第1章 問題の提起と分析
第4節 発達的要因
2 スキンシップ不足(身体的コミュニケーション)と摂食障害
従来、愛着の問題は、子どもの問題、それも特殊で悲惨な家庭環境で育った子どもの問 題として扱われることが多かった。しかし、近年は、一般の子どもにも当てはまるだけで はなく、大人にも広く見られる問題であると考えられるようになっている。しかも、今日、
社会的問題となっている様々な困難や障害に関わっていることが明らかとなってきた。例 えば、うつや不安障害、アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症、境界性パーソナリ ティ障害や過食症といった現代社会を特徴づける精神的なトラブルの多くにおいて、その 要因やリスクファクターになっている。
(1) 抱っこする行為の意味
人は、生まれるとすぐに母親に抱きつき、つかまろうとする。逆に言えば、育っていく ためには、つかまり、体に触れ、安らうことができる存在が必要なのである。そうしたこ との重要性が知られていなかったころ、孤児となった子どもは、スキンシップの不足から 食欲が低下し、衰弱死してしまうことがあった。子どもが成長する上で、母が子を抱っこ することは、乳を与えることと同じくらい重要なのである。いくら栄養を与えても、抱っ こが不足すれば、子どもはうまく育たない。抱っこをし、体を接触させることは、子ども
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の安心の原点であり、愛着もそこから育っていく。抱っこをすることで、子どもから母親 に対する愛着が生まれるだけでなく、母親から子どもに対する愛着も強化されていく。抱 っこという実に原始的な行為が、子どもに健全な成長を遂げる上で非常に重要なのである。
母が子どもを抱っこするという行為には、子どもに心理的な影響だけでなく、生理的な 影響さえ及ぼす。子どもの成長を促す成長ホルモンや神経成長因子、免疫力を高める物質、
さらには、心の安定に寄与する神経ホルモンや神経伝達物質の分泌を活発にする効果が挙 げられる。
(2) 母子関係の発達的障害
ブルック(Bruch,H.,1988)は精神力動的立場から次のように述べている。「乳児期に生理 的情緒的欲求に対して、母親からの適切な応答や母親との適切な相互交流がないと空腹や 満腹感を含めた身体内部の刺激を正確に認知する能力が育たなかったり、母親との基本的 信頼関係が形成されない。さらに身体的同一性や自己感覚も発達せず、内部洞察の障害、
自己不全感、身体像の障害を生じ、これらが AN にみられる中核的な精神病理となる」と。
また小林(1996)は、摂食障害を既往に持つ母親の自らの乳幼児期の母子関係が、現在の 母子関係に濃厚に反映するという世代間伝達の現象を指摘している。育児行動の中に反映 されていた母自身の乳幼児期の母子関係をも修正していくことによって、現在ある母子の 関係性が改善可能になるのである。子どもの発達への援助は、母自身が親になっていく過 程と切り離すことはできない。小林(1996)は言う。「青年期の女性に多発する摂食障害が乳 幼児期早期の母子関係の病理と深い関連性があることは今や常識となっている。したがっ て彼女らへの治療の目標は単に体重や食事のコントロールを可能にすることにあるのでは なく、彼女らの人格発達そのものへの援助という視点が不可欠であると考えられている。
実際、最近では摂食障害の女性が結婚し、子どもを産み、育児に従事する際に多大な困難 に出くわすことが少しずつ知られるようになってきた。摂食障害の女性の育児において世 代間伝達の現象が認められることがわかってきた。そのため、彼女らへの育児への援助が 今日の現実的課題となっている」と。
3 食物アレルギー増加及び重症化の背景
今日の児童生徒における食物アレルギーの実態については、大きな危機感なしには語ら れない。乳幼児では、三大アレルゲンの卵、牛乳、大豆が原因物質として挙げられる。た だ、腸管の消化機能の発達に伴い、三大アレルゲンのほとんどは成長とともに自然寛解 (outgrow)する。成人では米、小麦、そばなどの穀類、えびやかに、さばやマグロなどの 魚介類、後述の果物や野菜類がアレルゲン(即時性過敏症を引き起こす、肥満細胞や好塩 基球からのメディエーター放出を惹起する IgE 抗体産生を誘導し、かつ、それらの IgE 抗 体と反応する食物成分)となる。この成人型アレルギーの場合は耐性を獲得していくこと が少ないと言われている。
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今日では、食物アレルギーの児童生徒を対象に、給食を供する保育園、幼稚園、学校で は除去食が特別に準備されていることがほとんどである。除去食が無理な場合は、各自が 弁当を用意する場合もある。食物アレルギーの児童生徒がアレルゲンを万一摂食した(接 触)場合、アナフィラキシーショック症状が発現する危険性のある児童生徒にはアドレナ リンの皮下注射(エピペン)を携行するように指示される場合もある。アナフィラキシー の症状として最も多いのは、じんましん、発赤、痒みなどの「皮膚症状」、次にくしゃみ、
せき、喘鳴、息苦しさなどの「呼吸器症状」、目のかゆみやむくみ、くちびるの腫れなど の「粘膜症状」が多い。そして腹痛や嘔吐などの「消化器症状」、さらには血圧低下など
「循環器症状」も見られる。これらの症状が複数の臓器にわたり漸新世に急速に現れるの が、アナフィラキシーの特徴である。特に急激な血圧低下で意識を失うなどの「ショック 症状」も 1 割ほど見られ、これはとても危険な状態である。健康のためのビタミン C 等を 摂取するために果物を摂ることが勧められるが、新しいタイプの食物アレルギーとして、
OAS(oral allergy syndrome)が近年では増加傾向にある。原因抗原としては果物(キウ ィ、メロン、もも、パイナップル、りんごなど)あるいは野シラカンバの花粉との交差反 応が指摘されており、シラカンバの自生地域に多く認められていた。口腔内の症状もある が、ショック症状を呈することもある。我が国でも花粉症との関連性が考えられている。
食物アレルギーの起こりやすさは、個人によって異なる。以下のような人は食品アレル ギーを起こしやすいので注意が必要である。同じ食品を習慣的に食べ続けている人、偏食 の多い人、便秘の人、ストレスを抱えている人、運動をよくする人が該当する。アレルゲ ンの可能性がある食品を食べ続けると IgE 抗体(免疫グロブリン E 抗体)が増えてしまう。
特定の好物がある人、偏食の多い人は、その可能性が高くなる。また免疫の約 70%は腸内 で働いているため、便秘で腸内の機能が低下しがちな人は免疫力が低下してアレルギーが 起こりやすくなってしまう。ストレスも免疫力を低下させ、アレルギーの敵となる。運動 とアレルギーは一見関係ないように見えるが、食後に運動することにより重症の食物アレ ルギーが起こりやすくなる。これを「食物依存性運動誘発性アナフィラキシー反応」と言 う。以上より、食物アレルギーを予防するには、食事は偏りなく色々な食品を組み合わせ る、腸内環境を改善する、ストレスをためないといった体調管理が必要である。
(1) 食物アレルギーの発症予防
食物抗原特異的な IgE 抗体の産生を阻止する一次予防のためには、主要な感作(アレル ギーなど抗原抗体反応で用いられる言葉で、ある抗原に対し敏感な状態にすることを言う)
経路である乳幼児期の湿疹(アトピー性皮膚炎)の発症予防、発症した場合には適切な治療 を行うことが重要である。また、栗原(2016)は「経口免疫寛容の誘導のためには、 乳児期 早期に離乳食での摂取を始めることが推奨される」としている。今後は、具体的な離乳食 の進め方(どのような児に、いつから、 どのような食材で、どれくらいの量で)や、すでに 湿疹がある児(感作が成立している可能性がある)に対する離乳食の安全な開始方法の開発 が望まれる。