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2 地球電磁気学・地球惑星圏科学の現状と科学課題

2.7 岩石・堆積物が担う磁化の物理の解明とその応用

2.7.2 岩石磁気学の応用

(1)環境磁気学-古気候・古環境変動、環境モニタリング

堆積物の磁気測定によって得られる情報は、過去の地球磁場の復元に利用されるだけで なく、磁性粒子の供給源や運搬過程、続成作用、さらにそれらに関与する気候変動の研究 にも有効である。堆積物の磁気特性を気候変動や汚染の問題等の環境システムの研究に利 用する分野は環境磁気学と呼ばれ、古地磁気・岩石磁気学のなかで重要な位置を占めるよ うになっている。環境磁気学という手法が成立する背景には、磁性粒子が地球の岩石や堆 積物、土壌、さらに水圏や大気中にも普遍的に存在し、環境の差異に応じてその存在度や 鉱物種、粒子サイズ等に変化が生じるという特質がある。このため、磁性粒子は過去の気 候変動のプロキシ(代理指標)として、また現在の環境調査におけるトレーサーとしての 役割を果たすことになる。

気候変動のプロキシとなる磁気特性についての研究は、深海底堆積物や湖沼堆積物、風 成堆積物など多様な試料を用いて進められており、氷期・間氷期サイクルや1000年スケー ルの気候変化、モンスーンの変動等に関する成果が得られている。今後、これらの研究を さらに発展させるためには、統合国際深海掘削計画(IODP)や国際陸上科学掘削計画 (ICDP:

International Continental Scientific Drilling Program)への積極的な関与、古気候・古海洋学分 野の研究者との連携の強化が欠かせない。

一方、磁性粒子をトレーサーとして利用する手法は、環境汚染のモニタリングや風成ダ ストの発生と拡散に関する研究などに有効である。たとえばヨーロッパやアメリカ、中国 ではいくつかのプロジェクトが展開されているが、日本では体系的な研究が進められてい ない。日本列島は東アジアの風成ダストや広域大気汚染に関して重要な位置にあり、中国・

韓国・台湾などの研究者との連携により長期的な研究を行なう意義は大きい。

環境磁気学の発展のためには、地球化学・古環境学分野などとの更なる連携も重要であ る。海洋化学を例に取ると、ここ数年での微量元素の分析技術の発展が目覚ましい。これ まで微量かつ海洋プランクトンの必須制限元素である海水中の鉄の量についても、吸光度 を用いた測定技術が進歩して信頼性の高い値が得られるようになった。一方で鉄の形態に 関する情報、つまり化合物名や粒径については、分光の技術が未発展であるために、その 詳細は不明である。

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そこで最近は他の物性、特に磁気特性を応用した鉄の形態を特定する方法が試みられて いる。しかしながら、海水中に存在する可能性のある鉄酸化物(フェリハイドライト、ナ ノサイズのゲーサイト)や鉄硫化物(グレイガイト)については、磁気特性の基礎情報が 十分でない。これらの化合物の基礎的な磁気特性データを充実させ、海水中における鉄の 量や形態変化を明らかにできれば、たとえば、海洋プランクトンの増減が予測可能となる であろう。化学反応速度から考えると、海水中の微量元素の量や形態変化は、海洋プラン クトンといった生態系での高次の元素利用者の増減よりも先んじて起こっているはずだか らである。海洋環境変化の速度やその方向性を予測し、これらの変化に如何にして対応す るかということを考えるためにも、環境磁気学は有用である。

環境磁気学では、様々な磁気パラメータや磁気特性が利用されるようになってきている。

これらの意味についてさらに理解を深めるためには様々なアプローチが必要と考えられる が、たとえば、堆積物表層での初期続成作用に伴う磁性鉱物/磁気特性変化を詳細に把握 することが必要であろう。また、そもそも堆積物に含まれる磁性鉱物は多様であるので、

比較的理解が進んできている鉄酸化物・鉄硫化物以外についても、個々の磁気特性把握が 必要であろう。技術面としては、氷(磁化の弱い試料)から磁性鉱物を検出する技術、す なわち、氷に含まれるダスト・火山灰・微少隕石などを「非破壊」で検出可能な技術の開 発などが望まれる。

(2)テクトニクス研究

プレートテクトニクス理論は海洋底の研究から生まれた。そして現在もなお、統合国際 深海掘削計画(IODP)などプロジェクトの規模からみても、災害科学などの社会的要請の 側面からみても、海洋底は重要な研究対象として認識されている。海洋底には地球の過去2 億年間の変動が記録されているが、大陸には地球の過去40億年間のテクトニクスが記録さ れている。海洋底の研究のみでは地球進化の時系列を網羅できないため、より深く地球の ダイナミクスを理解するために、また、地球科学的な知見を蓄積するために、大陸地域の テクトニクス研究は重要である。

大陸プレートは、プレートテクトニクスの理論に必ずしもあてはまらない、変形するこ とが可能な領域であることが認識されてきた。この変形は地域ごと、年代ごとにそれぞれ データを集積することによってようやく全容が解明されるため、その研究は必然的に困難 なものとなる。そのような研究にとって魅力ある地域へは、アクセスすることすら困難な 地域も多く存在することもまた、研究を困難なものとしている。

インド大陸とアジア大陸間の衝突現象は、現在のアジア大陸東部におけるモンスーン気 候の誕生と発達、および、これに関連して生物の多様性にも多大なる影響を与えたことが 知られている。世界で最も新しい巨大大陸であるアジア大陸には、地球それ自身と生命圏 の発達についての未知の規則性、法則性が数多く残されていることが期待される。今後は、

特に、中生代から新生代にかけて、アジア大陸で生じた大陸間の衝突によるアジア大陸東

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部の変形現象を、古地磁気学および地質学の観点から明らかにすることが強く望まれる。

他分野との連携という観点では、地質学分野において、古地磁気の手法を用いたテクト ニクス研究が依然として注目されている。それは、多くの場合、地質学や地形学の手法で は地殻の水平運動(鉛直軸回転や南北移動)を定量的に求めることができず、古地磁気学 の手法に頼るしかないためである。今後も岩石磁気・古地磁気学の手法(古地磁気方位や 磁化率異方性の解析)は陸域、海域を問わずテクトニクス研究に大きく貢献すると考えら れる。たとえば、IODPにおける掘削船「ちきゅう」を用いた沈み込み境界掘削研究(南海 トラフ地震発生帯掘削(NanTroSEIZE)、東北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST))が現在 行われているが、断層岩や変形した堆積物の構造解析において岩石磁気学の手法(磁化率 異方性解析など)が大きく貢献する可能性がある。また、内陸活断層の活動履歴の研究に おいても同様の貢献が期待される。

(3)海洋底電磁気・磁気異常研究

1950 年代に発見された海洋地磁気縞模様は、海底拡大と地磁気反転の強力な証拠として プレートテクトニクス理論の確立に大きく貢献した。その後の急速な地磁気データ集積に より、1980 年代前半には過去約 2億年間のプレート運動の概要が把握され、地球進化を知 る上で極めて重要な手がかりを与えることとなった。1980 年頃からは曳航式又は潜水艇な ど各種プラットフォームを用いた深海観測が始まり、海上観測に比べてはるかに解像度の 高いデータが得られるようになった。海底の近くで測定するほど、海上からの観測では減 衰して検出できない高振幅、短波長成分の地磁気異常が得られるからである。短波長成分 には、海洋地殻、古地磁気に関する、高空間・時間分解能の情報が含まれていると考えら れる。この結果、磁気反転に伴う縞状構造という一次近似的解釈から一歩進んだ、より詳 細な磁気異常の研究が行われるようになった。そこでは、海洋性地殻の磁化構造の問題や その応用としての海底熱水鉱床による磁化構造、さらに既知の地磁気反転イベントでは説 明できない短波長成分の成因などが主要なテーマとなった。今後は、観測データの分解能 を更に上げることが必要である。

深海で得られた地磁気異常からは、海底の地質により良く対応した、詳細な海洋地殻の 磁化強度分布を得ることができる。また深度を変えた深海観測、海上観測、人工衛星によ る異なる高度からの地磁気観測と合わせて、海洋地殻形成過程、変質過程の情報を持った 海洋地殻の鉛直方向変化も含めた磁化構造を調べることができる。海洋性地殻の磁化構造 については、中央海嶺をテーマとした多くの分野の研究と共に進展し、拡大速度の違いに より生じる海嶺の地学的・熱的構造の多様性が、磁化構造をもまた多様なものにしている 事実を明らかにしてきた。例えば低速拡大海嶺においては、磁化の主要な担い手とされる 海洋地殻最上部の噴出岩層(extrusive layer)に加えて、セグメント境界付近などで生成され る蛇紋岩化したマントルかんらん岩の寄与も大きいことなどが把握された。さらに一連の 研究を進めるには、深海掘削による岩石磁気と組み合わせた研究が望まれる。特にオフィ