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治療効果の評価と管理

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第Ⅴ章  骨粗鬆症の治療

C.  治療効果の評価と管理

a. 骨量

はじめに 

 骨量測定は骨粗鬆症の診断に限らず治療効果の評 価にも広く用いられている。しかし,骨量測定法に は測定の部位と方法にいくつかの種類があり,治療 効果の判定においては各測定法の特徴に留意して測 定結果を評価する必要がある。

 なお,骨量は骨塩と骨基質タンパクの総和を意味 し,骨塩量とは区別されるが,骨粗鬆症では両者が 解離することは少ないと考えられるので,本項では 同じ意味で用いた。

DXA

pQCT

では骨塩量が測定 され,実際には骨のサイズの影響を排除するために,

骨塩量を面積や体積で除した値(骨密度)が評価指 標として用いられる。 

治療効果の検出感度の目安は 

 骨量の経時的変化は,骨量測定の再現性(変動係 数

coefficient of variation: CV)と実際の変化量を用い

てその有意性が評価される。すなわち,

CV

に一定の 値を掛けた値(最小有意変化

least significant change:

LSC)が経過観察における骨量変化の検出限界と考

えられる。

LSC

CV

の関係は以下の式で表される。

LSC

Z CV

2

 ここで,

Z

は統計学的信頼水準によって決まる定数 で,

95%の信頼水準の場合は 1.96

となる。すなわち,

CV

2.8(= 1.96

℔‒

2)倍以上の変化をもって有意

と判定される。CVは繰り返して何回か測定した値の

SD

(標準偏差)と平均値の比率(%)で表される(=

SD

平均値

100)。

骨量測定法による測定精度・感度の違いは

 表 19に主な骨量測定法について

CV

で評価した測 定精度を示す。ただし,CVは装置や術者によって 異なるため,各医療施設で独自に求めることが望ま しい。CVは何例かの症例を複数回測定し,複数例の

CV( ま た は SD) の RMS(root mean square) を 計

算して求める。たとえば,15 例を

3

回ずつ,あるい は

30

例を

2

回ずつ測定する179)

 CVは被検者側の要因あるいは測定上の問題により 増大する(表 20)。

治療効果の評価に適した測定部位は

 経過観察のための骨量測定法としては,治療によ る変化率が大きく

CV

の小さい方法が適している。

表 3に骨粗鬆症治療薬の大規模臨床試験で得られた 骨量変化率を示す。一般に,治療による骨量変化の 検出感度は腰椎正面

DXA

が高い。大腿骨では全大腿 骨近位部の感度が高く,ウォード三角は

CV

が大き いため感度が低い。橈骨遠位

1/3 部の DXA

や踵骨超 音波法は,

CV

は小さいものの治療による変化率も小 さいため,治療後の経過観察には不利である。ただ し,橈骨遠位の海綿骨が豊富な部位を

DXA

pQCT

によって測定することで腰椎

DXA

と同様の検出感度 が得られたとする報告もあり350,351),今後の検討結果 によってはこれらの方法も治療効果の判定での有用 性が期待できる。

 高度の退行性変化や測定領域内の圧迫骨折などで 腰椎

DXA

による評価が不適当と考えられる場合は,

大腿骨近位部

DXA

の値を用いる。これらの測定が困 表 19 骨量測定法と CV(文献 357, 358 より引用)

部位 測定方法 測定精度 CV(%)

腰椎正面 大腿骨近位部 橈骨遠位 1/3 全身骨 第二中手骨 踵骨 踵骨

DXA DXA DXA DXA CXD, DIP QUS(SOS) QUS(BUA)

1 〜 2 1 〜 3

〜 1

〜 1 1 〜 2 0.1 〜 1

2 〜 5

表 20 CV を増大させる要因 装置の精度管理の不良

測定時,解析時のミス(体位の変動,解析範囲の設定誤差など)

被検者側の要因

 椎体変形,側弯,動脈の石灰化,低骨密度など

第Ⅴ章 骨粗鬆症の治療

難な場合には橈骨,第二中手骨,踵骨の骨密度を参 考にする。

 副甲状腺機能亢進症では皮質骨主体の部位で骨量 変化がみられ,橈骨遠位

1/3

部の

DXA

なども経過観 察の参考となる352-354)

 治療前後で骨量測定の機種が異なる場合は,同一 の方法と測定部位であっても,治療効果の評価には 不適である。

骨量の経過観察はどのタイミングで行うべ きか

 経過観察時の骨量測定のタイミングは予想される 骨量変化率と

LSC

を参考にして決定できる。例えば,

腰椎

DXA

CV

1.5

%の場合,

LSC

4.2

%(=

1.5

2.8)となり,治療開始後 1

年程度でも,十分に検

出が可能である。一方,ビスホスホネート薬などの 骨吸収抑制薬による骨密度増加率は,治療開始後早 期に大きく,数年後以降は徐々に増加率が減少する ことが多い。また,活性型ビタミン

D

薬やビタミン

K

2薬では治療による骨密度上昇率自体が小さい。予 想される変化率が小さい場合にはそれにみあった長 期の経過観察が必要である。

 経過観察時の測定には高い測定精度を得るために,

前回と同じ機種・測定モード・解析方法を使用し,

測定部位を一致させる。同じ機種の装置でも施設や 測定者が異なれば,測定値の変動要因となる。

 腰椎では椎体誤認や関心領域の設定誤差に注意す る。新規骨折を起こした椎体は変形が軽度であって も治療効果の評価には適さない。

 大腿骨近位部では測定時のポジショニングに注意 し,股関節の肢位を治療前後で一致させる。

測定結果はどのように解釈するか

 治療後の骨量測定で治療前と比べて有意な増加が みられれば治療効果ありと判定できる。例えば,骨 量測定の

CV

1.5%の場合,骨量が 4.2%以上変化

した場合に有意とみなせる(95%の信頼水準)。ただ

し,骨量変化率には無治療の状態での加齢や閉経に よる減少率と治療による増加効果が影響する。さら に,骨吸収抑制薬による骨量増加率と骨折抑制効果 には必ずしも強い関連が認められないことも明らか にされている(図 26)355,356)。したがって,有意な 骨量増加を認めないから無効とは判断せず,骨代謝 マーカーなども含めた総合的な判定が望まれる。 

ま と め

 骨量による治療効果の評価には腰椎正面

DXA

が,

腰椎で正確に測定できない場合は全大腿骨近位部が 適している。

 経過観察における骨量測定のタイミングは

LSC

を 参考にして決める。

 治療後の経過観察で有意な骨量減少がみられた場 合は,治療内容のチェックが望ましい。

図 26 骨吸収抑制薬を用いた骨量増加と骨折リスク低    下の関係(文献 355 より引用)

丸の大きさは各臨床試験の症例数に対応する。

表 21 DXA 測定部位による治療後骨量変化率の相違       

腰椎正面 大腿骨近位部 前腕骨 文献

アレンドロネート リセドロネート ゾレドロン酸 ラロキシフェン ホルモン補充療法 デノスマブ

テリパラチド(連日投与)

テリパラチド(週 1 回投与)

7.48%/2 〜 4 年 4.54%/1.5 〜 3 年 6.71%/3 年 2.51%/2 〜 3 年 6.76%/2 年 9.2%/3 年 8.6%/21 ヵ月 6.4%/18 ヵ月

4.24%/2 年 2.73%/1.5 〜 3 年 5.06 〜 6.02%/3 年 2.11%/2 〜 3 年 4.12%/2 年 6.0%/3 年 3.5 〜 3.7%/21 ヵ月 2.3 〜 3.0%/18 ヵ月

2.08%/2 〜 4 年 0.70%/1.5 年 2.05%/2 年 4.53%/2 年

− 0.8 〜 1.5%/21 ヵ月

359 359 360 359, 694

359 361 362 363

68

第Ⅴ章 骨粗鬆症の治療

 C. 治療効果の評価と管理

  

b. 骨代謝マーカー

( 1 )骨代謝マーカーの測定

診断時の骨代謝マーカー測定にはどのよ うな意義があるのか

 骨代謝マーカーの上昇が骨折予測因子になること は前向き研究において確認されており364),骨密度と は独立した骨折の危険因子であることも確認されて

いる365,366)。骨吸収抑制薬の骨密度上昇効果との関連

性や367),非椎体骨折抑制効果との関連性も明らかに されている368)。したがって,骨代謝回転を評価する ことで,治療の必要性や有効性がある程度理解でき,

患者の病識を高め,治療を継続し,骨折抑制効果を 高めることに役立つと考えられる。

 骨代謝マーカーは薬物選択の指針として用いるこ とも考えられ,薬物選択に迷う場合には骨代謝マー カーを用いることで,より適切な選択が可能となる こともある82,369)。なお,薬物治療による病態改善効

果を判断するためにも,できる限り診断時に骨代謝 状態を評価することが推奨される(図 27)。ただし,

骨代謝に及ぼす影響の少ない治療薬で治療する方針 が決まっている場合には,薬物治療の効果は評価で きないために骨代謝マーカーを測定する意義はない。

 骨代謝マーカー測定は,①治療の必要性に対する 患者の理解をさらに高めたい場合,②薬物治療を予 定している場合,③治療薬の選択に役立てたい場合,

④骨粗鬆症の病態などを評価する場合に役立つ。

診断時にどのように骨代謝マーカーを利 用するか

 骨粗鬆症と診断された患者においては,骨代謝マー カーの測定が健康保険で認められている(治療開始 時と開始後

6

ヵ月以内の測定)(巻末の付表 2参照)。

図 27 骨粗鬆症診断時の骨代謝マーカー測定(文献 369 より引用改変)

#1:ビスホスホネート,デノスマブ服用者は少なくとも 3 ヵ月,その他の骨粗鬆症治療薬は 1 ヵ月間骨代謝マーカーへの影  響がある。テリパラチド治療については 3 ヵ月との考えがある。骨折発生時には 24 時間以内であれば骨折の影響は少 ない。

#2:長期(3 〜 5 年)ビスホスホネート治療中の患者は,骨吸収マーカーと BAP あるいは P1NP を測定(健康保険で制限 がある場合あり。レセプトへの説明が必要)

#3:吸収マーカーと形成マーカーを 1 種類測定する

#4:エルデカルシトールを除く

#5:文献 1134

第Ⅴ章 骨粗鬆症の治療

それぞれの基準値と異常高値,さらには骨量減少や骨 折のカットオフ値などが明らかにされているが(巻末 の付表 3参照),測定方法が多様化しているため370), 依頼先の測定会社の基準値をもとに判断する必要があ る。

 原発性骨粗鬆症の早期の段階から骨吸収亢進が先 行することがから,骨吸収マーカーが高値であると 判断した場合には骨密度低下の程度が軽微でも骨吸 収抑制薬の積極的な投与が推奨される。したがって,

骨吸収マーカーの測定は治療開始を決断する際の参 考となる。

 血清骨吸収マーカーには,破骨細胞に特異的な酸 ホスファターゼ活性(酒石酸抵抗性酸ホスファター ゼ

5b

分画:

TRACP-5b

)のほか,コラーゲン分解物 であるⅠ型コラーゲン架橋

N-

テロペプチド(NTX)

やⅠ型コラーゲン架橋

C-

テロペプチド(CTX)があ り,尿中骨吸収マーカーには,NTXや

CTX

のほか,

デオキシピリジノリン(

DPD

)がある。これら骨吸 収マーカーの優劣についてはさまざまな意見がある。

また,同一患者から,同一条件で検体を採取・測定 した場合の変動(最小有意変化)にも,違いがある(付 表 3)。これまでの報告は,尿中

NTX

CTX

を利用し たものが多い。TRACP-5bは日内変動が少なく371),腎 機能の影響がない372)などの特徴がある。

 骨吸収マーカーがカットオフ値(閉経前女性平均

1.96SD

)以上であれば骨吸収抑制薬を選択し,さ

らなる異常高値の場合には骨粗鬆症以外の骨代謝疾 患の可能性を改めて検討する82)。基準値はすでに公 表されてはいるものの(付表 2),一部のマーカーに ついては公式にまとめられたデータがない。なお,

高齢者では筋肉量減少や腎機能障害のため,クレア チニン排泄量が少なくなり,尿中マーカーによる評 価では実際よりも骨吸収亢進状態と判定される可能 性のあることを理解しておく必要がある。

 骨形成マーカーでは,BAP,および

P1NP(Ⅰ型プ

ロコラーゲン

-N- プロペプチド)の測定に保険が適用

される。テリパラチドによる治療効果の評価373)や,

ビスホスホネート薬長期投与時のチェックには,骨 形成マーカーを測定するのもよい。BAPと

P1NP

は評価する骨形成能に違いのある可能性はあるが,

臨床的差異は明らかではない。さらに,骨マトリッ クス関連マーカーである低カルボキシル化オステオ カルシン(ucOC)は骨代謝におけるビタミン

K

不足 の有無の判断に利用できる。

採血・採尿時期と方法は

 骨代謝マーカーの測定には注意すべき点がある(表 22)。一般に骨代謝マーカーの値には日内変動があり,

朝高く,午後低下する。その程度は生体内のホルモン,

運動や食事,薬剤,糖代謝などの影響で個人差がある。

午後の骨代謝低下の程度に個人差が大きいことを考 慮すると,早朝空腹時の採取の方が治療効果判定感 度は高い。日本人の基準値(付表 3)は,早朝空腹 時に採血・採尿した検体によるもので,尿中マーカー の測定には朝食抜きの検体採取(早朝

/ 第二尿)が

勧められる。なお,BAP,P1NP,TRACP-5bなどの 血清マーカーは有意な日内変動はほとんどみられな いが,血清

CTX

は食事の影響を受けるので,早期空 腹時の検体採取が原則である374)。ビタミン

D,ビタ

ミン

K

2,イプリフラボンでは少なくとも

1 ヵ月以上,

ビスホスホネート薬やデノスマブでは

3

ヵ月以上に わたり骨代謝マーカーへの影響が残る可能性がある。

ラロキシフェンについても

1

ヵ月以上82),テリパラ チド(連日投与)では

3

ヵ月以上との考えもある。

 骨粗鬆症と診断されると生活習慣が改善する場合 があり,食生活や運動習慣が大きく変化すると骨代 謝に変化が生じる可能性があり375),食生活が安定し てから測定するのが望ましい。なお,骨折発生によ り一時的に骨代謝マーカーが上昇することがあるが,

骨折発生から

24 時間以内(平均 6.8 時間)であれば,

骨折の影響は少ない376)との報告がある。

どの程度の測定変動があるのか

 骨代謝マーカーの値には日差変動,日内変動のほ か,測定誤差もある。尿中マーカーはクレアチニン 補正するため,その誤差はさらに大きくなる。同一 患者から検体を採取してどの程度の変動や誤差があ るかは,最小有意変化82)として明らかにされている

(付表 3)。したがって,骨代謝マーカーに基づく骨粗 鬆症病態の評価にあたっては,個々のマーカーの最 小有意変化にも留意する必要がある。なお,

DPD

NTX, CTX, ucOC

は 慢 性 腎 臓 病

Stage3

以 上 の 腎 機 能 障 害 で は 測 定 値 に 影 響 は あ る が,TRACP-5b,

P1NP,BAP

は腎機能の影響は少ない。

表 22 骨代謝マーカー測定の基本  早朝空腹で検体採取を基本とする  骨折発生 24 時間以内に評価

 前治療の影響が残っていることを考慮する

 急激な生活習慣の改善があれば,安定するのを待つ  測定機関や方法による基準値をもとに判断する

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