• 検索結果がありません。

2 地球電磁気学・地球惑星圏科学の現状と科学課題

2.5 地球および月・惑星の電磁場変動、古磁場環境の解明

2.5.2 月・惑星内部に関する電磁気学的研究

惑星や衛星の内部構造およびダイナミクスを理解することは、固体天体の成因、進化を 解明するための基礎情報を提供する。主磁場成因(ダイナモ現象)の理解を深めるために、

比較研究として他の惑星・衛星においての磁場の測定・磁気異常の推定が重要となる。地 球のように固有磁場を有する水星や、ガニメデなどに対しては、磁場の空間分布および時 間変動を明らかにすると同時に、内部構造の理解が必要である。本質的にダイナモ現象を 理解するためには、固体惑星にとどまらず、木星・土星(ガス惑星)・天王星・海王星(氷 惑星)の固有磁場分布および時間変動を知る必要もある。他方、現在は固有磁場を持たな い月・火星についても、それぞれの形成直後にはダイナモ作用によって生じていた固有磁 場があったと考えられている。月・火星の表面付近で観測される磁気異常の起源がその固 有磁場であるならば、磁気異常の分布・年代・起源を明らかにすることがそれらの進化の 解明につながる。加えて、惑星の初期進化段階、生命の生存可能性にかかわる磁気環境に ついて理解を進めるためには、地球における古地磁気研究のみならず、古月・惑星磁場研 究を推進する必要がある。

56

(1)月・惑星の磁気異常

月磁場については、Lunar Prospector や「かぐや」によって全球的な月磁気異常マップが 作成され、その概要が明らかになってきた。成果は多岐に渡って利用されているが、磁気 異常の分布をより正確に記述する努力は怠ってはならない。たとえば、縁の海のスワール 帯など、観測高度が十分に低くない領域も存在するため、現有のデータの処理方法を工夫・

開発して最大限に細かいマッピングを行なう必要がある。得られた磁気異常について表現 技法の高度化を進め、月研究コミュニティの需要に応える必要がある。また、月の磁気異 常を担う主要磁性鉱物であるカマサイトなどに対する岩石磁気学的な理解は、地球におけ る主要磁性鉱物であるマグネタイト等に比べて進んでいない。将来の月探査では、月面着 陸やサンプルリターンが計画されている。したがって、月サンプルによる古月磁気強度や 古月磁気方位研究を睨み、現在のうちから月の磁性鉱物に対する研究を進め、知見を得て おく必要がある。さらには、今後の月観測計画に立案から参画する体制を整えることが望 まれる。たとえば、SGEPSS内の異分野融合として、月磁気異常域の地下構造をレーダーサ ウンダー技術で推定する研究への取り組みを始めている。

惑星については、これまでにMars Global Surveyorによって全球的な火星磁気異常マップ が作成されている。また、Mariner10・MESSENGERのフライバイ観測によって現在の水星 には主磁場が存在する事が明らかとなっている。現在、MESSENGERが水星周回軌道で磁 場観測を行っており、BepiColomboによる観測が計画されていることから、将来、水星の磁 気異常情報が得られると期待される。また、今後の宇宙探査では、原始惑星系時代の未変 成・未風化の始原的炭素質隕石の微粒子(はやぶさ2)が持ち帰られる見込みである。こ のような計画に対して、SGEPSSの固体物質のグループとして積極的に参画していく必要が ある。高空間分解能の磁気顕微鏡として、東北大学に磁気インピーダンス(MI)磁場顕微 鏡が現有・活用されているが、求められるマイクロメートルサイズの古地磁気学的研究に は分解能が足りない。さらに小惑星のダイナモ磁場の有無や、宇宙風化における磁場の影 響との関係に決着を付けるために、高空間分解能の国産の走査型SQUID磁場顕微鏡を導入 することが望まれる。このような室内実験を、惑星の多様性を考慮したダイナモシミュレ ーションをより緊密に連携させて推進し、探査機や天文観測により太陽系惑星、系外惑星 について得られる磁気シグナルと合わせることで、宇宙における惑星固有磁場の役割を解 明できると期待される。

地球、月、火星について、現在までに磁気異常データが得られ、磁気異常ソースは表面 物質よりも桁違いの磁化強度を持つことが分かってきた。これらの磁気異常の成因を明ら かにして各惑星の磁場および内部構造・表層環境の進化を明らかにすること、加えて、そ れらを比較し惑星形成・進化モデルへの制約を与える事が今後の大きな目標となる。しか しながら、これら磁気異常の成因はほとんど分かっていない。地球表層の岩石に対応する 実験的研究が行われて来ているが、今後は多様な惑星環境に対応する実験を行い、上記の

57

議論が可能となるデータを得て行く必要がある。また今後は、地球型岩石惑星・衛星の46 億年にわたる古地磁気・岩石磁気学として、表面岩石の分析のみならず内部岩石の磁性鉱 物について確度の高い推定がいずれ必須になってくるだろう。これらの研究は、各天体の 内部構造進化のみならず、地殻生成にかかわる火成活動(活動度、熱史、水含有量、酸素 分圧値等)、磁気異常・宇宙プラズマ間の相互作用、固有磁場と大気進化など、他分野への インパクトも大きい。

(2)惑星の古磁場・ダイナモ

衛星観測(Mars Global Surveyor)により火星の磁気異常の存在が明らかになり、過去には 火星においても磁場が生成されていたことが示唆されるようになった。惑星ダイナモ研究 においては、火星ダイナモの停止条件や、半球のみに磁気異常が存在することをダイナモ によって証明しようとする試みがなされている。また、MHDダイナモ数値計算に用いるパ ラメータと出現する磁場の強さ等を関係付けたスケーリング則を求め、磁場から惑星内部 条件を推定する試みがされている。

ダイナモの挙動を理解するためには、これまで以上に広いパラメータ領域において数値 計算を行い、基礎的な物理を理解することが現在でも必要である。また、これまでに数値 計算に用いられたパラメータは、金属の流体核が存在する場合のパラメータとは数桁以上 の開きがあるため、求められた数値ダイナモ解が惑星磁場を再現し得るかは自明ではなく、

今後の研究で明らかにする必要がある。また、非線形性が強い系であるため、同じパラメ ータを用いても複数の状態が出現する可能性がある。実際に、強磁場ダイナモの解が低レ イリー数領域でも存在するという亜臨界(サブクリティカル)ダイナモ解が理論と数値計 算から示されており、火星における磁場生成の急激な停止との関係が示唆されている。こ のため、ダイナモの初期条件や履歴への依存性についても理解する必要がある。

最近は大規模計算を可能とする計算機技術の発達により MHD ダイナモ計算が数多くな され、重要な解が求められているが、ダイナモの統一的な理解には数値ダイナモは複雑す ぎる可能性がある。MHD ダイナモの挙動を再現し得る単純なモデルを構築することからダ イナモが生成する磁場を支配する要因を理解することも必要である。

(3)惑星・衛星内部構造

月や固体惑星において、電磁探査を実施することにより、グローバルな惑星内部電気伝 導度構造を推定することも、その起源と進化の解明につながる。地球のように磁気圏が大 きい場合、地球内部に電磁誘導を引き起こす地球外部を起源とする磁場変動と、地球内部 に誘導された電流により生成される地球内部を起源とする磁場変動とを分離することは、

地磁気ポテンシャル解析によって実施することができる。水星のように磁気圏が小さい場 合、外部起源の磁場変動は固有磁場の推定に影響を及ぼすが、他方、相対的に大きいとさ れるコアサイズの見積もりに、電磁誘導現象を利用できる可能性がある。コアのサイズの

58

電磁気的推定は、重力や慣性モーメントから推定されるものとは独立の情報を与えるため、

積極的に取り組むべき課題である。

月のように固有磁場を有しない固体天体の場合、磁場変動の起源を内外分離するために は、周回衛星・着陸機ともに磁力計を搭載して同時観測での探査を実施することが望まし い。さらに、これまでは実施されたことのない月面における電場計測の実現、ペネトレー タ技術を用いた月面での多点磁場計測、人工信号を用いたアクティブ探査などの挑戦的課 題・技術開発も継続的に進めていくことが望まれる。