第Ⅵ章 続発性骨粗鬆症
B. 疾患関連骨粗鬆症
a. 内分泌疾患に伴う骨粗鬆症
骨折リスク上昇(骨粗鬆症)をきたす内分 泌疾患にどのようなものがあるか
骨折リスクの上昇を来すと考えられている内分泌 疾患を表 53に記した。これらの疾患のなかで骨折リ スクがもっとも広く検討されているのが原発性副甲 状腺機能亢進症である。
● 原発性副甲状腺機能亢進症(PHP: primary hyper-parathyroidism)
PHP
は,副甲状腺の腺腫や過形成のために,副甲 状腺ホルモン(PTH)が自律的に分泌される疾患で ある。高カルシウム血症がもたらされ,自律分泌機 能を獲得した副甲状腺を外科的に切除しない限り改 善されない。PTHは骨代謝回転を亢進させる作用を有する。し たがって,PHPでは骨形成と骨吸収がともに亢進す る。骨粗鬆症治療薬として
PTH 製剤が用いられる場
合のように,PTH
の骨作用の間欠的な亢進では,骨 形成の亢進が骨吸収を上回り,骨密度は上昇する。一方,PHPにおけるような持続的な
PTH
の骨作用 亢進では,骨吸収の亢進が骨形成を上回り,骨密度 が低下する。PHP
患者の骨密度は,DXA
による面積 骨密度の評価では,海綿骨に富む腰椎と比較して皮 質骨に富む前腕1/3
の骨密度低下がより顕著である と報告されている841)。しかし,最近のHRpQCT
に よる橈骨および頚骨の体積骨密度の解析では842),皮質骨,海綿骨のいずれにも骨密度の低下が認められ,
皮質骨では皮質骨幅の減少,
cortical porosity
の増加 など,海綿骨では骨梁数の減少や骨梁間隔の増大な どの構造劣化が認められる。また,DXAによる海綿 骨構造指標(Trabecular Bone Score: TBS)でもPHP
における劣化が報告されている843,844)。このような骨 密度低下と骨質劣化を反映し,PHPでは椎体・非椎 体・大腿骨すべての部位の骨折リスクが上昇してい る。その程度は報告や部位により異なるが1.5
〜3.5
倍程度である822,845-847,1132)。● 甲状腺中毒症
甲状腺ホルモンは骨吸収優位の骨代謝回転亢進作 用を有する。したがって,甲状腺ホルモン作用の過 剰は,原因の如何を問わず,骨密度低下をもたらす。
原因としては,バセドウ病などの甲状腺機能亢進症 より,甲状腺機能低下症患者などに対する過剰な甲 状腺ホルモン補充による場合が多い。下垂体機能に 異常がない限り,甲状腺ホルモン作用の過剰により 血中甲状腺刺激ホルモン(TSH)値は低下する。し たがって,一般に血中
TSH
値が甲状腺ホルモン作用 の最も良い指標となる。23万例を対象としたデンマークの検討では847),
TSH
の低下は基準範囲内を含めて,大腿骨および 主要骨粗鬆症性骨折のリスクと関連すること,さら にTSH
低下の持続が大腿骨近位部骨折と関連するこ とが報告されている(TSH基準範囲以下が6
ヵ月持 続するごとに大腿骨近位部骨折リスクが1.07
倍にな る)。基準範囲内のTSH
低値についても,65歳以上の
14,325
人を対象としたイスラエルのコホート研究では848),女性においては大腿骨近位部骨折と関連す ることが報告されている。このイスラエルの検討で は,男性における骨折と基準範囲内の
TSH
値との関 連は有意でなかったが,米国の65
歳以上の男性を対 象としたMrOS
研究においては849),TSHは大腿骨近 位部骨折との関連(TSH1SD低下によるリスク1.31 [95% CI 1.01
〜1.71])が報告されている。米国の症
例対照研究では,65
歳以上の女性において,TSH
低 値は大腿骨近位部骨折のリスクを3.6
倍,椎体骨折の 表 53 骨折リスク上昇をきたす内分泌疾患原発性副甲状腺機能亢進症 性腺機能低下症
視床下部性(カルマン症候群など)
下垂体性(プロラクチノーマ,シーハン症候群など)
卵巣・精巣性(両側卵巣・精巣切除後など)
染色体異常(クラインフェルター症候群,ターナー症 候群など)
クッシング症候群 甲状腺中毒症
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
甲状腺ホルモンの慢性過剰治療 糖尿病
1 型糖尿病 2 型糖尿病
第Ⅵ章 続発性骨粗鬆症
リスクを
4.5
倍にすること,TSH値で補正しても甲 状腺機能亢進症の既往は大腿骨近位部骨折のリスク を2.2
倍にするが,TSH
値の低下を伴わない甲状腺 ホルモン補充は骨折の危険因子にならないことが報 告されている850)。● クッシング症候群
内因性のグルココルチコイド過剰であるクッシン グ症候群は,薬物によるステロイド性骨粗鬆症と同 じく,骨折リスクがきわめて高い851)。1985〜
1999
年のデンマークにおける疫学調査では,クッシング 症候群における脆弱性骨折のリスクは,本症と診断 される前の2
年間で6
倍と報告されている852)。薬物 性の場合と同様,椎体骨折の有病率は高く,80症例 の連続検討では76
%に形態学的椎体骨折が認められ ている853)。また,中心性肥満などの明らかなクッシ ング徴候を示さないサブクリニカル・クッシング症 候群においても,対照群と比較して12
倍の椎体骨折 リスクが報告されている854)。● 性腺機能低下症
原発性骨粗鬆症の主要原因が性ホルモン作用低下 であるのと同様に,疾患としての性腺機能低下症も 骨折リスク増大をもたらす。性腺機能低下症の原因 は先天性(染色体異常など),視床下部性,下垂体性,
性腺性,薬物性(GnRH受容体作動薬,アロマター ゼ阻害薬など)など多岐にわたるが,いずれにおい ても骨折リスクは増大する。詳細は他に譲る。
原発性副甲状腺機能亢進症による骨粗鬆 症に対して有効な治療法は何か
PHPによる骨粗鬆症に対する最も有効な治療法は,
腫大副甲状腺の外科的切除である。手術により
PTH
分泌の正常化,高カルシウム血症の改善,骨密度の上昇がもたらされ,骨折リスクは低下する855-857)。手 術を選択しない場合,薬物療法が考慮される。ビス ホスホネート薬は骨密度を上昇させるが,骨折リス クを低減させるか否かは明らかでない。PHPには高 率にビタミン
D
欠乏・不足症[血清25(OH)D
濃度20 ng/mL
未満]が合併するが,天然型ビタミンD
の補充により
PTH
の低下と骨密度の上昇がもたらされる858,859)。SERM,抗
RANKL
抗体については治療成績がない。PTH分泌抑制効果を有するカルシウム 感知受容体作動薬は,
PTH
濃度とともに,血清カル シウム濃度を低下させるが,アルカリホスファター ゼ活性は上昇させ,骨密度は変化しない860)。 PHPでは尿路結石,線維性骨炎,膵炎などPHP
に 起因すると考えられる症状がある場合は外科的治療 が原則である。無症候性の場合,2013年に開催され た第4
回無症候性原発性副甲状腺機能亢進症国際ワー クショップで採択された手術適応ガイドライン(表 54)861)に則って,外科的治療が考慮されることが多 い。骨に関しては,骨密度がT
スコアで−2.5
未満 もしくは椎体骨折が存在する場合に手術適応となる。この基準に満たない症例でも,手術のみが根治療法 であること,内視鏡手術など比較的低侵襲な術式が 可能な場合が多く,成功率も
90%以上であることな
どから,手術を奨めることが多い862)。なお,手術後にも骨折リスクが高い場合,原発性 骨粗鬆症同様の治療が可能である。手術後にテリパ ラチド酢酸塩を用いた臨床研究の報告もある863)。
原発性副甲状腺機能亢進症以外の内分泌 疾患に続発する骨粗鬆症に有効な治療は あるか
甲状腺中毒症に合併する骨粗鬆症に特異的な治療 法はない。原発性骨粗鬆症の場合と同様,ビスホス ホネート薬は有効と考えられている。甲状腺ホルモ ン補充中の場合は血清
TSH
値を基準範囲内で中央値 よりやや低めにコントロールすることが推奨される。クッシング症候群では,外科的治療によりグルコ コルチコイド過剰が解除されればすみやかに骨形成 の亢進と骨密度の回復が認められる。しかし,グル ココルチコイド過剰が持続する限り,骨折リスクの 低下は期待できない。手術後にはグルココルチコイ ド補充が必要になる場合が多いが,過剰な補充は骨 折リスクの増大をもたらすので注意を要する。手術 の有無にかかわらずグルココルチコイド過剰が持続 する場合は,外因性ステロイド過剰によるステロイ ド性骨粗鬆症に準じた治療が行われる851)。
表 54 無症候性原発性副甲状腺機能亢進症における手術 ガイドライン *
血清カルシウム値 基準値上限より 1 mg/dL 高い 腎 ( ①〜③のい
ずれか)
① eGFR < 60mL/min
② 尿中カルシウム> 400mg/ 日で尿路結 石リスクあり
③ 尿路結石もしくは腎石灰化症の存在 骨 T スコア− 2.5 以下(腰 椎, 全 大 腿 骨,
大腿骨頚部,橈骨遠位 1/3 端),または 椎体骨折の存在
年齢 50 歳未満
* 第 4 回無症候性原発性副甲状腺機能亢進症国際ワークショップによる
(2013 年)
130
第Ⅵ章 続発性骨粗鬆症
B. 疾患関連骨粗鬆症
b. 生活習慣病関連骨粗鬆症
( 1 )糖尿病
糖尿病では骨折リスクは増加しているか
糖尿病における大腿骨近位部骨折のリスクについ ては,海外文献のメタアナリシスにより,非糖尿病 群と比較して1
型糖尿病では約6.9
倍,2
型では約1.4
倍に上昇することが判明した155)。別の海外文献のメ タアナリシスでも2
型糖尿病で1.7
倍の大腿骨近位部 骨折のリスクの上昇が報告されている830)。一方,椎 体骨折についてはその約2/3
が痛みを伴わない形態 骨折であるため,エックス線での確認が必要となる。わが国の研究では302),
2
型糖尿病において既存椎体 形態骨折のリスクは非糖尿病対照群と比較して,男 性で4.7
倍,女性で1.9
倍と上昇していることが報告 されている。以上より,糖尿病においては大腿骨近 位部骨折のリスクは明らかに上昇し,椎体形態骨折 のリスクが上昇する可能性がある。糖尿病の罹病期間,重症度,治療薬は骨折 リスクに影響を与えるか
非椎体骨折のリスクが境界型糖尿病では
0.80
倍で あるが,治療中の糖尿病では1.69
倍に上昇し864),大 腿骨近位部骨折のリスクについては新規診断糖尿病 が0.83
倍,進行期糖尿病が1.40
倍という欧米の報告 がある865)。他の欧米の大規模研究では866),HbA1c7.5%以上のコントロール不良の 2
型糖尿病群では非糖尿病群に比較してどこかに骨折を生じるリスクが
1.47
倍に上昇していたが,HbA1c 7.5
%未満の2
型糖 尿病群では非糖尿病群と比較して骨折リスクに差を 認めなかった。別の欧米の研究でも867),HbA1c7.5〜
8.0%以上のコントロール不良の糖尿病患者では
HbA1c
がそれ未満のコントロール良好な群に比較して骨折リスクが
1.6
倍,インスリン使用者では1.8
倍 に 上 昇 し て い た。 し た が っ て, 罹 病 期 間 が 長 くHbA1c 7.5%以上と重症であり治療にインスリンを必
要とする糖尿病患者では,骨折リスクが上昇すると 考えられる。複数の臨床研究において,治療薬であるチアゾリ ジン薬が女性の末梢骨骨折リスクを
1.5
〜2.5
倍に増 加させることが報告されている868)。糖尿病における骨折リスクと骨質の関係は
欧米でのメタ解析において155),1
型糖尿病では大 腿骨頚部あるいは大腿骨近位部骨密度の Zスコアが−
0.37
と低下しており,このZ
スコア低下から理論 的に算出される骨折リスクは約1.4
倍の上昇である が,実際の解析では約6.9
倍とさらに高くなっていた。一方,2型糖尿病では同部位における骨密度の
Z
スコ アが0.27
と上昇しており,Zスコアから算出される 大腿骨近位部骨折のリスクは約0.8
倍であるが,実際 の解析では約1.4
倍と逆に上昇していた。加えて,米 国での大規模前向き研究において840),2型糖尿病群 では非糖尿病群と比較して大腿骨頚部骨密度が同等 であっても大腿骨近位部骨折のリスクが上昇してい ることが示された。他の大規模研究でも866),HbA1c
7.5%以上のコントロール不良の 2
型糖尿病群では非糖尿病群に比較して骨密度が上昇しているのにもか かわらず,どこかに骨折を生じるリスクが
1.47
倍に 上昇していた。わが国での椎体形態骨折を対象とし た研究では302),2型糖尿病患者では男女とも,また いずれの測定部位においても,骨密度の上昇は骨折 リスクの低下と統計的に有意な相関を示さなかった。したがって,糖尿病における骨折リスクの上昇は,
骨量(BMD)の低下ではなく骨質の劣化に起因する 割合が大きいと考えられる。
糖尿病における骨折リスクの上昇の原因として,
骨の材質特性と構造特性の劣化がある。糖尿病モデ ルラットでは,高血糖に起因する酸化ストレスの 増 強 に よ り, 骨 組 織 中 に 終 末 糖 化 産 物(advanced
glycation end products; AGEs)の一種であるペント
シジン架橋の増加が惹起され,骨質を劣化させる可 能性が示唆されている869)。また,2型糖尿病の特徴 である肥満と密接に関係するインスリン抵抗性は,骨芽細胞においてインスリンシグナルの増強により