第 3 章 Himawari : 向日葵をモチーフにした植物型ロボット
3.7 実装
3.7.3 電圧制御回路
図 3-20
電圧制御回路の等価回路(1ch
)3.7.2 で開発した形状記憶合金アクチュエータを使って有機的な動きを実現す るために、形状記憶合金アクチュエータに加える駆動電圧とその時間変化を変え て実験を繰り返し、段階的にその特性を絞り込んでいった。
まず、駆動電圧の値を変えて比較実験を行った。駆動電圧に 5V 以上の電圧を 加えた時、形状記憶合金が熱くなりすぎるために、曲がった後の冷却時間は 10 秒以上を要した。駆動電圧に 1.5V の電圧を加えた場合は、形状記憶合金を加熱 するのに時間がかかり、曲がるまでに 30 秒以上を要した。駆動電圧が 3V の場 合は、加熱冷却による形状変化の繰り返しを 10 秒以内で行うことができた。こ れらのことから、駆動電圧を 3V に設定した。
次に、駆動電圧 3V の条件で、加熱時と冷却時の電圧の時間変化に関する実験 を行った。加熱時に瞬時に電圧を加えた場合は、即座に曲がる動作を行ったが、
その動きはガタガタとぎこちなく、有機的な動きには見えなかった。一方、加熱 時に数秒かけて徐々に電圧を加えた場合は、滑らかに曲がる動作を行った。この ことから、滑らかな動作を優先させる場合は、加熱時に徐々に電圧を加える必要 がある。冷却時に徐々に電圧を下げた場合は、滑らかに初期状態にもどる動きを 示したが、電圧を 0 に下げきった後も形状変化を継続し、しばらくして初期状態 にもどった。一方、冷却時に電圧をカットアウトした場合でも、滑らかに形状変 化して初期状態にもどった。つまり、徐々に電圧を下げた場合でも、カットアウ トした場合でも、どちらでも滑らかに動作することが可能であり、カットアウト した場合のほうが、より短い時間で初期状態にもどることができる。
以上の実験結果から、駆動電圧は 3V に設定し、加熱時は徐々に電圧を加えて、
冷却時は電圧をカットアウトする方法を、この形状記憶合金アクチュエータを滑 らかに動作させる制御方法として採用した。
図 3-22 の左のグラフは、この制御方法を表したものである。次に、この制御 方法を元に、加熱時間を変えて実験を行い、揺れ幅と応答時間のバランスのよい 制御方法を絞り込んでいった。
揺れ幅は、加熱時間が長いほど大きくなる。また、加熱時間が長いほど冷却時 間が長くなり、合計した応答時間も長くなる。つまり、揺れ幅が大きいほど応答 時間が長くなる。理想とする形状記憶合金アクチュエータの動きは、揺れ幅が大 きく応答時間が短いものであるが、揺れ幅を大きくすると応答時間が長くなるた め、実験を繰り返して試行錯誤し、動きの変化のわかりやすい最低限の揺れ幅を 約 10mm として、応答時間7秒の動き方を採用した。
3.7.4 形状記憶合金アクチュエータの動きの制御
図 3-23 は、Himawari で最終的に採用した形状記憶合金アクチュエータの電 圧制御のグラフである。形状記憶合金アクチュエータは、電圧を 3 秒かけて上昇 させることで曲がり、電圧をカットアウトした後、4 秒かけて自然空冷により冷 却されて常温初期状態の形にもどる。揺れ幅は約 10mm である。
以上の方法により、滑らかで有機的な形状記憶合金アクチュエータの動きを実 現することができたが、今回の形状記憶合金アクチュエータは曲がってもどるま での応答時間が 7 秒であり、駆動速度は遅いものとなった。この駆動速度の遅さ が原因で、形状記憶合金アクチュエータはシステム上は人の動作に反応してイン タラクティブに制御しているにもかかわらず、実際には常にランダムに蠢いてい るように見える。
図 3-23 Himawari
の形状記憶合金アクチュエータの電圧制御図 3-22
形状記憶合金アクチュエータの形状変化と電圧変化の関係Himawari は、街じゅうアート in 北九州 2008(北九州)、アジアデジタルアー ト大賞展 2008(福岡)、SIGGGRAPH ASIA 2009 Emerging Technologies(横 浜)、ロボスクエア(福岡)、九州大学・芸術工学東京サイト(六本木)で展示を 行い、多くの方から感想を得ることができた。
全体のデザインに対しては、「機械部品や電子部品がむき出しのデザインに美 しさを感じる」との評価を得た。形状記憶合金アクチュエータを利用した触手の 動き、花びらの動きに対しては、「生きているようなリアルな動きに見える」と いう感想を、驚きと高い関心と共に得ることができた。SMD の生み出す触手の 蠢きや花びらの揺らめきが、生物の存在感を生み出していたと言える。
Himawari には、知能と呼べるような高度なプログラムは実装されていない。
手の動きに単純に反応して動くだけのロボットに、このような生命感を感じるの は、触手や花びらの有機的な動きが効果を上げていたと考えられる。
また、SIGGRAPH ASIA 2009 の展示会場では、他にもいくつかのロボットが 展示されていたが、「すべてのロボットの展示の中で Himawari が一番面白い」
との感想を一部の鑑賞者から得た。使われている技術力としては、他の展示物の 方が優れているものが多いと思われる。しかしながら、このような感想が得られ たということは、向日葵というモチーフをデフォルメや演出をしながら作品表 現として帰結させることによって、「機械構造物が動くことの単純な面白さ」を Himawari という作品の中で成立させることができていたと考えられる。