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3 人類活動を支える知識基盤の構築

3.1 背景となるサイエンス

3.1.1 宇宙天気

太陽風:太陽表面からは、太陽起源の磁場を伴った超音速の荷電粒子流、すなわち、太陽 風が、惑星間空間に向けて絶えず吹き出している。コロナホールからは高速太陽風(>700 km/sec)が吹き出し、コロナホールに隣接した活動領域の端から低速太陽風(<400 km/sec)

が吹き出していることが明らかにされている。太陽風の速度分布は二様態であり、400-700

km/secの中間速度帯は非常に狭い領域にしか存在していないことがわかってきているが、

その理由はまだ明らかにされていない。高速太陽風が低速太陽風に追いつくと、その接触 面では圧縮効果による高プラズマ圧、強磁場領域が形成される。この高圧・強磁場領域は 共回転領域(CIR)と呼ばれている。地球に到達した太陽風は、磁気圏に於ける巨視的対流・

電流系の基本的な駆動源であり、その磁場(IMF: Interplanetary Magnetic Field)の向きが南 向きの時、最も効率よく磁気圏と相互作用することがわかっている。太陽風変動は「オー ロラ嵐」を始めとする、磁気圏システムに内在する様々な擾乱現象の源でもある。CIRは地 球磁気圏接触することにより「回帰性の磁気嵐」を引き起こすことが知られている。また、

IMF強度の変動は、太陽系外から飛来する銀河宇宙線の量を変化させる。IMFは太陽フレ アなどの突発的な短期現象に加え、太陽自転周期(約27日)や11年周期でも変動を示す ため、銀河宇宙線もそれに同期して変動する。

太陽面爆発現象:太陽面爆発現象(フレア)は磁力線のひずみとして蓄積された磁場エネ ルギーが爆発的に解放現象する現象である。フレアに伴って大量に高温プラズマが生成さ れ、軟X線が急増するとともに、衝撃波によって加速された高エネルギー電子、陽子、ヘ リウムが生成される。高エネルギー粒子が高密度の太陽大気と衝突して硬X線やγ線、紫 外線を爆発的に放射することが知られている。こうしたフレアに伴うX線や極端紫外線が 地球に到達すると、電離圏に於ける異常電離現象を引き起こす。また、しばしばフレアに 伴って発生するコロナ質量放出現象(CME)が発生する。このCMEは巨大なプラズマ雲で あり、前面には衝撃波を内部には非常に強い磁場を抱え込んでいる。但し、Mクラスの巨 大フレアでもあっても、約半数はCMEを伴っていないことから、フレアはCME有無の確 実な指標ではない。CMEを伴うフレアは閉じ込め型フレアといい、CMEを伴うフレアは噴 出型フレアと呼ばれている。両フレアとも中心となるエネルギー解放メカニズムは磁気再 結合であると考えられているが、磁場配位の違いからCMEの有無などの特徴が決まると考 えられている。CMEは地球磁気圏と衝突することにより、「突発性の磁気嵐」の要因とな る。

高エネルギー粒子生成:太陽から放出される、数KeVから数10 GeVの陽子、電子、重イ オンを太陽高エネルギー粒子という。フレアに伴う衝撃波は主に急激な電子加速(インパ

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ルシブイベント:継続時間〜数時間)を引きおこす。一方、CME衝撃波は主に陽子に富む 高エネルギー粒子群を緩やかに(グラデュアルイベント:継続時間数日間)生成する。前 者の粒子加速は狭いフレア領域で生じるため、経度の広がりも限られ地球に直接到達する 磁力線の領域に限られることに対して、後者は広い太陽経度に渡って観測される。全ての 高エネルギー粒子がこの2つのメカニズムに集約されるわけではなく、低エネルギー側で はグラデュアル、高エネルギー側ではインパルシブといったハイブリッド・イベントが多 く見つかり、フレア衝撃波で加速された粒子が更に、コロナ中の準垂直衝撃波によって加 速される二段階加速メカニズムなどが提唱されている。これらの高エネルギー粒子流はフ レア発生から数十分から数時間後に地球に到着し、磁気圏内部で数MeV以上のエネルギー を持つ陽子のフラックスが大量に増加するプロトンイベントを引き起こす。特に、GeVの オーダーまで加速された高エネルギー粒子は地球の磁場に跳ね返されること無く大気まで 到達し、大気中の原子核と相互作用し、二次的粒子を生じる。この二次的粒子もエネルギ ーが十分高いため、反応の連鎖により大量の二次的粒子を生成する現象を空気シャワーと いう。生成された粒子のうち、寿命の短いものは崩壊し、残ったガンマ線、電子、ミュー 粒子、核子などの粒子が地表に複数同時に到来し、大量の放射線増加を引きおこすことが 知られている。

紫外線および可視光の変動:太陽から到来するエネルギーの大半は、可視光を中心とした 電磁波による。一般にそのエネルギーは「太陽定数」という言葉からも分るとおり、変動 の幅は非常に小さいと考えられてきた。しかし、最近数10年間の人工衛星による精密観測 により、太陽からの電磁波エネルギー(TSI: Total Solar Irradiance)も、太陽自転周期や11 年周期に伴い、 0.1%オーダーの変動を持つことが明らかになっている。また、こうした周 期の変動は波長が短くなるにつれ振幅が大きくなることが知られており、成層圏のオゾン 層で吸収を受ける300-400 nmの紫外線では、1 %以上の振幅を持つため、成層圏の温度場を 変動させることが指摘されている。

以上のように太陽活動現象は、地球圏に於ける宇宙天気の変動現象を引き起こす源とな る。地球圏では磁気圏・電離圏・熱圏・大気圏そして地圏が複合的に結合した多圏間結合 システムが形成されており、因果を供する応答もまた様々な様相を持つ。これらについて の研究の現状、課題については、2章を参照されたい。

3.1.2 宇宙工学

宇宙機と宇宙プラズマの相互作用:宇宙空間は全くの真空ではなく、希薄な宇宙プラズ マで満たされており、その中で宇宙機を用いた様々な人類活動が行われている。このため、

宇宙機と宇宙プラズマの間には様々な相互作用が発生する。具体的には、宇宙機の帯電、

表面放電、それによる電磁界干渉、電気推進などにおける宇宙機からの能動的プラズマ放 出による干渉や、エレクトロダイナミックテザーシステムやSPSなど大型宇宙システムと

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宇宙環境との相互作用が挙げられるが、これらは、宇宙機の形状、材質、システム構成、

およびその背景となる宇宙プラズマ環境に大きく影響するため、その定式化は非常に困難 である。

また、科学衛星による宇宙環境観測においては、衛星やセンサ等自体がその場のプラズ マ環境を乱すため観測データはその影響を受ける可能性がある。科学衛星は宇宙プラズマ 粒子の衝突により帯電し、周辺のプラズマ密度分布、電位構造を大きく変化させる。これ らの衛星プラズマ相互作用は、プラズマ粒子もしくは波動計測に少なからぬ影響を与える。

粒子計測においては、衛星から放出される光電子や衛星の帯電の影響により、衛星周辺の 低エネルギー電子・イオンの分布が大きく乱される。またプローブ法を用いた電場観測に おいては、光電子や衛星ウェイクに起因するスプリアス電場の発生や、波動電界の較正時 に必要となるプローブ複素インピーダンスのプラズマ中での特性変化が問題となる。こう した影響は、従来から機器設計や観測データ較正の段階において、理論的にもしくは経験 則に基づいて注意深く考慮されてきた。一方で、近年、粒子と波動など異なる種類のデー タ、多点の観測データ、衛星と地上観測データなど複数のデータを高度に組み合わせた衛 星観測研究が模索される中、衛星データに求められる精度や信頼性もより厳しいものとな っており、衛星プラズマ相互作用の観測への影響を定量化することが急務となっている。

宇宙空間における推進システムにおいては、衛星がひとたび地球の重力圏外に出てしま えば、純粋な推力よりも自動車でいう燃費に当たる比推力の方が長距離航行や打ち上げ重 量を考える上で重要な性能となる。実際、電気推進機関は、はやぶさ衛星などですでに実 用化されているが、一方で電極の摩耗がエンジンの寿命に与える影響が問題視されてきた。

このような電気推進機関の欠点を克服するために、現在世界各国で様々な研究が行われて いる。

3.1.3 地球表層電磁気

地震に関する電磁気現象:東北地方太平洋沖地震を引き起こした断層運動は、海面の急激 な変動をもたらし、津波の原因となった。この海面変動は、大気圏と電離圏に音波と重力 波を通して影響を与え、電離層電子密度の変動が伝播する様子が GPS観測によりとらえら れた。 一方、実在性や物理的機構は明瞭ではないが、地震発生前に大気圏および電離層で 擾乱が発生していたとの報告もある。

津波電磁気現象:海水は良導体であり、地球磁場中で流れることにより、誘導起電力を発 生する。近年の海底電磁場観測により、チリや東北地方太平洋沖等の巨大地震による津波 がとらえられた。また、東北地方太平洋沖地震については、東北地方太平洋沿岸や父島に おいても津波を起源とする磁場変動が津波到達以前に観測された。