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3 人類活動を支える知識基盤の構築

3.2 人類社会基盤への影響

3.2.1 宇宙機・観測機器への影響

宇宙利用時代に入って50数年、多くの重大な衛星異常、故障が報告されている。故障の 主因は、オーロラ嵐時の粒子注入領域などを横切る時に生じる「衛星帯電」による絶縁破 壊や材料変質、銀河放射線、太陽高エネルギー粒子、放射線帯粒子が半導体素子に飛び込 み、集積回路上に電荷蓄積し、ソフトエラーなどを引き起こす「シングル・イベント」、

MeV以上のエネルギーを持つ粒子が衛星外壁を通過し、基盤などに付着、電子デバイスの 耐圧を越える局所電位により、電子機器の不具合をもたらす「内部帯電」などによる。ま た総放射線吸収量(トータル・ドース)が部品に及ぼす影響も考慮する必要がある。原子 状酸素による表面材料・被膜の酸化、その結果生じる剥奪も、特に低高度衛星には深刻で ある。これらの宇宙機被害の低減は、3.1.3で述べたような宇宙工学分野の課題でもある。

現在JAXAを中心としたグループがその対策研究を推進している。

3.2.2 大気抵抗による衛星軌道の変動

太陽フレアに伴って降り注ぐX線や紫外線の増大、磁気嵐は大気を加熱膨張させ、衛星 軌道を大きき変化させることが報告されている。特に高度500 km以下を飛翔する低高度衛 星は、軌道保持のために空気抵抗を考慮する必要があるが、磁気嵐などの突発現象による 空気抵抗擾乱もそれに加えられるべき項目であろう。大気膨張の直接要因は、磁気嵐に伴 う電離層電流増大ジュール加熱の増大に起因するものと思われる。従って、磁気嵐予測と も連動した、長期大気密度予測手法を開発する事が重要である。今後の課題としては、地 上磁場擾乱、電離層電場観測などから見積もられた大気膨張率と実際の衛星軌道変化の比 較研究による経験モデルの作成と、磁気圏-電離圏-熱圏結合シミュレータによる第一原理的 な衛星高度での大気変動モデル作成等が挙げられる。

3.2.3 空気シャワーがもたらす航空機乗員被爆

フレア、CME衝撃波によりGeVレンジまで加速された太陽高エネルギー粒子は、成層圏 下部から対流圏に於いて空気シャワーを生じさせ、大量の放射線(GLE)を生成する。最大 級のGLEは、一度で航空機乗務員の年間管理目標値の線量に匹敵する被爆をもたらすこと から、航空機乗務員・乗客の健康被害を最小化するための方策を検討する必要がある。そ の第一歩は、太陽高エネルギー粒子の地球到達を正確に予測するモデルを開発するとこと であろう。更に、空気シャワーの生成と宇宙天気を結びつけた研究を展開するためには、

今後宇宙線分野の研究者との連携を深める必要がある。

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3.2.4 超高層大気変動が宇宙利用システムに与える影響

超高層大気科学は、短波通信における電離圏変動の影響など、元来実利用システムと密 接に関連して行われてきた。近年、人工衛星や有人宇宙船による宇宙利用や、衛星航法の 利用の飛躍的増大により、これらに対する超高層大気の影響の低減が必要とされている。

これらの社会的要請に基づく研究成果の利用を念頭におき、超高層大気の物理現象の解明 を進めていく必要がある。特に、電離圏における擾乱現象は、近年利用が飛躍的に増大し ている衛星航法の精度と信頼性に影響を与える。電離圏擾乱現象(電離圏密度変動、電離 圏不規則構造)の有効かつ確実な検出と予測につながる研究および衛星航法の将来の利用 形態を想定した電離圏擾乱の特性の適切な理解に基づく情報提供が重要である。

図3.2.1 宇宙利用システムに影響する太陽地球系現象。電離圏密度変動は短波通信の

不安定、衛星測位誤差の増大などの影響を、電離圏不規則構造は衛星信号にシンチレ ーションによる障害引き起こす。太陽電波強度の増大は衛星信号の雑音を増大させる。

高エネルギー粒子の増大は、衛星環境の悪化、航空機宇宙線被曝量の増大、極回り短 波通信の途絶などの障害の原因となる。

3.2.5 地上インフラに及ぼす影響

宇宙空間に生起する擾乱現象は、様々な過程を経て地上での地磁気変動を引き起こす。

この地磁気変動に伴い励起される誘導起電力は、送電線やパイプラインに誘導電流を生じ させる。このような誘導電流はGIC (Geomagnetically Induced Current)と呼ばれており、

システムの障害や、金属腐食を促進することが知られている。高緯度地域ではオーロラ活 動に伴う強い電流がGICの主な原因であるが、CME に伴う衝撃波の到来による SC(Sudden Commencement)や SI(Sudden Impulse)といった磁気嵐に伴う地磁気の急激な変化は、中 低緯度領域でも GIC障害の原因になると考えられている。 GIC は海底ケーブルの中継器

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に電源を供給するケーブルや鉄道の線路を使った信号の伝送などにも影響を与えることか も報告されている。GICの正確な把握、予測のためには何よりも高密度な地磁気データの取 得、正確な地磁気変動予測が不可欠である。世界中に展開する地磁気観測網を統合ネット ワーク化が可能となれば、GIC現象の世界規模でのモニタリングが可能となるであろう。ま た、高精度化するリアルタイム磁気圏シミュレーションに正確な磁気圏電離圏地圏結合ア ルゴリズムを組み込み、全球に於いて地磁気変動、GIC励起を予測可能とすることは、人類 社会を支える重要な知識基盤整備事業の1つとして積極的に進めて行くべきであろう。

3.2.6 新しい宇宙探査・宇宙利用への影響

この半世紀、人類は宇宙への進出を続け、先の節で述べたように社会基盤と密接に結び 付くまでに至った。上で述べた影響の多くは、人類が新たな生存圏を開拓した結果生じた ものである。その一方で、人類の新たな可能性を拓くための宇宙探査の継続も不可欠であ る。2010年に小惑星イトカワからのサンプルリターンを終えて地球大気圏の再突入したは やぶさ衛星のように、新たな挑戦は社会的な関心を大きく集め、技術水準を国内外にアピ ールする効果も期待できる。はやぶさ衛星においては電気推進機関の一つであるイオンエ ンジンが搭載され、長期間航行が実証された。今後は、新たな小惑星探査や木星近傍など より近傍の宇宙(深宇宙)の探査が目標となる。より長期間の航行へ向けては、イオンエ ンジンが構造的に持つ欠点などの克服を目指した研究が必要になる。

一方、宇宙太陽発電所(SPS)は、クリーンで安定した新エネルギー源を確保する手段と して有望視されているが、巨大建造物を宇宙空間に構築することによる宇宙環境への影響 や、エネルギー伝送用マイクロ波と宇宙プラズマや大気との相互作用による影響などは、

2.4で述べてきた宇宙プラズマ中の物理素過程の理解が不可欠である。すなわち、宇宙構造 物やプラズマとマイクロ波の相互作用などに関わる大規模シミュレーション、さらにはロ ケット実験による直接計測など、将来の宇宙利用を視野に入れた研究が必要であろう。

3.2.7 地震・津波・火山噴火による災害

日本はプレートの沈み込み帯縁辺部に位置するため、地震・津波や火山噴火による多大 な災害をこれまでに経験してきた。このため、地震・津波や火山に関連した電磁気現象の 解明や電磁気を用いた構造等の推定にとどまらず、リアルタイムモニタリング等、減災を 目的とした研究を継続して推進する必要がある。

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