第Ⅵ章 続発性骨粗鬆症
C. 治療関連骨粗鬆症
a. ステロイド性骨粗鬆症
ステロイド性骨粗鬆症の概要は
骨粗鬆症は長期ステロイド薬(
GC
)治療における最も 重要な副作用の1
つであり,長期GC
治療を受けている 患者の30
〜50%に骨折が起こるとの報告がある
952.953)。 ス テ ロ イ ド 性 骨 粗 鬆 症(glucocorticoid-inducedosteoporosis: GIO
)は患者数が多く,また小児から高齢 者まで,閉経前女性や男性にも幅広く起きるため,社会生 活への影響は大きい。一方,原疾患の治療にたずさわる 医師は骨粗鬆症の専門医でない場合が多く,医師,患者 ともにGIO
に関する認識は高くない。GIOの病態には骨形成低下と骨吸収亢進の両者が関 与しているが,その中心は骨形成低下である954)。骨吸 収亢進の中心的機序は腸管カルシウム吸収量減少と尿 中カルシウム排泄量増加の結果生じる二次性副甲状腺 機能亢進症である。一方,骨形成の低下には多因子が 関与している。GCは骨芽細胞や骨細胞のアポトーシス を促進し寿命を短縮させる。さらに,骨芽細胞の増殖抑 制やコラーゲンや非コラーゲン蛋白の産生抑制には,
GC
の直接作用のほか副腎や性腺由来のホルモンの低下など,間接的な影響も関与している。また, GCは幹細胞から
骨芽細胞への分化に重要な転写因子
Runx2
を抑制して 骨芽細胞への分化を阻害し,PPAR
γの発現を高め,脂 肪細胞への分化や分化転換を促進する。
ステロイド薬服用によって骨折リスクが高ま るか
GC開始後の骨量減少率は初めの数ヵ月間は
8
〜12%
と高く,その後は
2
〜4% /
年の割合で減少する。GC開 始後の腰椎骨密度低下率を検討した縦断研究を比較する と,高用量を投与した研究では,投与後6
ヵ月で6
%以 上の骨密度低下がみられるのに対して,低用量では骨密 度低下の程度が小さくスピードも緩徐であった955)。 骨折リスクの上昇は,骨密度低下が起きる前に起きるこ とが知られている。英国の疫学的研究では,GC
開始前 の非椎体骨折の発生率は1.6/100 人年であるが,GC
開 始後はじめの3
ヵ月では2.0/100 人年に上昇する。GC
投 与の1
年目は2.0/
人年であり,5年目でも2.2/ 100
人年 と高い発生率が持続する。一方,骨折の発生率はGC
中 止後,急速に減少し,
その傾向は椎体骨折で顕著である956)。骨折リスクを検討すると,非椎体骨折リスクは投与開
図 30 ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のアルゴリズム(文献 961 より引用)
第Ⅵ章 続発性骨粗鬆症
始後
3
〜6
ヵ月で上昇し,1年目のリスクは投与開始前に 比べて54
%上昇した。椎体骨折リスクも投与開始後3
〜6
ヵ月で上昇し,プレドニゾロン(PSL)換算7.5mg/
日 以上の投与例では顕著であった955)。GIOでは原発性骨粗鬆症に比べて骨密度からみた骨 折閾値が高いことが示されている957)。骨強度の低下や易 骨折性に皮質骨や海綿骨の微細構造などの変化が寄与し ていると考えられている958)。HRQCT法や
HRpQCT
法を 用いると,椎体骨折のあるGC
服用患者の椎体では皮質 骨骨密度低下,皮質骨幅減少と骨梁間隔の拡大,また,橈骨遠位端では皮質骨の菲薄化と多孔化がみられた。海 綿骨の変化に加え,皮質骨の骨密度低下
,
菲薄化,多 孔化および骨梁数の減少が起こることで軽度の外力により 骨折が起こると推定できる959,960)。GC
による骨細胞のア ポトーシスの誘導は骨細胞−骨小腔−骨細管ネットワーク に影響を与え,骨の脆弱性の一因となっている可能性が ある958)。
治療方針はどのように決定されるか
GIOの管理において重要なのは,GC投与開始後のす みやかな骨密度低下と骨折リスク上昇を抑制する一次予 防とその後の二次予防の両者が重要である。そのために は,GC投与開始後あるいは投与中に骨折リスクが高い 症例を同定し,速やかに治療的介入を行う必要がある。
日本骨代謝学会は
GIO
の管理と治療ガイドラインを10
年ぶりに改訂し,2014
年改訂版を発表した961)。改訂ガイ ドラインの特徴は,国内のGIO
コホートの解析により独自 の骨折危険因子を抽出して,初めてスコア法を薬物治療 開始の基準判定に導入したことである。スコア法による治 療介入基準は,種々の基礎疾患,低用量から高用量のGC
治療,一次予防と二次予防のいずれの場合でも対応 可能である。ガイドラインの対象,スコア法による個々の 骨折リスクの評価,薬物療法の推奨などGIO の管理と治
療のアルゴリズムをまとめたフローチャートを図 30に示す。
薬物療法で骨折の発生を抑制できるか
GIOに対する薬物療法の効果に関するエビデンスは限定 的で,骨折抑制効果を主要評価項目として検討した臨床 試験はない。しかし,ビスホスホネート薬やテリパラチドはRCTの副次的評価項目として骨折抑制効果が明らかになっ
ている。
2014
年版ガイドラインでは,国内外のRCT
やそのメタア ナリシスデータから,一次予防と二次予防試験における骨 密度低下と椎体骨折の抑制に対する有益な効果を総合的 に判断し,薬物の推奨度を独自に決定した(表 58)961)。 アレンドロネート,リセドロネートは複数のRCT
において,一次予防および二次予防の両者で腰椎・大腿骨骨密度低
下の抑制効果が認められ962,963),主要評価項目ではない が
,
椎体骨折を有意に抑制することが示されている(推奨 度A:第 1
選択薬)。アレンドロネートは週1
回製剤でも,
連日製剤と同様の有効性が示されている964)。イバンドロネートは二次予防試験において腰椎・大腿骨 骨密度を有意に上昇させ,アルファカルシドールに比べて 有意に椎体骨折を減少させた965)。しかし,一次予防に関 するデータが少ない(推奨度
B:代替え薬)
。アルファカルシドール,カルシトリオールは腰椎骨密度,
大腿骨骨密度低下の抑制効果が複数の臨床試験で示され,
また,単一試験では明らかでないが,複数の臨床試験のメ タアナリシスで,プラセボやカルシウム薬に比べて椎体骨折 抑制効果が示されている(推奨度
B:
代替え薬)966.967)。 遺伝子組換えテリパラチドは二次予防において,腰椎骨 密度,大腿骨骨密度を上昇させ,椎体骨折リスクを低下 させた。その効果はアレンドロネートより優れていた757,968)。 しかし,一次予防の臨床データはなく,投与期間が2
年間に限定されており,その使用法に関してはまだ十分な データが得られていない(推奨度
B: 代替え薬)。
表 58 ステロイド性骨粗鬆症薬物療法の推奨度 (文献 961 より引用)
製剤 薬剤名 推奨度 *
ビスホスホネート製剤 アレンドロネート A
リセドロネート A
エチドロネート C
ミノドロン酸 C
イバンドロネート B
活性型ビタミン D3製剤 アルファカルシドール B
カルシトリオール B
エルデカルシトール C
ヒト副甲状腺ホルモン (1-34)
遺伝子組換えテリパラチド B
テリパラチド酢酸塩 C
ビタミン K2製剤 メナテトレノン C
SERM ラロキシフェン C
バゼドキシフェン C
ヒト型抗 RANKL モノクローナル抗体
デノスマブ C
* 推奨度
A:第 1 選択薬として推奨する薬剤
B:第 1 選択薬が禁忌などで使用できない,早期不耐容である,ある いは第 1 選択薬の効果が不十分であるときの代替薬として使用する C:現在のところ推奨するだけの有効性に関するデータが不足している
140
第Ⅵ章 続発性骨粗鬆症
C. 治療関連骨粗鬆症
b. 性ホルモン低下療法に伴う骨粗鬆症
性ホルモン低下療法の概要は
● 乳癌に対する内分泌療法
乳癌に対する内分泌療法は,エストロゲン依存性 である乳癌細胞に対してエストロゲンシグナルをエ ストロゲン産生あるいはエストロゲン受容体(ER)
結合部位でブロックするものであり,反応予測因子 として
ER
あるいはプロゲステロン受容体(PgR)免 疫染色が通常用いられ,乳癌全体の60
〜70%で陽性
である。a) 術後補助療法
標準治療として以下の治療法が推奨されている969-971)。 閉経前患者内分泌療法: タモキシフェン 5年 (ま たは
10
年)LHRH
アゴニスト(ゴセレリンまた はリュープロレリン,2
〜3
年)閉経後患者内分泌療法:
アロマターゼ阻害剤(AI,
レトロゾール,アナストロゾール,エクセメスタン)
5
年またはタモキシフェン2
〜3
年+AI 2
〜3
年 b) 再発転移に対する治療閉経前患者内分泌療法:LHRHアゴニスト + タモ キシフェン972)。
閉経後患者内分泌療法: AI 973)。
● 前立腺癌に対する内分泌療法
アンドロゲン依存性である前立腺癌に対して,ア ンドロゲンシグナルをアンドロゲン産生あるいは アンドロゲン受容体(
AR
)結合部位でブロックす るものであるが,前立腺癌はほぼ全例でAR
を発現 し,LHRHアゴニスト単独およびLHRH
アゴニスト+AR
アンタゴニスト(maximum androgen blockade,MAB
)によるアンドロゲン遮断療法(ADT
)に80
〜
90%が反応する
974)。a) 術後,放射線照射後の補助療法
術後補助内分泌療法:確立していない975)。 外照射後補助内分泌療法:
LHRH
アゴニスト単独 またはMAB
976)。b) 進行再発前立腺癌に対する標準治療977-979)
LHRH
アゴニスト単独またはMAB
性ホルモン低下療法で骨折リスクは上昇するか
●乳癌ホルモン療法の骨密度,骨折リスクへの影響 a) タモキシフェン
閉経後女性ではタモキシフェンは骨保護効果をも つが,閉経前女性では骨密度を低下させる980)。骨 折を増加または減少させるとのデータはない。
b) 卵巣機能抑制
ゴセレリン単独投与により
2
年間で5.0%の骨密度
低下がみられるが,治療終了後1年間で1.5%回復
する981)。化学療法による人工閉経でも骨密度低下 がみられる982)。骨折を増加させるとのデータはな い。c) AI
著明なエストロゲン濃度低下をきたすため骨密度 低下・骨粗鬆症の発症をきたす983)。アナストロゾー ルは
5
年間の投与で腰椎6.1%,大腿骨 7.2%の骨
密度低下を来し,骨折発生率はアナストロゾール で5.9
%,タモキシフェンで3.7
%と明らかな差が あった984)。レトロゾール985),エクセメスタン986)についても骨密度の低下,骨折発生率の上昇が指 摘されている。
● 前立腺癌ホルモン療法の骨密度,骨折リスクへの 影響
1年間の
ADT
によって腰椎で2
〜4.6%,大腿骨近
位部で1.8
〜2.3
%の骨密度低下が起こる987-992)。骨 密度低下はADT
開始早期に大きいが,ADTを10
年 間行うと2
年間に比較して著明に低下する993)。 ADTに伴う骨折の発生率については後ろ向きの研究し かない。前立腺癌の診断を受け5
年以上生存した症例中,ADT
を受けた症例における骨折発生率は19.4%と ADT
を受けていない症例の12.6%に比較して高かった
836)。ま た,ADTにより骨折リスクが34%上昇し,また骨折経験
者は死亡率が約2
倍となった1019)。他の後ろ向き研究で も同様の結果であった836,994-995)。 また,ADT治療期間 と骨折リスクは相関していた996)。性ホルモン低下療法にどう対処するか
● 骨量減少の抑制(表 59, 60)