2 地球電磁気学・地球惑星圏科学の現状と科学課題
2.6 電磁場観測による地球内部の状態や変動現象の理解
2.6.1 地殻・マントルの構造の解明
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電磁気的推定は、重力や慣性モーメントから推定されるものとは独立の情報を与えるため、
積極的に取り組むべき課題である。
月のように固有磁場を有しない固体天体の場合、磁場変動の起源を内外分離するために は、周回衛星・着陸機ともに磁力計を搭載して同時観測での探査を実施することが望まし い。さらに、これまでは実施されたことのない月面における電場計測の実現、ペネトレー タ技術を用いた月面での多点磁場計測、人工信号を用いたアクティブ探査などの挑戦的課 題・技術開発も継続的に進めていくことが望まれる。
59 要となる。
SGEPSS 内においても、太陽・地球系の分野との相互交流を積極的に推進すべきである。
たとえば機器開発の側面においては、いずれも小型・低消費電力・高精度な電磁場センサ を必要としている。また、様々な時間スケールにおける高層での電流分布の研究は、地球 内部電気伝導度構造推定に必要な外部磁場の空間分布に関する情報を与える。外部磁場空 間分布を正確に把握することにより、より確からしい内部構造を推定することが可能とな る。
(1)地震・火山現象の発生場としての地下構造の解明
地震・火山活動に関する研究は、その実態を把握することが自然災害軽減に資するとい う面において社会的な要請も強く、更なる進展が望まれる。特に発生場としての構造の把 握は、地震・火山現象の発生の物理や活動の推移を予測するための基礎情報として必要不 可欠である。
(ア)地震の発生場
詳細な地下構造の解明により進展が期待される地震に関係するテーマは、地震発生過程
(破壊の始まり/成長/停止)や地殻(断層)強度・レオロジー、間隙流体の存在とその形態、
歪集中を担う上部マントルから地殻に至る大規模構造(brittle-ductile遷移層の分布など)な どを把握することが挙げられる。電磁気学的手法による構造探査は、バルクとしての電気 伝導度分布の推定を可能とするが、温度や場の状態、間隙良導物質に高感度である性質を 有するため、前述のテーマの総合的な理解に資する情報をもたらすと考えられる。
1980 年代以降、国内外において二次元観測・解析が精力的に進められ目覚ましい成果が 得られた。たとえば、起震断層の固着域と低電気伝導度領域との対応関係が見られること や、震源核形成場の下部に高電気伝導度領域が検出されるなど、それぞれの観測的研究に より、対象とする領域の特徴的構造が明らかにされてきた。近年、測定器や観測手法の洗 練化により稠密かつ面的な観測が可能となり、加えて汎用的なインバージョンコードが開 発されたことにより、三次元のイメージングへと拡張されつつある。この研究の方向性を さらに進展させ、他分野の成果と比較可能である精緻な構造推定を目指すべきである。
災害軽減に資するデータの提供という社会的要求に応えるためには、都市部近傍の地震 発生ポテンシャルの評価は必要不可欠である。地下構造の解明はポテンシャル評価の基礎 情報となるが、都市では人間活動に起因する電磁ノイズが大きいため電磁気観測に困難を 伴う。コントロールソースによる探査手法の高度化やノイズを積極的に信号源として利用 する手法の確立など、革新的な技術開発が期待される。
(イ)火山活動の発生場
マグマの発生から噴火にいたるまでの一連のマグマの蓄積・移動と、付随して発生する
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熱や物質の蓄積・移動に対して一定の制約を与えるために、マルチスケールでの三次元電 気伝導度構造の解明を一層推進してゆくべきである。
この10年間に、いくつかの火山では、火山噴火、特に火山爆発の発生場の電気伝導度構 造の理解が進んだ。浅部の良導体は低浸透率の熱水変質層であり、熱水系の構造を規定し、
ひいては種々の火山活動にも影響を与えうる鍵層になっているとの解釈が広く行われた。
火山噴火の多様性が生じる深さ 2~3kmまでの浅部三次元電気伝導度構造の解明を一層推進 し、水蒸気爆発やマグマ噴火など、同タイプの噴火を典型的に行う火山同士の構造の比較 研究が必要である。その下方、深さ5~10kmには、マグマ溜りに関連すると考えられている 地殻変動源が多くの火山で推定されている。三次元構造解析が実用レベルに近づいてきた ことにより、地磁気地電流法(Magnetotellurics: MT法)による深さ数kmから数10kmのマ グマ溜まりのイメージングが現実味を帯びてきた。電磁探査手法の原理的な分解能の問題 から明確なマグマ溜りの描像は得られていないが、いくつかの火山ではマグマ溜りの存在 が疑われる高電気伝導度領域も見つかっている。マグマ溜まりの位置・サイズや内部の状 態を特定できることは、物理モデルに基づく噴火の予測に大きく貢献することになるため、
引き続き三次元構造解析技術の向上を進めるべきである。マグマ溜まりの実体に迫るため には、適当なスケールの三次元電気伝導度構造の解明を行うとともに地震波速度構造や密 度構造など他分野の成果との比較研究が必要である。活動度の異なる火山の比較構造研究 も有効と思われる。これを推進してゆけば、カルデラ形成等の低頻度大規模噴火の発生場 に対しても、想定される噴火のポテンシャル評価という観点から一定の寄与が期待できる。
(ウ)地震・火山の深部構造と沈み込み帯を包括する構造の解明
火山や内陸地震域のさらに深部を対象とした調査を実施する場合、これまで日本におい ては二次元探査が主流であったため、沈み込み帯から火山・内陸地震域に至る物質・熱輸 送過程のモデル化の基礎となる大規模構造の把握は不十分であった。複雑な地形・地質か らなる我が国では、地下深部の電気伝導度構造を明らかにするために、海陸分布や、地溝 帯・沖積層の分布など、リージョナルな周辺構造をモデルに組み込むことが必要となる場 合も多い。プレート沈み込みに伴う一連のプロセス(脱水・溶融・メルトの上昇)を統一 的に理解するためには、沈み込む前のプレート、前弧域、背弧域も含めたイメージングが 必要不可欠である。一方、沈み込むプレート運動によって発生する海溝型巨大地震の想定 震源域を対象とした二次元構造解析においても、固着域と電磁気学的不均質構造の因果関 係が指摘されつつある。これを面的な観測に基づく三次元イメージングへと進展させ、巨 大地震発生域と不均質性の関係について一層の解明を目指すべきである。両者に共通して、
海陸共同の観測研究、つまり海域での高密度の観測の実現と陸域データとの統合解析によ り、沈み込み帯を包括する広域三次元モデルを構築することが将来的な課題として挙げら れる。これまで精力的に技術開発が行われてきた浅海を対象とした海底電磁気観測装置に ついて、一層の改良を推進し、海陸データに対する統合解析において問題となる技術的な
61 困難を克服する手法の開発を行なう必要がある。
日本周辺のプレート沈み込みに伴う諸現象を理解するためには、他の海洋プレートの沈 み込み帯や、大陸同士の衝突帯などとの比較研究の重要性は高い。北米西海岸、コスタリ カ沖、ヒマラヤ、南米アンデス、ニュージーランド等で積極的に行われている調査との対 比を行うとともに、積極的に共同研究を推進することが期待される。
(2)マントル構造の解明
マントルの電気伝導度構造研究は、主要なテクトニックセッティング(拡散的プレート 境界、収束的プレート境界、ホットスポット、および非テクトニックな安定大陸地塊や深 海盆)で、様々な規模の MT 観測データに基づき行われている。そのいくつかは国際共同 研究として実施されている。また、各地の地磁気観測所や海底ケーブルによる電位差観測 などの定常的長期間の観測データを用い、セミ・グローバルからグローバルスケールのマ ントル遷移層・下部マントル構造研究が進展しつつある。
マントルの温度・化学組成等の環境に対して、電気伝導度が地震波速度構造とは独立か つ相補的情報を与えるとの認識が広まり、地震学との合同観測・共同研究が増加している。
電気伝導度や地震波速度など、それぞれのイメージング結果をもとに温度・組成等の寄与 を分離する手法が提案されている。
地震波速度構造などと比較を行う上では、電気伝導度構造推定における分解能・構造モ デルの信頼性の向上と、それらの定量的評価が必要である。地震波速度構造と対比して電 気伝導度構造の分解能は低いが、手法の違いに起因する原理的な分解能の違いがあるにせ よ、より高密度な観測によってその差を縮める余地は大きい。
海底拡大系の研究では、高速拡大する東太平洋海膨での観測により、従来の温度構造に 依存したプレート成長のイメージが覆され、マントル中の水分布の重要性が認識されるよ うになった。中~低速拡大する中央海嶺での観測も複数行われ、類似の構造が得られる一 方、地域ごとの多様性も明らかになりつつある。発散型プレート境界の電気伝導度構造モ デルについては、今後これらの特徴を統合的に整理して一般化する必要がある。ホットス ポットについては、本格的な三次元電気伝導度構造解析を目的とした観測研究がいくつか の現在活動的なホットスポット火山周辺海域において行われており、今後の研究の進展が 期待される。これらはプルームテイルの構造研究であるが、プルームヘッドの構造を明ら かにすることもプルームテクトニクスの全体像を理解する上では欠かせない。巨大海台や 洪水玄武岩大地など、プルームヘッドのなごりと考えられている地域も将来の重要な観測 ターゲットの一つである。
非テクトニックなフィールドとして、海域では北西太平洋の深海盆において大規模な観 測が行われている。海洋底年代とリソスフェアの成長・アセノスフェアの実態については、
未だ十分に解明されていない。全容の解明には北西太平洋のみでなく様々な年代の深海盆 での観測データの蓄積が必要である。深海盆は、スラブやプルームの影響を受けていない