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第Ⅲ章 骨粗鬆症による骨折の危険因子とその評価
骨粗鬆症による骨折の危険因子とその評価
骨粗鬆症による骨折の主要な危険因子は
骨粗鬆症性骨折の主要な危険因子は,女性,高齢,低骨密度,既存骨折であるが,そのほかにも多くの 危険因子が知られている(表 12)。年齢は,骨折発 生に大きく寄与し,骨密度とは独立した骨折の危険 因子である。同じ骨密度を示していても,年齢が高 いほど骨折リスクは高い。骨密度が
1SD
低いと,男 女とも,骨折リスクが1.5
倍から2
倍高まる186,231)。 大腿骨近位部骨折は大腿骨頚部骨密度で最もよく予 測できるが,その他の骨密度測定部位においても,ほぼ同じ程度に骨折を予測できる。一般的には,骨 粗鬆症性骨折,大腿骨近位部骨折のリスクは
BMI
が低いほど高まる232)。しかし最近の報告から,BMIと 骨折リスクと骨密度の関係は複雑であり,骨折部位 によって影響が違うことが報告された233)。大腿骨近 位部骨折については,BMIが低いほどリスクは高ま り,この傾向は骨密度を補正しても変わらなかった。
しかし,骨粗鬆症性骨折のリスクも
BMI
が低いほど 上昇したが,骨密度を補正すると,肥満になるほど 骨折リスクは上昇した。やせは大腿骨近位部骨折を 除く下腿骨折の予防因子,肥満は上腕骨折の危険因 子であり,この傾向は骨密度を補正するとより顕著 となった。部位にかかわらず,既存骨折があると骨 折リスクは約2 倍になる
234,235)。特に,既存椎体骨折表 12 骨折の危険因子(メタアナリシス,システマティックレビュー(エビデンスレベルⅠ)の結果のみ表示)
危険因子 文献 成 績
低骨密度
186 BMD 1SD 低下 RR 1.5
腰椎 BMD:椎体骨折 RR 2.3,大腿骨近位部 BMD:大腿骨近位部骨折 RR 2.6 231 大腿骨頚部 BMD 1SD 低下で 65 歳男大腿骨近位部骨折 RR 2.94,65 歳女 RR 2.88 既存骨折 234 既存椎体骨折:椎体骨折 RR 4,その他の組み合せ RR 2
235 既存骨折:すべての骨折 RR 1.86 喫煙 153 喫煙:RR 1.25
236 喫煙:すべての骨折 RR 1.26,大腿骨近位部骨折 RR 1.39,椎体骨折 RR 1.76
飲酒 154 1 日 3 単位(1 単位:エタノール 8 〜 10g ※)以上:骨折 RR 1.23,骨粗鬆症性骨折 RR 1.38,
大腿骨近位部骨折 RR 1.68
ステロイド薬使用
237 骨粗鬆症性骨折 RR 2.63 〜 1.71,大腿骨近位部骨折 RR 4.42 〜 2.48
238 GPRD:骨折 RR 1.33,大腿骨近位部骨折 RR 1.61,椎体骨折 RR 2.6,手首骨折 RR 1.09 その他:骨折 RR 1.91,大腿骨近位部骨折 RR 2.01,椎体骨折 RR 2.86,手首骨折 RR 1.13 骨折家族歴 148 親の大腿骨近位部骨折:大腿骨近位部骨折 RR 2.3
親の骨折:骨折 RR 1.17,骨粗鬆症性骨折 RR 1.18,大腿骨近位部骨折 RR 1.49 運動 152 大腿骨近位部骨折リスク 20 〜 40%抑制
239 最大で 50%の抑制効果
体重,BMI
232 BMD を調整しない場合,BMI が 1 単位高いと骨粗鬆症性骨折 RR 0.93
233 大腿骨近位部骨折では骨密度に関わらず BMI が低いと骨折リスク増加。その他の部位については,骨折 部位によって影響が異なる。
カルシウム摂取 240 カルシウム補助薬:椎体骨折 RR 0.77(0.54 〜 1.09),非椎体骨折 RR 0.86(0.43 〜 1.72):有意ではな い
BMD:骨密度,RR :相対リスク,GPRD:general practice research database
※本項目のアルコールの「単位」は英国の基準値である。
第Ⅲ章 骨粗鬆症による骨折の危険因子とその評価
があると椎体骨折リスクは約
4
倍に高まる234)。喫煙 は骨折リスクを1.3
倍153,236),1
日3
単位(1
単位:エタノール
8
〜10 g
※)以上の飲酒は骨粗鬆症性骨 折リスクを1.4
倍,大腿骨近位部骨折リスクを1.7
倍 高める154)。骨折リスクは喫煙量,飲酒量が多いほど 高くなる。ステロイド薬使用の骨折に対する影響は,骨密度や既存骨折とは独立していて,骨折リスクは
約
2.3
倍になる237,238)。骨折リスクは両親の大腿骨近位部骨折歴があると
2.3
倍,その他の骨折の家族歴が あると1.2
〜1.5
倍になる148)。活発な身体活動,日常生活活動は,骨粗鬆症性骨折,
大腿骨近位部骨折を予防する効果があり,骨折リス
クを
20 〜 40%,最大で 50%抑制する効果が認めら
れた152,239)。カルシウム摂取量が少ないことは低骨量
の危険因子になるが,カルシウム摂取量を増やして も骨折の予防効果は小さい240)。低カルシウム摂取は,
低骨量を介して骨折リスクを増大させると考えられ る。
大腿骨近位部骨折は,転倒して起こることがほと んどで,転倒に関連する因子,転倒回数,全身衰弱,
麻痺,筋力低下,睡眠薬服用,視力低下などが危険 因子となる。ただし,転倒と骨折に関しては,今の ところメタアナリシスはなされていない(レベルⅣ)。
WHO 骨折リスク評価ツール( FRAX
®) とは
WHO の
FRAX
®(http://www.shef.ac.uk/FRAX/)は,骨密度あるいは危険因子によって,個人の骨折 絶対リスクを評価するツールである127)。世界中のど の国でも,すべての臨床家が使用できるよう作成さ れ,個人の将来
10
年間の骨折発生確率(%)(大腿 骨近位部骨折,主要な骨粗鬆症性骨折)が算出できる。FRAX
®に使われている危険因子は,年齢,性,大腿 骨頚部骨密度(骨密度が測定できない場合はBMI
),既存骨折,両親の大腿骨近位部骨折歴,喫煙,飲酒,
ステロイド薬使用,関節リウマチ,続発性骨粗鬆症 である。治療開始のカットオフ値は,各国の医療経 済や医療の状況を考慮して決めるよう各国に委ねら れている。
FRAX
®の臨床応用は
● わが国におけるガイドラインへの取り入れ方 わが国においては本ガイドラインの
2011
年版の改 訂で,2006年版における治療開始基準に付加する形 でFRAX
®の内容が取り入れられた。すなわち,骨 密度がYAM
の70
%より大きく80
%未満の場合に,「FRAXの
10
年間の主要骨粗鬆症性骨折確率15%以
上」が,治療開始基準として加えられた(V-A. c. 薬 物治療開始基準を参照)。ただし,75歳以上の女性 では90
%以上がFRAX
®の骨折確率15
%となるため,この基準は
75 歳未満を対象とする。
● 日常診療,骨粗鬆症検診におけるスクリーニング 手段としての利用
危険因子のみを用いた
FRAX
®は,日常診療や骨粗 鬆症検診におけるスクリーニングに利用できる。日 常診療では,医療機関を受診している無症状の高齢 者において,潜在的な骨折高リスク者を判別するス クリーニング手段として使える。また,FRAX®は多 くの住民を対象にした骨粗鬆症検診に適している。しかし,現時点では骨粗鬆症性骨折の確率がどの程 度であれば要精検とするのかというカットオフ値が 明確になっていない。今後,適切なカットオフ値を 設定することができれば,幅広く骨粗鬆症検診に利 用できるであろう。また,現在行われている骨量測 定と組み合わせることで,より効率のよい骨粗鬆症 検診を行える可能性がある。
ま と め
骨粗鬆症性骨折の危険因子は,女性,高齢,低骨 密度,既存骨折,喫煙,飲酒,ステロイド薬使用,
骨折家族歴,運動,体重,BMI,カルシウム摂取,
転倒に関連する因子など多くの危険因子がある。
骨折リスク評価ツール(