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2 地球電磁気学・地球惑星圏科学の現状と科学課題

2.6 電磁場観測による地球内部の状態や変動現象の理解

2.6.2 地殻活動およびそれに伴う現象のモニタリング

(1)動的な現象に起因する電磁場変動

地震や火山噴火などの地殻活動に伴って様々な電磁場変動が生じる。これを検出し、そ の原因を解明することによって、現象の発生に至る物理過程が明らかになることが期待さ れる。また、地震・噴火現象の発生機構への理解が深化するばかりでなく、その発生場に おける応力状態や熱的状態など物理状態の現状を把握できる可能性がある。応力集中や高 温状態にあることが逐次把握できれば、地殻活動の推移や予測を行なう上で第一級の情報 となり、防災・減災における意義も大きい。

(ア)地殻応力変動に起因する現象

地殻応力場の時間変化を正確に把握することは、地震発生機構の理解という基礎科学の 側面からも、また地震災害軽減の社会的要請に応える実学的な観点からも重要な課題であ る。地殻応力場の時間変化は測地学的あるいは地震学的方法で推定するのが一般的である が、どの方法も固有の短所を持つため、多数の手法の併用が望ましい。磁場観測は、その 一手段となる可能性がある。

応力変化に伴う岩石磁気の変化、すなわち応力磁気効果とそのモデリングに関する研究 の重要性は以前より指摘され、これまで多くの観測と研究が行われてきた。応力磁気効果

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に起因する磁場変動を検出することが可能となれば、地震学的・測地学的手法とは独立な 地殻内応力の変化を知る手段となり、大地震の発生を地震波が地表に到達する前に検出す ることも可能である。しかし現在までに、測地学的・地震学的方法とは独立に地殻応力時 間変化を捉えることに成功した事例は極めて少ない。最大の問題は、応力磁気効果等に起 因する地磁気時間変化が極めて小さく、それを地球深部および超高層大気で生じる地磁気 時間変化と分離することが難しい点にある。

地殻活動起源の磁場変化を検出するために、その地域に特化した高精度の標準磁場モデ ルを用いる方法が考えられる。日本の場合、気象庁の地磁気観測所に加えて、国土地理院 の連続観測点や大学・気象庁等による研究目的の連続観測点も存在し、精度の検証を行え ば、利用できる観測情報を増やせる可能性がある。2000 年以降、標準磁場モデルの構成法 は大きく進歩しているが、地殻活動起源の地磁気変化と識別するためには、相対的に精度 の高い標準磁場モデルを構成するだけでなく、その精度を正しく決定することが求められ る。そのためには、基礎となるデータ時系列の精度を系統的に評価するとともに、モデル 構成法に内在する誤差の伝搬を定式化することが必要である。また、地球の平常の磁場変 動から地殻起源のシグナルのみを分離するために、地磁気時空間変化の特性を踏まえた時 系列処理手法を開発することが必要である。標準的な磁場モデルを構築する過程で得られ た知見を観測に対してフィードバックすることも重要である。たとえば、モデルの要求に 対して観測精度が低い観測点の抽出・精度向上や、テクトニクスの面で重要であるにもか かわらず観測点が不足しているために十分なデータが得られていない地域(西南日本など)

へ観測点を新設することも並行して行う必要がある。

地殻活動起源の磁場変化を捉えるためのより直接的な方法は、観測態勢の量的・質的向 上である。テストフィールドを戦略的に設定し、観測点密度を 20km四方あたり 1 点程度 に向上させるとともに、将来、新規に連続点が設置されれば、これまで見逃されてきた小 さな事象も検出される可能性がある。日本では約40年前に国土地理院によって二等磁気測 量が実施されており、その観測点密度は世界でも例を見ないほど高く、地殻起源の微小地 磁気変化を検出するための基準ともなり得るものであった。しかしながら、以後同じ密度 での観測は行われておらず、変化量の空間分布を求めるには至っていない。現在、地磁気 空間分布およびその変化は衛星による観測データをもとに推定され、リソスフェアの構造 推定等に利用されているものの、衛星高度での取得データを地表面に内挿することによる 精度の議論は不十分である。二等磁気測量が再実施されれば、地殻起源地磁気変動の空間 分布を正確に把握することにつながると期待できる。

地磁気の時間変動を正確かつ長期間にわたり測定することは地球電磁気学の基盤データ として重要であり、観測網の拡充が必要である。そのためには機器の特性や観測者の熟練 度に依存しない絶対測定手法の確立が求められる。現在用いられているプロトン磁力計で は、原理上スカラー量である全磁力しか計測できないので、任意の成分の連続的絶対測定 を可能とする設計原理に基づいた新型磁力計の開発が望まれる。

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応力変化に伴う岩石電磁気物性変化検出の応用として、より短い時間スケールを対象と したテーマには、地震発生の即時検出が挙げられる。現在の緊急地震速報は揺れの検出に よって行っているため、最も震源に近い地震計に地震波が到達するよりも速い警報は原理 的に不可能である。一方、震源断層の破壊・滑りにともなう応力変化から生じる電磁場変 動は光に近い速度で伝搬するため、その検出による警報は、タイミングの上では地震計記 録を利用するシステムを上回る。電磁場変動検出による緊急地震速報の実用化のためには、

まず、破壊直前の、および短周期応力変化を加えた場合の岩石電磁気物性を実験・理論の 両面から調べることも必要となる。また、応力分布が時間変化する場合に応力磁気効果か ら生じる電磁場変動を適切にモデリングする手法を開発することが必要である。

地球システムが地殻活動による力学的エネルギーの一部を電磁気学的エネルギーに変換 していることは十分に考えられる。これまでに行なわれてきた基礎的な岩石実験では、岩 石試料の圧縮や破壊に伴う起電力や電磁波(可視光や赤外線含む)が確認されており、原 因として石英のピエゾ電気効果・間隙水の界面動電効果・荷電格子欠陥の特異な挙動など が提案されているが、現実地殻の条件下でもこれらの原因による電磁気現象が発生してい るかどうかの確証は得られていない。力学的・電磁気学的エネルギー変換モデルを真に解 明するためには、温度圧力がダイナミックかつ不均一に変化する現実地殻を再現できる装 置を用いて岩石実験を行うことにより、現実的に起こり得る電磁気現象を推定し、有効な 計測方法を導入した精密観測による実地検証を行なっていくことが必要である。ただし、

このような実験装置を構築するには単一の大学や研究機関では難しいため、複数の大学や 研究機関、さらには海外の研究機関との大型共同プロジェクトを立ち上げて推進すること が望ましい。

(イ)火山活動に起因する現象

電場・磁場観測は火山のモニタリング技術としてのポテンシャルが高く、火山国である 我が国では実用性の高い応用分野である。特に、プロトン磁力計やオーバーハウザー磁力 計を用いた反復磁気測量は火山監視の現業機動観測にも浸透しつつあり、主に山体内部の 温度変化の指標として広く利用されるようになってきた。今後は、地下構造・地盤変動・

放熱率等の情報と合わせて、変化源の実体解明に向けた研究の一層の進展が望まれる。空 中磁気測量の反復による時間変化の検出技術も実用レベルに到達し、いくつかの火山で実 証的な成果が得られている。今後は、自律飛行可能な無人ヘリコプター等をプラットフォ ームとした磁場観測技術の高度化をさらに進めるべきである。いくつかの火山(有珠山・

草津白根山・伊豆大島・阿蘇山・九重山・雲仙岳・霧島山など)では、既に10年を超える 定点観測データが得られており、噴火時のみならず非噴火時においても顕著な磁場変化が 存在することが明らかになってきた。こうした長期的変化は、噴火の準備過程や終息過程 における地下の温度・圧力の変化を反映している可能性があるが、未だ理解が不十分であ

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る。今後は、既に手がかりの得られているこれらのフィールドでの観測を継続・発展させ ることで、噴火サイクルを通じた磁場変化の全容を明らかにし、比較研究を通じて共通性 や相違点とその背景にあるメカニズムを解明していくべきである。そのためには、長期変 動からグローバルな地磁気永年変化の影響を分離する必要がある。このための参照点とし ては、全磁力だけでは不十分で、基線付きの三成分連続観測点が重要な役割を果たす。地 磁気三成分絶対測量の自動化技術の開発を含め、気象庁地磁気観測所や国土地理院等の現 業機関の担っている地磁気観測業務は、国土の基盤的測量の一項目として、適正な時間空 間密度を確保しながら維持・発展させていくことが望まれる。

火山では、応力磁気効果も考慮しなければならない磁場変化のメカニズムのひとつであ る。近年、粘弾性媒質の応力磁気効果の理論に進展があった。現在、我が国では火山での 孔井観測が準基盤的インフラとして整備されつつあるが、電磁場が観測項目として採用さ れることは希である。傾斜や歪み等の地盤変動と電磁場観測を一体で測定することで、火 山活動に伴う応力磁気効果の研究が実証的に進展するものと期待される。今後の整備計画 に電場磁場観測が組み込まれるように関係機関に働きかけ、実績を積み上げていくことが 必要である。

火山研究の現場では、頻繁に爆発を繰り返す火山を対象として、多項目の同時観測によ って噴火の物理過程を解明しようとする研究が国内外で進められている。現状では、こう した観測は地震や傾斜等の力学観測に音波や熱映像などを加えたものが一般的であるが、

電磁場はまだ手つかずの領域である。火道近傍における電磁場観測で、マグマの上昇や破 砕に関連した新たな情報を引き出せる可能性もあり、今後取り組むべき課題のひとつとい える。火山噴火と大気・電離圏とのカップリングも注目されるようになっている。現在知 られている現象として代表的なものは、爆発に伴って発生した大気振動を介した電離層電 子数の変化であるが、火山雷と気象雷の比較研究から雷発生の素仮定を解明することも今 後、取り組むべきテーマである。

周波数0.1Hz~DC帯の自然電位観測の成果は主に火山で報告されている。自然電位のゆ

っくりとした変動には、地下水の流動を反映したものがある。これらを界面動電現象とし て説明し、地下水の流動を組み入れたシミュレータの開発により火山や地熱地帯における 地下水流動の詳細が解明されつつある。さらに自然電位の現象理解を進めるためには、界 面動電現象を規定するパラメータの実測ならびに実験的測定をさらに充実させる必要があ る。また、長期間の安定した自然電場を測定可能な電極の開発も必要である。

Merapi 山や三宅島では数秒から数分かけての火口下の膨張に伴う自然電位の変動が得ら

れた。また三宅島では 2000 年噴火以降、10 年間かけて自然電位の正異常が横方向に 2km 拡大していると推定された。しかし両者とも自然電位単体での観測であったため、その解 釈に不定性が高い。今後は低サンプリングでの自然電位単体の観測はできるだけ避け、磁 場観測も併せた高サンプリングの観測に切り替え、電気伝導度構造の時間変化も併せて推 定することが望ましい。