2 地球電磁気学・地球惑星圏科学の現状と科学課題
2.4 宇宙プラズマ・地球惑星大気における物理素過程の理解
2.4.1 宇宙プラズマ物理
(1)磁気リコネクション 現状
磁気リコネクションは、プラズマ宇宙における爆発現象を支配する物理プロセスである。
ここで「爆発」とは、磁場という目に見えない形で静かに蓄積されてきたエネルギーが突
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発的にプラズマの熱・運動エネルギーに変換されることを指す。したがって、ダイナミズ ムを特徴とするプラズマ宇宙において、最も重要な物理プロセスのひとつである。
計算機性能の向上に 伴って、2000年代後半 にはいると、理論面で は、大きな計算空間に おける完全粒子シミュ レーションによる研究 が主流になった。粒子 シミュレーションの解 像度が向上したことで、
電子スケールの 2 次的 磁気島(Flux Ropes)が 乱流的に生成される可 能性や、X 型磁気中性 線周辺の電子スケール
構造の理解が進んだ。現在では、速いリコネクションを維持するためにはHall 効果ではな く運動論効果が重要という認識が広まったうえ、粒子加速研究も急速に進んでいる。昼側 磁気圏界面で起きる「非対称型」リコネクションの研究が進み、リコネクションの基礎量 をハイブリッド平均で拡張するなど、理論面の進展が著しい。2010 年代に入ると、ペタフ ロップス級の大型計算機の開発に伴い 3 次元完全粒子シミュレーションも行われ始め、リ コネクション領域外でも 3 次元的な磁気島形成が起こること等が明らかになり、リコネク ション層は全体として非常に動的である可能性が指摘されるようになった。
理論的には、プラズマの広いパラメータ・レンジの中におけるリコネクションの物理の 関係性の理解も進んでいる。Lundquist 数パラメータが大きな抵抗 MHD 系では、
Sweet-Parker 型リコネクションの電流層内にプラズモイドが発生してリコネクション効率
が上がることがわかった。こうした「プラズモイド型」リコネクションなどのリコネクシ ョン形態と、系の典型パラメータとの対応関係が整理されてきている。
一方、磁気リコネクション領域の観測的研究としては、最近になってGeotail衛星の観測 データから、磁場拡散領域の中心部に特徴的な、高速電子流が検出され、近年の数値シミ ュレーションの結果と整合性のあることが示された。Geotail衛星の観測器性能では限界が あるが、MagnetosphericMultiscale(MMS)計画等の将来の観測による磁気リコネクション 研究の進展を期待させる結果である。また、太陽風中のリコネクションの観測データが議 論されるようになったことも特筆すべきである。
昼側磁気圏境界面でのリコネクションに関しては、観測および数値シミュレーションに より、磁気圏シース領域におけるプラズマ乱流や惑星磁気圏境界におけるケルビン・ヘル
図2.4.1 スケール間結合
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ムホルツ渦などに起因する動的なプラズマ流が2次的に磁気リコネクションを引き起こし 効率的な運動量・エネルギー輸送をもたらすことも新たに示された。
磁気リコネクションは、高エネルギー粒子生成機構の観点でも重要なプロセスである。
最近、磁気リコネクションのX型磁気中性線領域付近での古典的粒子運動(Speiser運動)
に加えて、磁気島を含む大きな系での磁気リコネクションに伴う粒子加速機構の理解が進 んだ。電子については、磁気島の収縮・合体効果や多くの磁気島を散乱体とする統計加速 が提案されるなど、磁気島というメソスケール構造を利用した加速過程が議論されるよう になってきた。イオンについても、今後の研究の進展が期待される。観測的にも、リコネ クションと高エネルギー加速電子の関連性について研究が進められており、理論研究との 整合性が議論されている。また、惑星探査衛星により、地球同様に磁気圏を擁する水星・
木星・土星の磁気圏尾部・磁気圏界面においても,磁気リコネクションが観測されており、
各惑星の磁気圏ダイナミクスにおける重要性が議論され始めている。
天文学的な視点における磁気リコネクション研究としては、極限天体近傍の強磁場環境 で有力視されている相対論的磁気リコネクションの研究が進んだ。運動論では、リコネク ション電場による粒子加速機構や相対論的電流層の安定性が議論された。そして磁力線ト ポロジーや輻射冷却効果が、こうした素過程を通じて、電流層の長期発展と粒子加速・熱 化を左右することがわかった。一方、流体論では新しいシミュレーション技法が開発され、
例えばアウトフロー速度と磁化パラメータの関係則など、リコネクションの流体スケール の性質が明らかになってきた。また、相対論的プラズマ環境の磁気リコネクションでは、
強い DC 加速が起きることがわかっており、かに星雲のガンマ線フレア現象のメカニズム 候補として注目されている。
今後の課題
上記のように、宇宙空間における磁気リコネクションに対する理解は観測・理論・数値 シミュレーション・実験が連携して幅広く進んでいる。将来、NASAのMMS、日本の
SCOPEといった電子スケールを含む詳細な観測を可能とする人工衛星計画によりこれらの
観測的実証が期待される。これまで、磁気リコネクションのX型磁気中性線近傍領域の詳 細な物理については、数値シミュレーション研究が先行して理解が進んできたが、観測デ ータとの比較をすると、明らかな数値シミュレーションとの差異も見うけられる。今後の より詳細な観測、あるいは、(理想的な状態ではない)3次元性を含むより現実的な状況下 における数値シミュレーションの実施等によって、本質的にマルチスケール性を持つ磁気 リコネクション現象の全体像の理解を進める必要がある。
衝撃波や磁気リコネクションに伴う高エネルギー粒子加速現象は、マルチ・スケールな 現象が非線形にカップルしながら実現されていくことが明らかになりつつある為、今後は スケール間結合の様相を理解するような研究の進展が求められる。観測的には、従来のよ うな単一衛星やClusterやMMSのような単スケールの編隊衛星観測ではなく、マルチスケ
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ールな編隊衛星観測が将来的には必要となるだろう。一方、プラズマ粒子系シミュレーシ ョン(PIC、ハイブリッド)による粒子加速の物理プロセスの研究の進展も期待が高い。今 後は、衝撃波や磁気リコネクションの生成・発生から粒子加速までを自己無撞着に再現す るような計算を実現することが課題である。観測・数値シミュレーションの両輪として実 証的な研究を進めることが重要である。
(2)衝撃波 現状
宇宙における衝撃波の特徴は、遷移層の厚みが媒質であるプラズマ中の粒子間衝突の平 均自由行程よりも桁違いに小さいことである。このような衝撃波では、上流の流れのエネ ルギーが遷移層で散逸する際に衝突効果が本質的に効かない。そのため宇宙プラズマ衝撃 波は無衝突衝撃波と呼ばれる。無衝突衝撃波(以下、衝撃波)研究の分野は、1980 年代か ら 1990年代にかけて、ISEE 衛星、Geotail 衛星などによる観測研究や数値シミュレーショ ン研究の活躍によって、基本的な理解は確立されたと考えられていた。しかし今世紀に入 ってそれまで通説とされてきたことに疑問を投げかけるような研究成果が次々と発表され、
衝撃波研究は新たな局面に差し掛かっている。
2000年代後半以降、衝撃波の観測面での大きな話題はVoyager 2号による太陽圏終端衝撃 波の通過(2007年)であろう。Voyager 1号(2004年に通過)によって、宇宙線異常成分(ACR)
のフラックスは衝撃波で最大とはならず、下流に行くほど増大することが示されていたが、
Voyager 2号ではさらに、低エネルギーの太陽風成分のデータから、終端衝撃波の圧縮比が
予想よりはるかに小さいことが示され、またしても衝撃波統計加速モデルに対して不利な 状況が明らかになった(Voyager 2号では衝撃波通過時の粒子加速の兆候も捉えられたが、
やはり下流でのさらなるフラックス増加がみられた)。Voyager 2号のデータは、これまでよ く分かっていなかったピックアップイオンの相対密度が予想よりも大きいことを示唆して おり、これを受けて、終端衝撃波のシミュレーション研究が活発化している。
終端衝撃波は、これまでACRの成因として議論がなされてきた。しかし、太陽圏外縁で のACRの主要加速現場が終端衝撃波以外の可能性が高くなった。終端衝撃波からヘリオシ ースにかけて存在するピックアップイオンが、星間媒質起源の中性原子と電荷交換して中 性化した高エネルギー中性原子(ENA)がIBEX探査機によって観測され、太陽圏外縁にお ける高エネルギー粒子のマップを提供している。特に下流のヘリオシース、もしくはヘリ オポーズ以遠に加速源が存在する可能性が指摘されている。ACRはもとより、銀河宇宙線 の加速機構としても最有力視されてきた衝撃波統計加速(DSA or 衝撃波フェルミ加速)モ デルは、今後再考を迫られるかも知れない。
地球磁気圏衝撃波では、Clusterによるバウショックの非定常性の研究が進んだほか、衝 撃波遷移層における電子スケール波動の詳細観測に進展がみられた。また、衝撃波と不連 続面の相互作用として現れるhot flow anomalyについても最近研究が活発化している。