間 256(38.1) 341(50.7) 69(10.3) 6(0.9) 7 時間以上 17(14.0) 33(27.3) 63(52.0) 8(6.6) 摂食障
害疑い 群
5 時間未満 5(50.0) 5(50.0) 0 0 5~7 時間 6(46.2) 7(53.8) 0 0 7 時間以上 0 0 2(100.0) 0
睡眠時間の充足度について、健康群と ED 群それぞれについて睡眠時間別の 3 群での有意 差を見るためにχ2検定を実施した。
健康群での結果(χ2(6)=236.47, p<.001)だった。さらに残差分析の結果、健康群では、
5~7 時間睡眠の者が自分の睡眠は、どちらかと言えば十分であるとと思う者の割合が有意 に多かった。7 時間以上睡眠の者が自分の睡眠は十分であると思う者の割合が有意に多かっ た。
摂食障害疑い群での結果(χ2(4)=25.036, p<.001)であった。さらに残差分析の結果、
摂食障害疑い群では、7時間以上睡眠の者が自分の睡眠時間は十分であると思う者の割合 が有意に多かった。
② スマホ使用時間について
健康群と摂食障害疑い群での、携帯電話やスマートフォンで通話やメールをする時間に ついて比較した。睡眠時間別のスマホ使用時間を健康群と摂食障害疑い群の2群それぞれ の結果を表 3-46 に示した。