第Ⅳ章 骨粗鬆症の予防
D. 骨粗鬆症検診
年代ごとの骨粗鬆症検診の意義と目的は
骨粗鬆症は加齢,性,家族歴などの除去できない 危険因子と,運動習慣,食事摂取などに関する改善 可能な因子により発症する慢性疾患である。骨粗鬆 症を予防するには除去可能な危険因子を早期に取り 除くことが必要である。成長期は骨量が増加する時 期であり,偏りなく栄養素を摂取し,適度な運動を 行うことが重要である(一次予防)。中年期には骨量 のさらなる増加は期待できないが,骨粗鬆症および その予備群を発見するために検診(図 21)145)を行い,予備群には食事指導,運動指導などを行う。骨粗鬆 症例であれば早期介入を検討する(二次予防)。閉経 後の女性や高齢の男性で骨粗鬆症と診断された場合 には,骨粗鬆症の合併症である骨折を防ぐため,転 倒予防,薬物治療などの介入を行うことは三次予防 と位置づけられる。
骨粗鬆症検診における骨量測定は予防や 治療の対象を抽出するのに有効か
骨粗鬆症検診の目的は,無症状の段階で骨粗鬆症お よびその予備群を発見し,早期に介入することである。
骨粗鬆症の予備群を発見するためには原発性骨粗鬆症 の診断基準による「骨量減少」に相当する者を見出す ことが必要であり,骨粗鬆症のスクリーニングにおけ る骨量測定の有用性も報告されている293)。そのため 骨粗鬆症検診ではスクリーニングを目的とする骨量測 定が欠かせない。
骨粗鬆症検診における骨量測定値の判定基準と,
骨粗鬆症の診断基準との関連を図に示す(図 22)。
わが国で行われている骨粗鬆症検診では,医療面接 と骨量測定の結果から「要精検」,「要指導」,「異常 なし」に判定することになっており145),「骨粗鬆症」
の診断を行っているのではない(図 21)。また,骨 粗鬆症の診断基準では骨密度が
YAM
の70
%以下ま図 21 骨粗鬆症検診における判定基準と危険因子(文献 145 より引用)
第Ⅳ章 骨粗鬆症の予防
たは−
2.5SD
以下を「骨粗鬆症」としているのに対し,骨粗鬆症検診では骨量測定値が
YAM
の80%未
満を「要精検」としている(図 22)145)。しかしなが ら,骨粗鬆症検診で「要精検」とされても,医療機 関では「骨粗鬆症」と診断されない例もある。骨密度測定の結果,骨粗鬆症とされた群の骨折率 は骨量減少とされた群より高いが,骨量減少とされ た群の絶対数が骨粗鬆症とされた群より多いことか ら,骨折発生数は骨量減少とされた群の方が多いこ とが報告されている286)。骨粗鬆症検診では骨折の 発生する可能性が高い者をスクリーニングすること を目的としていることや,骨量測定部位として末梢 骨が汎用されることをふまえて,骨量測定の結果が
YAM
の80%未満を「要精検」としている。
骨粗鬆症検診の判定基準と骨粗鬆症の診 断基準の違いは
健康増進法に基づく骨粗鬆症検診では,骨量測定 値が
YAM
の80
%未満を「要精検」,YAM
の80
%以上
90%未満,もしくは,90%以上で骨粗鬆症の危険
因子がある場合を「要指導」,YAMの
90%以上で危
険因子がない場合を「異常なし」としている。骨粗 鬆症の診断基準では脆弱性骨折なしで骨密度がYAM
の70%以下または− 2.5SD
以下を骨粗鬆症,−2.5SD
より大きく,−1.0
未満を骨量減少としている(図 22)145)。なお,骨粗鬆症の診断基準においては,既 存骨折の有無と種類が診断の過程で問われているが,健康増進法に基づく骨粗鬆症検診に関する実施要項
には既存骨折については記載されていない。二次骨 折予防の重要性を鑑み,既存骨折の有無を医療面接 での質問に入れることや,身長の低下など椎体骨折 のスクリーニングに役立つ項目を検診項目に取り入 れることも必要であろう。
骨粗鬆症の診断と治療方針の決定は骨量測定値の みではなく,胸腰椎のエックス線撮影,血液・尿検 査なども行った上で総合的に行われている。健康増 進法に基づく骨粗鬆症検診は骨粗鬆症の診断ではな く,このような診断のプロセスを適用すべき集団を 特定するためのスクリーニングとしてとらえるべき である。
骨粗鬆症検診に適した骨量測定法は
骨粗鬆症の診断における骨量測定は躯幹骨を測定す るDX A
がゴールデンスタンダードとされている。一方,骨粗鬆症検診では一般住民を対象に骨量測定を行うた め,骨量測定機器は安価であること,測定を行うのに 特殊な施設を必要としないこと,被験者が放射線を被 曝しないことなどが望まれる。保健所・保健センター,
市町村役場などの骨粗鬆症検診を行う施設に設置され ている骨量測定機器は,その
70%が踵骨を測定する
機器であり287),実際に骨粗 鬆症検診に用いられてい る骨量測定部位としては踵骨と橈骨が大半である288)。 要介護状態とDXA
による橈骨遠位端の骨密度に は関連性が認められなかったが,QUSによる踵骨のSOS
とは有意な関連性が認められ,3 分割した最低 位の群では,最高位の群に対して要介護サービス受 給の危険性が2.55
倍高くなっていたとの報告がある289)。また,QUSが日本人男女の非椎体骨折を予測で きること290),男性の大腿骨骨折および非椎体骨折が 予測できることも報告されている291)。70 歳以上の女 性,約
1
万3000
例を前向きに3.2
年間観察した結果,307 例の大腿骨近位部骨折を認め,QUS
による踵骨のstiffness index(SI),BMI,既存骨折,椅子からの立
ち上がり障害,転倒歴,現在の喫煙,糖尿病が大腿骨 近位部骨折を予測したとの報告もある292)。また,SI
とこれらの危険因子を組み合わせると予測能力が上が るため,この組み合わせが有望であるとしている。こ のように,QUSは骨折リスクの評価には有効性を発 揮するものの,診断基準に合致する骨粗鬆症そのもの のスクリーニングには不十分である可能性がある。一方,骨粗鬆症検診が医療機関で行われる場合,
橈骨か中手骨の骨密度測定も行われる。なお,骨粗 鬆症検診に
FRAX
®を用いる場合の考え方について は,「III 骨粗鬆症による骨折の危険因子とその評価」の項を参照。
図 22 検診における判定基準と原発性骨粗鬆症の診断基 準との関係(文献 145 より引用改変)