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2 地球電磁気学・地球惑星圏科学の現状と科学課題

2.8 太陽地球系と地球内部を結ぶ科学課題

これまで見てきたように、当学会は地球深部から太陽系にわたる広大な空間を研究対象 とし、用いる手段も電磁気学・プラズマ物理・岩石物性・流体力学・化学など多岐にわた る。各分野の専門性が深まる中で、当学会の普段の活動では、地球外部を研究対象とする グループ(太陽地球系)と地球内部を研究対象とするグループ(固体地球系)に緩やかに 分かれていることが多い。

しかし、科学の知見が蓄えられ、技術が発展するにつれて、研究のフロンティアに位置 する現象の解明には学際的な知識が求められるようになっている。かねてより行われてい た、多分野で協力して大掛かりな装置を開発したり、同一データを多方面から調べたりと いった例に加えて、今後は、共同作業で一つの現象を解明する研究も進められるであろう。

本節では、将来に向けて推進されるべき当学会ならではの分野横断的な研究課題を取り 上げる。具体的には、地磁気急変現象に伴う日本での地中誘導電流の解明、地圏を含むグ ローバルサーキットモデルの再構築、人工衛星で観測した地磁気変動から解明できる現象、

地震に伴う電磁気変動の理解、の 4課題である。前の 2 課題は多分野協力によって解明で きる現象の例、後の 2 課題は多分野の研究者が結集することによって実現できる観測や全 体的な描像が得られる例である。

2.8.1 地磁気急変現象に伴う日本での地中誘導電流の解明

1989 年 3 月 13 日に発生した地磁気急変現象に伴って地中に誘導された電流(GIC:

Geomagnetically induced current)によって、カナダ・ケベック州の送電線網の変電所トラン スに許容限度を超す電流が流れ、600 万人に影響する停電事故が起きたことは有名である。

この事故を契機にオーロラ帯などの高緯度では GIC 研究や社会インフラに対する影響の調 査が進んだが、地磁気緯度が低い日本は安全であろうと考えられ詳細な研究は行われてこ なかった。

しかしながら、歴史的にみると 1859年9月1-2日に発生したキャ リントン磁気嵐のように、地磁気 急変現象にも数百年に1度の規模 の巨大なものがあり、そのような 極端な現象時に日本国内において どれほどの誘導電流が流れるかは 自明ではない。折しも、太陽類似 星の観測から800年~5000年に一 度の超巨大フレア(スーパーフレ ア)の発生が示され、太陽の超巨 大フレアが引き起こす超巨大な地

図2.8.1 地磁気急変現象による地中誘導電流(GIC)

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磁気急変現象を想定することも、1000 年に1度程度の発生頻度とはいえ、考えられるよう になった。

以上の状況から、巨大地磁気急変現象によって日本で誘起されうる GIC の推定は、当学 会において将来的に推進されるべき課題である。巨大 GIC の推定は、社会的に重要である だけでなく、太陽-磁気圏-電離圏-地殻・マントルに関係する分野横断的な新しい研究テー マの創出につながる。即ち、大規模な GIC を推定するためには、まず太陽活動の物理機構 を解明し、大規模なフレアの発生頻度を知らなければならない。そうしてさらに、大規模 なフレアが引き起こす磁気圏や電離圏の擾乱を見積もり、地上に到達する磁場擾乱の推定 が必要である。これらの研究は理論的な考察と同時に、これまで蓄積されたデータの統計 解析を行うことになる。そのうえで、精密な地下電気伝導度分布を用いて、地表に誘導さ れる電場のモデリングを行わなければならない。最後に送電線網のインピーダンス情報を 手に入れて、GICを計算することになる。

これまで、GICの研究は宇宙天気分野の磁気圏電離圏研究にとどまってきた。また、地殻・

マントルの電気伝導度構造の研究も、他分野から利用しやすい形に整理されてはこなかっ た。分野横断型の巨大GICの研究の結果、信頼に足る地下の電気伝導度分布がまとめられ、

電磁誘導が精密に計算できるようになると、地上や低高度衛星での磁場観測データを精密 に内外分離することが可能になり、地球内部の研究者・太陽-地球環境の研究者双方にとっ て、さらに新しい研究分野が開ける可能性もある。

2.8.2 地圏を含むグローバルサーキットモデルの再構築

地圏(固体地球および海洋)と電離圏が成すコンデンサーを基本構造とするグローバル サーキット仮説は1920年代にC.T.R. Wilsonによって提案された。この回路において充電を 担うのは積乱雲の中で起きている電荷分離であり、それが大局的にみると上向き電流を発 生させている。雷雲の上空は、宇宙線によって生じたイオンが、雷雲中の電荷が作る上向 き電場によって移動することで上向き電流を形成する。一方雷雲の下方では、帯電した降 雨粒子やコロナ放電、落雷によって、やはり上向きの電流が地表に接続される。雷雲上空 の電流が電離圏下部まで達すると、電流は水平方向に拡散し全球の晴天域で下向きの電流 として地表まで到達し、先の雷雲下方の上向き電流と地圏を介して接続する。晴天域での 下向き電場は100V/m程度だが、その値は、全球で発生した電力の総和として、全ての晴天 域で同期した形で日変化を示すとされている。Wilsonの提唱後、1970-80年代頃には数値モ デルとして精密化が進み、最近は衛星による雲観測等に基づいて、対流圏の発電装置であ る雷雲活動については、その分野や強度の時間変動について、よりリアルな入力情報が使 われるようになっている。

しかしながら、回路の上部である電離圏・磁気圏と下部の地圏については、完全導体を 仮定した計算が主流であり、特に、地圏の電気伝導度の水平および立体的な構造について は全く考慮されていない。2.6節に述べたように、地圏の電気伝導度は海洋と地殻、また地

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殻・マントルの組成と状態による水平構造を持ち、さらに鉛直方向にも様々な空間スケー ルでバリエーションが存在する。

雷放電活動の変動には、季節変動や 1 日変動などの比較的ゆっくりしたものから雷雲寿 命の数時間、さらには数分以下の短期のものまであり、それが地域や地方時で複雑に変化 する。さらに、電離圏・磁気圏電流にも様々な時間スケールの変動が存在し、それによっ て生じた電磁場が地圏に電流を誘起する効果も考慮が必要になる。

こうした大気圏および電離圏・磁気圏の発電機の時間変動と電気伝導度の複雑な空間構 造は、グローバルサーキットが単純な2極板コンデンサーモデルでは表現できない可能性 を示唆する。どこの、どういった時間スケールの電磁場変動が、地圏の構造と関わって、

グローバルサーキットを変調するのか、あるいはしないのかさえ、本格的な検討は殆どな されていない。現実的なグローバルサーキットモデルの再構築を考えるとき、地圏電流系 の動態把握は重要なテーマのひとつである。太陽地球分野と固体地球分野の研究者の連携 が求められる。

2.8.3 人工衛星による高精度地磁気観測から解明できる現象

最近の低軌道地球周回衛星(Magsat、 Orsted、 CHAMPなど)は先例のない高精度高分 解能の磁場観測データをもたらした。そのおかげで、地球外核から磁気圏にわたる多様な 起源を持つ磁場についての研究が進展した。

(1)磁気圏─電離圏結合系における3次元電流構造の研究

磁気圏と電離圏との相互作用を担う沿磁力線電流は、磁気圏のプラズマの動きを電離圏 に伝えたり、磁気圏からのエネルギーを電離圏に伝え、オーロラを光らせたりするなど、

磁気圏─電離圏結合系において本質的な役割を果たす。また、中緯度電離圏の南北両半球間 の結合過程においても沿磁力線電流が関係していると考えられる。沿磁力線電流は地上磁 場にも影響を及ぼすが、地上磁場観測からは沿磁力線電流の効果と電離圏電流の効果との 識別が難しい。そのため、沿磁力線電流の研究は、主として衛星磁場観測によって発展し てきた。沿磁力線電流の存在自体も、衛星磁場観測の成果によって初めて広く受け容れら れるようになったものであり、また、region-1、 region-2と呼ばれる2層構造など、極域沿 磁力線電流の大域的な空間構造も、衛星磁場観測によって得られた描像である。

衛星磁場から電流を調べる際には、観測される磁場の変化を衛星の軌道に沿った微分と 仮定するため、単一衛星のデータでは、衛星軌道に垂直な方向の微分や電流の時間変化が 考慮されないという問題があった。しかし今後は、SWARM衛星群による編隊観測など、複 数衛星による観測が実現することにより、電流密度が精度よく求まる他、時間変化と空間 変化との識別もある程度可能になると期待される。さらに、衛星磁場観測データは、地上 観測網の磁場データと組み合わせることで、磁気圏・電離圏電流系の 3 次元的な空間構造 や、さらに時間軸を加えた、4次元的電流構造の解明にも役立てられる可能性がある。